第463話 王都ふれあい街歩き

 引きこもり生活十日目。


「飽きたー!」


 さすがにずっと部屋に籠もりっぱなしだと、気が滅入る。かといって、部屋の外に出ようものなら、いつクソ王に見つかるかわからない。


 おかげで不満が溜まってる。つい、朝食の席で叫んでしまっても、仕方ないと思うんだ。


「叫ばないの」

「気持ちはわかるが、仕方ないだろう?」


 リラとヴィル様に窘められたー。うう、でもそろそろ本当に限界。


「どうにか見つからずに街に出られないかなあ」

「出来ますよ」

「出来るの!?」


 何げなくぼやいたら、カストルがすかさず反応した。出来るなら、出来るってもっと早く言ってよ!




 ヒュウガイツの王城は、元は軍事用のもので、それを改築に改築を重ねて今の姿にしたという。


 軍事用だったので、城自体が高台にある訳だね。


「この高台の下まで、そこの裏窓から直接下りられる昇降機を作ります」


 作ると言っても、エレベーターシャフト代わりの細長い塔を作るだけだそうな。


 内部の昇降には、石材の円盤を魔法で浮かべるという、大分原始的な作りのものだ。


「誰でも使えるようなものにすると、万一見つかった際に面倒ですから」


 魔法が使えない人間には扱えない作りにする事で、外部の人間に悪用されるのを防ぐという。


「そのシャフト、見つかったらまずいんじゃないの?」

「幻影で隠しておきますから、問題ありません」


 さよけ。


 朝食の後、街歩き用の軽い服装に着替えていざ出発。部屋の奥には、城の裏側に向けて開く窓があるんだけど、そこを改造してエレベーターの入り口にしたらしい。


「ちなみに、建材は各地の建設現場で出た石を加工して使用しております」


 廃材も無駄にしない、エコですねえ。


 あっという間に出来上がったエレベーターは本当に簡素で、石材で出来た丸い塔の中を、同じ石材の盤が浮いているというもの。


 多分、重力制御の術式を使ってるな。ちょっと魔の森の氾濫時に出たデカい鳥を思い出した。あれ、倒すのに苦労したんだよなあ。


 このエレベーターは地下まで貫通していて、下の出入り口から街までは、地下通路を開けたそうな。


「いつ、そんな工事をしたんだ?」

「つい先ほどです」


 ヴィル様の疑問に、カストルが笑顔で答える。この城、カストルによって魔改造されてるねえ。


 盤に乗ってあっという間に地下へ。そこから地下道を抜けると、街の外れに出た。


「この出入り口は、皆様以外には土壁に見えております。お戻りの際には、お気を付けください」

「わかったわ。行ってきます」

「いってらっしゃいませ」


 地下道の出口でカストルに見送られ、私達はヒュウガイツ王都ツアメリト探索に踏み出した。




 ツアメリトの広さは、大体トリヨンサークの王都と同じくらいだという。なら、オーゼリアの王都ルストよりは狭いね。


「とはいえ、やはり王都、それなりに広いわあ」

「徒歩移動しかないから、今日中に全てを見るのは無理かもね」

「なら、明日も出る!」


 何故、呆れられた目を向けられるんだろうか? そこだけ夫婦で息が合わなくてもいいのよ?


 ヒュウガイツの国民は、皆褐色の肌をしている。そんな中、オーゼリア人である私達は目立つかというと、実はそれほどでもない。


 多分、トリヨンサークの人とかが入ってきてるからじゃないかなあ。オーゼリアの人と同じくらい白い肌の人達も、一定数いるよ。


 それにしても、この大陸で褐色の肌の人達はヒュウガイツと小王国群のみ。どうなってるの?


『以前、この大陸に余所から侵略してきた者達がいたと、ご説明した事がありますが、覚えてらっしゃいますか?』


 そういえば、そんな事を言っていたね。


『ヒュウガイツと小王国群の祖は、同じ大陸……東の大陸から来た者達です。そして、他の国の祖は、西の大陸から来ました』


 つまり、祖先達が別大陸から来たから、肌の色なんかが違うって事?


