第506話 急展開? ……でもないか?
フロトマーロのビーチでのんびりしていた間にも、サンド様達は色々と動いていた様子。
ユーインを介してカストルを貸し出しているから、情報はこっちに筒抜けなんですが。いいのかねえ。
「ウィンヴィル様がいらっしゃるから、その辺りもお義父様方には伝わってるはずよ」
リラの言葉に、そういえばヴィル様が向こうにいた事を想いだした。ユーインはそういった事はからっきしだけど、ヴィル様は抜け目ないからなあ。
あの人、ただの脳筋じゃないからね。
そしてとうとうホエバル海洋伯との会談の日。この日も私はビーチでのんびり……出来なかった。
「よもやビーチにまで書類がやってくるとは……」
「これでも、急ぎのものだけ回してもらったのよ」
テーブルの上に置かれた書類、タワーになってるんですけど。これで、急ぎのものだけ?
「ネオヴェネチアが完成間近で、その書類が増えてるのよ」
「ああ」
ネオヴェネチアに出店したいって話も多くあって、ネスティが中心になって申請してきた店を調べてもらってたんだ。
その報告書が、ここに積み上がってるって訳ね。
「おかしな店は弾けばいいだけなんじゃないの?」
「微妙なものが多いのよ。調べたのがネスティ達だから、裏に誰が付いているかは簡単にわかったそうだけど、その相手がねえ……」
「ああ、王家派閥の貴族だったり、中立派の貴族だったりする訳か……」
「貴族派閥の家がバックについてる家もあるわ。そういったところは、後ろに付いてる家からも、申請の口利きの手紙が届いているの」
貴族派は、王家派閥……特にペイロンと私、ユーインに対して大きな負い目があるからな。
各家自体ではなく、派閥としての負い目だから、筆頭のビルブローザ侯爵辺りがうちには礼儀を尽くせと言い含めているのかも。
貴族派閥だからというだけで、店を弾く気はないけれど、競合してたり店そのものに問題があったりしたら弾くよ。
「で、私の手元に来たのは、ネスティチェックを通り抜けた店のみ……って事?」
「そう。最終的な判断は領主であるあんたがすべきだからね」
「おおう……」
街のコンセプトがコンセプトだからか、若い女性向けの品を扱う店が多い。本家ヴェネチアのあるイタリアを考えると、貴金属はもちろんの事、革製品なんかも有名じゃなかったかなあ。
あ、女性用のバッグとか、どうだろう。今のオーゼリアって、女性用のバッグってないんだよね。
貴族女性って、まず自分で荷物を持ち歩かないから。持ってもハンカチとか小さい鏡を入れておく布製の小さい手提げ袋程度。
ここに、外出時に持つオシャレな革製バッグとかあったら、どうかなあ。てか、私が欲しい。
「また、いらない事を考えたわね?」
「え!? いや、いらなくないよ!? バッグ、嫌い?」
「え? いや、好きか嫌いかって言われたら、嫌いじゃないけれど……まさか、それ!?」
「うん。あ、革製品で有名なブランドって、元は馬具を作ってたんじゃなかったっけ? なら、バッグと一緒に馬具も!」
「待ちなさい! いっぺんに話を広げるな!!」
いやあ、新しい事を考えている時が、一番楽しいよね!
