第425話 馬鹿共の後始末

 生け贄共をそのままの状態で黒耀騎士団に突き出し、店の掃除を魔法で一瞬で終わらせる。


 もっとも、商品保護の為に結界を張っておいたから、掃除も楽だったみたい。ここまでは全部ポルックスが終わらせてくれた。後始末は完璧だね。


 全て終わった後、店の子達に「もう大丈夫」と伝えて安心させ、今日はもう店を閉めて宿舎に帰るよう伝える。


 店で働いてくれてる子達には、王都の大きめの家を用意していて、食と住はこちら持ちにしている。家事は持ち回りでやっているってさ。


 オケアニスを入れるなら、宿舎の方かな。


 そんな事を考えつつ、リラと何とも言えない空気を抱えながら、来た時同様歩きで王都邸に戻った。


 妙に疲れた私達を玄関ホールで待ち構えていたのは、怒れるヴィル様とユーイン。


 あれー? 何で二人ともこんな時間に帰宅してるのかなー?



 玄関ホールから居間に移動し、ヴィル様からお小言をくらう。今日の事、どこから漏れたんだと思ったら、黒耀騎士団でしたー。ユーインの古巣だよ。


「二度とやるなとは言わない。せめて、事前に報告だけでもしておけ。殿下から話を聞いたこっちは、肝を潰すところだったぞ」

「まことに申し訳ございません……」


 リラと一緒に頭を下げた。心配掛けるつもりはなかったんだよー。本当だよ?


 ただ、とんでもな連中がいる事や、ルミラ夫人が狙われるかもと思ったら、いてもたってもいられなくて。


 その辺りはつらつら話したら、ヴィル様から重い溜息が聞こえてきた。


「現場は酷い有様だったようだな。掃除は終わったのか?」

「あ、はい。もともと嵌める予定だったから、店内は丸ごと結界で覆って、連中が動ける範囲を限定しておいたから、問題ないです」


 そうでなかったら、大変だったでしょうよ。ついでに、店の外からも覗けないようにしておいたからね。


 騎士団に連行される際は、店にあった古布を被せておいた。そのまま店の前から黒耀騎士団の連行用馬車に乗せたら、何があったかと周囲に思われかねないもん。


 今頃レフェルア達が、騒動の顛末をねじ曲げて周囲に触れ回ってくれてるはず。物盗りに入られたけれど、店の防犯用魔道具で撃退出来ましたーとかなんとか。


 まさか店内で八人の野郎共が代わる代わるあんな事やこんな事を仲間にされていたなんて、言えないからね。


 胸を張って言ったら、またしても深い溜息が。あ、今度はユーインまで一緒に。


「ともかく、今回捕まった連中からは、色々と聞き出さないとならないな」

「あ、でしたら自白魔法を使ってください。他にも犠牲者がいる可能性があります」

「わかっている。殿下が手配済みだ」


 おお、さすが仕事が出来る王太子殿下。それにしても、今回の生け贄って、どれも一応貴族家の子息だよね?


 貴族相手って、自白魔法を使うのに面倒な手続きが必要だったんじゃ……


「そうそう、連中の実家からは、こちらから子息がお前の店で不埒な行いをして捕まったと報せたんだが、どの家もその場で絶縁状を書いたそうだ」


 おうふ。実家からも見捨てられたか。


 そりゃそうか。おそらく、実家の方には連中が何をやって捕まったか、詳細な話が伝わっただろうし、そんな事を侯爵家が関わる店でやったとなったら、どんな醜聞になるか知れやしない。


 息子の一人や二人、さっさと切り捨てるだろうよ。


 薄情と思うなかれ。領地持ちの貴族の場合、これは正しい判断と言えるから。


 領主は領民の生活に対して責任がある。そうした立場の家に生まれながら、責任について何も考えなかった結果が今回の事件だからね。


 領主として正しい親であればある程、絶縁状を書くだろうよ。


 まあ、家より「自分」に被害が及ばないように切り捨てた当主も、いるだろうけれどね。


「絶縁状が出たという事は?」


 私の確認の言葉に続く内容は、軽く頷いたヴィル様の口から語られた。


「既にあの連中は貴族ではない。よって、自白魔法を使うのに支障は何もないという訳だ」


 わー。貴族世界って厳しー。


 でも、これで余罪が出てくるだろうし、他にも似たような事件を考えていた、もしくは過去にやった連中も芋づる式に捕まえられるだろう。


 頑張れ、黒耀騎士団。



 結果は、なんと翌日に出た。騎士団が頑張って夜通し尋問したってよ。


 おかげで、紳士クラブが三つ、潰されたそうな。そこに所属していた連中も、十人以上が捕縛されたという。


 中には捕縛を免れた連中もいたそうだけど、性犯罪者予備軍だったそうで、今回の騒動で恐れをなし、王都を後にしたそうな。


 最後の方は、カストル経由のポルックスからの報告。


「予備軍がこのまま予備軍でいればいいけれど」


 王都邸の執務室にて、書類と格闘中にカストルからあれこれの報告を受けた。


「大丈夫だと思いますよ。ポルックスが何やらしていましたから」


 また? てかカストル、知っていたなら止めなさいよ。


「今回ばかりは、止めなくともよろしいかと。犯罪者が減るのですから、犠牲者も減ります。泣き寝入りするしかないお嬢さん方がいなくなるのは、喜ばしい事ではありませんか?」


 うぬう。そう言われると、反論出来ない。リラも、珍しくカストル達の暴走に何も言わないらしい。


 ちらりと見ると、溜息を吐かれた。


「先走ってあれこれやるのはどうかと思うけれど、今回はあんたが先にやらかしたものだからね。ポルックスのは、言ってみればおまけのようなものでしょう」

「えー?」

「ポルックスを止めたければ、まず自分の暴走癖を直しましょう」


 そんなに、暴走してる? カストルをちらりと見たら、軽く頷かれた。


 そうか……私は暴走してるのか……


「よし、じゃあ普通の貴族夫人らしく、執務をやめてお茶会にでも――」

「それは駄目。とっとと終わらせなさい。旅行は目の前なのよ?」


 おかしくね?


 目の前にうずたかく積まれた書類達も、私の暴走の結果なのだからしっかり決裁しろ。リラにそう言われて、またしても執務机に縛り付けられた。


 おかしい。私はちょっと思いつきを口走って、それが仕事になっただけなのに。


「……常々思うんだけど、あんたは自分が領主って立場にいる事、ちゃんと自覚してる?」

「えーと……」

「領主は思いつきを口にしちゃ駄目。あんたの周りはワーカホリックが多いんだから、面白そうだと思ったら食いつくに決まってるでしょ? ワーカホリックに餌を与えない。今のあんたが一番やらなきゃいけないのは、そこ」

「そのワーカホリックの中には、リラも含まれてると思うんですけどー」

「否定はしないわよ。私は自覚しているから」


 何も返せない。悔しー。


「ともかく、その書類の山はあんたがやらかしてきたツケだから。ちゃんと自分で支払いましょうね?」


 ううう、過去に戻れたら、不用意にアイデアを口にするなって自分を叱るのにー。


 転生は出来るのに、過去に戻る事が出来ないって、何かどこかバグってない? この世界。




 捕縛された連中は、自白魔法を使われた後、犯罪者として裁かれる。その結果、我が領の穴掘り要員に決定したそうです。


 うち、犯罪者の押しつけ先にされてない?


「我が領ではいい労働力に出来ますから、問題ありませんよ」

「……危ない術式を使ったり、してないでしょうね?」

「ご安心ください。労働者の負担になるような事は、一切しておりません」


 ならいいか。


 ちなみに、うちは犯罪被害者の送りつけ先とも目されている。


「今回うちに送られてくる連中の、被害にあった人達?」


 私の言葉に、書類を見ながらリラが答えた。


「そうみたい。女性ばかり六十人近くいるんですけど」

「そんなに!?」


 あいつら、どんだけだ。


 聞けば、貴族の娘はごく一部で、大抵は彼等をフッた女性がいる家の使用人だそうな。


 下は当時十三歳から上は当時三十六歳まで。幅が広い。


「既婚者は、それが原因で離縁までいってるって」


 リラが気の毒そうに伝えてくる。何てこった。


「許すまじ。カストル、今回の連中は特に厳しい現場に配属して」

「承知いたしました」


 これから死ぬまで、重労働にあえぐがいい。自らの行いを反省……なんてする連中じゃないから、せいぜい苦労すればいいのだ。


「それと、わかってると思うけれど、加害者共は被害者達の半径百メートル以内に入らせないように」

「心得ております。今回の連中は全てギンゼールに送りますから、顔を合わせる事すらないでしょう」


 さすがカストル。わかってるう。うちから一番遠い現場がギンゼールだ。あそこで穴を掘る作業をしていたら、領内で過ごす予定の被害者達とは会うどころかすれ違う事すらないでしょう。


「それで、被害者達はどうするの?」

「全員貴族の邸での勤務経験があるから、人と関わる事が少ないヴェッキオ館で働いてもらおうかと思って」


 なるほど。ヴェッキオ館も維持管理しないと荒れ果てちゃうからね。どうしても人は置いておかないとならない。


 でも、現状ネレイデスとオケアニスくらいしか人手を割けないんだよね。


 今回来る人員で問題なく維持出来るのなら、それでいいか。


「後、飛び地に建設予定の別荘にも、出来るだけ配置したいわ」

「へ? そんなの作るの?」


 聞いてませんが? いつ決まったの? 首を傾げたら、リラが溜息を吐いた。


「さすがに農家が一軒程度の狭い場所ならいざ知らず、村がいくつかとか街があるような飛び地には代官邸なり当主の別荘は必要なのよ」

「そうなんだ。じゃあ、その維持管理要員?」

「そう。飛び地も、観光地にしない限り人と顔を合わせる機会が少ないから」


 まあ、ネオヴェネチアのような場所でもない限り、のんびりした田舎って感じだもんね、どこの飛び地も。


 ネオヴェネチアの場合は、これから賑やかにしていくんだけど。


「とりあえず、被害者達が到着したら、まずは魔法治療かな」

「そうね……それで、立ち直ってくれるといいんだけれど」


 今回うちに来る被害者の中には、被害にあってから邸どころか自室からも出てこられない人も多いんだとか。


 お嬢様ならそれでもいいけれど、メイドとなると厄介だ。それもあって、うちに押しつけ……引き取らせようというのかもね。

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