第515話 合流

 のんびりと情報交換をしたティータイムを経て、お次は王太子の解呪。まあ、国王があれだったから、王太子も呪われてるんでしょうよって事で。


 王太子の部屋は、国王の寝室からかなり離れていた。同行するのは第三王子とホエバル海洋伯、それにサンド様とユーイン。


 もうこれ、固定メンバーなのかな。


「随分離れてるんですね」


 私の呟きに答えたのは、ホエバル海洋伯だ。


「万一の事が起こった場合、国王陛下と王太子殿下、お二人が同時に倒れる事があってはならんからな」


 ああ、なるほど。オーゼリアでも、似たような理由で国王一家は別々に食事をするって決まりがあったっけ。




 王太子の部屋もまた、瘴気で真っ黒だった。ああ、こりゃ呪われてるわ。


 部屋の造りは国王の部屋に似ていて、狭くない部屋に大きな寝台。お付きなのか、侍女が三名。


 彼女達、こんな瘴気だらけの部屋で具合悪くなったりしないんだろうか。


「まずは瘴気を払いましょうか。彼女達は外に出ていた方がいいのでは?」


 私の言葉に、第三王子が動いてくれた。渋る侍女達を追い出し、サンド様に遮光結界を張ってもらう。


「今回も、かなり光るのかな?」

「ええ。ビカーっといきますよ」


 何せ、真っ黒だからね。じゃあ、やりますか。


 まずは部屋の中のお掃除。ビカーっと光って、瘴気は全て払われた。おお、綺麗。


 次に、寝台の王太子を見る。国王に比べると薄い靄だけど、やっぱり呪い。こっちは薄く長く呪われてるね。


 解呪の光は、部屋の時より大分薄かった。


「終わりました」

「お疲れ様」

「兄上!!」


 ああ、第三王子、王太子に駆け寄ってる。いや、長く呪いに煩わされ続けた人だから、体力落ちてるからね。免疫も落ちてるだろうから、今近づくのはどうかと……あ、第三王子を滅菌すればいいのか。


 洗浄系の魔法を強めに使うと、実は滅菌が出来ます。なので、サービスとしてそれを使っておいた。ついでに、室内にも。


 変な話なんだけど、呪われてる最中って病気で死ぬ事はあまりないんだって。呪いの力が菌を殺すかららしいんだ。


 これはあれか? 「こいつを殺すのは俺の仕事だ」的プロの矜持ってやつですか?


『違います。菌が対象者に付着した時点で、呪いが殺す対象になり得るからです。また、菌は人間よりも生命力が弱いので、真っ先に呪いに殺されます。つまり、滅菌されるのです』


 いちいち念話でツッコミいれなくてもいいのよ? カストル。




 長く呪われていた王太子は体力が落ちている為、見知らぬ人間に会うのは疲れるだろうと私達はすぐに退室した。


「後は王城内の瘴気を払えばいいんですね?」

「そうだな。すぐに頼めるか?」


 ホエバル海洋伯の言葉に、ちらりとサンド様を見る。判断は、サンド様にしてもらおう。


「瘴気払いは明日にしよう。レラ、君も疲れているだろう?」

「そうですね」


 別に大した疲労は感じていないけれど、ここは話にのっておく。ホエバル海洋伯が、苦い顔をしているねえ。


 彼はさっさと私を辺境に連れて行って、国中の呪いを解かせたいんだろうから。


 サンド様もそれはわかっていて、私を出し渋る方向にいってる。まあ、簡単に貸し出すのは憚られるよね。国の面子もあるんだし。


 何せサンド様は、オーゼリアからの特使のトップだから。


 何とか私を連れ出したいホエバル海洋伯と、にこやかに「駄目」を連発するサンド様の交渉の結果、サンド様が勝利した。


「では、また明日」


 サンド様に言われて苦い顔のホエバル海洋伯をその場に残し、私達は宛がわれた客間へと戻る。


 その途中の廊下で、サンド様が思い出したように告げた。


「そうそう、ヴィル達が王都に到着しそうだ」

「本当ですか!?」


 よかったー。いや、サンド様に渡した携帯通信機でヴィル様と連絡は取っていたんだけれど、リラやコーニーには何も言わずにここまで来ちゃったからね。


 二人に怒られたらどうしよう。いや、あれは不可抗力だったんだ。




 その日の夕方、宛がわれた客間でぼけーっとしていたら、サンド様が訪ねてきた。


「どうかしたんですか?」

「はい、これ」


 サンド様が差し出してきたのは、携帯通信機。どこかに繋がっているらしい。


「これ?」

「そう」


 何だろう。


「もしもし?」

『やっと繋がったわ!』

「え? コーニー?」

『コーニー? じゃないわよ! 今まで連絡の一つも寄越さないで、何やってるの!?』


 えええええ?


