第510話 到着ー
あの後、あのメイド達が森林伯に泣きつくかなー? と思ったけれど、特に何の問題もなく出立の時間になった。
「出立!」
ちなみに、王都へ行くのは第三王子、ホエバル海洋伯、サンド様、シーラ様、ユーイン、そして私。
ヴィル様は野営組への説明役を兼ねて残るそうだ。
「何かあったら、王都まで一騎駆けする」
「いや、移動陣使いましょうよ!」
いくら人形馬は疲れ知らずとはいえ、乗ってる人間は疲れるんですからね! ヴィル様は体力あるから、大丈夫かもしれないけれど。
これはリラの方に移動陣を預けておいた方がいいな。カストル、リラに使い捨てタイプを渡しておいて。
『承知いたしました』
さて、これで安心して王都へ行ける。
馬は、全てこちらが用意した人形馬を使う。これに反論したのは第三王子だ。
「私の馬は、国一番の速さだぞ? だからこそ、君を連れに野営地へ向かったのだ」
ああ、そういう理由だったんだ。どうも、瘴気に気付いたシーラ様が、私なら払えると判断して野営地に迎えに行かせようとしてたんだって。
で、それを聞いていた第三王子が、「自分の馬が一番速い」と飛び出したそうな。
第三王子にとってドラー森林伯は、教育係を務めた人なんだと。大事な相手だから、死の床にある彼を救う手立てがあるのならと、突っ走った結果だってさ。
「でも、生きた馬ですよね? 餌も水も必要な」
「当然だろう? お前達が乗る馬は、必要ないとでも言うのか?」
「ええ。その通りです」
「え?」
第三王子だけでなく、ホエバル海洋伯も驚いている。まあ、仕方ないね。
「本当は車を使えればよかったんですが……」
「無理なのはわかっているよ。心配はいらない、レラ。私もシーラも、まだ体力はあるからね」
サンド様の言葉に、ちょっとほっとする。
さすがに、まだデュバルで試作中の車は持ってこられない。開き直って、ガルノバンから輸入する事を考えた方がいいかな。
ただ、そうすると動力源の問題が発生するんだよね。ガルノバンの車の動力って、向こうが作った魔力結晶以外受け付けないようになってるし。
さすがにそこを魔改造すると、その後の輸入が出来なくなるだろうしなあ。
デュバルで作っている車も、そこが問題で開発が進んでない。
『中央の研究所の技術を導入しますか?』
んー。それは最後にとっておく。何とか、分室でうまく調整してほしい。
もう日も暮れかけているというのに、街道を駆けていく。先頭を行くのはホエバル海洋伯。その後ろをサンド様とシーラ様。さらに第三王子と続き、私とユーインは最後尾だ。
街道は、エギケからドラー森林伯の領都までのものと同じく、舗装はなしのむき出しの地面だ。
ここ数日雨は降っていないようだけど、長く馬や馬車が行き来しているせいか、路面は荒れている。いくら人形馬とはいえ、足を取られかねない。
なので、ここでも結界を使った簡易舗装を使った。おかげでスムーズに移動出来るよ。
先頭を行くホエバル海洋伯の上空には、ライトを付けたドローンが飛んでいる。海洋伯を捕捉して飛ぶように設定してあるので、彼の周囲半径約十メートルくらいは明るい。
本当はもう少し先まで照らせるライトがほしいんだけど、魔法で出すのはサンド様から止められている。あまり、見せない方がいいって。
人形馬やドローンにも魔法技術が使われているけれど、あちらは物質としてそこあるので、普通の技術と言い張れる。だから、いいんだって。
いくら暗い中でも走れて、餌も水もいらない馬とはいえ、乗っているのは人間。疲れるし休憩も必要だ。
途中の街をすっ飛ばして、ずっと街道を走っていたけれど、夜の十時付近になってようやく先頭の足が止まった。
「済まないが、ここで野営する」
野営といっても、ろくな設備を持ってきていないように見える。おそらく、マントを毛布代わりにして、寝る程度なのだろう。
だが、そんな居心地の悪い思いをシーラ様にさせる訳にはいかない。ふっふっふ、私の収納魔法の中には、簡易宿泊施設が入っているのだよ。
