第436話 どんなテーマ?

 後数年で譲位なさるという国王陛下並びに王妃陛下の為に、静養地を用意する事になった。


 対価は払うと仰ってたから、また何かおねだりを考えておこうっと。


 王都邸の執務室で、リラと二人頭をひねる。


「問題は、どこにするかなんだけど」

「静養なら南ってイメージよね」

「だよねー」


 オーゼリアの王都は南に位置しているから、夏は暑いんだけど、冬はそこそこ寒い。雪はあまり降らないそうだけど。


 なら、冬の寒さがない場所がいいんじゃね? あと、警備の事を考えると人がいない場所の方が楽そう。


 ただなー。王妃様が野中の一軒家で過ごせるのかどうか。あの人、華やかな事が好きだし。


「警備で考えるなら、陸の孤島かそのまんま孤島が楽」

「食料とか、どうするの?」

「自給自足」

「えー……」


 いや、別に両陛下に作れとは言わないよ? 畑やら家畜小屋やらを島に用意して、ネレイデスと人形で管理する方向で考えてる。


 新鮮な食材は、大事だよね。


「移動陣を使って、デュバルから配達すれば?」


 リラの提案もいいんだけど、それだと味気なくない?




 静養地を考えるのも重要だけど、フロトマーロの海岸線整備も、今の私にとっては重要だ。何せ観光の目玉を作り出せるかもしれないんだから。


「ビーチは高級リゾート。西側には、それとはまたちょっとグレードが落ちるリゾートを作りたいんだよね」


 フロトマーロの気温は、年間を通して高め。オーゼリアの冬から逃れたい人達にとっての、避寒地になれば最高だと思う。


 そう考えると、やっぱり両陛下の静養地は絶海の孤島にするべき?


「島ならば、フロトマーロの沖合に作れますよ。何でしたら、温泉も作りますか?」


 カストルの言葉に、リラと一緒に遠い目になる。うん、うちの有能執事なら、可能だよね。


「温泉の効能次第では、いいんじゃないかしら。何せ陛下は健康上の理由で譲位なさるんだし」

「湯治かあ。カストル、島を作るとして、温泉の効能はどうなりそう?」


 島を作るにしろ、温泉を作るにしろ、やるのはカストルだ。先程から執務室の端で、静かに待機していた彼に声を掛ける。


「大抵の温泉には、健康増進の効能がありますよ。それ以外ですと、陛下の健康を損ねている理由がわかりませんと、どうにも」


 ですよねー。こればっかりは、今聞く訳にもいかないし。


「複数用意しておけばいいのではありませんか?」

「一つの地域に、違う効能の温泉がいくつも湧くもの?」

「問題ありません」


 本当かな。




 改めて、フロトマーロの地図を見る。当たり前だけれど、海岸線は一直線じゃない。


 ポルトゥムウルビスの辺りは陸側にへこんでいるし、その隣に当たるビーチも割と引っ込んでいる方だ。


 おかげで湾のような形になっているビーチは、外海の荒い波が入ってこない。穏やかで、子供でも遊べるビーチになっている。


 これから手に入れて開発を進めようと思っている西側も、陸側に入り込んだ大きな湾だ。船を停泊させる事を考えると、波は邪魔だからね。


「この辺り、何かある?」

「いえ、人も住んでいませんし、手つかずのまま放置されていますね」


 フロトマーロは、海側にあまり人が住んでいない。漁で食料を得られるんだから、住んでいても当然と思うけれど、そこはそれ、海岸線の地形に問題がある。ほとんど崖が続いてるんだよねー。そりゃ船を出しづらいわ。


