第459話 備えあれば憂いなし
ヒュウガイツ王国が小王国を滅亡させ、そこに道を敷いてオーゼリアまで進軍する計画。それを知った私達は計画を阻止するべく、現政権を打倒する事を選んだ。
とはいえ、オーゼリアが傀儡政権を樹立するのもなーと思ったので、ヒュウガイツ国内にいる穏健派に頑張って内乱を起こしてもらい、政権奪取をしてもらおうかと。まあ、有り体に言ってクーデターを唆そうとこの国に来た訳だ。
で、現在。
「怪しい奴らめ! 我が国に忍び込もうとは!」
「ここでしっかり阻止してくれる!」
港で上陸拒否されちゃったー。
「待て待て待て! 私はグウィロス家現当主バビヤンド・ヴァル! この方々は決して怪しい者などでは――」
「ええい! 王族の名を騙る不届き者めええええ!」
ええええええ!?
あの後、乗っていたボートも取り上げられ、私達は港近くの牢屋に放り込まれてまーす。
「いや、参ったねえ」
「まったくだな。レラ、椅子はあるか?」
「はいはーい。座り心地のいいのを選んで持ってきてますよー。それと、テーブルも出しましょうね。カストル、飲み物の仕度お願い」
「お任せ下さい」
ヴィル様と軽く言い合い、収納バッグから用意しておいたあれこれを取り出していく。
グウィロス卿も含めて、全員で同じ牢に放り込まれたから、ただいま環境改善中です。
ちなみに、同じ牢屋と言っても、房……部屋は違うので、間の壁を抜いて続き部屋にしてみました。いやあ、隣同士で入れられて助かったわー。
もちろん、牢屋には遮音結界を張ってあるので、周囲にこのやり取りは漏れていない。外から見たら、普通の牢屋にしょんぼりしている私達が見える事でしょう。結界+幻影って、なんて使い勝手がいいのかしら。
上陸したのは、ユーイン、ヴィル様、私、リラ、カストル、それとグウィロス卿の六人のみ。オケアニス達は次のボートで上陸させようと思ってたら、これですよ。ちなみに、ヘレネは船でずっとお留守番の予定。
ネーオツェルナ号は、ヘレネが隠蔽能力を駆使して見えなくしているから、拿捕される危険性はない。もっとも、ヘレネはカストル達と同じ能力を持っているので、見つかったところで奪い取られる危険性は皆無なんだけどねー。
「皆様には、本当に申し訳なく……」
「気にすることないですよー、グウィロス卿。これもある意味想定内ですから」
「え?」
「まあでも、まさか港でこう来るとは思わなかったけれど」
ええ、放り込まれるなら王宮付近の牢屋かなって思ってたんだー。でもまあ、これはこれでいいや。こっちにとっても好都合だしー。
だって、牢屋にいる間は、何も動けないってアリバイになるでしょ? もっとも、魔法を極めた人間には、何の証拠にもなり得ないけれど。
取り出した調度品や飲み物、軽食でちょっとしたティータイム。おろおろしているのはグウィロス卿だけで、他のメンバーは慣れたものだ。
「ん、このサンドイッチ、うまいな」
「鴨のローストですね。こちらのパイも絶品ですよ」
「ミートパイんまー」
「こちらのカレーパンもなかなか」
サンドイッチもキドニーパイもミートパイもカレーパンも、うちの料理長が丹精込めて作ってくれてます。いやあ、あの人、本当に腕がいいわ。
しかもシャーティ同様、前世の記憶からあれこれ提案したら、レシピもないのにほぼ完全再現してくれるし。彼を首にした家、もったいない事したねえ。
「あ、あの、皆様?」
「あ、グウィロス卿も、今のうちに食べておいた方がいいですよ。そろそろ昼になりますし」
「え? ええええ?」
「この程度でおろおろしていたら、この先もちませんて。ささ、どうぞ。塩気のあるものがいいですか? それとも甘いもの? あ、おいしいデザートもありますよ?」
デザートは、アイスクリームとシャーベット、それにアップルパイだ。今回はパイづくしにしてみましたー。
いや、料理長にパイ生地は料理にも使えるって言ったら、あれこれと試作してくれてさあ。ついでにアップルパイも作ってくれたから、今回持ってきてみたんだ。リンゴは季節じゃないけれど、うちには収納魔法があるからね。
旬の時期に収穫したものを、そのままの状態で保存可能です。あれ? これだけで輸出品になるんじゃね?
