第460話 謁見
文末に、描写はほぼないですが残酷表現があります。苦手な方は即バックを推奨します。
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一日ゴトゴトと馬車に揺られ、やってきましたヒュウガイツ王都ツアメリト。ちなみに、到着した港町はメドーというらしいよ。
「へー、これがツアメリトなんだー」
王都は、典型的な城塞都市って感じ。ただ、規模はオーゼリアの王都ルストより小さい。
「概ね、トリヨンサークの王都と同じくらいの大きさですね」
「そうなんだー」
ただいま、ツアメリトが一望出来る丘の上にいる。
メドーを出発した後、カサロバ卿は途中の街で一泊するつもりだったらしいんだ。
でも、初めての国の宿屋って、ちょっと心配じゃない? 色々と。虫とか虫とか虫とか衛生とか。
なので、街には入らず夕食前まで馬車を走らせ、この丘まで辿り着いたって訳。
丘からちょっと下った平地に移動宿泊施設を出して一泊し、早朝の清々しい空気の中、周辺を散歩してみた。
王都の辺りはまだ緑があるけれど、ちょっと内陸にいくと途端に乾燥して緑がなくなるらしいよ。
説明してくれたのは、カストルだ。
「乾燥地帯の大体はステップ気候で、小麦の生産も出来ます。そこからさらに魔の森側には砂漠が広がりますから、人はあまり住んでいないようですね」
「森に近いのに、砂漠なの?」
「砂漠が出来たのは、魔の森のせいですからねえ」
「そうなの!?」
「ええ。魔の森が土地の魔力を食い尽くしているからです」
何と、そんな事が……あれ? でも待って? ペイロンは北にあるから涼しいけれど、気候は穏やかよ? 何で?
「それについては、前の主の恨みと言いますか……」
「えー? どういう事?」
「……主様のご先祖が、事故で時空を飛ばされた件は、ご存知ですよね?」
「うん。何か、お友達といたところより、随分未来に飛ばされたんだよね?」
「ええ。で、その事故が起こった場所が、ヒュウガイツの砂漠地帯です」
「へあ!?」
変な声出た。そうなの!?
「ご友人をなくされた主は酷く荒れたそうでして」
「……まさか、そのせいで砂漠化したの?」
カストルは、無言のまま頷いた。恐るべし、ご先祖様のお友達。
今回、移動宿泊施設は三つ出した。うち用、ヴィル様達用、あとグウィロス卿達用だ。オケアニス達は、それぞれの施設に入ってお世話係に。
今回連れてきたオケアニスは、表向き六人。本当はもっと連れてきてるし、既に別働隊としてこの国に入っている。そっちはそっちで動き出してるはずだ。
カストルはグウィロス卿達の宿泊施設に入り、使い方をレクチャーしながら面倒を見てくれている。
朝食は、会議室仕様の宿泊施設で全員一緒に取る事にした。入ってきたグウィロス卿と、何よりカサロバ卿の表情が……
こそっと隣のリラに耳打ちする。
「何であんなにぐったりしてるんだろう? よく眠れなかったのかな?」
「……多分、この施設に驚き過ぎて疲れたんだと思うわ」
え? そうなの? どこでも居心地よく過ごせるよう、気を配って作ってもらったのに。
快適な住空間で英気を養ったオーゼリア組とは対照的に、顔色が悪いヒュウガイツ組。
二人は、出された朝食を前に、虚無の表情になっていた。
「野営でこの朝食……いや、夕べの夕食……いや、あれは晩餐と呼んで差し支えない……あれを考えれば、この程度と言えばいいのか?」
何かブツブツ言ってて怖いですよー、カサロバ卿。まあ、野営というか、街の外ではあるけどさ。
あれか? 宿泊施設じゃなく、テントの方がよかったのかな?
