第512話 落ち込み
気がついたら、知らない部屋にいた。あれ? 私、いつの間に寝たんだっけ?
「ん……」
「レラ!? 目が覚めたのか!?」
「ユーイン? ……あれ?」
確か、リューバギーズの王都に来て、王城の裏道を使って国王の寝室へ入り……
「!」
「もう大丈夫だ。何も心配はいらない」
そうだった。国王の寝室に入って、第三王子が兄の第二王子に剣で挑み掛かり、負けそうになったけれど私が第二王子を捕縛して……
「あの、爆発は一体……」
「カストルによると、フードの奴が自爆したそうだ」
「自爆……」
「今は誰もいない。カストルを呼ぶか?」
そうね。詳しい説明がほしい。
いつものように、カストルはいつの間にか部屋にいた。
「お呼びですか?」
「あの時、何があったの? フードの人が自爆したって聞いたけど……」
「まず最初に、あれは人ではありません」
「へ?」
人じゃない? どういう事?
「造りとしては、デュバルの人形に近いですね。ただ、材料が違います」
「材料?」
何だか、料理か何かのように聞こえるよ。
「人形の材料は魔物由来……つまり、元々は魔力です。ですが、あのフードの材料は瘴気そのもの」
「瘴気、そのもの?」
「普通は人間には扱いづらいものなのですが、よほど腕のいい瘴気使いがいるようですね」
「そいつが、ドラー森林伯の事も呪った?」
「ええ。この国の王も、王太子も。他にも、いるかもしれません」
えええええ。ちなみに、あのフードが呪った相手は、瘴気を種にして呪っているので、誰をどれだけ呪っているのか、カストルでも見つけづらいそうだ。
「いっそ、国中をスキャンして瘴気の濃いところは呪われているって思った方が早いかもね」
「ああ、なるほど! さすは主様です。では早速やってみましょう」
え? 出来るの?
私が寝かされていた部屋は、王城の客間だったらしい。様子を見に来た王城のメイドが、私が起きているのを見て第三王子達に報せに行った。
「無事でよかったわ。いきなり倒れたからびっくりしたのよ」
「ご心配おかけしました」
シーラ様に心配を掛けるのは、そろそろ終わりにしたいのになあ。子供の頃から、散々心配を掛けてきたので。
でもシーラ様ったら。
「その言葉は、あなたの隣にいる人におっしゃい」
ユーインですね、わかります。
「ごめんねユーイン。心配掛けました」
「いや……ああ、うん」
何て言えばいいのか、迷ってるね。普段から私のやりたいようにさせてくれる人だから、その結果があれだし、本人も心配よりは自己嫌悪の方が強そう。
でも! 私は私のやりたいようにしたいのだ! ……たとえ見たくないものを見る羽目になったとしても。
とりあえず、部屋に見舞いに来てくれたのはサンド様とシーラ様のみ。ホエバル海洋伯や第三王子も来たがっているそうだけど、ちょっと遠慮してもらっている。
「それで、あの爆発の理由はわかる?」
「うちの執事から、事情は説明させます」
私がやるのは面倒いので。カストルがしれっとこの場にいる事に、サンド様達が微妙な顔をしているけれど、まあカストルだしね。
「先ほど主様にもご説明いたしましたが、改めてご説明させていただきます」
そう前置きをして、瘴気やフードに関する事を伝えた。
「つまり、あのフードを被った存在は人間ではなく、瘴気の塊だったと?」
「そうなります」
「それを、人形のように遠隔で操っていた者がいるんだな?」
「遠隔と申しますか……ある程度の行動を命令し、自律して動くようにしてあったようです」
ロボットみたいなものか。その命令内容は、カストルでも読めないらしい。何せ、瘴気の塊であり、既に爆散しちゃったから。
城の中にある瘴気に紛れちゃって、部品の役割すら果たさないんだってよ。すっごくやりづらいな、瘴気。
「とりあえず、その内容は第三王子やホエバル海洋伯にも知らせたいのだが、いいかね?」
「サンド様にお任せします」
交渉事は、出来る人に任せた方がいい。私は苦手だしね。
サンド様とシーラ様が部屋を出て、再びユーインとカストルの三人だけ。
「何か厄介な国に来ちゃったなあ」
「主様、呼ばれているのかもしれませんね」
