第434話 冬のお茶会
旅行から帰ってきて、まず立ち上げたのは旅行代理店。約束だったからね。
「本当に、戻ってすぐ作るとは……」
「いやあ、必要だよなって思ってさー」
今回の旅行で、さらに必要性を感じたので急ぎました。嘘です、やりたかったんです。
当初の予定通り、これから作る駅には必ず代理店の支店を置くようにして、駅周辺の景勝地を調べるようにした。
まだまだ国内にも、いい場所は残ってるはず。今までは馬車や馬、徒歩でしか行けなかったけれど、これからは列車が、そして車があります。
そう、車の量産にも何とかめどがついたらしい。最近ずっとニエールを見ないなあと思ったら、分室を中心にかかりきりになってたってさ。
珍しくもニエール本人が「燃え尽きた……」って言って、今は自室で寝っぱなしだとか。大分お疲れのご様子。
まあ、車の量産なんて本来ニエールがやる事じゃないからね。彼女の興味は新しい術式に常に向けられているから。
魔道具とか、それに関するものはおまけなんだよ。
ともかく、これだけ長引いたのには訳がある。私が自動運転にこだわったからなんだよね。ごめんニエール。
うちの自動運転は、カストルからの技術提供が中心となっている。さすがに考える頭を持つ車にはなっていないけれど、決められたルートを過不足なく走るようには出来ている……らしい。
私が旅行から帰ってすぐに試験運転が始められていて、今はネオポリスとパリアポリスの間を走行している。この二都市の間って、まだ鉄道も通ってないからね。丁度いい足になればなあと思って。
後は西側四つの新区画との行き来にも、使う予定。こちらはバスタイプの大型にして、定期運行を計画している。
周囲に何もなく、低速での運行だから事故も起こりにくいし、車という存在になれて貰うにはうってつけではないだろうか。
この先人口が増えれば、西側も開墾する必要が出てくるでしょう。それまでには、車があるのが普通の生活になるといいなあ。
鉄道事業は好調で、現在デュバルをハブ駅とした北路線と、ユルヴィルをハブ駅とした南路線で分かれている。
線路と共に駅の建築も進んでいて、デュバルの建築部門は再来年くらいまで予定が一杯だってさ。てか、いつの間に出来たの? 建築部門。
「建築会社が出来ていないだけ、マシだと思って」
リラがちょっと遠い目になりながら言ってた。
今まで人形遣い達をその時々で雇用していたんだけれど、部門を正式に立ち上げて通年雇用としたらしい。その方が効率がいいってさ。
働いている人形遣い達も、収入が安定すればモチベーションも上がるし、仕事への集中力も上がる。
通年雇用になった結果、領の仕事に携わっている人達と同様に雇用保険や健康保険、加えて危険な場所での作業が入る為労災保険も作ったって。
「各種社会保険は必要だからね。これで後は皆保険と年金を導入出来れば」
大事だよね、保険。まだオーゼリアにはその考え方がないけれど。おかげで雇用主の機嫌を損ねただけで、理不尽に解雇される世界だよ……
でも! デュバルはそんな事しません。解雇も、ちゃんと理由がないと出来ないようになってるし、労働者の権利は守ります。
とはいえ、それを労働者側が理解していないといけないんだよね……
「学校は作ったけれど、まだ基本の読み書き四則演算程度だもんな……」
「基本なんだから、そこをきっちりたたき込んでおかないと、次が理解出来ないでしょ? 大事な事よ」
リラの言葉に一理ある。そうだよね。いきなり全てを動かそうとしても、無理なんだ。時間をかけないといけないところは、じっくりやっていこう。
そんなこんなで仕事に忙殺されていたら、あっという間に年末ですよ。師匠も走る師走とは、よく言ったものだ。
そんな十二月のある日、シーラ様からお茶会に誘われた。場所はアスプザット王都邸。……ここなら、王妃様とバッティングする危険はないか。
「いや、あの王妃様なら『来ちゃった』しそうじゃない?」
「リラ、怖い事言わないで。てか、あんたも行くんだからね?」
「もう諦めてる」
諦めるのは早いよ! これからじゃないか!
