第500話 面倒だから丸投げ
離宮からリムテコレーア号へのご招待、反応は上々です。
「海があんなに綺麗だとは、知りませんでしたわ!」
「船旅というのも、いいものですなあ」
「おみずから、ぴょんぴょんとんでた!」
お子ちゃまは、どうやらトビウオのようなものを見つけたらしい。ただ、普通の船だともっと揺れると思うので、楽な旅にはならないかもー。
リムテコレーア号に関する意見を王都邸の執務室でまとめていたら、カストルから意見が。
「デュバル製の船を増やせばいいのではありませんか?」
「えー?」
一応、クルーズ船を増やす計画は立っている。後、フロトマーロとの交易用貨物船。
こちらもカストルが気合いを入れた結果、貨物船というよりは、フェリーのような乗り心地の船になりそうだって。
いや、人間を運ぶんじゃなくて荷物を運ぶんだから、居住性はそこまで追求しなくていいのでは?
「ですが、乗組員は領民ですし」
「そうだけどさあ。最低……とまでは言わないけれど、そこそこでいいんじゃないの?」
「いいえ、船である以上、居住性を捨てるのは納得出来ません!」
何で船にそこまでこだわるのやら。リラはリラで、先ほどカストルから出た船の増産に心を奪われている様子。
「造船業って、儲かるかしら?」
「待ってリラ。儲かるか儲からないかで考えないで」
「何言ってるのよ! 仕事にするなら、儲けなきゃ意味ないでしょうが!」
いや、そうなんだけど。そうなんだけどおおお。
「それに、海運って何だかゴージャスな響きじゃない? 海外小説なんかじゃ、スパダリの職業の上位に入るくらいだもの」
何の話だ何の。大体、まあ、こっちだとまだまだこれからの分野だろうから、いけるかもしれないけどさ。
その前に、海運を使うほどの物流がないとね。
結果として、リムテコレーア号の乗り心地は最高という事になった。いや、それはいいんですよ。
でも、シーラ様とサンド様、離宮に戻りたくないってどういう事?
「もうこのまま、西の大陸まで船にいた方がいいと思うの」
「そうだねえ。ここならのんびり出来るし」
「いやいやいや、お二人がいないと、離宮がまとまりませんよ」
珍しい二人の言葉に、一瞬「そうかも」とか思っちゃったじゃない。でも、サンド様は西行きの責任者なんですから。
「だからこそ、船にいるべきでは? 本来なら、こうして船旅……決死の覚悟で航海をしているはずだったんだから」
言い直しても遅いですよ。いや、確かにこの船だと辛く危険な航海というよりは、楽しく便利な航海ですけど。
「大体、離宮にいる人達だって、上の者がいない方が伸び伸びと過ごせるわよ。あら、そうしたら、伯爵位以上の方達はこちらに常駐していた方がいいのではなくて?」
「そうだな。そうしよう」
待ってえええええええ!