カストルは貸し出し中なので、通信機を使い領都にいるネスティに連絡を取る。
「という訳で、馬具と革製品を扱うブランドを立ち上げるから!」
『それは……よろしいのですか?』
画面の中のネスティの視線が、リラに向かう。
「……馬具はこの先需要が高まる事が見込まれるし、革製品もこの人がアイデアがあるっていうから」
『承知いたしました。では、職人を押さえておきますね』
「よろしく!」
さて、これでしばらくは革製品に集中出来るぞ。まずはバッグだよね。形を色々作らないと。
前世で通勤に使いたかったタイプとか、高すぎて手が出なかったケリーバッグ、バーキンもいいね。
それから気軽に使えるサッチェルバッグ、パーティーに持っていくクラッチバッグ。バッグもファッションアイテムの一つになるといいね。
ウキウキしながらデザインをあーでもないこーでもないと考えていたら、カストルから連絡が来た。念話じゃなくて、通信機越しの連絡でもない。
いきなり、部屋の天井付近からカストルの声がした。
「主様、少々よろしいでしょうか?」
「え? な、何!?」
リラが驚いている。いや、私も驚いたけれど。声のした方を見ても、当然誰もいないし。
「これ、どうなってんの?」
「魔法で特定空間の空気を振動させて、音声にしています」
「あ、そうなんだ」
「何さらっとやり取りしてるの!? いつもなら二人の間だけで、念話やってるじゃない! 何で今回に限って――」
「文句は後で聞くよ、リラ。カストル、何があったの?」
「一応、ご報告までと思いまして」
「会談で、何かあった?」
「あったといいますか、想定外の参加者がいました」
参加者? 何か、ヤバい人でもいて現場が修羅場になったとか?
「誰がいたの?」
「リューバギーズの第三王子です」
わーお、ロイヤルー。
リューバギーズの王家には、三人の王子と二人の王女がいるそうな。
長男ヨダイドは王太子だが、生来の病弱で王位に就く事は難しいと見られている。
次男スセドスは頑健な肉体を持っているが、どうも頭の方が空っぽらしく、粗野で横暴。本来なら兄ヨダイドのスペアになるところだが、彼が王位に就く事を望まない家が多いそうな。
で、今回会談にサプライズで参加したのが、第三王子トイド。彼は国内でも最も次代の王にふさわしいと言われている人物らしい。
ただ、本人はあくまで王位を継ぐのは長男ヨダイドだとしているらしく、周囲にはフラフラしてばかりいる王子と見せかけているんだとか。
おおう、どこも王家の兄弟は大変だねえ。
にしても、第三王子かあ。三男坊、元気でいるかねえ?
「シイニール様でしたら、ご結婚の後、跡継ぎが生まれて安泰に過ごされているようです」
「そうなの!?」
「近々、オーゼリアにも連絡が来るでしょう」
あの三男坊が父親にねえ。一応、結婚相手が王家の血を引いている家のお嬢さんだから、子供が生まれてもすぐには披露しないんだって。
で、その余波でオーゼリアにもまだ情報が来ていないんだとか。でも、王家にはこっそり知らされているそうだよ。
そりゃそうか。今の陛下にとっては、甥っ子が生まれた事になるんだもんね。跡継ぎだから、男児でしょうし。
公表されたら、うちからも出産祝いを贈るか。子供の服と、男の子用のおもちゃをいくつか見繕って。
……あ! そのついでに、出産した奥さん用に、革製品の新作を贈れば、向こうで広まってくれるかも!
「ちょっと! 何悪い顔になってんの!」
「悪い顔って……リラが酷いー」
「酷くない! またよからぬ事を考えてたんでしょ、どうせ」
「よからぬ事じゃないよ。出産祝いを兼ねて、三男坊の奥さんに新作の革製バッグを贈ろうかと思ってただけじゃん」
「母親に贈るの? 子供じゃなく?」
「いや、赤ちゃん用にも、いくつか男児用のおもちゃとか贈るけどさ」
「……まあ、大変な思いをして生んだのは、お母さんだからね。それもいいのかも」
おお! 珍しくリラから賛同をもらえた! よし、ならこのまま突っ走るぞ!
「主様、よろしいでしょうか?」
「あ、あれ? 何だったっけ?」
「リューバギーズの第三王子が会談の場にいらしたと伝えたところです」
ああ、そうだった。そこから三男坊の話になって、跡継ぎが生まれた事を聞いてびっくりしたんだった。
「ええと、第三王子が現れた事で、何かあった?」
「このまま、特使を王都の王宮に招きたい……と」
おおっと、話がいきなり飛んだねえ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます