第410話 お仕置きよ

 リラの結婚式は無事終わり、祝賀舞踏会も盛況に終わった。舞踏会でリラが着たドレスも、話題になったみたい。


 当然マダム・トワモエル作で、トリヨンサークに行った時に得たインスピレーションを元に作ったそうだよ。私にはさっぱりわからないけれど。


 でも、素敵なドレスだっていうのはわかる。そりゃ話題にもなるわ。


 式ではあまり話せなかったルイ兄とも、舞踏会では話せたし、なかなか楽しかったな。


 ルイ兄は、ロイド兄ちゃんも連れてきてた。ペイロンの本家と分家の次世代同士だから、不思議ではないんだけどね。


 そういえば、ロイド兄ちゃんをうちに来させるって話があったなー。舞踏会はお祝いの場だったから、話題には出さなかったけどさ。


 ルイ兄達はそのままアスプザットの王都邸に滞在しているらしい。そのままコーニーの結婚式に出席して、それからペイロンに帰るんだって。


 一度、王都にいる間に人材交流の話、しておこうかな。




 結婚式が終わった後、リラ達は温泉街で過ごしている。オーナー権限で常にキープしている星深庵の二つの棟。その一棟を貸し出した。


 だってー、新婚旅行まで間があるじゃないー? その間ゆっくり過ごせないのもどうかと思ってー。


 まあ、リラに関しては私からの強制、ヴィル様に関しては、王太子殿下に動いてもらった。


 側近を遠ざけるのか? って言われたけれど、これまでの事をあれこれ列挙したら話に乗ってくれたよー。


 もっとも、遠ざける云々言った時の表情を考えると、あれはこっちをからかう気満々だったと思う。殿下も、ヴィル様の結婚は祝福していたし。


 という訳で、十日ほどリラが側にいませーん。


「鬼のいぬ間に悪巧みー」

「まあ、ご当主様ったら」


 ヌオーヴォ館の執務室にて、ヤールシオールと再び悪巧み。


 前回彼女と話し合った陶器の人形に関しては、旅行から帰ってから渡す算段になっている。コーニーとジルベイラの分もね。


「それにしても、旅行代理店ですか。また面白いものを考えつかれましたのね」


 私が考えついたんじゃないんだけどねー。でもここは黙っておく。


「この先、鉄道の路線が増えれば、移動が楽になるじゃない? 今までなら行けなかったような場所にも、行けるようになると思うんだ」

「それで、旅行需要が増えると思われたのですね?」

「うん」


 それに、今まで行った事がないような場所、行ってみたいじゃない? そういう時、宿の手配や列車の切符の手配をやってくれるところがあったら、便利だよね。


「これまでは、国内の移動って行商とか貴族同士の領地に行ったりする程度だったでしょ? 富裕層も、自力で馬車を用意して旅行する……なんてのはごく一部だったろうし」

「確かに。そして、人が移動すればお金も移動する。今までろくな特産品がなかった領地にも、人が来てお金を落としていくようになるかもしれませんわねえ」

「そういうところの宿と、代理店が連携を取ってくれればいいなって思わない?」

「旅行者は手軽に旅行が出来るし、宿側もあらかじめ来る人数を把握出来るし、代理店は両者を取り持って儲けられる。三方が得をしますわね」


 さすがヤールシオール、わかってるう。


 現状、宿ってその日に取らないといけないのよ。電話すらない世界だからね。いや、通信機はあるけどさ、あれまだ高価だから出回ってないのよ。


 そろそろ、初期の通信機を量産型にして、広めてもいいんじゃないかと思うんだけどねえ。その辺りは、研究所次第かな。


 ともかく、代理店はこれからあってしかるべきものだよね。


「旅行代理店の設立に、エヴリラさんは難色を示しましたの?」

「やるなら今じゃなく、フロトマーロへの旅行を終えてからにしろって言われた」

「納得ですわね」


 ヤールシオールまで!


「ともかく、うちなら格安で通信機を用意出来るから、各駅に代理店の支店を置いて現地との連絡を簡単に取れるようにしたいんだよね」

「宿への予約……という意味では、必須ですわね。駅から宿までの距離なら、その日のうちに移動出来ますでしょう」


 本当は宿そのものに通信機を置きたいんだけど、それには色々超えなきゃいけないハードルがあるんだよねー。なので、それはちょっと置いておく。


「駅に支店を置くという考えでしたら、代理店設立はもう少し先でもいいと思いますけれど」

「商機とばかりに他の奴らに先を越されたら、嫌じゃない?」


 私の返答に、ヤールシオールが変な顔をした。何?


