第419話 イベントが目白押し

 コーニーの結婚祝賀舞踏会のドレスも、素敵だった。いつもより一段濃い目の緑のドレスに、所々黒を取り入れて、刺繍は銀糸で統一。


 式のドレスとは違い、スカートは緩いAライン。肩はオフショルダーでレース飾りが付いている。


 シンプルに見えるけれど、手の込んだ刺繍やら仕立てで、わかる人にはわかる一品。


 髪飾りは、魔の森で一緒に採取した金真珠。やっぱりコーニーにはあの色がよく似合う。


 私とリラは、形はシンプルなAライン。色は私が深いブルーでリラがグリーン。刺繍は今回入れなかったけれど、その分レースは生地より一段濃い色でそれぞれ入れている。


 レースが多くても甘くならないのは、細かいものを使っているからじゃないかなあ。大ぶりのレースは、もっと若い女子に任せる。


 会場には、ネドン家の両親の姿はなかった。もう一掃したのかな?

 



 リラ達にも提供した温泉街の星深庵特別棟。それをコーニー達にも十日間プレゼント。


 殿下からは「十日も側近を取り上げる気か」って笑われたけれど、気にしない。この後、秋には船旅で二十日くらい留守にしますよー。まだ内緒だけど。


 コーニー達がのんびり過ごしている間にも、私はやる事が多い。何せ今月は私の誕生日があるのだ。


 ヌオーヴォ館でのバースデーパーティーはもう手慣れたものだけど、やっぱり準備は面倒臭い。ルミラ夫人、お手数おかけします。


「構いませんよ。お祝い事ですからね」


 そう言って笑顔で準備を調えていく夫人には、本当に頭が上がらない。




 バースデーパーティーを数日後に控えて、カストルから連絡が入った。


「ビーチの整備が完了しました。合わせて、港街も最低限は稼働可能です」

「おお!」


 ビーチの方はちょっとだけ不具合が発生したそうで、その分整備が遅れたそう。


 不具合とは。


「まさか、レズヌンドが攻めてくるとはねえ」


 しかも、海から。タンクス伯爵が整備した港から、船を出したらしい。こんな事なら、あの港爆破しておくんだったな。


「今からやりますか?」

「いや、いいよ。それで? レズヌンド側はどうなったの?」

「港街の方で地元住民が入り込む騒動があった後、オケアニスとヒーローズを二人ずつ派遣しておきましたので、彼等が処理しました」


 待って。レズヌンドからどんだけの船が来たのか知らないけれど、たった四人で処理? 処理って何!?


「詳細を、報告しますか?」

「いいです」


 何か、聞きたくない……


 ともかく、旅行先のビーチリゾートは無事完成。港も半分くらいは出来上がったらしい。次はフルーツ栽培だ!


 とはいえ、人員は旅行が終わらないと手に入らない。ああ、早く秋にならないかなあ。


「その前に、あんたのバースデーパーティと狩猟祭が控えてるわよ」

「そうでした」


 リラの言葉で現実に引き戻される。これからイベント目白押しだからね。狩猟祭の後はジルベイラの結婚式と三組の新婚旅行だよ。


 あ、私は視察旅行という名の書類仕事サボりです。




 バースデーパーティーの二日前に、セブニア夫人が滞在する湯治用別荘が完成。セブニア夫人と共に、ツイーニア嬢が移り住んだ。


 同行したのは医療部のネレイデス二名、護衛にオケアニス二名とヒーローズ二名。


 護衛がたった四名かと思いそうだけれど、フロトマーロでは四人でレズヌンドの武装船団沈めたんだぜ? どんだけだよ……


 うん、処理って、そのまま沈めた事らしい。生存者については、聞かない事にした。


 ビーチ沖で沈まれても嫌なので、沖の方まで持っていったってさ。どうやってとか、聞かない。聞かないったら聞かないのだ。


 湯治用別荘、二人が入ったのはオーソドックスなオーゼリアの建築様式を使ってるって。映像で見せてもらったけれど、無難な感じ。


 もちろん柵や外壁には防御用のあれこれを仕掛けてあるけれど。見た目は王都でよく見るような、ちょっと大きめな建物。


 温泉は地下にあって、男女で分かれた大浴場だけでなく、個別で入れる貸し切り浴場もあるそうな。


 大浴場には、大きな浴槽だけでなく、冷浴層、サウナ室、打たせ湯、ジェットバスなどがあるって。……温泉宿か、スーパー銭湯かな?


