第456話 大事な事だよ?
条件付きとはいえ、他国に工作する許可は得た。ならば、作戦開始。
の前に、人質は解放しておかないとねー。
「それで、双子のお父さんはちゃんと帰すんだ」
「双子をこちらに呼ぶのは簡単ですが、それであちらに警戒されるのは避けた方がいいでしょう。主様の望む通りにするには」
すいませーん。
ただいま、旦那達とは別枠で王宮へと向かってます。二人には先に行って、殿下や陛下達に色々と説明をしてもらう事になっている。
で、私達は双子パパ、グウィロス卿を引き取りに行く訳だ。
馬車に乗っているのは、リラと私、それと珍しくカストル。今日の御者はポルックスが担当している。
今回の作戦の為に、領地から呼び出しました。彼が抜けた穴は、ネスティが埋めてくれるってさ。
カストルの話では、今回の作戦、ポルックスが大変な思いをすれば簡単に終わるらしい。思考誘導ですねー。
でもさすがに国民全員にとなると、大変らしいよ。小王国群程度の人数ならまだしも、ヒュウガイツは人数多いから。
なので、ポルックスの思考誘導は極少人数に行う事になっている。だから、双子は出来るだけ穏便に救い出そうって話。
「だから、上層部だけでいいと申しましたのに」
「いやあ、やっぱり自分の目で見てみたじゃない? 色々と」
「あんたの悪い癖が出たわね」
リラとカストルから、じとっとした視線が向けられる。いやだって、行った事ない国って、見てみたいと思うでしょ?
行き来も楽だし、何よりこれからこちらの手で変えていく国だし。
「行ったら行ったで、ちゃんと作戦の手伝いはするからさあ」
「カストル、思いっきりこき使っていいわよ」
「承知いたしました。主様がそこまでして労働したいと仰るのなら、気合いを入れて使わせていただきます」
いや待って? そこまでは言ってないんだけど?
王宮では、またしても皆様勢揃いの場所へ連れていかれましたー。あ、今回は貴族派の二人がいなくて、代わりにコアド公爵がいる。
笑顔の公爵閣下は、大変お怒りだ。あれ? オーゼリアへの進軍計画、話したの?
『話してはいませんが……何かしらで感じ取ったのでしょうか?』
マジで!? コアド公爵って、凄くね?
「よく来たな、デュバル侯爵」
「デュバル侯爵ローレル、故あって陛下の御前に参りました」
滅多に使わない言い回しに、ちゃんと言えるか心配だったけど、何とかなった。
「理由は二人から聞いている。まずは座りなさい」
「失礼いたします」
リラと一緒に、前回と同じ場所に腰を下ろす。前と違うのは、旦那達とグウィロス卿の姿がない事だ。
二人でお迎えにでも行ってるのかな?
「……話は聞いたのだが、本当に行くつもりかい?」
ちょっと陛下の口調が柔らかくなった。何だろう、心配してるんだよってのがひしひしと伝わってくる。
まあ、相手は人質取って言う事を聞かせようとするような王様がいる国だ。心配もするか。
でも、陛下とは、言っちゃなんだが繋がりが薄い。いや、私が襲爵出来るよう色々と動いてくださったそうだけど。
それも、デュバルを潰さない為だって思ってた。もしかして、これも裏があるの?
それはともかく、返事はしないと。
「行きます。行ってみたいんです。どんな国か、どんな場所か、自分の目で確かめたくて」
「ほほほ、レラらしいわねえ」
「本当に」
王妃様とロア様二人には、納得してもらえたようだ。陛下はまだ八の字眉のままだ。
「ケンドが心配するんじゃないかと思うだが」
「え? 伯爵には伝えませんよ? 帰ってきて、今年の狩猟祭にでも話せばいいかなって思ってます」
「それはいけない!」
おっと、びっくりするくらい陛下の声が大きくなった。
「ケンドは君の育ての親だ。最近はなかなか顔を見せてくれなくて、寂しいと言っていたよ? なのに、君が知らない間に危険な国に行ったとなれば、心配するに決まっている」
えー? でも、今までのガルノバンやらギンゼールも、事前連絡なんて入れてなかったんだけど。
レズヌンドもそうだね。あ、でもあの国は危険視されてなかったか。開けてみたらヤバい方向に突っ走ってた訳だけど。
「ええと、ガルノバンやギンゼール、トリヨンサークの時も、特に伯爵には連絡していなかったと思うのですが……」
「その辺りは、同行者が伝えておいたそうだ」
マジですか!? 知らなかった……
あ、でもそれなら、今回もヴィル様辺りが連絡入れてるんじゃないんかな?
そう思ってたら、思い切り否定された。
「夕べ、ケンドと通信をしている時にな。侯爵の話が出たんだよ。このところ連絡もないし、王都は遠いしで顔もろくに見られない、と言っていた」
やべー。日々忙しくて、伯爵のところに顔を出してる暇がなかったわ……
とはいえ、私は一応結婚した身。嫁いだらそう簡単には親元には帰れないのがこの国だ。移動手段も限られているしね。
……でも、ペイロンとデュバルなら、移動陣もあるし鉄道もある。言い訳出来ないいいいいい。
「出発前には、ちゃんと伝えておくんだよ?」
「しょ、承知いたしました……」
何だろう。陛下が近所の心配性なおじさんに見えてきた。
その後、やっぱりユーイン達がグウィロス卿を連れてきた。その頃には、既に私がぐったりしていて、二人に驚かれたわ。
「さて、揃ったな。では始めよう」
陛下のその一言で、今回の一件のこれからが説明された。
「まずは、相手の油断を誘う為に、今回のグウィロス卿の交渉がうまくいったと見せかけます。その為、デュバル侯爵夫妻と私共夫婦がヒュウガイツに渡ります。向こうへ着いたら、あちらの穏健派と接触、交渉と説得を用いて、現政権を打倒させます。我々はそれを裏から支援します。表向きは、あちらの内乱に巻き込まれた形になる予定です」
あくまで、新政権樹立までサポートしますが、主導はあちらの穏健派の人達ですよー、という形にする。
「敵に知られた時は、どうするんだい?」
意見を述べたのは、コアド公爵だ。
「その時は、全力で穏健派を支援します。あくまで、私達は個人としてあちらに向かいますので」
「つまり、オーゼリアは無関係……と?」
「そうなります」
年はヴィル様の方が上だし、学院でも上級生だったけれど、卒業した今は公爵家当主と伯爵家当主。あちらの方が身分が上だ。
「穏健派が王位を取ったとして、前の王と同じ考えに陥らないとも、限らないんじゃないかなあ?」
「少なくとも、二代くらいは問題ないでしょう。何せ、自力で王位を取れなかった記録が残る訳ですから」
「そうかな? かえって、その記録を彼等の手で抹消し、恩を仇で返してくるかもしれないよ?」
コアド公爵が言いたい事もよくわかる。でも、今回に限ってそれはない。
何せ、ポルックスの思考誘導を使うのだから。その中に、オーゼリアには決して逆らわないという部分を盛り込む事が決まっている。
諸々を鑑みて、入れる事にしたんだ。さすがのヴィル様も、これには反対しなかった。
でも、それをここで話す訳にはいかない。
「もし、彼等が恩知らずにもこちらに戦争を仕掛けてくるのなら、その時改めて叩き潰せばよろしいかと。オーゼリアには、他国にない魔法技術がございます」
「なるほど。ゾーセノット伯の覚悟がよくわかったよ。私から以上だ」
コアド公、その笑顔、王妃様そっくりで真っ黒に見えますうううう。
お話し合いはこれで終了。無事グウィロス卿と共に王宮を出た。部屋を出る時、陛下から再度「連絡をするように」って言われちゃったけど。
「レラ、先ほど陛下から何か言われていたようだが、内容を聞いてもいいか?」
ユーインが心配したらしい。廊下を歩きながらこそっと聞かれた。
「えーと、今回どこに行くか、ペイロンの伯爵に伝えておきなさいって言われて……」
「ああ、なるほど。伯爵は長く、レラを育てた方だ。行き先くらいは、君の口から伝えておくべきだろう」
ユーインまでー。でも、そうなると、私の方がおかしかったのか?ううむ、ちょっと反省しておかなきゃ。
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