第499話 悪い子にはお仕置きだー
航海は順調……らしい。一日に一度は船に行くんだけど、見渡す限りの大海原で、変化がよくわからない。
でも、海っていいよね! 隣にいるリラは何だか遠い目をしてるけど。
「まあ、この船揺れないしね」
「船酔い対策もばっちりだよ!」
「落ちても溺れないしね」
「転落事故対策も忘れてないから!」
「長期航海に付き物の、栄養不足からくる諸症状も心配はいらないし」
「亜空間を使った食糧倉庫を完備しているし、何より移動陣を使えば新鮮な食材を取り寄せ放題だから!」
「……これの、どこが危険で困難な船旅なのかしらね?」
どこだろーね? 私が言った言葉じゃないから、知らないや。
航路に関しては、ログを地図上に示してもらってるんだけど……何でこんなにあちこち蛇行してる訳?
「この大海の中心付近に、縦に伸びる列島があるんです。そこを抑える為ですね。また、その列島付近にも大小様々な島がありますから、まとめて領有出来るようにしています」
そういや、ヘレネがそんな事を言っていたっけ。って事は、島を探しながら航海してるので、こんなに蛇行してるって事?
「快速艇でも出して、島探索と西への航海は別にすればいいんじゃないの?」
「よろしいのですか?」
「別に構わないけれど……何か、問題でも?」
「いくつかの島で、遭難者が見つかっています」
「ええ!?」
それを早く言ってよ!
カストルによれば、オーゼリアがある大陸――昔はデワドラ大陸と呼んでいたそう――と西の大陸の間には、いくつか小島があって、いつからか人が住み始めた島もあるそうな。
で、その島から船で漁に出た人達が嵐に遭い、先ほどから話に上がっている列島やらその周辺の島やらに漂着してるんだって。
「水がある島だったのが幸いしました。既に漂着してから三月程度経ちますので、そろそろ食料不足が深刻になりそうです」
「助ける事は、出来る?」
「人命救助は行っています。ですが、快速艇ですと乗員に限界がありますので」
「それで、リムテコレーア号の出番って訳か……」
あの船は内部に空間拡張を使っているので、見た目以上の人員を収容出来る。
陛下にお披露目する時には見せなかったけれど、例の邸が建っている空間とは別に、普通の木造船の船室も作ってあるんだ。
そちらに収容すれば、故郷まで送っていけるでしょう。
「それにつきまして、一度主様には救助した者達に会っていただきたく」
「え? 何で?」
「救助した者達に、自分達が誰に救われたのかを明確にする為です」
えー? 必要なの? それ。
「後々の為ですよ」
何故、そこでにやりと笑う? カストルよ。
船との行き来は移動陣で一瞬だから、別にいいけどー。一応仕事って事なら、リラもうるさく言わないでしょう。
リムテコレーア号は、デワドラ大陸と西の大陸との中間地点まで、もう到達していた。
「これ、普通の帆船だったらどれくらいかかるの?」
「今の西大陸の技術ですと、おそらく到達は無理かと」
そんななんだ……
ちなみに、大型船を建造出来るのはオーゼリア、ガルノバン、ギンゼール、トリヨンサーク、ヒュウガイツの五つの国で、小王国群は大型船は作れないらしい。
で、その五つの国の中でも、中間まで来られるのはオーゼリアを除いてはガルノバンだけだろうという話。
「あちらは魔法技術がなくとも魔道具の技術がありますから、海水を真水にする技術も持っているでしょう。後は食材を冷凍する技術がありますから、食料に関しても問題ないかと」
「魔力エンジンに関しては、向こうに一日の長があるしね」
元々、うちの船に乗せている魔力エンジンの元は、ガルノバンで開発されたものだ。
その技術をニエールがパク……参考にして、今の魔力エンジンを設計している。うちの分室、いい仕事してるんだなあ。
で、そんな中間地点で見つけた島に、なんと西大陸付近の島から漂着していた人達がいる訳だ。
潮の流れとか、嵐だったりで流されてきたって話だけれど。よく生きてたね、本当に。
「あちらの大陸付近から、高速の潮の流れがありますから、それに乗ったのでしょう」
