第514話 ビカーっといくよ
島の所有権を手に入れたので、早速カストルが現地へ飛んで色々やるそうな。
「という訳で、しばらくお側を離れます」
「わかったわ。気を付けてね」
「はい」
カストルを部屋で見送って……といっても、その場で消えるだけなんだけど、それを見届けてから、今後の予定をご相談。
相手はサンド様とホエバル海洋伯、そして何故か第三王子。
「まずは、王城を最優先でやってほしい。それと、父上と兄上も呪われていないか、調べられないか?」
あー、国王と王太子ですねー。カストルによれば、ばっちり呪われているってさ。
特に王太子の方は、生まれてすぐくらいから徐々に弱るよう、呪われていたっぽい。呪いに年期が入ってるって、カストルが言ってた。
って事は、この瘴気やら呪いやらって、大分長期計画で動いているよね。呪っているのは、どこの誰なんだろう?
そんな事を考えていたら、海洋伯がまさしくドンピシャな事を聞いていた。
「瘴気や呪いを放っている者を、見つける事は出来ないか?」
まあ、そう思うよねー。臭い匂いは元から絶たなきゃ。でもねー。
「申し訳ありません。わからないんです」
うちの有能執事ですら探せない状態だもん。私じゃ無理無理。
「そうか……」
この海洋伯、サンド様の話によれば食えない人らしいから、気を付けなきゃ。何か言われても、サンド様を通すようにって言わないと。
瘴気を払うのと、呪いの解呪は王城から始まり、次に王都から一番離れた領地に向かう事になった。極端だなー。
「同行するのは、私と護衛数名だ」
「私も行く!」
海洋伯が話をまとめようとしたところ、脇から第三王子が口を出してきた。
「いえ、殿下は王城にて――」
「駄目だ。行く。行った先で、呪いを放つ者が見つかるかもしれないだろう?」
いや、だったら余計にあんたは行っちゃ駄目なんじゃないのかねえ?
ちらりと海洋伯を見ると、頭を抱えているよ。暴れん坊な坊ちゃんのお世話、ご愁傷様です。
しばらく行く、駄目の応酬があり、私とサンド様は脇ですっかりのんびりモード。
「確かにこのお茶はおいしいねえ。香りもいいし」
「ですよね。後、小麦もおいしいんですよ。焼き菓子も美味しく出来そうです」
「なるほど」
サンド様の目がきらーんと光った。これで小麦と茶葉の交易は確定だな。
ただ、どこが交易相手になるかは、まだわからない。だって、この茶葉も小麦も、大手の商会が別の国から輸入してる品なんだもの。
別の国……多分、ゲンエッダなんだろうなあ。本当に、三国同盟はゲンエッダを攻め滅ぼすつもりなのかな。
その前に、勝てる見込み、あるんだろうか。
サンド様とのんびり待つ事しばし。やっと決着が付いたらしい。
「殿下は王城に残られる」
まあ、そうでしょうね。現場に行っても、王子様じゃ使い道なさそうだし。いや、顔パスが利くならアリかな?
でも、話し合いで決まった事なら、いっか。
「早速、王城を綺麗にしてもらいたい。その間仕度を調えさせるので、明日の早朝、王都を出立する」
随分と急ぐんだね。ちょっとサンド様が顔をしかめている。
「出立は少し遅らせられないかね? レラに負担が掛かる」
「悪いが、こちらも悠長にしていられないのですよ。理由はご存知ですね?」
瘴気が広がると人心に影響が出るし、呪われているのが領主なら、その領の政治にも影響が出る。
出来るだけ早く、国を正常に戻したいんだろう。それが全部人任せって辺りは、ちょっと微妙だけれど。
でも、瘴気払いなんて、オーゼリアでも聖堂の聖職者達しか出来ないしなー。
このまま瘴気が溜まり続けるようなら、いっそ聖堂に話を通して聖職者をこちらに出張させるとか?
ついでに布教をさせれば、聖堂としても嬉しいんじゃないかなあ?