「他の人が、ご当主様と同じような事を考えつくとは、思えませんわ」


 そこ?




 計画だけは立てておいてもいい。という事で、事業計画書を作成中。面倒くせー。


 いつもなら、こういうのはリラやカストル達がささっと作ってくれるので、自分で作る事がないんだよね。


 でも、リラは新婚で休暇の最中。カストルとポルックスは戦闘メイドオケアニスと戦闘サーバントヒーローズの訓練を見ているという。


 おかげで、ヤールシオールが帰った後、執務室には私しかいない。ちょっと寂しいね。


 しんみりしていたら、扉を叩く音が響いた。続いて、ルミラ夫人による入室許可を願う声が。


「どうぞ」

「失礼いたします」


 ワゴンを押して入ってきた彼女は、執務机の前に立つと、綺麗な笑顔を浮かべた。


「レラ様、そろそろ休憩をなさってはいかがですか?」

「ああ、もうこんな時間なんだ。そうね。いただきましょう」


 うちのお茶の時間は、来客がない限りお茶ではなくコーヒーを出してもらってる。私が好きだから。


 今日はカフェオレ。添えるお菓子はシャーティの店の焼き菓子だ。今日のお菓子はマドレーヌだ。


 これ、焼き型からリラと一緒に関わったお菓子なんだよね。彼女がレシピをいくつか記憶していたから、それを元に再現。


 後はシャーティ本人が改良に改良を重ねて、今に至る。


 お茶の仕度をしたルミラ夫人が、ワゴンの側に立つ。いつもなら、仕度を終えると退室するのに。何かあったのかな?


「何かありましたか? ルミラ夫人」

「……セブニア夫人の事です」


 おっと。これはちょっと重い話かも?




 現在セブニア夫人は王都邸にいて、ルチルスさんを手助けしている。


「ルルさんからの報告を受けて、医療部とも話し合ったのですが……」

「待って。何その医療部って」

「ご存知ではなかったのですか?」


 ルミラ夫人によれば、領内の医療を一手に引き受ける、回復専門チームだそうな。


 元は分室に配属になった研究所職員の中に、回復魔法が得意な者がいたんだって。


 で、彼の知識をカストルが色々と聞き出し、まとめて何冊かの本にしたそうだ。


 そこから分室内でも回復魔法を覚える者達が出て来て、そこにネレイデスのうち数人を加えて医療部として発足したんだってさ。


 カストル、ホウレンソウが出来てませんね?


『……近々ご報告する予定でした』


 遅かったので許しません。後でお仕置きを覚悟するように。


 ……返事がない。逃げたな。まあいい。今はそれよりもセブニア夫人の問題だ。


 その医療部がルチルスさんからの報告や、王都邸に入った戦闘メイドオケアニスからの報告その他から、ある結論を出したという。


「それが、長期療養?」

「ええ。今はともかく心身共に休ませる事が必要だそうです」


 相当疲れてるんだな、セブニア夫人。


 王都邸でルチルスさんの補佐に入っているのも、あまりいい状況ではないという。


「以前はヌオーヴォ館を一人で切り回してらしたでしょう? それが今は王都邸を任されているルルさんの補佐。立場の落差を感じているようなんです」


 プライドを傷つけられたってところかな。でもなー。王都邸で表立って動くと、色々と人目にも付くし、過去の事をほじくり返す連中もいるんだよねー。


 とはいえ、療養が必要なら反対する理由はない。


「ちょっと厳しいかもしれないけれど、領主権限で異動命令を出しましょう」

「お願いします」


 ルミラ夫人にとって、セブニア夫人は同じ戦場を生き抜いた戦友のような存在っぽい。そのセブニア夫人が苦しんでいるのなら、助けたいんだろうね。


 あれこれと聞いたけれど、びっくりポイントがいくつかあって、どれから消化するべきか。


 ルミラ夫人がルチルスさんをいつの間にか愛称で呼んでるし、いつの間にか医療部なんてものが領内で発足してるし、いつの間にかオケアニスが王都邸にいるし。


 愛称呼び以外は、カストルを尋問かな?

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