第408話 いえ、間に合ってます

 新婚旅行参加者は、無事リラ組、コーニー組、ジルベイラ組で決定。何故か、私とユーインも付き添いという形で同行する事に。


「おかしくね?」

「いいでしょ? 仕事、サボれるわよ?」

「よし! ビーチ開発、頑張ってもらおうか!」


 ここ最近、書類仕事ばかり回ってきて、そろそろ椅子に根が生えそうだったんだよね。


 それはいいんだが。三組の新婚さんに囲まれるのか……ちょっと胸焼けしそう。




 旅行と言えば、旅行代理店。船会社は作ったけれど、あれは本当に船舶予約だけだし、貨物船も一緒に扱ってるし。


 これからツアーとか始めるのなら、やはり旅行代理店は必要かもしれない。


「どうよ?」

「あんたは……どうしてそう、仕事を増やすの!?」


 えええええ。


「でも、旅行の手配、全部自分達でやるの、大変じゃない? 宿の手配とか船の手配とか列車の手配とかさ」

「わかるけど! それはわかるんだけど! だからといって今! この時点で思いつくな!!」


 アイデアって、必要にならないと思いつかないよね。言ったらリラに書類で頭をはたかれたけれど。


「ともかく、代理店は今回の船旅が終わってから! いいわね!?」

「はあい」


 まあ、今回の新婚旅行プラスアルファは、全て自前で終わるからいいんだけどさ。




 船会社の方は、大型クルーズ船が人気らしい。


「あれ? もう就航してるの?」

「乗務員達の教育が終わりましたから、受付を開始しました。現在は、フロトマーロの港を見て帰ってくるだけの簡単なツアーとなっています」


 答えてくれたのは、船会社を任せているムーサイ、タレイアだ。本日はその予約状況などの報告に、王都邸の執務室に来ている。


 見せてくれた予約票、本当に最上級の部屋から最下級の部屋までびっしり埋まってる。チケット、一番お安い部屋でもかなりの高額なのに。


「貴族の方ですと、お付きのメイドやサーバントも一緒に乗り込む方が多いです。あと、一族全員で参加なさる方もいらっしゃいます」


 凄ー。そんだけのチケット代、出せるって訳か。まあ、貴族ならよほど困窮した家でもない限り、出せない金額じゃないしなー。


 噂の種に、乗ってみるってところかね。


「ただ、中にはよろしくない方達もいらっしゃるようです」

「よろしくない?」

「はい。これは、ヘレネ様からの情報ですが」


 ヘレネは単独で大小のクルーズ船の船長を務めている。今は予約を受け付けている段階で、どの船も動かしてはいないから、予約カウンターがある商業地区の店で店番をしているそうだ。何やってんのヘレネ。


 その彼女が、予約をしに来た家のいくつかに、不穏な影を感じるという。


「どういう事?」

「どうやら、船内でわざと不具合を起こし、デュバルの名を貶めようというもののようです」

「はあ?」


 馬鹿なのかな。船内には、防犯用にカメラが仕掛けられている。さすがに客室にはないけれど、廊下やレストラン、カフェなどにはばっちり仕掛けてあるのだが。


「彼等はカメラがどういうものか、知らないのです。一応、乗船予約をした際には、船のパンフレットをお渡ししていて、そこに記載されているのですが……」

「それなら、こちらに手落ちはないね。もし下手な事をしたら、証拠動画と一緒につるし上げてくれる」


 本当、ろくでもない連中はどこにでもいるんだね。


「ところで、その不穏な連中って誰かわかってる?」

「はい。ヘレネ様によれば、ソネレート子爵家のご令嬢だとか」

「ソネレート?」


 はて、何かどっかで聞いた覚えがあるようなないような。大体、子爵家の娘に恨まれる覚えはないんだけどなあ。


 あれか? ユーイン絡みの逆恨み?


「逆恨みではありますが、旦那様関連ではございません」


 あれ? カストル? 君、さっきまでヌオーヴォ館にいたはずだよね? お使いに出したの、私だよ。いつの間に帰ってきたんだ?


