第462話 引きこもり中
ヒュウガイツの王城に入ったのが午前中。まだ昼には早いけれど、朝のお茶の時間にはちょうどいい頃。
何と、王がこの部屋に向かっているとの事。
「マジで?」
「はい」
カストルが神妙な顔で頷く。
「まさか、昼日中からヤル気じゃあ」
「ヤル気とか言うな! 本当にもう、立場考えて!」
リラに怒られた。
「えー? でも、ここにいるのは身内だけだしー」
「そういう気の緩みが、外でも出る切っ掛けになるのよ。普段から気を付けなさい」
「はーい」
「それで? カストル。国王はその……本気で、そういうつもりで?」
「ええ、残念ながら」
「マジかー……」
リラが頭抱えちゃった。
「この部屋、結界が張ってあるのよね? 踏み込まれないのはいいけれど、入れないとなると、向こうが騒ぐんじゃない?」
「それもそうか。どうしようね?」
自分の身を護るには適してるんだけど、相手を怒らせる事にはなるわなあ。
リラは、何か考え込んでいる。
「どうかした? リラ」
「いや……以前、商業地区の店に押しかけてきた連中、いたよね? 似たような目的で」
「ああ、いたね」
あいつらも、私達を襲おうとしてたんだっけ。あの時は、仲間内で……って、まさか。
「ここで、再現しろと?」
「いや、しろとまでは言わないけれど……」
でも、そういう事だよね? あの時は、ポルックスに思考誘導をしてもらったんだっけ。
ちらりとカストルを見ると、にこりと微笑まれた。
「再現、しますか?」
思わず、リラと顔を見合わせた。
「……お願いします」
二人で声を揃えて頭を下げる。うん、だって、騒ぎを起こしたくないからね。
いやあ、エグかった。全部見たわけじゃないんだけど、一部だけ、確認の為にね。
巻き込まれた兵士には悪いけれど、でも彼等も向こう側の人間だしー。
「忠誠を誓ってる相手なんだから、いいんじゃない?」
リラ、何か吹っ切れてない?
「それにしても、あの廊下はもう使いたくないわね……」
「そうだね。洗浄しても、何かばっちく感じる」
色々飛んでたし。あと何か臭そう。
「証拠隠滅の為、洗浄と回復魔法を使ってますが、お二人がそう仰るのなら、別ルートを作りましょう。旦那様達の部屋へ、直通ルートを作りますか?」
「出来るの?」
「はい。幸い、真下の部屋ですし。らせん階段で繋ぎますか?」
「ええと、向こうに許可をもらってからね」
幸い、お互いに連絡出来るよう携帯型の通信機を持っている。
「もしもーし、ユーイン?」
『レラ? そちらは問題ないか?』
「うん、平気。ちょっと許可をもらいたいんだけど、そっちの部屋とこっちの部屋、階段で繋いでいいかな?」
『は?』
いやまあ、そういう反応になるよね。
無事許可はもらえたので、カストルに繋いでもらった。
「こうなるのか……」
私の部屋の真下がユーインの部屋でした。で、リラの部屋とは反対の部屋がヴィル様の部屋だって。
「こっちも繋いじゃおうか」
でないと、行き来が出来ない。ヴィル様からは、リラに許可を取ってもらった。
「いいって」
「んじゃ、カストル、お願い」
「お任せ下さい」
部屋を繋ぐ工程は、まず壁に穴を開け、そこに枠を嵌めて扉を付ける。まるっきり内装工事だね。
扉がついた壁を見て、ヴィル様が目を眇める。
「何でもやるんだな、その執事は」
「うちの有能執事ですから!」
私がドヤ顔をしておいた。ヴィル様からは呆れた目で見られたけど。
室内の調度品を一箇所にまとめ、そこに移動宿泊施設を出した。天井が高い部屋でよかったね。
「やっぱり、水回りに不安があるもの」
言ったのはリラ。そうだよね。ただでさえ、ヒュウガイツって水が乏しい国なんだから。
王城でも、やっぱり余所の国より水の使用制限がかかるっぽい。とはいえ、余所とは水の使い方が違うみたいだけど。
「まさかお風呂が蒸し風呂のみとはねえ」
確かに普通の風呂より水を使わずに済むかもしれないけれど、それはそれで贅沢な気が。まあ、王城だからいいのか。
持ち込んだ移動宿泊施設なら、高圧縮型魔力結晶を動力源に、水も使い放題だしねー。
後は収納魔法に入れてきた、トレスヴィラジの水! まさかこれを自分達でこういう形で飲む事になるとは。
ボトルタイプとサーバータイプの両方持ち込んでいるから、水に困る事はないと思う。
現状を確認した後、ヴィル様が軽い溜息を吐いた。
「後は、いつまで籠城出来るか……だな」
「呼び出しがない限り、部屋に籠もっているのを装えばいけるかと」
「何の為に呼び出すんだ?」
「え……水の取引に関する事……ですかねえ?」
一回はヤって気が済んだだろうし。いや、全部幻影で本当の相手は……だけど。
「レラ、何か隠してないか?」
ギク! 何故バレる!? 誤魔化そうとするも、ヴィル様には通じなかった!