黒潮みたいなものかな。ともかく、生きてた以上は故郷に送り届けましょうって事で、救助している。
半数が衰弱状態だったので、治療と食事を与えて、船で預かっている状態。
また、面倒な事に島同士で争っているそうで、その敵対している島の住人が別々の島に漂着……ややこしいな。
ともかく、敵対している同士だから、一緒の船室に入れる訳にはいかない。幸い、リムテコレーア号は船内に空間拡張技術を取り入れたこの世界初の船だ。
邸には入れられないけれど、別の船室なら同じくらいの大きさの船の十倍以上あるという。しかも、空間同士は切り離されているので、彼等が船内でばったり出くわすという事もない。
まあ、助けられた身で争おうというのなら、まとめて海に捨てるけど。折角助かった命を無駄にする奴らは知らん。
無事、救助した島民達と顔を合わせた。のはいいんだけど……
「いやあ、言葉が通じないってのは、盲点だったわ……」
オーゼリアのあるデワドラ大陸では、どこに行っても言葉が通じたから。
でも、よく考えたらちょっと離れただけで、言葉ってがらっと変わるもんね。そう考えると、オーゼリア近辺の方がおかしいのかも。
通訳は、普通にカストルがしてくれたので助かった。ともかく、彼等も故郷に帰る事を望んでいるので、このまま送り届ける事になっている。
とはいえ、島にこの船を停泊させるのも島民に不安を与えるので、島の側には姿を消して近づき、船からボートに島民を乗せ替えて島まで送る計画。
面倒だけど、オケアニス達には頑張ってもらおう。
救助者達の面倒は、オケアニス達が見てくれているんだけど、問題が発生したらしい。
オケアニスに、手を出そうとした連中がいるそうな。まったく……
「で? その連中は海の藻屑になったとか?」
「いえ、小柄なオケアニスに腕っ節で負けた事を仲間内から笑われたらしく、落ち込んでいるようです」
何と。まあ、オケアニス達は戦闘メイド、見た目からは想像も出来ない戦闘力だからね。そりゃたかが漁師程度じゃ、太刀打ち出来ないわな。
「逆恨みして、またオケアニスを襲おうなんて事はない?」
「ありましたが、返り討ちにしました。今度は甲板に吊したそうです」
それはそれで見世物状態なったらしく、やっぱり仲間内から笑われたそうな。恥の上塗りだね。ざまあみろ。
「今後、同様の事件が起こったら、最初から甲板に吊して顔にでも『私は性犯罪者です』って書いておくといいよ」
「承知いたしました」
まあ、一番いいのは同様の事が二度と起こらない事なんだけど。どこにでも、学習しない連中っているからさ。
離宮での生活もそれなり長くなってくると、連帯感というか、同じ釜の飯を食った仲って事で、妙な絆が生まれてくる。
だけでなく、この狭い場所の中でも、グループ……小さな派閥が出来てきているらしいよ。
「どうしても、下位貴族と上位貴族の間には、溝があるからね」
苦く笑うのは、シーラ様だ。今回、子爵位以下の家の夫人はシーラ様の侍女枠で西の大陸へ連れて行く事になっているんだけど、その中での派閥も出来ているそうな。
で、夫人の派閥は旦那に、旦那の派閥が夫人に影響を与えて、離宮はちょっとしたカオス状態。
「これ、外に出られないのも、原因の一つになってませんか?」
「そうかもしれないわね」
「なら、順番に船に送って向こうで二、三日生活してもらいますか?」
離宮は大きいとはいえ、今回の人数が一度に暮らすには向かない広さだ。その点、船の中に作った邸は、ここより広い。
それに、実はあのサイズの邸、もう三つほど船内の空間に作ってあるんだよね……
いや、カストルの興に乗ったというか。面白そうだから、私もOK出したし。
シーラ様にお伺いを立てたら、サンド様と話し合い、即日ゴーサインが出た。やっぱり、離宮の空気が悪くなっている事を、心配してたみたい。
という訳で、今回は下位貴族の家族から、順次リムテコレーアにご招待ー。
あ、例のおいたしている救助者達とは、間違っても行き会わないようにちゃんと対策を施してあるよ。
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