第491話 少しずつ変わっていく
時間が過ぎるのはあっという間。もう狩猟祭ですよー。
今年はいつもと違うところが。そう、ルイ兄と正式に婚約したツーアキャスナ嬢が、シーラ様についているのだ。
シーラ様は元ペイロン伯爵令嬢。ペイロン流のやり方は子供の頃からたたき込まれている方。
そのシーラ様に色々と教えてもらう為、ツーアキャスナ嬢はくっついて回る事になったらしい。
それと、今年から女子の部にはレジェンド枠が出来ましたー。早速リナ様が枠に入っているようだよ。
それと、女子の部だけ今回から複数人で組んで狩猟を行う「パーティー制」が導入された。
もちろん、私はリナ様と一緒。そして何と、お義姉様も参加だ
「私、狩猟はやった事がないのだけれど」
「ジルは馬には乗れるだろう? なら大丈夫。私とレラについてくるだけでいい」
「出来そうなら、弓を放ってもいいですしね。大丈夫です。リナ様がいる限り、私達の成果はカウントされません」
そう、レジェンド枠というのは、本当に参加するだけのものなんだって。
そうでもしないと、新しい参加者が出てこないから……だそうな。ちぇー。
でも、リナ様とお義姉様と一緒に狩猟祭に参加出来るのは、嬉しい限り。女子の部が開催されるのは、一日だけであってもな!
天幕社交は、当然のようにルイ兄の結婚の話題が中心だ。今回からは私も天幕移動をしなくて済むので気が楽ー。
「まあ、ルイもようやく相手が決まって、シーラがほっとしているんじゃないかしら」
「我が家の娘で、大丈夫かと、母としては心配しきりなのですけれど」
そんな会話を交わしているのは、ラビゼイ侯爵家のヘユテリア夫人と、ゾクバル侯爵家のユザレナ夫人だ。
ユザレナ夫人は、話題の片方が自身の娘だからか、ちょっと微妙な心境らしい。
「ツーアキャスナはいい娘さんよ。前の婚約者の事はお気の毒だったけれど、これが改めて幸せになればいいのではないかしら?」
「そう……ですね。正直、前の方はどうして旦那様がお選びになったのか、首を傾げる相手でしたもの」
「ああ……噂は聞いているわ。大変だったわね」
どゆ事? これ、このままここで聞いていてもいいのかな。とはいえ、もう席移動をしなくていいどころか、しちゃ駄目らしいから、動くに動けませんけれど。
これはあれか、壁に徹しろという事か。よし、私は壁、私は壁。
「デュバル侯爵は、お聞き及びじゃなかったかしら?」
ヘユテリア夫人ー、壁に声を掛けてはいけませんー。
「噂には疎いものでして……」
「そうだったわね。あなたはあなたで、もう少し社交を頑張りなさい。ユザレナ、ここで話してもいいかしら?」
「構いません。娘も、特に気にしておりませんし」
「そう。あのね、ツーアキャスナの元婚約者は、大変女性にだらしがない人だったのよ」
「え」
それって、浮気男だったって事ですか?
