第438話 シーズンです

諸事情により、短めです。




 旅行に行ったりあちこち散らばった場所の整備をしたりしていたら、あっという間に二月になっていた。舞踏会シーズンでーす。


「やっぱり行かなきゃ駄目なのか……」

「社交もお仕事です」

「うううう」


 二月の間は、みっちり舞踏会の予定が入れられていた。おかしい。私、招待状も見ていないのに。


 リラに渡された二月のスケジュール表、地獄の日程なんですが。


「お休みがないよ?」

「旅行、長かったよね?」

「えええええ?」


 よもや、休みを前倒しにして使っていたとは。




 舞踏会と言えばドレス。貴族は同じドレスを何度も着るものじゃない。舞踏会シーズンともなると、参加する舞踏会ごとに違うドレスを用意する必要がある。


 もったいないとか言わない。そのおかげで回る仕事もあったりするんだから。マダムの店とかね!


「こんなに作ったっけ?」


 王都邸の私の私室には、クローゼットが一部屋用意されている。そこに、みっちり新しいドレスがしまわれていた。


「舞踏会シーズンには、必要でしょ? 茶会や園遊会、晩餐会に夜会もあるんだから」

「おおう」


 知らない間に、新しいドレスを仕立てられていましたよ。そういえば、マダムの店には私の体型を模した人形が置かれていたっけ。


 晩餐会でも食事の後にダンスが入ったり、夜会の中でも踊ったりするから、この時期のドレスは基本ダンス中心に考える。


 つまり、裾を極端に引きずるタイプはNGって事。トレーンが長い場合は、腕に引っかける輪っかをトレーン部分に仕込む。


 それで裾を持ち上げて踊る訳だね。そこまでしてダンスさせたいのか。


「それと、ギンゼールから産出したダイヤ、カットしていくつか新しいパリュールにしてあるから」

「いつの間に?」

「あんたがあれこれ新しい仕事を思いついてる間に」


 わあ。リラの笑顔が怖い。いつの間に、そんな迫力のある笑顔を身につけたの?


 見せられたパリュール……ネックレス、イヤリング、ヘアピンまたはティアラ、ブレスレットのセットは、何と五つもあるよ。


「さすがにこれまで毎回別のもの……という訳にはいかないから。今持ってるものも、いくつかリフォームしたわよ。デザインが子供っぽかったし」


 あー、黒真珠のものは、社交界デビューの頃から使ってたから。ちょっと前とはいえ、十代と二十代ではデザインも変えないとね。


 デュバル領でも、腕のいい職人が増えてきたから、こうしたアクセサリーの新品とかリフォームを依頼出来るようになった。


 いつぞやの家具職人のように、他の領からうちに来た人達らしいよ。何だか、うちは流れ者の行き着く先のような場所になってるね。


 その結果、領内の技術が上がったり、活気づいたりするのなら、いっか。




 二月の舞踏会シーズン、忙しいのは女性の私達だけではない。王宮から帰ってきたユーインとヴィル様にも、疲れがにじみ出ていた。


「お帰りなさい……お疲れのようだね」

「ああ……」

「この時期は、地方から人が集まるからな……」


 あー、殿下の執務室に来る人達が、増えるんだ。人が増えると、仕事も増える。そりゃ二人も疲労でぐったりするわな。


 こんな疲れた中、舞踏会に連れて行って大丈夫なのかね?

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