第415話 大型店舗があるといいなあ

 ヴィル様達の邸の修繕は、本当にあっという間に終わったらしい。早。


「掃除も済ませましたので、家具を入れ替えればいつでも生活が出来ます」

「家具かー」


 王都邸の執務室にて、カストルからの報告を受けていた。執務室にはリラもいるので、希望を聞いておこう。


「リラ、どんな家具がいいとか、希望はある?」

「え? 特にないかしら……そういえば、家具って家具屋さんとか、あるのかしら?」


 はて。こっちで家具を自力で買った事は……一応あるけれど、ペイロンだったからなあ。


 寮に入る際、必要と思われる家具は自分で選んで買った……というか、注文して作ってもらったんだよね。


 工房に直接注文……だったはず。ヴァーチュダー城を仲介して注文したから、よくわかってないんだよね。


「デュバルにも、家具工房はございますよ」

「本当? そこに注文する? それとも王都の工房を探す?」

「デュバルの工房がいいわ。運搬も、鉄道を使えばそんなに大変じゃないでしょうし」


 鉄道の前に、私が収納魔法で運べば手間いらずだよー。収納魔法って、まだまだお高いのよね。


 ただ、うち関連なら私が直接運んだり、私が作った容量多めの特製収納バッグが使い放題だ。


 とはいえ、対外的な面も考慮して、普通に馬車を使ったり船を使ったり鉄道を使ったりしますが。


 気軽に便利道具を使えると知られると、うるさい人達とかいるからね。その辺りはトリヨンサーク関連の時に、嫌というほど思い知ったわ……




 邸の家具は、急がないという理由からフルオーダーした。細部までこだわった品なので、お値段もそれなり。


 とはいえ、ヴィル様もリラも高給取りだからね。


「知らなかったわ……」

「ちゃんと給料明細は出してるはずなんだけど」

「忙しくて確認してなかった……」


 そう言われると、何とも。忙しさの元は私だからね……


 ともかく、うちで生活しているとあまりお金を使う機会がないからか、口座にお金が貯まる一方だったリラ。


 ヴィル様も似たようなものらしく、金はあるから好きに家具を揃えてくれと言われたらしいよ。


 まあ、家内を調えるのは妻の仕事だからね。


 ダイニングセット、応接セット、リビングセット、それに寝室やら水回り用やら一切合切となると、結構な数と量で、当然値段もそれなり。


 何せ邸に置く家具一式だからね。職人も、大型の注文って事でほくほく顔だったよ。


 今回注文した家具工房は、温泉街の高級ラインのホテルや旅館の家具を納品した工房。


 こちらの注文に応じて、様々な意匠の家具を製作出来る腕の良さ。既に温泉街に来た客達の心を鷲づかみにしたらしく、領外からの注文も舞い込んでいるんだとか。


 実はここの親方、領外の人。それまで務めていた工房で不正が発覚し、当時の親方とその娘婿に冤罪を被せられて、工房を追い出されたんだって。


 で、流れているうちにデュバルの噂を聞きつけ、なけなしの金をはたいてうちまで来たらしいよ。


 デュバルでは、領外から来た人に一定の条件をクリアすると、低金利で資金を貸し付ける制度がある。彼は、それを利用したらしい。


 また、店の経営についても、定期的に開かれる無料の講座を利用して、勉強したってさ。


 デュバルはペイロン同様、自ら行動する人には優しいからね。


 それにしても、ほぼ裸一貫でうちに来て、工房を大きくしたんだから大したもんだ。彼の腕の良さと、人柄かねえ。


 ちなみに、資金貸し付けにわざわざ領外という条件を付けたのは、うちの領内にろくな産業がなかったから。


 魔物素材の加工技術はあるけれど、それだけだとこの先困ると思ってね。


 領内に、しっかり技術を残してくれる人が欲しかったんだ。


 領外から人を招くにしても、そう簡単に即戦力になる人が来るとも思えない。なので、色々優遇制度を作ってみました。


 ある意味、今回の工房主はその制度にうまく引っかかってくれた人だね。


 あ、湯治用の別荘の家具、あの工房に注文しようかな?




 湯治用の別荘は、建築に取りかかったらしい。ヌオーヴォ館の執務室で、カストルから報告を聞く。


 執務室には、私とリラ、そしてカストルとルミラ夫人。ルミラ夫人は、息抜き用のコーヒーとお菓子を持ってきてくれた。


 時間がちょうど午前中のお茶の時間だからね。


 そんな中、カストルが満面の笑顔で報告してきた。


「一ヶ月もあれば完成しますよ」


 待って。普通の家でも三ヶ月はかかるはず。それを、一ヶ月で?