 それに加えて、何故かオケアニスがマッサージの技術も習得しているらしく、至れり尽くせり。スパかな?


「セブニア夫人は大分お疲れですから、湯治でしっかり英気を養ってもらいましょう」


 そーですね。湯治だけでなく、魔法治療も継続するそうな。ついでに、同行するツイーニア嬢にも。


 今は二人が落ち着く事を祈っておきましょう。




 バースデーパーティーは、今年も盛況だ。いただいたプレゼントの山も

凄い事になっている。


 これ、後で全部お礼状書いて、贈ってきた人達関連のイベントには、こちらからも相応の品を贈らないとならない。


 名簿管理とか、贈る品の用意とかはリラやヤールシオールがやってくれるからいいけれど、それでも最終的に決めるのは私だ。大変。


 とはいえ、最近は陶器が人気なので、それを贈ると大抵喜ばれる。ありがたい。


 ヤールシオールによれば、最近の人気は陶器の人形だそうな。リラ達に贈ったのが、知られたのかな。


 あれは職人が一体一体作っているので、厳密には同じものが存在しない。似たようなデザインのものは、あるけれど。


 そういう意味でも、貴族向けかもね。


 さて、今年のドレスはちょっとこれまでとは違うタイプ。上は体のラインにフィットしているのはいつも通りだけど、スカートを広げてるんだー。


 しかも花びらみたいにしているので、とても綺麗。色も今まで私はあまり使わなかった深紅にしてみた。何かゴージャスー。


 胸元はいつも通り、レースで嵩増し。


 パリュールは、金にダイヤモンド。まだ以前ギンゼールからもらってきた石を使い切ってないというね……どんだけくれたんだか。


 ちなみに、リラとはドレスを合わせていない。もう違う家の奥様だからさー。


 彼女のドレスは若草色。本当はもうちょっと若い女子向けの色なんだけど、リラもまだ二十代、十分いける。


 私のドレスはスカートの形が独特だから刺繍は入れていない。リラの方は普通のAラインだから、全体的に刺繍がたくさん。その代わり、レースがほぼなし。


 挨拶で色々な人が来るけれど、やっぱり最初は派閥の序列上位の家からだね。


「また一つ年を取ったな」


 ゾクバル侯爵、余計な事を。


「やだねえ、優雅さのない男は。デュバル侯爵、誕生日おめでとう。ところで、何やら面白そうな別荘を建てたと小耳に挟んだのだけれど」


 うお! ラビゼイ侯爵、本当に食いついてきた!


「……余所のお宅の別荘まで建てる余裕はありませんよ?」

「そう言わずに」

「王太子殿下からいただいた飛び地に建てたものですからー」

「う」


 ラビゼイ侯爵も、王家の名には反論出来ないらしい。よかった。


「まったくお前ときたら。温泉街でも、通年で部屋を押さえようとして騒動を起こしたって聞いたぞ?」


 なぬ!? それ本当ですかゾクバル侯爵。私、聞いてないんだけど!?


「温泉は妻の肌にいいからね。愛しい妻がさらに美しくなるなんて、最高じゃないか」

「だからってやり過ぎた。だからデュバルのにもこんだけ引かれるんだよ」

「そんな事ないよ。ねえ?」

「いえ、引いてます。というか、温泉街で騒動って何ですか? 私、聞いてませんけど?」


 ジト目で聞き返したら、ラビゼイ侯爵の目が泳いだ。この人相手は、引いちゃ駄目だね。強気で押していかないと。


「いや、それはほら……ねえ?」


 何が「ねえ?」だ。可愛い女の子がやるならまだしも、おっさんがやっても可愛げなんぞありませんよ。


 ここらで、しっかり釘を刺しておいた方がいいかも。


「あまり『おいた』をなさると、温泉街、出禁にしますよ?」

「何だい? そのできん……というのは」

「出入り禁止。つまり、この先温泉街には一歩たりとも入らせないという事です」

「えええええ!? それは困る!」

「困るのであれば、決まり事には従っていただきます。いいですね」

「えー? でもー」


 おっさんが「でもー」とか言うな。


「ではヘユテリア夫人に通報した後、出禁という事で」

「わかった、わかったよ。もう無理は言わないから!」


 最初からそうしてればよかったのに。

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