第455話 決まりましたー

 その場を取り仕切るのは、ヴィル様に任せた。この人、こういうのは得意だから。


「まず、最初に確認しておくぞ。レラは、今回の話をどうしたい?」

「どう……」


 と言われてもなー。本心を言うなら、関わりたくない。何か面倒そうなんだもん。


 でも、ここで手を引くと確実に不幸になる人達が大勢いる。小王国群は、あれでもいくつもの国が持ちつ持たれつで共存してるっていうし。


 その余波がフロトマーロに行ったら困る。最悪、あの国だけでも護れないかなー。


 その辺りをあれこれ考えて、出てきた結果がこれ。


「今のヒュウガイツとはお近づきになりたくないけれど、そうでなくなれば、取引をしてもいいかなあと思ってます」

「そうか。カストル、あの国に穏健派はいるか?」

「存在しています。ですが、今は隅に追いやられていますね」

「だろうな」


 ヴィル様、頭を切り替えたのか、カストルまで使いこなしてる! こういうところ、リラと一緒だよねえ。ある意味、似たもの夫婦?


「なら、いくつか提案出来る。まず、国ごと潰す」

「え」


 いきなり、思ってもなかった案が飛び出てきた。


「カストル、レラなら問題ないんだよな?」

「そうですね」


 待って! そこは否定しようよ!


「移動もデュバルの船を使えば問題ありませんし、海上からの一撃で殲滅が可能です」


 えええええええええ? 私、どんな怪物扱いなの?


 あれ? ユーインもリラもヴィル様も、誰も笑ってないんですが。それどころか、皆神妙な表情ですよ?


 え? やらないよ? やらないからね?


「レラ、泣きそうになるな。やらせるとはまだ言ってない」

「まだって! まだって言った!」


 思わず隣に座るユーインに縋る。


「大丈夫だ、レラ。アスプザットは、まず最悪の選択肢を出したに過ぎない」

「……本当に?」


 じとっとヴィル様を見たら、何だかばつの悪そうな顔をしている。誰よりも先に、そういう未来もあり得ると提示しただけか……よかった。


「ヴィル様、貧乏くじを引かされましたね」

「慣れている」


 ああ、この人、アスプザットの長男で、王太子殿下の側仕えだもんな。きっとあの執務室でも、今のように最悪の想定をするのは彼の仕事なんだろう。


「ここからは、現実的な案だ。まず、我々があちらに乗り込んで、現政権を打倒する。ただ、これはあまり使いたくない手だ」

「内政干渉だから……ですか?」

「そう。それに、外的な力で膿を絞り出しても、国の為にはならん」

「なら、ヒュウガイツ国民の手で、今の国を変えさせる必要がありますね」

「その為の穏健派なんだが……」

「彼等に政権打倒をさせますか?」

「どこまで奴らに力があるかわからん。カストル、穏健派の中に、次の王になれる素質を持ったものはいるか?」

「難しいですね。そんな気概を持った者なら、今頃あの国の頂点に立っているのではないでしょうか」

「そうか……」


 あれー? ヴィル様、リラ、カストルの三人で話が進んでいくよ?


「……」


 何やら、リラが黙り込んでいる。どうしたんだろう。


「エヴリラ様。あの国では一般庶民に教育を施しておりません。時期尚早かと」

「私の考えまで読むのはやめて」

「失礼いたしました」


 カストル、とうとうリラの考えまで読んだのか! それに対するリラの態度は、もの凄く冷たい。でも、これはカストルの自業自得だな。


 ところで、教育が必要な案って、何?


「何か案があるのなら、発言してくれ」

「……国民が選び出した代表による、共和政の開始です」


 一気に共和制を取り入れろってか!? ああ、だからカストルが時期尚早って言ったんだ。


 穏健派が行うならクーデターだけど、政治形態を変えるのなら革命だ。リラは、ヒュウガイツに革命を起こそうと考えたの?