昨晩の夕食も、今目の前に用意された朝食も、ヌオーヴォ館の料理長が作ってくれたもの。それをカストルの収納魔法に入れてある。給仕は彼の仕事だから。
いくらくたびれて見えても、空腹には勝てないらしい。ブツブツ言っていたカサロバ卿も、一口料理を食べたら後は無言で食べていた。
朝食とはいえ、無言で食べるのもそれはそれでマナーとしてはどうなんだ? 一応、食事は会話を楽しみながら、と言われているんだけどねえ。
食事の後は、諸々後片付けをして早速王都へ。今乗っている馬車、カサロバ卿のものだそうで、検問を受けずに王都に入れるそうな。あるんだ、検問。
そうして入った王都ツアメリトは……これまで見てきた都市とは、何もかもが違う。
ヒュウガイツは年間平均気温がオーゼリアより高いそうで、今も体感で暑いくらい。街を行く人達は、薄手の服を着ている事が多い。
それと、街が埃っぽい感じ。これは、空気が乾燥しているからかな。打ち水でもしたくなるよ。
王都に入って大通りを抜けていく。大通りは門からまっすぐに伸びている訳ではなく、蛇行しているようだ。
「……攻められた時用かな?」
「何が?」
「ううん、何でもない」
城塞都市なのだから、当たり前か。
王都の奥、他より建物二階分くらい高い場所にあるのが、王城。そこに、今回のターゲットがいる。
王城には、すんなりと入れた。どうやら、カサロバ卿が早馬で手配してくれていたらしい。
「いやあ、グウィロス卿には大手柄ですなあ。カサロバ卿からの報せに、陛下が大層お喜びでして」
王城に入って案内してくれているのが、どうやらヒュウガイツ王の側近の一人らしい。
彼が案内しながら語った内容によると、ヒュウガイツ王はトレスヴィラジの水を大変お気に召したそうで、一刻も早く飲みたいと周囲に我が儘を言っていたそうな。子供か。
とりあえず、話は聞き流して。カストル、双子はこの城にいる?
『います。現在、王の命で移動しているようですね』
移動……これから、私達が行く王の場所まで連れてこられるって事かな。
『おそらくは。双子は憔悴していますね。回復させますか?』
それは解放した後にしよう。今やっちゃうと、ヒュウガイツ王にいらぬ疑いを掛けられかねないし。
『承知いたしました。彼等の周囲には、武装した兵士がいるのですが。こちらはどう致しましょう?』
護衛……じゃないよね? 逃亡防止かな? 双子の生命を最優先に出来る?
『お任せ下さい』
頼むね。
謁見の広間、その名も「王の間」は、何と王城の最上階にあった。しかも周囲に壁はなく、吹きさらしだよ。
ヒュウガイツの気温でなければ、出来ない事かもね。
王の間の奥、玉座にはヒュウガイツ王のと思しき人物が座っているんだけど……あれが、王なの? 随分と若くない?
『王位に就いた年齢は十六歳です 今から六年前の事ですね』
って事は、今二十二? 若! うちの殿下より若いよ。
玉座……といっても、大きなクッションのような座に座り、片膝を立てている若き王は、くすんだ金髪と褐色の肌を持つ、なかなかのイケメン。
ヒュウガイツだからか、上半身はだけているのはいただけないけれど。
王の間には扉もないので、入り口から案内役の側近が声を張り上げる。
「カサロバ卿、及びグウィロス卿が、オーゼリアよりの客人をお連れになりました!」
奥の王は、片手を軽く上げる。それが合図らしく、側近が広間を進んでいくので、私達もその後を追った。
一定のラインで、側近が跪く。グウィロス卿とカサロバ卿も同様だ。
「グウィロス家当主バビヤンド・ヴァル、ここに帰国しました事をご報告いたします。後ろに控えますのは、オーゼリアより参った方々です。ゾーセノット伯ウィンヴィル卿とその令夫人。そしてデュバル女侯爵閣下と、その御夫君です」
紹介はグウィロス卿がしてくれたので、私達は一礼するのみ。
「よく来た、オーゼリアからの客人よ。我が国は貴公達を歓迎しよう」
尊大な態度だなあ。まあ、一国の王ならそれも当然? ……でも、今まで見てきた王様の中じゃ、ダントツで偉そうなんだけど。
『主様、失礼いたします』
へ? 何が? と思ったら、視界が霞む。あ、これ、結界だ。
「何?」
リラが戸惑った声を出す。ユーインが少し不思議そうな顔をした。結界は、私とリラだけ?
『これから見せられるものは、女性には少々刺激が強いかと』
どういう事?
「おお、そうだ! 貴公らは港では難儀な目に遭ったそうだな?」
港で難儀な目? そういや、牢屋に入れられたっけねえ。
「他国から参った貴公達に、粗相をするとは不届き者故、我自ら罰を下しておいたぞ」
あれ? ヒュウガイツ王の言葉に、前で跪くグウィロス卿とカサロバ卿が固まった。
「これへ!」
王の一言で、玉座の裏側……幾重にも掛けられたカーテンの裏から、人が出てくる。私とリラは、視界がぼやける結界を張られているので、人が来たくらいしかわからない。
でも、咄嗟に私の視界が塞がれた。
「レラは見ない方がいい」
ユーインだ。彼が私の頭を抱えるようにして、視界を遮っている。耳元で囁かれた言葉に、こちらも小声で答えた。
「ええと、カストルが結界を張ってくれてる」
「そうか」
ほっとしたのか、腕の力が弱まる。何が、出て来たの?
『港で主様達を牢屋に入れた兵士達の首です』
え?
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