第421話 先にやられると何となく……
ジルベイラの結婚式は、デュバル新都ネオポリスに作った聖堂、ツフソーナ聖堂で行われる。
実はここを作ってから、今回が初めての結婚式だってさー。
今回、盛大に泣いたのは私ではない。
「ううう、凄く綺麗ですジルベイラ様ああああ」
ツニだ。彼女が式開始からわんわん泣くので、こっちの涙が引っ込んだくらい。
まあ、ツニにとっては子供の頃から憧れたお姉さんだもんね。そりゃ泣くわ。
またジルベイラの婚礼衣装姿が本当に綺麗でね。元々顔立ちもスタイルもいい人だから、本気で装うとまあ凄い。
そこらの貴族夫人なんぞ、裸足で逃げるね。
結婚相手が元黒耀騎士団の部隊長を務めた人だから、王都からも元同僚やら部下やらがお祝いに駆けつけている。鉄道、通しておいてよかった。
黒耀騎士団にいるって事は、最低でも騎士爵の爵位を持つ家の人間って事だからね。しかも、デュバルユルヴィル線には高位貴族向けの一等車両だけでなく、二等車両も導入している。
どちらも個室なんだけど、一等は一室の値段で、二等は座席ごとの値段。個室の中で、見知らぬ人同士が相乗りする事もあるって訳。
今回は、殆どこの結婚式に参列する黒耀騎士団で埋まったみたいだけど。いや、本当にどんだけ来たんだ騎士団。
これも、花婿であるゼードニヴァン子爵の人徳かもね。
そうそう、子爵のご家族はデュバルでご招待している。式の後は、温泉街で家族団らんを過ごしてもらう予定。
あ、新婚さん達は、ちゃんと星深庵で過ごすけどね。他のご家族はホテルの方にご滞在でーす。
結婚祝賀舞踏会は、ヌオーヴォ館で開催。これにはジルベイラだけでなく、ゼードニヴァン子爵も恐縮していたけれど、押し通した。
「この先、我が家で働く他の人達も結婚するでしょう。その時、ここをあなた達が使ったという前例があれば、使いやすくなるんじゃない?」
あの時の二人の顔は、ずっと忘れないだろうなあ。まあ、最後には領主権限で押し通したんですが。
その舞踏会会場となったヌオーヴォ館の大広間では、新婚さん達が黒耀騎士団に囲まれている。
「大手柄ですね! 隊長! こんな美人を嫁さんにもらうなんて!」
「おいおい、もう隊長じゃないだろうが」
「いやあ、俺等にとっては今でも隊長ですよ」
「それにしても、デュバルって初めてきましたが、いいところですねえ。私も騎士団を辞めてこちらに移り住みたいくらいです」
「はっはっは、そうか。今なら警備の仕事があるぞ」
「その時は、どうぞよしなにお願いします」
あれー? 何か妙な話が聞こえてくるぞー? 気のせいかなあ?
「……ユーイン、黒耀騎士団って、退団率が高いの?」
「体力勝負の仕事ではあるから、平の団員は年齢で退団する事が多いな」
なるほど。さっきデュバルに来たいって言ってたのは、多分子爵以下の身分だな。ゼードニヴァン子爵自身、騎士団にいてももう出世出来ないって感じてうちに来たんだし。
優秀な人材でしたら、歓迎しますよー。
結婚ラッシュも終わり、夏のイベントラッシュも同時に終了。次はクルーズ船でのビーチリゾートだ!
ヌオーヴォ館の執務室で、書類仕事の合間に水着のデザインを考える。
今回は男性用も作らないとね。短パンスタイルでいっか。男性のは簡単でいいなあ。
女子は普通にビキニ……といきたいところだけれど、他の人は露出の問題で、私は胸の問題でちょっとね。あれはたわわでないと厳しい。
タンクトップに短パンタイプで行くか? もしくは、普通のミニスカワンピタイプ……
温泉に入る際にあれこれ作ってみたし、トリヨンサークに行く時も作った水着があるけれど、ビーチには不向きなデザインなんだよねー。
ここはやはり、周囲の目がないと説得して、ジルベイラにもコーニーにもミニスカワンピタイプの水着を着せるか。
あの二人ならビキニもいけるスタイルだけれど、いきなりは厳しかろう。
「……何やってんの?」
リラに怪訝な顔で聞かれた。
「水着のデザインを考えてるの! ほら、もうじきビーチリゾートに行くじゃない? やっぱり水着は必要かなって思って。こんな感じのを作ろうかと思ってるんだけど、どうかな?」
「……それはいいけれど、ちゃんと仕事はしなさいよ? でないと、船まで書類が追っかけてくるからね?」
おおう、何て怖い事を言うんだリラは!
「ちゃんとやるよ。てか、やってるよ」
「ならいいけれど。これ、マダムの店に注文するの?」
「いや? さすがにマダムのところでは水着の作成までは引き受けてないし」
何せ水着だから、素材からして普通の生地とは違うからね。
「じゃあどうやって――」
「ご心配には及びません、エヴリラ様」
「うわあああ!」
あ、ネスティ。いきなり入ってくるのはよくないよ? ノックくらいはしようね? ほら、リラが驚いてるじゃない。
「申し訳ございません。以後気を付けます」
「うん、よろしくね」
ちゃんと謝れるネスティは、仕事が出来る子です。
大分驚いたらしいリラは、胸元を手で押さえてる。大丈夫? 動悸が激しくなっちゃったかな? 回復魔法、いる?
「あー、びっくりした。てか、心配いらないって、どういう事?」
「皆様の水着は、ネレイデスが作ります」
「はい?」
あれ、リラが固まっちゃった。
ネレイデスは各所に配置されているだけでなく、ヌオーヴォ館にも数人待機している。
彼女達は総じて人形操作に優れていて、簡単な魔法なら使える存在。しかも、上位存在であるカストル達から知識を得ているそうで、身体的、魔法的な事以外ならカストル達と同等の事が出来るそうな。
「もちろん私が人形を使って水着を作る事も出来ますが」
「いや、ネスティには他の仕事を頼むから」
そんな才能の無駄遣いはさせません。
私の言葉に、ネスティはちょっと乾いた笑いを浮かべた。
「……という訳ですので、ネレイデスに作らせます」
「そうなのね……悪いけど、頼むわ」
「お任せを」
ネスティは一礼すると、書類を置き私が描いたド下手なデザイン画……とも言えない落書きを持って、執務室を後にした。
「……リラ、随分ネスティと仲がいいんだね?」
「仕事仲間だからね」
そうなんだー。
王太子殿下から紹介された果物栽培が得意な人材、本当なら別口でフロトマーロに連れて行く予定だったそうだけど、前倒しにして私達の旅行の時、一緒に連れて行く事にした。
だって、一刻も早くフルーツを作ってほしい!
フルーツ採取に向かわせたネレイデスは順調に種や苗を手に入れ、現地の気候や土壌を調べて生育環境をまとめてくれている。
それらをフロトマーロ用に品種改良して、安定供給が出来るようにしたい。
それらをヌオーヴォ館の執務室でリラと、ちょうど報告に来ていたヤールシオールを捕まえて説明してみた。
「だから早めに連れていこうと思います」
「いいんじゃない? フロトマーロでの果物栽培が軌道に乗れば、色々と商売も広がるだろうし」
「ええ、本当に楽しみですわ!」
リラだけでなく、ヤールシオールもやる気に満ちている。
フルーツの加工品を売ろうと思ってるそうだからね。オーゼリアには、最近缶詰技術が入ってきた。
持ち込んだのは、ガルノバン。もちろん、デュバル経由でございます。
魚や肉の缶詰が主流で、ちょっと手を入れるだけで今日の晩ご飯が簡単に出来上がります、と宣伝したら、王都の商業地区にあるうちの店でかなりのヒット商品になった。
それで、うちでも独自の缶詰商品を! とヤールシオールが張り切りだしたんだ。
で、果物のシロップ漬けを缶詰にしてはどうか? と提案してみた。桃とかミカンとかパインとか、おいしいよね。
もちろん、缶詰に向かない果物も多いけれど、そこは別の加工品にして作るのも手だ。
そんな訳で、現在ヤールシオールの中でフルーツ需要が高まりつつある。
「トレスヴィラジの果樹園では、食べられる果実を収穫出来るようになるまでまだかかりますからねえ」
あちらも順調ではあるんだが、収穫までには至らないんだよね。もうちょっと時間が掛かると思う。
『一気に生育を進めますか?』
進めません。てか、カストル今どこにいるの?
『フロトマーロのビーチリゾートに来ています。最終確認です』
ああ、そうなんだ。何か気になるところはあった?
『……いえ、特に、何も』
今の間は何!? 何かあるなら、早めに言って!
『大丈夫です。問題ありません』
本当かな……
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