お茶会当日。新作のドレスを着て、ご近所のアスプザット王都邸へ。ご近所なのに、歩きで行っちゃいけない不思議……
本日のドレスは、私が茶色ベースで、リラが深紅ベース。珍しくも、大きめフリルでちょっとゴージャスな感じ。
いや、マダムが「フリルが来てる!」って言ってたから。袖口や襟元に、レースやらフリルがたくさん。
ただ、さすがマダム。あまり甘めにならないよう、締めるところは締めている。ドレスに帽子、バッグに靴も全てマダムの店のもの。
アクセサリーは、以前ギンゼールでもらったダイヤをリメイクしている。デザインが気に入らない訳じゃないんだけど、毎度同じものを付けるのもね。
アスプザット王都邸は、相変わらずの場所だ。
「ようこそいらっしゃいました。レラ様、エヴリラ様」
アスプザット王都邸を任されている執事のヨフスが迎えに出て来た。私はもちろんの事、リラはヴィル様の妻だから扱いが身内だ。
案内されたのは、庭にある東屋。あれ……この時期に、ここでお茶会?
普通、外でのお茶会は、春先に行われる。年末の今は、室内が主流なんだけど……
通された東屋には、既に先客がいた。
「久しぶりね、レラ。ゾーセノット伯爵夫人も、元気にしていましたか?」
「……ご無沙汰いたしております、王妃陛下」
来ちゃったどころじゃなかったよー。ラスボス様と裏ボスシーラ様が待ち構えてましたー。
何とも胃の痛くなるような場だけれど、逃げる訳にもいかない。しかも今日のお茶会、この四人だけですか……
「本当なら庭でのお茶はもう季節外れなのだけれど、レラが作ってくれた魔法のおかげで問題なく過ごせるわね」
あー、エアコン魔法ですね。あれ、夏の暑さしのぎの為に作ったんだけれど、確かに冬の寒さ対策にもなるか。何せエアコンだし。
さてこのお茶会、和やかに……とはいかないようだ。シーラ様が初っぱなからぶちかましてくれた。
「コーニーから話は聞いたわ。あの子の婚家、大変なんですってね」
おおう。そこか。でも、確かに王都邸の使用人に関して、シーラ様を頼るといいと言ったのは私だ。
使用人の斡旋を頼んだら、当然その理由も聞かれるだろうし、シーラ様に聞かれたら話さないコーニーじゃない。
「ええと、あちらの事にシーラ様は……」
「関わらないわよ。いくら娘の嫁ぎ先とはいえ、他家の話ですからね」
こういうところ、きっぱり線を引くよね、シーラ様は。
「それに」
「それに?」
「あの程度の相手、御し得ない娘じゃないでしょう? コーニーは」
えー、実子に対する信頼……でいいんでしょうか。ちょっと遠い目になりそう。
「今はどんな状況か、ご存知なんですか?」
リラの質問に、シーラ様が鷹揚に答える。
「ええ。王都邸は綺麗にしたそうよ。使用人の口利きくらいなら、手を貸してもいいでしょう。今は全てアスプザットの者で固めているわ。執事も、領地に逃げ帰ったそうだから、向こうで一掃するんじゃないかしら」
わー。領地の義両親の元へ逃げ込んでも、そこは安住の地じゃないんですねー。てか、それが目的か。
「ちなみに、どんな手を使っているか、教えてもらう事は……」
ちょっと気になる。シーラ様直伝、敵の始末方法。
「別にいいけれど、基本的な事よ? 敵に勝つにはまず敵を知らないとね」
何だっけ。そんな言葉、なかったけか?
「敵を知る……」
おっと、リラも呟いているよ。
「この場合、敵は先代ネドン伯爵夫妻と、分家当主ね。まずは分家当主を洗い出すことから勧めておいたわ」
分家当主の弱みを握れ……と。そういや、ヴィル様も「手や口や足をもぐ」って言ってたっけ。この場合、手足が分家かな。
コーニーの事だから、失敗はすまい。結果が聞こえてくるのを待とう。
「ネドン夫人も、大変ねえ」
おっと、今までおとなしかった王妃様が、話に参戦だ。何が来るか、ちょっと身構えておこう。
「姑問題は、どこも抱えているものかと思いますわ」
「そうねえ。私も、人の事は言えないもの」
え。そういや、王妃様も姑の立場だわ。ロア様、大丈夫かな。
「レラ、あなた今、ロアが可哀想とか、思わなかった?」
「い、いいえええ?」
「本当かしら。姑っていうのはね、先代王妃の事よ、今は王太后として、離宮にいらっしゃるわ」
あ、王妃様のお姑様か。いや、こんな王家の話、私が聞いていいの?
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