「隠している事があるのなら、全て話せ」
「レラ、問題はないんじゃなかったのか?」
ユーインまで参戦してるうううう!
結局、全部話さざるを得なかった。でも、聞いた二人にも精神的ダメージが。
「よくそんな事を思いついたな」
「……」
二人して、凄く嫌そうな顔。
「だから言いたくなかったのにー」
「最初は、幻覚か何かで誤魔化そうかとも思ったんですけれど、色々と証拠があった方が後が楽かと思いまして」
しれっと言うリラ。実は廊下でのあれこれ、録画してあります。色々な角度から。後で脅し……色々と交渉材料にならないかなーと思って。
「えげつない」
ユーインとヴィル様が異口同音で言ったー。酷くね?
「ともかく! 結果として相手は満足状態でしょうから、しばらく呼び出しなどはないかと。あっても気分が悪いとか言って、断れば問題ないです。どうせ部屋には全部結界を張ってあるから、侵入も突入も出来ませんし」
私達が王城にいる理由は、ここでのアリバイ作りの為。声だけで部屋の外とのやり取りをしておけば、部屋にいる証拠にはなるでしょ。
「我々はいいが、グウィロス卿やカサロバ卿は大丈夫なのか? それに、グウィロス卿の二人の子の事は……」
あー、ねー。双子に関しては、ちょっと心配だったからカストルに改めて確認しておいた方がいいかも。
ちらりとカストルを見ると、心得たとばかりに口を開いた。
「現在、皆様の身辺は安全です。二人のお子も、父君と再会して喜んでいるようですよ。それと、王城で軟禁されている間、精神的虐待はありましたが、性的なものはなかったようです」
「精神的虐待? それは、どういうものだ?」
「彼等によくした使用人達を、彼等の目の前で処刑した事です」
え……本当にそんな事、してたんだ。
「何故、使用人を処刑したんだ? まさか、よくしたのが悪いと言うんじゃなかろうな?」
「そのまさかです。ゾーセノット伯爵様。王としては、彼等を王城で生かしておけばよかっただけなので、よくする、親切にする必要はなかった。それをさせたのは二人だが、王族を簡単に殺す訳にはいかない。だから使用人を処刑する。そういう理由のようです」
何て事を……
カストルの言葉を聞いたヴィル様も、眉根を寄せている。
「……例の計画は、どうなっている?」
「難航しております。ふさわしい人物がなかなか見つからないようです」
「そうか」
ポルックスですら難しいとは。次の国王選出、なかなか厳しそうだのう。
王城での生活は、一点を除いて快適である。その一点が、またしても部屋に来たらしい。
「問題ありません、オケアニスに対応させます」
カストルは、給仕の手を止めずににこやかに告げた。
ただいま、ユーインの部屋に置いた移動宿泊施設にて朝食の真っ最中です。
で、オケアニスが対応しているのは、私の部屋。ヒュウガイツ王からの呼び出しだってさ。朝っぱらからかよ。
何でも「朝食を一緒に」とかいうふざけた内容。いや、普通に考えたらふざけてないんだけど、あんた初日に何やったっけ?
録画しておいたもの、音声だけ一部確認したら、ヒュウガイツ王がどういう幻覚をみながらヤってたか、判明したんだよね……
あのクソ王、嫌がる相手を無理矢理、というのがお好みらしい。おえー。
音声で確認出来た時、ユーインがぶち切れる寸前で止めるのが大変だったわ。幻覚の中とはいえ、妻を陵辱されるのは我慢ならなかったよう。
まー、現実は自分とこの兵士と……なんだけど。最高のギャグだね、あれ。
あれ以来、食事を一緒にとか部屋に来いとか誘いが来てるけど、全部オケアニスが音声のみで断ってくれている。
しびれを切らしたクソ王が、兵士に扉を開けさせようとしたんだけど、どうやっても開かなかった。そりゃそうだ。結界でしっかり固めてるから。
それならと、食事も水も出さないようになったけれど、こちらは籠城覚悟で色々持ち込んでいるから困らない。
ついでに、グウィロス卿とカサロバ卿達のところにも、カストルが差し入れに行っている。
本当なら、向こうとの間にも行き来できるように階段を付けたいところだけれど、双子がいるからなあ。
どうにも、学院の時のイメージがあるから、あの双子に必要以上に近づきたくない。
本当、ポルックスには頑張ってもらって、とっととこの国とおさらばしたいよ。
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