「いや、それは」

『通信機がないからなんて、言い訳にしかならないからね!? こうしてお父様が持っているのを使えばいいんだから!』


 怒ってるううううう。


『エヴリラに代わるわ』

「え」

『もしもし、エヴリラです。……あんた、わかってんでしょうね?』

「な、何をかなあ?」

『音信不通の間に溜まった書類、山になってるから』

「えええええええ!?」

『この西行きの間も、仕事はちゃんとやるって約束だったわよね?』

「それは、そうだけど!」

『言い訳しない。私からは以上です。コーネシア様に代わります』

『という訳だから、今夜は王都の外に作った野営地までいらっしゃい。夕食はこちらで取る事。お父様達にはもう話してあるわ。あ、ユーイン卿は一緒でいいわよ。じゃあね』


 言うだけ言って、通信が切られた。スピーカー状態で話していたら、サンド様にも内容は聞かれている。


「ええと」

「コーニーは言い出したら聞かないからね。シーラも同意しているよ」


 助けてはもらえないらしい。とほほ。




 王城をユーインとこっそり抜け出す。ホエバル海洋伯に見つかると、何か言われそうなんだもん。


 てか、私悪い事何もしていないのに、どうしてこんなこそこそしなくちゃいけないんだ?


「理不尽」

「何がだ?」

「悪い事、何もしていないのに。どうしてこんなこそこそしなきゃいけないんだか」

「海洋伯に、知られない方がいいからだろう?」


 そうですね。第三王子ならサンド様が丸め込んでくれそうだけど、ホエバル海洋伯だと簡単にはいかなそうな上、散々渋られそうだ。


 それに、王城の瘴気を全て払っていない今、王城を出る事に文句を言われそうだしなあ。それを逆手に、何か向こうの要求を呑まされそうだし。


「あの海洋伯は、甘く見ないほうがいいかもしれない」

「それ、サンド様も似たような事、言ってたね」

「アスプザット侯爵がそう言うくらいだ。用心しておくに越した事はないだろう」


 だよねえ。


 王城をこっそり抜け出した私達は、周囲から姿が見えないようにする結界を張って、建物の屋根をひょいひょい飛んでいく。


「いやあ、魔の森での移動用に作った術式が、こんなところで役に立つなんてー」


 今使っている術式、森での高速移動用に作ったんだよねえ。ほら、長らく森での一泊が認められなかったから。


 深度五に日帰りするには、行き帰りの時間を短縮するより他なかったんだよねー。


 無事王都を抜け出し、少し離れた平地で野営中のオーゼリア組と合流。


 普通、野営って聞くと衛生面やら何やらでくたびれてる印象なんだけどね。オーゼリア組、皆晴れやかな表情をしてるよ。旅の疲れなど丸っきり感じさせないね。


「レラ!」


 野営地に一歩足を踏み入れたら、奥から察知したコーニーが飛んできた。


「大丈夫だった!? 何もない?」

「ないよ。サンド様やシーラ様も一緒だったし」

「それでもよ。いきなり攫われていっちゃうんだもの」


 そうだった。第三王子にいきなり馬で森林伯の邸まで拉致られたんだっけ。「しかも、その後はお父様達と一緒に王都まで早駆けでしょう? 心配するなって方が無理だわ」


「ごめんなさい」

「レラが悪い訳じゃないでしょ。でも、これからもこういう事が起こる可能性があるから、何かしら対策を立てておきましょうよ」


 そうだね。一応、今回の西行き参加者にも、護身用のブレスレットは渡してある。位置情報だけは取れるんだけど、通信は出来ないからなあ。


 いっそ、ブレスレットに通信機能を盛り込んでおく?


「無事のご帰還ね」

「リラ! 心配掛けてごめん」

「まあ、カストルから何も言ってこなかったから、無事なんだろうなとは思っていたけれど……黙って王都に行くのはないんじゃない?」

「ゴメンナサイ」


 いやもう、本当に。本当、通信機能をブレスレットに追加しておこうっと。備えあれば憂いなし。

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