「やめてよ」
トラブルに呼ばれるなど、冗談じゃない。
カストルと軽口を叩き合っていると、隣のユーインが何だかやけに落ち込んでいる。
「ユーイン?」
「……すまない」
「え?」
何故、謝罪? 首を傾げていたら、ぽつぽつと話し始めた。
「レラを護ると豪語していたのに、いざ危険な場面になったら、まったく護れていない……本当に、どう詫びればよいのか」
「いやいやいや、あれはさすがに想定外が過ぎるから! それに、傷はどこにもないんだし!」
「だが、心には受けた。気付いていないだろうが、気を失っている間、ずっとうなされていたんだ」
え……そうなの? ちらりとカストルを見ると、視線を逸らされた。おい。
「本当に、自分が嫌になる……」
「いや、落ち着いて。あれは誰にも不可避だったから」
よもや、自爆するなんて思わなかったし。それに、そういう可能性がある事を想定もしていなかった。
前もって、そういう事もあるかもね? って予想してたら、ちゃんとそれなりに結界に手を加えるよ。自爆する相手の前では、外が何も見えなくなるようにするとかね。
でも、ユーインには届かない。
「不可避だからこそ! 私が護らねばならなかったのだ!」
えええええ。
「本当に、すまない……」
そう言い残して、ユーインは部屋を出て行く。
「これ……どうしたらいいと思う?」
「さて、男女の機微など、作り物である私にはわかるはずもございません」
逃げたな、カストルめ。
ユーインの事にばかりかまけてられないのが世の中。本当、嫌になる。
「具合はどうだ?」
「傷一つないので、ぴんしゃんしてます」
今日は第三王子と海洋伯が一緒にお見舞いだ。しれっといるカストルに関しては、後追いでやってきたアスプザット家の従僕という扱いになっている。どさくさ紛れになにしてんだ。
「話は、アスプザット侯爵から聞いた。よもや、そんな怪しい存在を兄上が王城に入れていたなんて……」
フードの人物もとい瘴気の塊は、第二王子が連れてきたそうだ。それと、あの時国王の寝室にいて爆散しちゃったもう一人の人物は、中央公の一人だという。
「ちゅうおうこう?」
「国の中心を扱う公爵家の事だ。大抵は王家の血が入っている。ホエムロス公は、確かに野心家ではあったが……」
第三王子の表情が苦しそうだ。よもや、国の中枢に国を傾けかねない人材がいたとは思わなかったんだろう。
でも、権力のあるところ、腐るのは簡単なんだよなあ。オーゼリアや周辺国でもそうだったし。
第三王子が黙り込んじゃったからか、話はホエバル海洋伯が引き継いだ。
「倒れたところすまないが、王城でも瘴気を払ってはもらえまいか?」
ああ、そういう事か。そりゃフードのようなのがいたんだから、あちこちに瘴気がこびりついていても不思議はない。
あ、サンド様から話を聞いたっていうのなら、他にも呪われている人がいるかもってのも、聞いてるんじゃないかな。
「瘴気は払いますが、他にも呪われている人がいたら、どうしますか?」
私の言葉に、第三王子と海洋伯がお互い顔を見合わせる。何か、そんな変な事、言ったかね?
首を傾げていると、海洋伯がおずおずと口を開いた。
「その……呪われている者がいたとして、治療を頼めるだろうか?」
「よっぽど犯罪者とかでもない限りは」
さすがに人を多く殺したりして、瘴気まみれてなった挙げ句呪われたような症状になったとしたら、自業自得だから。
とはいえ、カストルの調査である程度、場所も相手もわかってるけどさー。
私の言葉にほっとしたのか、二人が代わる代わる伝えてくる。
「実は、地方領主に謎の奇病が蔓延していてね」
「我々は、瘴気による影響か、呪いだと思っている」
「ただ、本当に国の端に多いから、移動が大変じゃないかと」
「だが、どの家の当主も、国を憂う者達ばかりなんだ! 出来れば、救いたい!」
なるほどねー。移動距離が長いから、女の私に無理をさせるのはちょっと……と思ったのか。
「その辺りは、サンド様と相談させてください」
私一人で判断するのは怖いからさー。
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