「ツーアキャスナとの婚約が決まった途端、あちこちの女に手を出してね。中には未婚のお嬢さんも含まれていたそうよ。相手が爵位の低い家のお嬢さんだったから、いくらでも丸め込めると思ったようね」
「実際には、事を重く見た父親によって『なかった事』にされたようですけれど」
その場合の父親は、元婚約者の父親だよね? ゾクバル侯爵は……知ったら怒り狂って剣を片手に追いかけ回しそう。
「それにしても、婚約者が浮気ばかり繰り返したのに、ツーアキャスナは何もしなかったのは解せないわ」
「元からあの子が望んだ婚約ではありませんから」
「それにしたって……ねえ?」
いや、そこで私に振られましても。
ツーアキャスナ嬢の前の婚約者は浮気ばかりの最低男だったらしい。しかも、ツーアキャスナ嬢の事も大事にはしていなかったそうだ。
婚約者を大事にしていたら、浮気はしないわな。
「それにしたって、相手の立場を考えたら浮気なんて出来ないと思うんだけど。その亡くなった元婚約者、馬鹿なんじゃないの?」
狩猟祭一日目の夜。リラとは別の天幕だったので、天幕社交での話題を出したら、リラからのこの反応ですよ。
今は晩餐会も終わり、その後のおしゃべりも終わって後は寝るだけ。その直前の女子トークでございます。今夜はリラだけ。明日のはリナ様とお義姉様も参加予定だ。
ここにコーニーがいたらなあ。彼女はもうネドン伯爵夫人になったので、狩猟祭には参加していない。
ネドン家も王家派閥に入っちゃえよとも想うけれど、そこはそれ。派閥間のバランスとか、色々あって簡単にはいかないらしいよ。
「まあ、ゾクバル侯爵の性格を考えたら、普通はやらないよね。やるとしても、バレないようにするんじゃないかなあ」
「ゾクバル家なら、デュバルほどではないにしても、諜報機関くらい持ってそうだけど」
それを使って、娘の婚約者の素行調査をするってか? 公私混同……とはいえ、諜報機関が家のものなら、公はないのか……
「ところで、ツーアキャスナ様の前の婚約者って、落馬事故で亡くなったって話よね?」
「うん、そんな話だったね」
「それ、誰かが裏から手を回して……って可能性は、ないの?」
「え」
まさか、ゾクバル侯爵が手を回して、娘を傷つける元婚約者を始末したって事?
「いやあ……今更調べようがないしさあ」
「シイヴァン様に限っては大丈夫だと思うけれど、もし仲違いでも起こそうものなら、また……って事はないでしょうね?」
「う……」
「何なら、カストルに調べさせればすぐにわかるんじゃないの?」
『調べますか?』
ほらあ、リラが変な事を言うから、カストルがやる気になっちゃったじゃないかあ。
「何? 変な顔をして。……もしかして、カストルから調べるかどうか、念話が来たの? カストル! 構わないから調べてちょうだい!」
『承知いたしました』
あああああ。カストルにとって、前の主の友達であるうちのご先祖様の血筋は特別なんだよ。
で、そのご先祖様の血はどういう訳かリラにも流れている。だから、リラの命令も聞く訳だ。
何だかなー。これで怖い結果が出て来たら、どうするんだろう?
今年の狩猟祭、実は変わったところが他にもある。天幕の席順が毎日変わるのだ。しかも序列順なのは最初と最後だけで、後は完全シャッフル。
前日の晩餐会後にくじ引きして、それで席順を決めるのだ。
「今までは天幕の位置によって、狩猟の様子が見える場所と見えない場所がありましたでしょう? でも、この魔道具のおかげでどの天幕からも家族の様子が窺えますもの。嬉しい限りですわね」
そんな会話が耳に入る。そう、天幕の中には、巨大スクリーンが設置してあるのだ。
カメラは狩猟用のレフヤベックの森のあちこちに仕掛けられていて、その様子がリアルタイムでスクリーンに放映される訳だ。魔道具、万歳。
この道具のおかげで天幕の位置に優劣がなくなり、なら序列ごとにわけている席も、毎日席替えしましょうよという話になったそうな。
何せこの天幕での目的は社交。ならば、色々な人と言葉を交わせるようにしようよ、って事になったそうな。
本日の私の天幕は、以前の序列中位の位置。
「まあ、侯爵様ではありませんの。ごきげんよう。本日は同じ天幕ですのね」
「ごきげんよう、ゴーセル男爵夫人。今日は一日、よしなに」
コーニーのお友達、イエセア様の実家であるゴーセル男爵家の夫人だ。そういえば、イエセア様も嫁がれたんだっけ。
見知った顔がいるのは、ちょっと安心する。
ゴーセル男爵家は商会を運営していて、魔物素材のシェアも大分増えてきている。
例の学院生時代に起こった事件以来、ニード家のように一つの家だけに任せていると危険だという話がペイロンでも持ち上がり、徐々にではあるけれど他家の商会にも素材が流れているんだって。
ちなみに、ロエナ商会でも扱っております。もっとも、素材そのものではなく、そこからさらに商品に加工したものだけですけどねー。
周囲からは住み分け云々言われているみたいだけど、うちとしては素材を扱う旨味がないからってだけの話なんだ。
まあ、これからも頑張って新商品を開発していきましょう。
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