まあ、この手の事は、サンド様が考えてくださるだろうから、私は黙っておこうっと。
王城の中は、しんと静まりかえっていた。あの爆発「事故」に関しては、箝口令が敷かれているらしく、国王の寝室付近は今も限られた人間以外立ち入り禁止になっているという。
何せ、第二王子と国の中枢にいた大貴族の当主が亡くなった訳だからね。しかも、国王の寝室で、遺体も残らない状態で。
そりゃあ、噂好きの連中が喜んじゃうわな。だから、箝口令という訳ですねわかります。
その国王の寝室にやってきた。案内として立った第三王子にホエバル海洋伯、それと私側の「保護者」という名目でサンド様、護衛でユーイン。
あれだけの爆発があったら、普通壁やら天井やら床やらが大変な事になってそうなんだけど、何もない。
咄嗟に、サンド様かシーラ様が結界を張ったんだと思う。二人共、凄いな。
「不思議なのだが、あれだけの爆発があったというのに、部屋の中も外も何もない。それどころか、音すら誰も聞いていなかったんだ」
ああ、遮音結界も重ねて張ったんだ。第三王子が首を傾げる横で、ホエバル海洋伯の視線がこちらに来た気がした。
この人、魔法の事をそろそろ気付いてるよね。ただの便利能力と思っているなら、それはそれでいいんだけど。
攻撃にも使えるって知られたら、面倒そうだな。
寝室内の国王の寝台には、もう結界はない。私が意識を失った時点で、解除されているから。
そうでなかったら、今頃大変だったかもね。誰も近づけないとなると、国王のお世話を出来ないんだから。寝たきりの人だから、色々と……ね。
寝台に近寄ると、青白い顔で、年の頃五十路辺りの男性が寝ている。ちょっとギンゼールのルパル三世の時を思い出すなあ。あっちは毒だったけど。
まあ、呪いも毒も似てるか。どちらも対象を害しようとする悪意に満ちている。
眠るリューバギーズ国王の姿は、パッと見は痩せて病気っぽいけれど、よくよく見てみると全身に黒い靄のようなものが見える。
これが、呪いだね。ドラー森林伯の時も見えたから。
でも、森林伯よりも酷い呪いかも。
「これ、解呪する際にかなり光るので、目を覆うか、部屋の外に出て下さい」
「いや、それは――」
「レラ、遮光結界を張っていいかい?」
ホエバル海洋伯の言葉に被せるように、サンド様から提案があった。
「ええ。お願いします」
そうか、部屋に結界を張ったのはサンド様だったんだ。……何となく、納得。サンド様とシーラ様なら、より攻撃に振ってるのはシーラ様のイメージだよ。通常とは真逆だね。
サンド様が遮光結界を張ってくれたので、張り切って解呪しましたとも。これ、いつぞやの屋根裏部屋で見つけた人形よりもヤベー状態だったわ。よく生きてたね、この国王様。
解呪が終わったので、後の事は第三王子に任せ、国王の寝室を出る。案の定、ビカーっと光ったので、解呪した私も眩しかった。
あれ、魔法の光だから、物理的に遮断しても眩しくなるんだよね。下手すると目を潰す事になる。
「次は王太子殿下の解呪を頼みたい」
あー、はいはい。人使いが荒いねえ。
「待て。妻は疲れている。少しは休ませようとは思わないのか?」
「は?」
やべ、ユーインがいつもの調子で言っちゃったよ。
一応、今は私も彼も平民を装っている。そのユーインが、海洋伯という、貴族に対してこの態度を取るのは、「なし」だよなあ。
海洋伯も、驚いて目がまん丸だ。
場を納めたのは、サンド様だった。
「……言い方の是非は後で問うとして、確かに休みなく彼女を働かせるのは如何なものかな? ホエバル海洋伯」
「そ……だが、疲れているようには見えませんぞ?」
「人は、見かけで判断してはいけないよ」
サンド様ににっこり言われては、さすがのホエバル海洋伯もそれ以上の無茶は言えないらしい。
この先にも、国内の瘴気払いを控えているもんねえ。いや、報酬である島をもらった以上、やる事はやりますが。
でも、いつまでに終えないといけないって期限、切られてたっけ?
サンド様が交渉で休憩時間をもぎ取ってくれたので、シーラ様が待つ客間で、サンド様、ユーインと一緒にティータイム。ちなみに、お茶は用意してもらったけれど、茶菓子は自前です。
だって、折角のおいしい小麦なのに、何だか砂糖ベタベタでゲロ甘なんだもの。
「お菓子には、もう少し繊細な味付けがほしいわね」
シーラ様のご意見はもっともです! おいしい小麦が手に入ったら、ぜひともシャーティに試作してほしいところ。
「それで? やはり王も呪われていたの?」
「ええ、かなり濃い呪いでした。殺意満々ですね」
おかげで解呪の光がビカーでしたよ。たっぷり瘴気を使って呪っていたらしい。
私の返答に、シーラ様は細くて長い指先を顎に当てて、思案顔だ。
「そう……やはり、王を呪うよう仕向けたのは、第二王子かしら?」
「どうだろうねえ。直接、第二王子がどんな性格をしているかを見極めた訳じゃないから、何とも言えないなあ」
サンド様の言う通りだと、私も思う。確かに王位への野心はあったんだろうけれど、だからといって一足飛びに呪いに手を染めるかな。
粗野で乱暴という、聞いてる限りの性格だと、軍部を掌握してクーデターを起こす方が先じゃないかと。
一応、第二王子であって王位継承権は持っているから、簒奪にはならないのが微妙なところ。
サンド様は、シャーティの店の焼き菓子を一つ頬張り、お茶を飲んでから口を開いた。
「まあ、どのみちこの国で仕掛けていたものが駄目になったのだから、次の手を打ってくるかもね。その時に、相手を仕留められればいいよ」
サンド様、捕縛でなく仕留めるなんですね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます