第439話 実家発切れ者着
舞踏会への参加は、基本夫婦でとなる。未婚の場合はその限りじゃないけれど。
まあ、基本というだけで、別に夫婦で行かなくてもいいし、一人でも問題ない。
だから、リラと二人で行くと言ったのに、旦那連中は絶対行くと引きゃしない。疲れてるんなら、家でおとなしくしてなさいよ。
「お前達は目を離すとろくな事がない」
どういう言い草ですかヴィル様。ユーインも隣で頷いているとは何事か。
舞踏会で騒動を起こした覚えなんてないよ!
本日の会場はコレドンホール。王都にある個人が建てた多目的ホールで、舞踏会や夜会などによく使われる。
こうした場では、その時々で一番の話題があちこちで噂になるんだけど……
「奥様、お聞きになりまして? ネドン家の事」
「ええ、聞きましたとも。まあ、何て親でしょうねえ。ああはなりたくないものだわ」
「先代伯爵はもうこうした場には出てこられないだろうな」
「早いうちに息子に代を譲っておいてよかったんじゃないか」
えー、どうもネドン伯爵家の内紛……というか、お家騒動が出回ってるらしいですよ
「コーニーの奴、もう少し穏便に進めればいいものを」
「それが出来ない相手だったんじゃないですかねえ?」
何せ息子夫婦に家督を譲らされた二人だ。隠居も納得いってなかったんだろうし、だからこそ息子夫婦に攻撃を仕掛けたんだから。
その結果、見事に反撃された訳ですが。これ、コーニーの義両親が現役だったら、家の恥だったろうね。隠居していてもこれだもん。
今夜一晩でここまで広まった訳じゃない。これまで各家で催された茶会や昼食会などを通じて広まったんだと思う。
あのコーニーの事だから、旅行から帰ってすぐに動いたんじゃないかな。
「あら、レラ達じゃない。ごきげんよう。いい夜ね」
「コーニー!」
「噂の当人のご登場か」
入り口付近に固まっていた私達に声を掛けてきたのは、噂のコーニーとイエル卿夫妻だ。相変わらず綺麗だなあ、コーニー。
そのコーニーは、ヴィル様の言葉に柳眉を逆立てた。
「何よ、その噂の当人って」
「言った通りだ。そこかしこから聞こえてくるだろうが」
ヴィル様の言葉に、コーニーも耳を澄ます。
「ああ、あれね」
「もう少し裏で動けば、家の名を落とす事にはならなかったんじゃないか?」
「仕方ないわよ。相手の抵抗が激しかったんだもの」
わー、やっぱりー。
「それに、名が落ちたのは我が家ではないわ。あの二人だけよ」
現役なら家の恥だけれど、隠居した後なら個人の恥になる。この辺りが最初理解出来なかったんだけれど、「家」を「会社」って考えれば、納得いくんだよね。
家の当主が社長で、現役の時に不祥事を起こしたら、会社の名前にも響く。でも引退した後の不祥事なら、会社の名前には響かない。こんな感じ。
「いやあ、こうなるとは思わなかったけれど、結婚と同時に強制隠居させておいてよかったよ」
「本当よね。イエルの先見の明のおかげで助かっちゃった」
そんな事を言い合いながら、目の前でイチャイチャする夫婦がいますよ。仲がいいのはいい事だけどさ。
ちらりと横目でヴィル様を見ると、かなりしょっぱい顔をしていた。
ネドン家の隠居の「処理」は、無事に終了したのはわかったけれど、どういう手を使ったのやら。
わからないなら、本人に聞いちゃえ! という事で、コーニーを我が家にお招きした。こういう時、茶会って便利な口実よね。
デュバル王都邸に招くつもりだったんだけど、連絡をしたら「ゾーセノット邸に行ってみたい」との事だったので、リラに頼んで会場を変更した。
「まあ、ここなのね。大通りからは離れているけれど、その分静かでいいんじゃないかしら。でも、住んでないのよね?」
「ええ。仕事の関係で、デュバルで過ごす事が殆どです」
「もったいない気もするわね」
そうかもね。でも、リラに通いで仕事をさせるのは忍びなくて。うち、夜にも問題が発生する場合があるから。
あれ? って事は二十四時間仕事してるって事? わーお、とんだブラック企業ではないですか。
「レラは何を一人でショック受けてるのかしら?」
「多分、今更気付いた事があるんでしょう」
二人共、聞こえてるんだからね。
ゾーセノット邸は大通りから外れている分、敷地面積が広め。家の構えも、アスプザット邸やデュバル邸に比べるとちょっと違う。
大通りに面した家は、一見テラスハウス風に見えるんだよね。隣の建物との間に隙間がないから。
ここは隙間があるどころの騒ぎじゃない。敷地を囲う壁があって、門もある。そこから玄関までちょっとした前庭になっていて、小道が続いている。
ここには現在、ネレイデスとオケアニス、ヒーローズが使用人として入っている。裏方には人形を使う徹底ぶり。
玄関に出迎えとして出てきたのも、ネレイデスだ。
「お帰りなさいませ、奥様。デュバル女侯爵様、ネドン伯爵夫人もようこそいらっしゃいました」
ネレイデスは、家政婦風の服装だ。その後ろには、メイドのお仕着せを着たオケアニスが二人。
ネレイデスの案内で、奥庭に面した部屋に通される。
「まあ、壁一面がガラスなのね」
ブブー。ガラスじゃないでーす。強化型の素材で、透明なものを用意してみました。物理魔法両方を完全とまではいかないまでも、高確率で弾きます。
しかも一枚が大きいので、枠で邪魔される事なく奥庭を見る事が出来るのだよ。
こういう窓って掃除が大変そうと思うけれど、オケアニスにかかれば魔法であっという間に掃除出来るからね。
窓の近くにテーブルを置いて、茶会の始まりだ。
「それで? 何が聞きたいの?」
テーブルについて、お茶や茶菓子が揃ったところで、いきなりコーニーから切り込んできた。もう少し、前置きというものをだね。
「それは、こちらに聞いてください」
「まあ、レラよね」
バレてるし。まあいいけどさ。
「隠居に追い込んでおいた親を、どうやって破滅まで追い込んだの?」
「破滅だなんて人聞きの悪い。私はお母様に教わった通りに動いただけよ?」
「いや、だからその中身が知りたいんだってば」
カストルに頼めば教えてくれるのかも。でも、やっぱり本人に聞けるのなら、その方がいいよね。
コーニーはお茶を一口飲んだ後、口を開いた。
「旅行の時、ヴィル兄様が言っていたじゃない。手足口をもげって。その通りにしただけよ?」
「その通りって……」
「ネドンの両親の手足口って、まずは厄介な分家当主達だもの。まずは彼等の弱みを探る事にしたの。後ろ暗い連中だから、絶対何か出てくると思ったわ。そうしたら案の定。小王国群との違法取引をしていたの」
「違法取引?」
「ええ。小王国群でも、オーゼリアが地域を指定して取引をしないって決めた場所がいくつかあるの。彼等は、そこと独断でやり取りをしていたのよ」
小王国群の場合、長期に渡って何かをする場合、国名ではなく地域を指定する。というのも、油断してると数年で国名が変わったり、国がくっついたり分離したりするから。あそこは本当に油断がならない。
比較的海に面した南部は治安がいい国が多いんだよね。レズヌンドとかフロトマーロとか。
もっとも、レズヌンドに関しては治安が一気に悪くなってるそうだけど。どうしてだろうねえ?
それはともかく、ネドン家の分家当主はその違法取引の摘発で一掃されたらしい。
「手足がなくなれば、口も勢いをなくすというものよ。だから、最後に口をもいでうちの領地からは追い出したの」
「うわあ」
コーニー、容赦なし。とはいえ、先に仕掛けてきたのは向こうだしなあ。口を出さず、おとなしく隠居していれば領地で安穏に暮らせただろうに。
「それで、追い出した両親はどこへ?」
リラの質問に、コーニーはにっこりと笑った。
「そのまま放っておいて、また何か仕出かされても困るから、伝手を頼って王家にお願いしたの。そうしたら、コアド公爵領で引き取ってくださるって」
わあ。コアド公爵って、元第二王子じゃない。切れ者のあの人の元に、送っちゃったんだ……
伝手って、イエル卿から王太子殿下へお願いしたのかな? 今は同じ殿下の執務室で働く仲だから、直接かも。
どちらにせよ、これでネドン家の憂いは払われた訳だ。コーニーの笑顔が眩しい。
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