 リラの説明に、ヴィル様の顔は渋い。


「そんな事が、可能なのか?」

「……可能だとは思います。ただ、国民一人一人にその為の教育を施す必要があるかと」


 ヒュウガイツでも、庶民に教育を施していないとカストルは言っていた。なら、いきなり共和制にしても、結局選挙権を持つのは特権階級のみという事になる。


 確かに、カストルが言うように時期尚早かも。理想は立憲君主制からの共和制移行かなあ。いや、他国の事なので、私が言うなって話だけど。


 リラの言葉を聞いて、ヴィル様が納得した顔をしている。


「それでカストルが時期尚早と言ったのか。我が国ですら、国民一人一人に教育を施している余裕はない。豊かなオーゼリアですらそうなんだから、ヒュウガイツは更に……だろうな」


 教育ってお金かかるからね。でも、うちの領では始めてるよー。まだ初等教育だけど。


 中等、高等となると、教える側にも知識や専門性が必要になってくるからね。教育を受けさせる前に、教育者を育成する必要がある。


 それはこれからなんだけど、まあ、何とかなるでしょ。




 あれこれ意見が出た結果、全員の意見がまとまった。


「では、ヒュウガイツの穏健派に王位を取らせる、我々はそれを裏側から支援する。それでいいな?」

「おー」

「異議なし」

「頑張ります」


 これであの国が変わってくれれば、安心して取引出来るよ。


 あ、その場合は取引自体がなくなるかも? まーいっかー。


「さて、ではまとまった案は明日にでも、殿下にご報告しておく」

「よろしくお願いします」


 やっぱり、他国に関わる事だから、私達が勝手に動く訳にいかない。ちゃんと王宮の許可を得ないとね。


 その為に、殿下に力添えを頼む訳だ。あと、サンド様とか陛下とか王妃様とか。結構いるね。


「殿下も、今回の件でヒュウガイツを見過ごせない国と認識しておられるようだ。あちらの思惑を説明せずとも、ご理解くださるだろう」


 殿下は優秀な人だからね。多分、コアド公爵だとこちらが隠したい事にまで気付かれる危険性が高い。あの人の頭の回転って、絶対人間じゃないよ。


 ただ、コアド公爵は家族思いな人だから。王家の方々に災難が降りかかる場合は、全力で排除しにかかるでしょう。


 そして、王家の災難はこれ国の災難。つまり、現コアド公爵がいる限り、どんな災難からも守る行動をすると思うんだ。


 問題は、その道具に私がされる可能性が高いって事くらいかね。




 翌日、いつものように仕度をして旦那達は王宮へ出勤していった。朝だというのに、何だか疲れたなあ。昨日、あれこれ話し合った影響だろうか。


 脳筋に考えさせちゃ駄目だよ。


「……王家は、どんな結論を下すかしら」


 質問のようで、独り言のようなリラの言葉。カストルが掴んだ情報を話さない前提だと、今日中に結論が出るかどうかわからない。


「さすがに小王国群を殲滅する計画があるって知ったら、私達の案に乗ってくれるとは思うけれど」

「伝えないんでしょう? だったら――」

「ただ、コアド公爵がいれば、きっとごり押ししてくれると信じてる」


 あの人、本当に鋭いから。ロクス様ですら白旗を振るくらいだもん。


 私の言葉に、リラがちょっと不審気味だ。


「あんたのそのコアド公爵への信頼って、根拠は何?」

「んー、本人の優秀さと、家族思いな性格かな」

「はあ?」


 わかってないな? 優秀な人を敵に回すと、本当に怖いんだぞ?


 今回、ヒュウガイツは私やカストルを敵に回したのも悪手だったけれど、一番の悪手はオーゼリアを狙った事じゃないかなあ。


 コアド公爵は、敵には容赦しない人だよ? その辺り、王妃様のお子だよなあと思ってしまう。


 ラスボス様も、敵には容赦しないもんね。私? 敵に対して容赦する必要なんて感じませんが何か?




 その日の夕方、旦那達が帰ってきたので結果を聞いた。


「許可が下りた。ただし」

「ただし?」


 条件付きかい。


「オーゼリアが関わっていると、向こうに勘付かれるな、だそうだ」


 それはまた。面倒だなあと思っていたら、大変いい笑顔のカストルが一言。


「お任せ下さい。全力を挙げてあの国を変えてご覧に入れます」


 わあ。うちの有能執事がヤル気満々だー。

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