第503話 交渉……?
西大陸、海沿いには四つの国がある。ブラテラダ、リューバギーズ、ゼマスアンド、ゲンエッダ。
このうち、ブラテラダ、リューバギーズ、ゼマスアンドは同盟を結び、大国ゲンエッダに攻め込む計画を立てている……らしい。
ちなみに、一番最初に上陸した島は、ブラテラダの領になるそうな。
「以上が、周辺国の情勢だそうです」
「この島の人間ですら、戦争の情報を知っているというのはどうなんだ?」
サンド様の言葉に、その場の人達が全員頷いている。現在私がいるのは、船内の邸にある書斎を使った会議室だ。
そこに集まったのは、サンド様以下今回の西行きに参加している伯爵位以上の人達。当然、ルーンバム伯爵もいる。
彼等に、カストルが島の村で得てきた情報を伝えていたところだ。
何故カストル自身が直接報告しないのかというと、身分やら何やらが関係しているから。カストルは私の執事だから、私が報告を受けて、それを参加者に伝えるのが筋なんだって。面倒くせ。
皆が言うように、戦争の情報をあんな辺鄙な村で手に入れられたのには、訳がある。
「島の村民にも、徴兵があったそうですよ」
「こんな辺境まで? そこまで大がかりな戦という事か……」
ルーンバム伯爵が青くなってる。オーゼリアって、長らく戦争とは無縁だったからね。
南の小王国群との国境線辺りじゃあ、小競り合いがよくあるって話だけれど。それだって、オーゼリア側の圧勝で、こちらには怪我人一人いないっていうし。
まあ、平和呆けオーゼリア人にとって、戦争は遠い話なんだよなあ。
でも、これから向かう国が戦争を仕掛けたり仕掛けられたりっていうんじゃ、どうしたものか。
「三国で連携して、一国を落とそうというのか……ゲンエッダという国は、それほどの強国という事かな?」
「国の面積が大きいのと、平地が多く作物が多く作れる豊かな国だそうです。対して、同盟を結んだ三国は山が多くて、その分の恵みも多いようですが、主食となる穀物があまり作れない地域だとか」
「そうか……」
ゲンエッダは面積がでかいだけじゃなく、穀倉地帯でもあるんだよね。そして、三国はゲンエッダから穀物を輸入している。
なら、三国でゲンエッダを滅ぼし、三つに分割して穀物輸入をなくそう……というのが、三国の狙いらしい。
単純だなあとは思うけれど、人間ってそういうものなのかも。
「話し合いで、輸入の値段を下げさせるか、自国の特産物を開発するかすればいいだろうに」
「それにも国としての力が必要になるだろう。とはいえ、安直に戦争に走るなど、蛮族の国としか言えんな」
「まったくです」
オーゼリアは豊かな国だし、食料生産も十分ある。魔法技術が抜きん出ているから、他国に比べて優位に立てるってだけなんだけどなあ。
「レラ、他に上陸して交渉出来そうな国はないかね?」
「もう少し北か南に行けば、また違うようなんですが……どちらも小国ばかりでして」
具体的な大きさを言うと、小王国群並に小さい国ばかりというね……
報告したら、サンド様達も唸っちゃった。
「内陸に行けば、また違うのかもしれませんが……」
「今は、沿岸四国を相手にすると考えた方が得策か……」
とはいえ、その四カ国は戦争に突入しそうな情勢だ。
「いっそ、侯爵に介入してもらって、戦争を回避するというのはいかがか?」
「おお! その手があるか」
ちょいちょい、おっさん達、何言ってんの? 私一人に面倒を押しつけようってか?
ちょっとまとめてお話し合いするかい? そう思ったら、サンド様がおっさん達を止めてくれた。
「待たないか。彼女一人に重荷を背負わせるなど、外務省職員としての矜持が泣くぞ」
「それは……」
「そうですが……」
本当そうだよ。もうちょっと、プライド持とうね!
遙か東の大陸からやってきた「客人」の話は、島からブラテラダの沿岸領に届けられた。まあ、小さい島の村程度じゃあ、扱いきれないもんね。
オーゼリア特使――そういう名前が付いていたらしいよ――としても、交渉が出来る相手が出て来てくれないと困るし。
「これでどこぞの国のように、いきなり全員牢屋に入れられたらどうしようね?」
「え? そんな事、あったの?」
「あったのよ、コーニー。やった国はヒュウガイツって国なんですけどー」
あれは、港の兵士のやらかしだったけどな。おかげで彼等の首は飛ばされました。物理的に。
あの時は、オーゼリアという国をヒュウガイツがきちんと他国と認識している状態で、かつ同行していたヒュウガイツの王族をもろくに確認せずに牢屋に入れたからなんだけど。主に後者が大きかったんだろうなあ。
さて、ブラテラダという国は、どういう行動に出るんだろう?
島に到着して、カストルが島民に接触して今日で約十四日。ブラテラダの沿岸領の領主の使いと名乗る者が島にやってきた。早いのか遅いのか。
使者と会うのは、島にある村の村長宅を借りたって。そこに、オーゼリア側からはサンド様含む特使が四人。護衛にユーインとヴィル様。
表向き、彼等はサンド様の私兵という設定にしている。といっても、聞かれたらそう答えるだけの話。こちらからわざわざ言ったりはしないってさ。
事前準備として、カストルが収集したこちらの言語情報を元に、同時翻訳出来る魔道具を即興で作っておいた。作ったのはカストルだけれど。
一応、データはデュバルに送っているので、そのうち分室で大量生産された同時翻訳機が届けられるでしょう。
待ち構えていたサンド様達に遅れることしばし。会見場である村長宅に使者が入ってきて、いきなり大声で言われた内容は、以下のもの。
「ブラテラダ王国チブロザー海洋伯様からの伝言を伝える! 即刻、我が国の近海から立ち去れ! 以上だ」
交渉の余地もなく、どっか行けときたもんだ。まあ、こっちがどういう存在か、知らないもんな。
この様子は、船内の邸に設置したスクリーンを使い、皆で見ている。ユーインにカメラとマイクを仕込んでもらったんだー。
「まあ、いきなりあのような言い方をするなんて……」
「やはり、蛮族の国なのではなくて?」
奥方達が声を潜めて言い合うのが聞こえる。うん、今なら私もそう思う。使者の態度から、その主の性格もある程度見えるというもの。
導き出されるのは、尊大で自らの地位に酔った人物。こりゃ交渉どころじゃないかもなあ。
今サンド様がいる島は、遠浅の浜を持っている島なので、リムテコレーア号が停泊出来る港はない。
その為、沖に停泊して島まではボートで行き来している。リムテコレーア号の姿は、島民には見えないようにしておいた。
「何もせずに、立ち去れと? 我が国との交渉すら不要と申すか!」
相手の言い分に激高したのはルーンバム伯爵。それに対し、使者は鼻で笑った。
「あのような小舟で我が国に来ようとは。貴殿らの国は、さぞかし優秀な国なのでしょうなあ。ああ、もう少し南に向かうと、我が国の軍港がある。話の種に、遠目から見ていくといい。だが、あまり近寄るなよ? 近づきすぎると、攻撃されるぞ」
はっはっはと笑いながら帰って行く使者を見て、サンド様が軽い溜息を吐いたのが、マイクを通して聞こえる。
「さて、一旦船に戻ろうか」
「ですが!」
「まあ、その辺りも含めて、少し話し合いをしようじゃないか」
声だけでわかる、サンド様の呆れ。多分、同行者にも伝わったんだろう。その後、反論を口にする人はいなかった。
「という訳で、別の国に持ちかけてみようと思う。もっとも、同盟を組んでいる三国は、どこも同じような反応になりそうだけれどねえ」
戻ってすぐ開かれた全体会議……現在船に乗っている人達全員が参加する会議で、サンド様がまず口を開いた。
これに反対する人は、誰もいない。村長宅に行っていなかった人達も、スクリーンで見ているからね。
「いっそ、三国に攻め入られているという国に、交渉を持ちかけてみてはいかがでしょう?」
「うん、それも手だな」
「ですが、他の二国は先ほどの者達とは違う反応を見せるかもしれません」「とはいえ、その二国は先ほどの使者の国と手を組んで、一国に攻め入っているのだろう? 似たり寄ったりの考えを持っていても不思議はないぞ?」
確かにねえ。それに、もう一つ可能性がある。
「サンド様、提案があります」
「何かね? レラ」
「私達で、一度三国それぞれを調べてみたいんです」
「調べる……何をだね?」
「本当に、三国が一丸となってゲンエッダという国を攻め滅ぼすつもりでいるのかどうかを」
こちらとの交渉を決裂させたのも、海洋伯とかいう人物の独断かもしれない。
なら、別の領地の領主……もしくは王に近い人間なら、別の何かを引き出されるかも?
それに、そこから三国同盟が崩れて、戦争がなくなればもっといいんじゃないかなー。
戦争なんて、一般人が迷惑被るだけのものだもん。ない方がいいよ。やっぱり平和が一番だ。
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