 湯治用とはいえ、そこは侯爵家の別荘。それなりの設備と規模になるんだけど。


「一ヶ月って……手抜き工事じゃないわよね?」


 リラも、完成までの期間が気になったらしい。それにしたって、手抜き工事って……


「主様が滞在なさる別荘なのですから、手抜きなど致しません。今回は人形遣いに特化したネレイデスを向かわせます」


 なんと、通常なら一人で三体から四体くらいの人形を制御するそうだけど、特化型ネレイデスだと一人で十体以上を制御出来るんだとか。


 これに建築用の魔法を併用すると、本当にあっという間に基礎だの何だのが出来上がるそうな。


 改めて、魔法って凄ー。


 残る二つの別荘も、ほぼ同時期に造るそうな。そして、結局外観と内装は全部別になる事になりました。負けた……


 その代わり、面倒なので外観や内装はカストルに丸投げ。嬉々として受けるのは、どうなんだろう。まあいっか。本人はやる気満々だし。


「建材に関してなのですが」

「何か足りない?」

「いえ、新素材を使っても、構いませんか?」


 新素材か……


 医療部とオケアニスの王都邸配置に関して私が文句を言ったからか、カストルは細かい事でも全て報告してくるようになった。


 これはいいのか悪いのか。面倒なんですけど。ちょっとリラに愚痴ったら「自業自得」って返ってきた。ちぇー。


 それはともかく。


「新素材って、どんなの?」

「以前、船を造る際の資材にと、新しく作った素材があります」

「ああ、あったね」


 木材並の軽さで、鋼鉄以上の硬さという、訳わからん素材が。とはいえ、あれのおかげで大型クルーズ船も無事出来上がったし、テーマパークや遊園地も資材不足で建設計画凍結にならずに済んでる。


「あれに近いもので、見た目を変えたものを使用したいのです」


 見た目を変えたものとな。具体的には?


「石材に見えるように加工したり、木材に見えるように加工したり……ですね。建材としての強さは実証済みですから、後は見た目かと」


 あくまで見た目にこだわるのね。まあいっか。


「使用を許可します」

「ありがとうございます」


 別荘の完成形、どんなのになるんだろうね。




 王都に来ている間に、一度ルイ兄を交えてロイド兄ちゃんに聞きたい事があったんだ。


 一応、あちらにはこちらの意向を伝えてあるんだけど、何故かのらりくらりと躱されている。何で?


 王都邸の執務室、日中は私とリラとカストルしかいないので、ちょっと愚痴った。


 カストルが顎に手を当てて神妙な顔で呟く。


「何かやましいところでも、あるのでしょうか?」

「あのルイ兄とロイド兄ちゃんに?」


 にわかには信じられないなあ。


「あんたに言えない事情は、ありそうよね」


 リラの言葉に、思わず頷く。


「その内容が知りたいのだけれど」

「調べますか?」


 うーん……調べて嫌な結果が出て来たら、ちょっと二人の顔を見るのが気まずくなるんだよね。


「ちょっと保留」

「保留なんだ?」


 そう。一番は本人達の口から聞くのが一番なんだけど。あの二人は変なところで頑固だから。そんなところもペイロンだよ。




 妙に逃げ回る二人に業を煮やし、最終兵器を投入させてもらいました。


「何があるのか知らないけれど、レラが話があるという以上、聞くだけでも聞きなさいな」


 ありがとうございます、シーラ様。最終兵器シーラ様にお願いして、アスプザット王都邸にてお話し合い開始でございます。


 二人は王都滞在中、アスプザット家にご厄介になってるからね。うちの王都邸とは目と鼻の先なのに、よくも今まで逃げ回ってくれたよねえ?


 恨みを込めて睨んだら、二人して何やら所在なさげだ。


「さて、二人共。言いたい事はあるかな?」

「いや、レラ、これはだな。ちょっと時間が取れなくてだな」

「その、本当に王都でやる事が多くて忙しくて」

「へー。ではそのやる事とやらを、端から列挙していってもらいましょうか? 本当に、やる事があったのなら……ね」


 二人とも気付いていないのかもしれないけれど、今のやり取りは二人らしくない。


 いつもなら用事の具体的な内容と、それが終わるおおよその時間をこちらに伝えて、その上で予定を立てるはず。


 曖昧に「やる事がある」とか「時間が取れない」と言う辺りに、二人の後ろめたさが見えてくる。


 さて、キリキリ白状してもらいましょうか。でないと、自白魔法使うぞゴルァアア!

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