海洋伯と第三王子が人形馬を眺めながら何やら話している横で、収納魔法から簡易宿泊所を取り出す。出す際に、こっそり地面を均すのも忘れない。
「な! 何だそれは!?」
ホエバル海洋伯が怒鳴る。驚き過ぎたらしい。隣に立つ第三王子は、もはや驚き過ぎて声が出ない状態だ。
「簡易宿泊所……ちょっとした持ち運びが出来る部屋のようなものです」
「はあ?」
理解不能と、海洋伯の顔に書いてある。まあ、そうだろうね。
「これ一つで一人で使ってください。あ、サンド様とシーラ様は一緒でいいですか?」
「構わんよ。それにしても、これかあ。話には聞いていたが、見るのは初めてだね」
「そうでしたか? 何でも、私が過ごした寮の部屋に入れる水回りを元に、熊が作ったのが最初だって聞いてますよ」
「ああ、なるほど」
私が学院で六年間使った寮の部屋は、水回りの設備が何もない屋根裏部屋だったからね。元々物置だったんだから、水回りがないのも当然なんだけど。
一応、海洋伯と第三王子には中の設備の使い方を簡単に教えて、その日は休んだ。夕飯は、ヌオーヴォ館の料理長特製シチュー。おいしかった。
朝は日の出と共に起き出して、朝食を食べて身支度やら後始末やらを終えたらすぐに出発。十時に小休憩、十二時に昼休憩を入れて、午後三時の休憩の前に、王都に到着した。
王都は、これまで見てきた都市とはちょっと違う造りだ。壁はなく、堀で街を囲っている。その堀は、運河にもなっていて、小舟が行き交っていた。
「王都には海まで続く大河が流れていて、水運が盛んなんだ」
ほほう。海まで船で荷を運べるのなら、交易にはいいかもね。
都市って、何かを生産するよりは物資が集まる拠点だから。消費量も多いけれど、その分人も物も集まる。
「海まで川を船で行けるのなら、エギケから船で王都へ入ればよかったのでは?」
シーラ様のもっともな一言に、第三王子が苦笑した。
「ドラー森林伯に、用があったんだ。でも、おかげで彼の命を救ってもらえた。この感謝は決して忘れない」
その割にゃあ、サンド様に私を貸せって言ってきたりしてたねえ?
まあ、サンド様がこの面子の同行をもぎ取ってくれたからよかったけどー。
そうそう、ヴィル様達野営組も、ドラー森林伯領を出発して移動中だってさ。あちらは人数が多いから、明後日辺りの到着になるって。
こっちはかなり飛ばしたからね。
「さあ! 王城へ向かおう!」
第三王子のかけ声の下、私達は王都へと足を踏み入れた。
王都内の大通りを馬でゆっくりと進む。女性が馬に乗るのが珍しいのか、周囲からの視線が痛い。
王都には、高い建物があまりない。せいぜいが三階建てかな。木造がほとんどで、石造りの建物は見当たらない。リューバギーズは、木材が豊富な国なのかも。
大きな通りがまっすぐ進んでいる……と見せかけて、時折丁字路やクランクのようになっている場所があった。
そして、王都の奥、小高い位置に建つのが、この国の王城。城というだけあって、確かに軍事に使われるタイプの建物っぽい。
幅もそうだけど、何よりも高さが取られている。遠くの敵がよく見えるようにかな。確かに王都の周辺は、平地が広がってる。
あの高さの物見からなら、さぞ遠くまで見渡せるだろう。
到着した王城は、石材と木材で出来た建物。ちょっと和風な城を思い出す。デザインは丸っきり違うけれど。
で、お約束のように入り口で問題発生。
「ただいま、王城へ入る事は出来ません!」
「どういう事だ!? よもや、陛下に何かあったのではあるまいな!?」
「そ、それは……」
門を護る兵士と、ホエバル海洋伯が入れろ出来ないの押し問答。そこに、第三王子が参戦だ!
「王族である私すら、入れないと申すか?」
「こ、これはトイド殿下! で、ですが……誰も入れるなと命令を受けておりまして……」
「命令したのは、誰だ?」
「……スセドス殿下です」
えーと、多分これが第二王子だよね?
『お名前は聞いたと思うのですが』
大事じゃない名前は覚えません!
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