「こら、また余計な事を考えたわね?」
「リラが怖い」
「怖いとは何よ! 今は余計な事を考えずに、目の前の事に集中!」
はーい。何だか、ユーインとヴィル様が生温い視線でこっちを見てくるんだけど。ちょっと蹴ってもいいかなあ?
目の前の事に集中とはいえ、今は待ちの姿勢だからやる事がない。軽食でお腹も膨れたし、眠くなったから昼寝でもしようかと思ったら、入り口の方が騒がしくなった。
「主様、来客です。結界を解除してください」
「んー」
カストルに生返事を返して、結界解除。でも、出した調度品やぶち抜いた壁はそのままだ。
ここは建物の地下にある牢屋なので、階段で下ってくる必要がある。その階段から、何やら人の声が聞こえてきた。
「……を名乗ったのだろう!? 何故確認しなかった! グウィロス卿が国外に出ている事は、通達があったはずだ!」
「で、ですが、日付から考えてまだ帰国出来る日数ではないはずです」
「あの国を侮るな! 手紙だけとはいえ、瞬時に到着させる手段を持つ国なのだぞ!」
おやあ? 少しはオーゼリアを知っている人がいるようだね。
グウィロス卿を振り返ると、彼の顔には希望の色がある。誰か、知り合いが来たのかな?
「グウィロス卿!」
「おお! カサロバ卿! あなたが来てくださったか!」
どうやら、仲のいい人らしい。
カサロバ卿という人物のおかげで、牢屋から出ることが出来た。いやまあ、あのままでよかったと言えばよかったんですけどー。
カサロバ卿の用意した馬車で、現在移動中。他にもメイドがいると伝えたら、オケアニス達も一緒に連れて行ってくれるってさ。
どこへって、王都へ。王都は、港から馬車で一日程度の場所にあるそうな。
馬車は大型で、カサロバ卿、グウィロス卿、それにオーゼリア組を含めても楽に乗れる。あ、カストルは外の従者席です。
「それにしても、グウィロス卿、よくぞ無事に戻られた」
「こちらの方々のご尽力によるものですぞ」
「して……この方々は?」
今頃気付いたのかな? それも仕方ないかもね。お友達が牢屋に入れられてるなんて報せがきたら、慌てても無理はない。
「こちらはオーゼリアの王太子殿下付であるゾーセノット伯爵と令夫人。そして、こちらがあの水を産出する領地を持つ、デュバル女侯爵とその御夫君です」
「何!? あの!?」
えー? 何この会話ー。確かにトレスヴィラジの水は美味しいけれどさー。
そういや、交渉に出したネスティに宰相が惚れ込んでプロポーズ、その後王様によって職を解かれて国外追放を食らったんだっけ?
でもそれ、うちの水のせいじゃない……と思うんですけど?
なのに、カサロバ卿は信じられないものを見たと言わんばかりの顔だ。
「し、失礼。侯爵閣下とはつゆ知らず。無礼をお許し願いたい」
「気にしませんよ。それより、牢屋から出してくださった事、感謝します」
「お、恐れ入ります……」
まー、普通は他国の貴族をいきなり牢屋に放り込んだら、放り込んだ張本人とその上官まとめて処罰を食らう案件だわな。
それが元で戦争にでもなったりしたら……おお怖。
「港には、通達がいっていたはずなのだが……」
「私の帰国が早すぎたようだね。オーゼリアの船で送ってもらったのだが……」
「そんなに早いのですか? グウィロス卿」
「それはもう。カサロバ卿も、きっと驚くでしょう」
うちの船は世界一ー。でも、カサロバ卿は、またしても信じられないものを見るような目でこちらを見ているよ。酷くね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます