第424話 廻る廻る
具体的な描写はありませんが、一部同性愛を想起させる箇所があります。苦手な方は即バック推奨。
**************************************
ポルックスの爆弾発言に驚いたけれど、やる事は一緒だ。気を取り直して、商業地区へ行こうか。
「何か、またカストルと念話で会話していた?」
隣を歩くリラが、こちらを見ずに確認してきた。てか、バレてるー。
「残念。相手はポルックスです」
「あいつか……カストルよりもヤバいじゃん」
リラも外では珍しく言葉が乱れているね。そしてポルックス、ヤバい奴認定だったのか。
それも納得かな。カストルもヤバいところがあるけれど、ポルックスはその斜め上をいく。
『えー? そんなー』
褒めてないから。
『ちぇー。あ、後ろと通りを挟んだ向こう側の奴らは、店に到着するまで手を出さないようにしておきましたー』
うん、助か……ってるのかなあ。凄い微妙。
どこかでポルックスが「がーん」って言ってた。
商業地区は、王都の西側に広がる地区で、貴族向けから庶民向けまで幅広い店が建ち並ぶ。
地区の中央に広場があって、そこに面した店は高級店、そこから走る路地にあるのは比較的リーズナブルのお店と住み分けられていた。
高級店もいいんだけど、路地の店は個性があってとても面白い。以前、アスプザットの兄妹と歩いた事があったなあ。その後コーニーと二人で来た事もあったけど。
今日は広場と路地の際にある、デュバルの店「アンテナショップ」が目的地だ。ちょうど、王宮のある王都の東側から広場へ入ると、広場の西側に延びる路地の一本の入り口付近に店がある。
さて、生け贄共はちゃんと付いてきてるかな?
『周囲から認識されないよう結界を張って、移動させてまーす』
変なところで至れり尽くせりだね。まあ、折角ならちゃんと犯罪未遂のところを現行犯逮捕したいから、いっか。
ここで逃すと、他の人に被害が行きかねない。私なら、魔法で対処可能だけれど、他の女性もそうとは限らないもん。
『まー、確実に主様みたいな女性はいないよねー』
いちいち反応せんでよろしい。
広場は今日も人が多い。買い物をしない人でも来てるしね。広場は中央に大きな噴水があり、これが王都の名物に一つになっているそうだ。
私達は広場を通り、噴水の側を抜けて反対側の路地入り口へ向かう。
「いつ見ても大きいよねえ、この噴水」
「作られたのが百年以上前だっていうんだから、凄いわよねえ」
彫刻が施された縦にも横にも大きな噴水を横目に、広場を歩いた。生け贄共は、無事後を付けているらしい。
それにしても、周囲から認識されていないって、気付かないもんかねえ?
『既に思考誘導済みでーす』
ああ、そう……
アンテナショップは盛況だった。
「おお、客の入りはいいね」
「そうね。商売繁盛はいい事だわ」
リラも嬉しそうだ。ここの売り上げって、ロエナ商会にも入るけれど、直接領に入ってくる分もあるから。
店に顔を出したら、店長のレフェルアがすぐに出てきた。
「いらっしゃいませ、ご当主様」
「ごきげんよう。ちょっと視察に来ました」
「抜き打ち視察……ですね。どうぞ、ご自由にご覧になってください」
「ありがとう。あ、あなた達はいつも通りに仕事をしていてね」
「ありがとうございます」
挨拶終了。ネレイデスはともかく、デュバル領からこの店に来ている子達は、手を止めて深く一礼をしてくる。
それらにも、手を止めなくていいと伝えて、奥へと向かった。店は奥に長いタイプの店舗で、奥には各種予約カウンターがある。
カウンターにいるのはネレイデス。こちらにはポルックスから通達が行っているのか、無言で軽く頷く程度だ。
本日の予約カウンターに人はいない。これ幸いとカウンター前にある椅子に腰を下ろす。カウンターに向かっていれば、予約の相談をしているように見えるだろう。
『主様ー。そろそろ生け贄をそちらに向かわせようかと思うんだけど、いい?』
とうとうポルックスまで生け贄呼ばわりになったよ? それはともかく、今は駄目。店内にまだ客が多いから。
『了解でーす。んじゃ、生け贄共はその場で待機させておくねー』
……何だろう? そんなはずはないのに、生け贄の黒幕がポルックスのように思えてきた。何というか、マッチポンプ?
『そんな事ないですよう。連中、主様を襲おうと自主的に計画してたんですからー。僕がやったのは、途中から奴らの行動を主様に都合がいいようにコントロールしただけでーす。大本の襲撃計画……と言える程精密なものじゃないけれど、ともかく襲おうと考えたのは連中自身だよ』
最後だけ、いつもと違うトーンだ。まあ彼等は主至上主義らしいから、私が不利益を被るのを凄く嫌うんだよね。
今回の襲撃も、彼等が嫌う「不利益」だ。
ともかく、客を外に出してから、連中が店に入るように仕向けて。あ、店の棚や商品は結界で保護しておかなきゃ。
『そっちも僕がやっておくねー。じゃあ、お客様にはちょーっと退店してもらいましょうか』
ポルックスからの念話が終わるや否や、店先で品を見ていた人達が、ふいっと店の外へ向かう。
「……何か、した?」
リラ、鋭い。
「ポルックスが」
「うわ」
リラが怖いものを聞いたような顔をしてる。わかるわー。怖いよね、あいつらのやる事って。
『主様が酷いー』
酷くないよ。
客の思考も誘導して店から出して店内を空っぽに。さすがに領民の店員達は異様な状況に何が起こったのかと首を傾げ合っている。
「レフェルア、彼女達を連れて店の奥へ」
「わ、わかりました」
「ネレイデスも奥へ行くように」
「かしこまりました」
ここにいるネレイデスはレフェルアの命令に従うようにしてあるけれど、私がいると上位者からの命令を優先的に受け付けるそうな。
なので、スムーズな避難が出来るよう、私から命令を出しておいた。
店内から店員が消えて、しんと静まりかえる。
「リラも奥に行ってる?」
「私はこれがあるからいいわ」
リラの左腕には、ちょっと幅が広い腕輪があった。機能盛り盛りの魔道具でございます。主に装着者の身を守る為の術式がてんこ盛りだ。
確かに、これがあれば生け贄共からの攻撃があったとしても、無傷でいられるでしょう。
でも、目の前であれこれあると、心に傷が出来るよ?
「あんたの側で振り回されてきたから、それなりに耐性が出来てるわよ」
「……酷くね?」
「事実です」
そんなに振り回したっけ?
「主様ー、そろそろ生け贄達を店に入れてもいいー?」
「うお! え? どこから声が聞こえてくるの?」
何か、また新しい魔法でも考えついたのかな。後でしっかり聞いておかなきゃ。
「これ、ポルックス? というか、生け贄って聞こえたんだけど、私の聞き間違い?」
ええと、聞き間違いじゃないんだけど。
「それと主様ー。今回、ちょっと面白い趣向を思いついたので、実験していいー?」
「実験って!? まさかまた危ない事を――」
「んー、ある意味アブナイ事? あ、でも主様達には指一本触れさせないから、安心して」
「いや、何させるつもりよ?」
「え? ナニ?」
思わずリラと顔を見合わせる。今のニュアンスって……
「あいつ、今回は何をやらかすつもりなのよ? それに、生け贄って何?」
「ええと……前に話していた紳士らしくない紳士クラブの連中が、今日私を襲おうとこの店まで来てる……らしい」
「はあ? そいつら馬鹿なの?」
「馬鹿だよ。そうでなければ、フラれたくらいで相手を襲おうとか思わないでしょう。しかも、私はフッた当人ですらないのに」
多分だけど、ルミラ夫人にフラれた腹いせに、彼女の雇い主である私を襲い、それをルミラ夫人のせいだとしたかったんでしょう。
本当、馬鹿だ。
「それで? ポルックスはどんな実験をしようとしてる訳?」
「いや、それは私もわかんない」
本当、何をするつもりよ。
「割と単純な方法なんだけどー、主様達は見ない方がいいかもー。エグいよ?」
いや待て。見ない方がいいというほどエグい事をやろうとしているの!?
「大丈夫。ヤるのもヤられるのも連中だけだから!」
「は? それ、どういう――」
「わかった! 私達も奥へ行くわよ!!」
言うが早いか、リラは私の手を取って店の奥、バックヤードへと駆け込んだ。
全部終わってから聞いた事だけれど、店に入り込んだ男達の数は全部で八人。その全員が……その……ヤってヤられて……って状況だったらしい。
「いやあ、思考誘導と幻影を並列で使うと、相手に都合のいい幻覚を見せて操れるってわかりましたー。これからの穴掘りが捗るかもー」
ちなみに、一部始終は店の防犯カメラに録画されてました。こんなきちゃない映像、残したくないいいいいい。
「いや、いい脅し……んん! 証拠だから、消しちゃ駄目」
「エヴリラ様、わかってるう」
「黙りなさい」
ああ、リラがポルックス側に行っちゃってるー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます