第437話 計画が一杯
国王陛下が、近々譲位なさる。引退した国王王妃両陛下は、私が管理するリゾートに移住する事をお望みだ。
とはいえ、今ある施設や土地ではセキュリティに不安がある。なら、一から作っちゃえよ、という話になっている。
いつもなら、こういった話を止めるのはリラの役目なんだけど、今回に限って彼女がノリノリだ。何でー?
「だって、この大陸そのものがあんたのご先祖様の作り物なんでしょう? なら、カストルじゃないけれど今弄ったところで今更じゃない」
「いや、この大陸を弄ったご先祖様、あんたのご先祖様でもあるんだけど」
どの辺りで分かれたのかは知らないけれど、リラにはうちと同じご先祖様の血が入っている。
彼女の兄弟も同様のはずだけど、リラがあちらとは縁を切ったからね。この先も、関わる事はないでしょう。
カストルは仕事が早い。当然、一から作るテーマパーク……ならぬ、人工都市の計画もとっとと立ててきた。
「完成予想図です」
そう言って広げたのは、イラスト風の絵が入った地図だ。地図って……人工都市だから、地図でいいのか。
「取得面積は、これまでで最大になりそうです。この中で食料生産も行いますから、余剰分はフロトマーロにも『輸出』しますよ。価格を抑えれば、彼等にとっても悪い話ではないでしょう」
地図には、いくつかエリアが分けられていて、両陛下が暮らす為の邸と、その周辺にいくつか小さな館や家。
これらの家には、住人が入る。今のところ、オケアニスやヒーローズのような存在を増やして住まわせる予定だって。
邸はそれなりに広いので、両陛下が連れてきたい人がいたら、邸に部屋を与えればいい。周囲に建つ予定の家は、貴族にしてみれば小さいからね。
いや、前世日本人の感覚から言えば、十分豪邸なんだけど。
邸の庭には噴水やら運河やら滝やらが書き込まれている。滝は庭の奥にある小高い山の上から流すそうだ。
他にも食料生産用の畑、牧場、漁港まである。いや、本当に一つの「都市」だわ。
「これだけの土地、フロトマーロは手放すかな?」
「売らせます」
わー、売らせるって言い切っちゃったよ。
「ここ以外にも、当初の予定通り、安価なリゾート地も作る予定です。そちらの土地も、取得予定です。さらに、前から計画していたフロトマーロ国内の道路整備とため池造成も進んでいます。そろそろ完成するでしょう」
「早」
いや、確かに同じくらいにプロジェクトがスタートした港街がほぼ出来上がってるんだから、そっちも出来上がっていてもおかしくないのか……
道路に関しては、水を売りに行く時の輸送路にもなるので、手は抜かない。 ……そういえば、当初の予定ではフロトマーロに港を造って、トレスヴィラジの山で汲んだ水を売りにいこうって事だったよね。
どこをどうしてこうなったのか。
計画を立てるにも、まずは土地取得が先でしょう。という事で、ネスティにお願いした。これで何回目かね。
フロトマーロ側も、いい加減にしろと思ってるかも。
「問題ありません。あの国には大した産業がありませんから、こちらが支払う外貨は喉から手が出る程ほしい品ですよ」
オーゼリアで流通している貨幣は、周辺国でも信頼度が高い。デュバルが支払ったオーゼリア通貨を、別の国に持っていくと、額面以上の値段がついたりする場合もあるんだそう。
えー、それはいいの?
「為替取引のようなものと、お考えください」
為替かあ。それでいい……のか?
今更だけれど、うちはあちこちで土木工事を行っている。線路を通す為に、山にトンネルを掘る事もある。
街の地下を有効活用する為にも、土を掘る。当然、大量の土砂が出て、本当ならそれの処分も問題になるはず……なんだけど。
「各建設地で出た土砂で、山を造りましょう。それだけだと弱いですから、手は加えますが」
うん、その土砂、有効活用されるそうです。何事も無駄にしない。カストルは、本当に仕事が出来る執事ですよ。
「地下水も汲み上げる施設がほしいですね。海辺ですから、いっそ海水を真水化して使うのも手かと」
もう、何でもありだな。この人工都市だけでかなりの水を使う予定だから、海水の真水化は必要じゃないかな。
ちなみに、土地は簡単に買えたそうな。王宮では意見が二分したそうだけど、外貨の誘惑には勝てなかったってさ。
私が言う事じゃないけれど、うちから得た外貨で、国民の生活を豊かにしてあげてくれたまえ。
忘れがちだけれど、王宮から押しつけ……いただいた飛び地の管理という仕事もある。
特に現在工事中のネオヴェネチアは、これこそ一大テーマパークになりそうな勢いだ。
とはいえ、基本は普通に街にする予定なので、ここは移住者を募る。うちの領民で、移り住みたい人がいればそれでもいいんだけど。
「まず、いないでしょうね」
「そうかな?」
リラの意見に、今回だけは懐疑的な言葉を口にする。だって、新しい街だよ? 仕事も豊富だし、王都だって近い。
当然、王都との行き来用の手段も考えている。利便性という意味では,デュバル以上じゃないかな。
「人間ってね、生まれ育った土地からは離れがたいものなのよ」
「そんなもの?」
「あんただって、ペイロンから離れるのは嫌だったでしょう?」
そう言われると、納得。
「王都には、言いたくないけれど貧民街もあるから、そういうところで移住者を募るのも手よ?」
「でも、それだと治安が悪くならない?」
貧民が全て犯罪に加担しているとは思わない。でも、ああいう場所には人を食い物にする組織が出てくるものだ。
そうした連中まで呼び込む事になったら、ちょっと嫌だなあ。
「その為の交番制度だし、警備職でしょう?」
まあね。ゼードニヴァン子爵は、今も精力的に配下の人間を増やして教育し、鍛えている。
あの人の凄いところは、計画的に人を勧誘しているところ。学院だけでなく、色々な伝手を使って貴族家で燻っている護衛なんかを積極的に呼び寄せているそうだ。
で、そうなると今度は自薦他薦の人間が彼の元へ押しかけてくる。今はスカウト業もこなしつつ、そうした押しかけてきた人材のより分けもしてるって。自薦の人は、ここで落とされる事が多いらしい。
ともかく、子爵のおかげで警備関連に関しては、完全に丸投げしておける。いやあ、いい人材を手に入れたよ。あ、彼は王太子殿下からの紹介だったっけ? なら殿下に感謝だな。
「人工都市はまだしも、ネオヴェネチアの方は警備の手を増やして対応するのがいいと思うわ。ゼードニヴァン子爵には、その辺りも含めて話を通しておきましょう」
「よろしく!」
「まあ、後はポルックスにでも定期的に犯罪者を間引きさせればいいわよ。あいつら、そういうのも得意でしょ?」
リラ、すっかりたくましくなっちゃって。
「後は、ゴンドラを導入するんだっけ? ゴンドリエはどうするの?」
「育成が間に合わなければ、人形にやらせようかなって思ってる」
「安全性は大丈夫? 水路に人が落ちた時の対処は?」
「その辺りは、ゴンドラに術式を仕込んでおこうかと」
「魔道具なゴンドラとか、どんだけ……」
いやだって、いくら対策しても水路に落ちる人って出てくると思うから。なら、最初からそれを想定してあちこちに安全策を施しておいた方がいいじゃない? ゴンドラの術式は、その一つだよ。
「後は橋や水路の各所に似たような転落防止の魔道具を仕込んでおくかなあ」
「まあ、デュバルらしいやり方かもね」
何せ当主が魔法に長けてますのでー。しかも領内には魔法研究所の分室もあるでよー。
魔力コストも、カストルが定期的に魔の森の中央に補填しに行ってくれるおかげでほぼゼロだし。
デュバルは、これからも魔法を多用して発展していきます。
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