 船が出せないという事は、漁で魚が捕れない。つまり、食糧確保が難しい。


 だから乾燥しているとわかっていても、内陸に住む以外手がないのか。


「それと、水の問題もあります。この辺りには、川がないので水の確保が難しいんです」

「え……じゃあ開発出来ないじゃない」

「地下深くまで掘れば、水はあります」


 つまり、フロトマーロでは技術が足りなくて掘削出来ないけれど、うちなら出来るという訳か。


 今のままなら人が住めない土地でも、デュバルが手を入れて人が住めるようになれば、フロトマーロとしても土地の売却金が手に入って万々歳、かな。




 土地の売買は、またしてもネスティにお願い。


「お任せ下さい」


 出来る女はやはり違う。今度細いフレームの眼鏡でも贈ろうかな。


 ネスティが着用しているのは、マダムの店と共同開発した女性用スーツ。まだスカートの丈が長いけれど、いつか膝丈まで縮めてやる。


 ポルトゥムウルビスに移動陣があるので、フロトマーロとの行き来は楽だ。もっとも、ポルトゥムウルビスからフロトマーロの王都までは、それなりの距離があるけれど。


 最初は馬車を使っていたんだけれど、今回からは車を導入。という訳で、これも移動陣で向こうへ送り込む事になった。


「それで、これ?」

「そう。ガルノバンからもらった車を元に作ってみました」


 実は元の車はニエールにバラッバラにされました。ちゃんと記録を取りながらだから、もう一回組み立て直したそうだけど。


 で、そこから得た技術を生かして、この車は出来ています。残念ながら、自動運転ではないけれど。


 いつの間にか、ネスティやネレイデスの一部が車の運転が出来るようになってたから、問題なし。フロトマーロに道交法はないもん。


 ちなみにこの車、未舗装の道を走るのに適しているクロスカントリー車。フロトマーロでは、道が悪いからこれの方がいいらしい。


 車と一緒にネスティ達を見送り、後は売買契約がうまく行く事を待つのみ。




 今度手に入れる土地は、ビーチリゾートではない。商業施設を置いた、観光地にする予定。


 となれば、観光の目玉が必要だ。


「何かないかな?」


 相変わらず、王都邸の執務室でリラと頭をひねる。今回は街を造るのが先だから、近場に何か観光スポットが欲しい。


「海の眺望はあるけれど、他にって事よね?」

「そう」


 何か、近場で見に行ける観光地があればいいんだけど。フロトマーロに文化的景観は期待していない。どちらかというと、自然景観だなあ。


 海はもちろんだけど、奇岩とか、滝とか。


「ネレイデスを派遣して、景勝地を探すかな……」

「乾燥地帯は乾燥地帯で、植栽とかオーゼリアにないものがありそうなんだけど……」

「問題は、貴族や富裕層がそういったものを見たがるか……だね」

「いっそ、そこに行けば海を廻る遊覧船のツアーに参加出来るっていうのは?」

「それはオプションだな。目玉にはならないと思う」

「駄目か……」


 リラが珍しくしょげてる。悪いアイデアじゃないんだけどね。


 でも、景勝地探しは割と大変かも。


「作りますか?」

「は?」


 カストルの一言に、私とリラの声が重なった。いや、そんなさらっと……って、島やら温泉やらを「作る」と簡単に言うカストルだ。景勝地くらい、お手のものなのかも。


 でも、いくら何でもかってに作るのは……


「そうよ! その手があったじゃない!」

「えええええ!? いいの!?」


 リラが乗り気だ! いつもなら、カストルの申し出に苦言を呈するのに。どうして今回だけ、こんな前向きなのよ?


「いいに決まってるでしょ!? 大体、何の景勝地も持たないフロトマーロが悪いのよ! だったら、これから手に入れる土地で景勝地を作って観光客をバンバン誘致しても、罰は当たらないわ!」

「そ、そうかな……」

「何消極的になってんの」


 いや、そういう訳ではないんだけど。いつも止めるリラが積極的だと、私が止める立場になるというかなんというか。


「西側の広い土地を手に入れますから、その中で山を作り滝を作りましょう。そこから流れる運河を整え、街全体を観光地とするのです。主様が以前仰っていた、てーまぱーく……ですか? それを造り上げましょう」


 乾燥したフロトマーロに、一大観光地。テーマパークって言ってるけど、どんなテーマにする気よ……

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