『そうです』


 なるほどね。




 一通り見て回ったツアメリトは、活気のあるいい街だ。


「あんなのが王様なのにね」

「下で働く人達が優秀なんでしょう。きっと、上の無茶振りにも対応出来る能力があるんだわ」


 リラ、何か引っかかる物言いだねえ? 何か言いたい事があるのなら、言っていいのよ?


「物流も、滞っているようには見えない。各所がきちんと動いている証拠だ」


 店先には、豊富な品が並んでいる。道行く人の顔にも、暗さはない。国民は、幸せに生活出来ているのかも。


 本当、あんなクソ王がトップなのにね!




 人の話を聞くには、人が集まる場所に行けばいい。私達は、街中の食堂に入った。いや、歩いて疲れたし、そろそろお昼の時間だし。


 時間が時間だからか、食堂は混んでいた。


 席に座り、ちょっと耳をそばだてると、すぐに噂話が飛び込んでくる。


「おい、聞いたか? 近々、でかい戦があるらしいぞ」

「はあ? 戦なんて、ここ何十年もなかったじゃないか。それを……どことだ? トリヨンサークか?」

「まさか! あそこは仲のいい国だ。行くのは南。あの大砂漠地帯だとよ」

「あんなところに攻め入って、何があるっていうんだよ……まったく、上の連中の考える事はわかんねえな」

「まったくだ。まあ、俺等には関係ねえけどよ」

「うちの国が戦場になるなら、話は別だけどな」


 この国、徴兵制度はないのかしら?


『今のところ、志願兵だけで間に合ってますね。条件がいいので、釣られて応募する若者が多いようです』


 その結果、へまをしたら首を切られちゃう訳か。彼等はちゃんと弔ってもらえたのかな。


『罪人扱いですから、無理かと……』


 そうなんだ。


 他にも、トリヨンサークとの取引の話や、小王国群……この国では大砂漠地帯というそうだけど、そこの悪行の話、果ては何故かデュバルとの取引の話まで出て来ている。


「へえ、そんな遠くから。でもよ、そんなんじゃあ、水は腐っちまわないかい?」

「それがよう、城勤めの奴の話じゃあ、瓶のような、もっと軽い不思議な入れ物に入っていて、封を切らなきゃ二年は傷まねえって話だってよ」

「うへえ、本当かね?」

「その水、すげえうまかったらしいぜ」

「かー、そんな美味い水なら、俺も飲んでみたいぜー」


 はっはっは、トレスヴィラジの水は美味しいよ!




 食事の間中、周囲の噂話を集めてみたけれど、私達に関わる事は小王国群への戦争開始の噂くらいかな。


 あ、トレスヴィラジの水に関しては、デマと思っているのでどうでもいいっす。


「戦争の話は、まだ遠いもののように話してましたね……」

「実感が湧かないんだろう。気付いた時には全て準備が整っていて、徴兵も始まる頃かもな」


 ヴィル様の言葉に、怖くなる。そうならないように、動かなきゃ。とはいえ、現状私に出来る事はないんだけど。


 グウィロス卿とカサロバ卿は、双子と共にまだ王城に留め置かれているらしい。


 カストルに双子の生命最優先って指示を出したら、ついでにグウィロス卿とカサロバ卿の身の安全も確保してくれたって。ありがとう、有能執事。


 四人も軟禁状態だけれど、クソ王からの呼び出しなどはないから精神的にまだ楽……かな。


『双子の方は、大分消耗しています。王城にいる事自体がストレスですね』


 うーん。早いとこ、あの四人は王城から出した方がいいのかな。


『ですが、クーデターを起こす事を考えますと、連携していなかった証拠にもなります』


 ……クーデターは必ず成功させる。これは絶対。なら、クーデター側とグウィロス卿達が結託していようといまいと、どうでもよくない?


『では、あの四人は城から出して匿いますか?』


 匿える人、いるの?


『こちらで用意させます』


 ああ、さいですか……




 その夜、誰にも知られずにこっそり王城から消えた者達がいた。グウィロス卿とその子供達、及びカサロバ卿である。


 四人の行方は杳として知れず、国王が大層お怒りなんだとか。周囲に当たるなよー、クソ王。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る