第471話 治療結果
今日は二話更新しています。
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王太子殿下の執務室から、さらに奥。陛下の寝室までは殿下が案内してくれるという。ゴージャスな案内役だなあ。
「侯爵、何か言いたい事でもあるのか?」
「いいえ? 何も?」
何故わかる!? 殿下にも、人の心が読める機能が搭載されているとか?
『単純に、主様がわかりやすいだけなのでは?』
いらんツッコミはしなくていいんですよ! カストルは。
王宮の奥も奥、最奥に陛下の寝室はあった。
「今は母上が側についておられる」
王妃様が……以前聞いたあれこれを思い出す。お二人は政略結婚だったそうだけど、ちゃんとお互いを想い合ってるとの事。
寝室は、大きな窓から明るい光が差し込む広い部屋だ。その中央に、天蓋付きの大きな寝台が置かれている。天蓋からは、分厚いカーテンが下りていて、寝台の半分を覆っていた。
「あなた達……」
「母上、父上の容態はどうですか?」
「相変わらずよ。目眩が酷いのですって」
あー、いかにもなストレス症状。ニエールに目配せすると、彼女は軽く頷いた。
「御前失礼いたします、王妃陛下。こちら、ペイロンの魔法研究所から参りました、ニエール・キカ・リモアンです」
「そう、あなたが……」
ニエールは、無言で一礼する。
「すぐに治療に当たっても、よろしいでしょうか?」
「そうね……お願い」
「はい。ニエール」
ここまでのやり取りは、全部私。背後に立つニエールを振り返ると、軽く頷いてから寝台の側に寄った。
彼女の後ろから覗き込んだ陛下の顔は、青白い。頬もこけている。これは、見舞いは許可できないのは当然だ。
「ここにいても大丈夫かしら?」
「少し、離れていた方がいいかもしれません」
私の場合は、必要なら手を貸す事になるので、なるべくニエールの側にいる。
王妃様と王太子殿下は、侍従達が用意した小さなテーブルを囲む椅子に座り、心配そうな様子で寝台を見た。
「どんな感じ?」
小声で寝台脇に跪くニエールに訊ねると、こちらも小声で返事が来た。
「相当我慢強い方だね。長年の蓄積で大分弱ってる」
マジかー。魔法治療を行うと、相手の記憶を見る時があるっていうけれど、ニエールは大丈夫なんだろうか? 見た感じ、影響はないようだけど。
ニエールの隣に立っていたら、彼女からか細い声が響いた。
「レラ、どうしよう?」
「何? どうかしたの?」
「国の秘密、知っちゃった……」
「はあ? ……あ」
さっき考えたばっかりじゃない! 相手は国王陛下だもん、国家機密満載の相手だよ。
「これ、私罰を受けるとか、あるの?」
「ええ……口外しなければ、大丈夫じゃない?」
「うう、嫌なものを背負っちゃったなあ」
普段通りの生活をしていれば、大丈夫だよ、きっと。
ニエールの魔法治療は、功を奏した。
「まあ! 本当に、陛下の顔色が」
「今までで一番いいな!」
対照的に、ニエールがぐったりしている。これは、治療疲れとかではなく、知ってしまった国家機密に対する心配だな。
「治療、ご苦労様」
「ああ、うん……ただ、これ一回で終わらなそうなんだけど」
あー……それもそうか。その辺りは、後で殿下に確認しておこう。
「とりあえず、今日は終わり?」
「うん。魔法治療も長い時間やれるものじゃないから」
主に、患者の体力的に。陛下の体力も大分落ちているので、いっぺんにあれこれは出来ないらしい。
ここからは、治療方針……というか、計画を殿下と相談だね。
陛下の寝室から殿下と一緒に出て、再び執務室へ。王妃様は、あのまま陛下の側についているそうな。
執務室に戻ると、見慣れた顔ぶれが揃っている。ユーインにヴィル様、コアド公爵に学院長、それにイエル卿も。さっきまでいなかったのにー。
殿下はいつもの椅子に腰掛け、深い溜息を吐いた。
「それにしても、大したものだな、魔法治療というものは」
殿下の一言で、陛下の容態がよくなったとわかったのだろう。コアド公爵と学院長が揃って安心した様子を見せた。
「今回はこちらの方が効果的だったというだけの話ですよ? 普通の病でしたら、回復魔法の方が効果があるんです」
そこを間違ってもらっては困る。どちらの魔法も、万能ではないのですよ。
「ニエールが魔法治療をするとは知らなかった」
あれ? ヴィル様は知らなかったんだっけ?
「そうですか? 確かに、研究所の魔法治療担当者の名簿には載っていませんけれど」
「そうなのか?」
あれ? 今度は殿下が驚いているよ? 何で?
「ニエールは魔法治療に関わる時間が取れませんから、名簿に名前は載せていないんです。ですが、元々魔法治療を開発したのは彼女ですから、出来ないという事はありません」
以前、王妃様から押しつけ……引き受けた人身売買の犠牲者達、彼等の治療にも、ニエールが手を貸している。
それに、ツイーニア嬢の時も。あれはあまり表沙汰にしてはいけない事だから、知っている人間はごくわずかだけど。
私の言葉に、ユーインとヴィル様以外の人が唸る。
「陛下のご容態を一度で改善出来たというのなら、余程の腕前なのかと思っていたが……」
「まさか、魔法治療を開発した当人だったとは……」
「それなのに、彼女の治療を受けられる人間は、限られているという事か?」
「そうですね。ある意味、だからこそすぐに呼び出して陛下の治療に当たらせる事が出来たとも言えます。しかも誰にも恨まれずに」
私の言葉に、唸っていた学院長、コアド公爵、王太子殿下が黙る。王権を振りかざして他の人の順番を奪うと、その人やその後に並ぶ人達に恨まれますよー。何せ魔法治療を待っている人達は、かなりの人数なんだから。
あれ? これ、やっぱりネレイデスを増産して医療部の人数、増やした方がいい?
『増産に入りますか?』
……うん、そうして。増産した分は、全員医療部に入れるように。
『承知いたしました』
何だか禁忌に触れるような気がしないでもないけれど、備えあれば憂いなし。医療に関しては、出し惜しみしている場合じゃないや。
一回目の治療が終わったので、ユーインやヴィル様と一緒に王都邸に帰る。殿下が、二人に「もう帰れ」と言ったので、早い時間の帰宅だ。
ちなみに、ニエールからの申し出により、魔法治療は一度やったら、二日空ける事になった。つまり、明日明後日とニエールは王宮に行かなくていい。
王都邸に戻ったら、リラとルチルスさんが出迎えてくれた。
「お帰りなさい」
「お帰りなさいませ」
ニエールの姿に、ルチルスさんがちょっと驚いている。いつもの白衣姿じゃないもんね。
「ニエールさんの荷物はこちらで受け取っております。お部屋に運んでありますので、何かございましたら何なりとお申し付けください」
「えー、何かルルちゃんにそう言われると、こそばゆいー」
「一応、お仕事中ですから」
そういや、二人はデュバル領にいる頃からの顔見知りだっけ。
「えー? レラー、どうにかなんない?」
「ルチルスさん、今日の仕事はもういいから、ニエールのお守り、お願いしていい?」
「わかりました」
お守りという言葉に反論もせず、ルチルスさんはニエールを客間に案内していった。
「あいつは相変わらずだな」
そんなニエールの背を見送りつつ、ヴィル様が呟く。
「ニエールが変わったら、魔の森が大爆発起こしますよ」
「違いない」
軽口を言い合っていたら……
『彼女が変わったところで、魔の森が爆発する事などあり得ません』
いや、本当にそうなるっていう意味じゃなくてね……こういうところが、人間とは違うんだなあ。
翌日、旦那達を送り出した王都邸に、一通の手紙が舞い込んだ。宛名は、ニエール。
「げ」
彼女の反応で、差出人が誰かわかった。実家からだな。
「よくニエールが王宮にいるってわかったねえ」
「うちの実家、研究所から発売されてる通信機を買ってるのよ」
「そうなの!?」
あれ、まだ高いのに。とはいえ、裕福な家なら買える程度の値段だから、ニエールの実家が買っていても不思議はないけれど。
「それで、通信機を使って定期的に研究所に私の動向を聞いてるらしいの」
「はあ? それ、研究所の連中も馬鹿正直に話す訳?」
「一応、色々と理由を付けて聞き出してるらしいのよ……前回ツイーニア嬢の治療の時は、たまたまタイミングが合わなくて、私が王都にいる事を知らなかったみたい。後で知って、もの凄く怒鳴られたわー」
なかなか、ニエールも大変だなあ。
「で、今回は丁度タイミングが合った……と」
「私的には最悪だけどね。あああああ、やっぱり見合いが組まれてるうううう」
手紙には、明日の午後三時、シャーティの店の三階に来るようにとある。よりにもよって、あそこですか。
「明日だと、治療はないから行けるねえ」
「行きたくないいいいいいい」
まあそりゃそうだろう。とはいえ、このまま逃げ続けても意味はない。一度、相手が諦めるほどがつんとやらないと。
「よし、ニエール。明日は私達と一緒に行こう」
「え? 本当?」
「待って。私達って、誰の事?」
「もちろん、私とニエールとリラの三人で」
決まってるじゃないの。部屋の端で気配を消していても、逃れられないからねー。
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