かつて、こんなノリノリなサンド様とシーラ様があっただろうか。いやない。
私だけではお二人を連れ戻す事が叶わなかったので、ヴィル様とコーニーを応援に呼んでみた。
リムテコレーア号の船内にある邸、その玄関ホールに三人で移動してきた。これから、サンド様とシーラ様を説得して貰う予定。
「でも、お母様達の気持ちもわかるわ。今の離宮、過ごしにくいもの」
「そうだな。外に出られないというのは、思う以上にきついものらしい」
コーニーもヴィル様も、サンド様とシーラ様の味方してるー。
「それはわかるけど、それを言ったら船だって閉じ込められているようなものじゃない」
「でも、甲板に上がってくれば、人目がないでしょう? 離宮って、結界で覆われていても気になるし、それにそもそもあそこ広くないのよ。王家の離宮なのに」
「建てられた理由が理由だ。仕方ないだろう?」
あの離宮、時の王が愛人と楽しむ為に王都のはずれに造った離宮なんだって。だからあまり広くせず、こぢんまりした造りにしたんだとか。
その後王都の拡張工事により、王都の壁の中に吸収されて今に至る……と。
そういえば、あの離宮の周辺って寂れてるよね。人通りがないのはいいけれど、柄の悪い連中はうろついてるんだよなあ。
あの辺り、空き家も多いし。いつぞや従兄弟の暴走で連れていかれた空き家も、離宮の近くだったはず。
王都を拡張する計画が出ているそうだけど、その前にあの近辺を再開発した方がいいんじゃないのかね。
「そういえばレラ、島をいくつか見つけて手に入れたって聞いたわよ?」
「え? うん。無人島なら、勝手にうちのものだーって言っても、どこからも文句は言われないでしょ?」
それに場所が場所だから、普通の船では辿り着けないそうだし。今のところは、ってつくけれど。
「ガルノバンの船なら到達出来るかもしれないけれど、他の国の船だと、まずここまで来られないだろうし」
「そうね。忘れがちだけれど、オーゼリアからはもう大分離れているのよね」
そーなんだよー。簡単に移動陣で行き来しているけれど、本来なら結構な日数を掛けて船で来る以外、来られない場所なんだよねー。
「その島に、建物を建てて今離宮にいる人達を移しちゃったら?」
「へ?」
「島なら人に見られる危険性もないし、開放感もある。浜辺があったら、それこそ海水浴を試してもらうのも手じゃないかしら?」
「それ……は……」
「島はいくつか手に入れたんでしょう? だったら、仲のいい家族同士でばらけて滞在させるのもいいんじゃない?」
「確かに。オーゼリアから遠く離れた島なら、逃げ出される心配もないしな」
ヴィル様、何気に怖い事言ってる。
島に土地はあるけれど、いきなり建物を用意するって言っても、移動宿泊施設くらいしか手元にないんだけど。
「建てるにしても、時間が必要ですし……」
「ご心配には及びません。こんな事もあろうかと用意してございます」
うわああああ! びっくりしたー! カストル、いきなり声を掛けるのはやめてって言ってるのに!
ヴィル様もびっくりして剣を抜こうとしちゃったじゃない!
「これは失礼を致しました。何やら、主様が悩まれているご様子でしたので」
「というか、さっきの言葉はどういう事? まさか、もう建物が建ってるとか?」
「ええ。オケアニスが入った時点で、基礎工事と上物の工事を始めました。やはり、占有を主張するのでしたら、建物くらい建てませんと」
恐るべし、有能執事。
「だが、島に入ってからそんなに日にちが経っていないはずだぞ。短い期間で建てたというのなら、耐久性に問題があるのではないか?」
「ご心配には及びません。ある程度規格化して建材を用意しておりますから、組み立てるだけのものになります。耐久性には何ら問題はございません」
何か、こういう工法、あったよね。それに魔法技術を使っているから、見た目的には重厚な邸が出来上がっても、不思議はない。
「その島も、主様をお迎えして差し支えないように設備を整えておりますので、お客様をお招きしても、支障はございません」
カストルが太鼓判を押すなら、そうなんだろうなあ。ちらりとコーニーとヴィル様を見る。二人は無言で頷いた。
「……とりあえず、サンド様とシーラ様の許可を取りましょうか。あ、陛下の許可はいりますか?」
「無用だ。西行きの全ては、父上に委ねられている」
なら、サンド様の許可だけでいっか。
お二人に話を通したところ、すぐに許可が出ましたー。
「割り振りは大変だろうが、ルーンバム伯爵に一任しようか」
サンド様、大変いい笑顔ですね。ルーンバム伯爵、ご愁傷様……
邸の割り振りは、大変だと思うよー。特に今の離宮では。
AさんはBさんとCさんと一緒にいたいと言っても、BさんはDさんとEさんと一緒にいたいとか言い出すからね。
これ、リムテコレーア号に招待する時に、実際に発生した問題でした。あの時は、サンド様に命令って形にしてもらったけれど。
結果的に、険悪な空気にならなかったからよかった。で、そんな面倒くせー案件を、ルーンバム伯爵に一任ときた。
「いやあ、レラが丸投げと言っている意味が、よくわかったよ」
サンド様、あの人の事、嫌いなんですね。まあ、私も微妙だけどさ。
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