「つい先程戻りました。先程のソネレート子爵令嬢ですが、金獅子事件を覚えておいでですか?」

「ああ、あの。忘れないよ。襲撃されたの、私だもの」


 とはいえ、あれは罠だったんだけどねー。金獅子ごとき、催眠光線で一発で沈められるから。


 まあ、実際はゼードニヴァン子爵率いる黒耀騎士団が助けてくれたんだけど。第三者である黒耀騎士団の介入により、金獅子の一部の犯行が露見したって形にしたから。


「あの時、襲撃者の一人の婚約者が、主様の元を訪ねてきました」

「そういえば、そうだったね」


 名前は……何だっけ? え? あの子なの?


「違います。あの時主様を訪ねてらしたお嬢様の婚約者である元金獅子騎士団員、彼に片思いをしていた女性が、ソネレート子爵家のご令嬢です」

「遠いよ!」


 逆恨みもいいところだけれど、それにしても関係が遠い。何をどうして私を恨むのさ。


「主様の襲撃が成功していれば、ソネレート子爵令嬢の想い人も本懐を遂げられたのにと、考えたのではないでしょうか」

「うへえ……」


 思考がアクロバット過ぎる。だからいつまでも片思いをこじらせてるんだよ。叶わないと思ったら、次行け次!


「その、ソネレート子爵令嬢? 仕掛けそうなのは、家ぐるみ?」

「いえ、令嬢個人です」

「なら、令嬢を徹底してマーク。おかしな事をしそうなら、その時点で警告して」

「承知いたしました」


 まったく、人の感情ってどう動くか、本当にわかんない。


 ヘレネによると、ソネレート子爵令嬢以外にも、おかしな行動をしそうなのは三人、全て個人だそうな。


「こちらはわかりやすく、旦那様への横恋慕の末ですね」

「またかよ! まったく、どうしてそう引きずるかなあ」


 ユーイン相手となると、仕掛けようとしている当人も既に既婚の可能性が高い。結婚してるくせして、他人の夫に入れ込み、挙げ句の果てに妻の名を落とそうとは。


 そんな根性だから、臭い魔力になってユーインに嫌われるんだよー。


 そっちも重点的に監視してもらおう。あ、違った。監視じゃなくて……見守り? ともかく、しでかさないようにお願い。




 ネレイデスの四人が、フロトマーロに向けて出立するという。例の、ビーチリゾート建設計画の為です。


「ネレイデスが行くんだ?」

「ええ。私はこちらでやる事がありますので。計画書は渡してありますから、それに添って工事を監督するだけです」


 ビーチリゾート開発の場所は、港から少し東にいったところだそうな。


「そういえば、港建設の現場に、地元の者達が入り込んでいるようです」

「え?」


 入り込む? 何でまた?


「作業をしている人形使い達にと、食事や飲み物を持ってくるのだとか」

「はい?」


 何それ?


「人形使い達は全員男性を選んで送りましたから、女性達が何くれとなく世話を焼こうとしているようです。ただ、食事はこちらで食材から用意したものを独立型の人形が調理していますし、寝床も同様です。彼等の生活は快適であるよう、配慮しておりますので、彼女達が入り込む隙はないのですが」


 独立型の人形というのは、人形遣いがいなくてもプログラムに従って動くタイプの人形の事。ちょっとした思考力を持つアンドロイドみたいなものかな。


 人形使い達の身の回りのお世話用に、何体か一緒に送り出したんだよね。


 そこに、地元の娘さん達が入り込もうとしてるって事?


「意味がわからない」

「おそらくですが、あの場で働く者達の嫁になるのが狙いではないかと」

「嫁ええ!?」


 何で? どうして?


「港周辺では、景気のいい話が出回ってますからね。作業員に嫁げば、同じ村や近場の村に嫁ぐより楽な生活が出来ると思ったんじゃないでしょうか」


 えええええ。でも、作業員は仕事が終わったらデュバルに帰ってくるんだよね? その場合、お嫁さんにもらっちゃったら、どうするの?


「嫁の一族揃って移住してくるかもしれません」

「ええと……それは……」


 さすがに他国から人を連れてくるのはなあ。人口減少なんて話になったら、責められそうだ。


「その前に、領内の治安悪化を心配なさった方がよろしいかと」

「……そういう話なの?」

「はい」


 うーん、フロトマーロも、色々とあるなあ。




 港建設への地元民立ち入りは、その後すぐに制限をかけた。今までがガバガバ過ぎたんだとは、リラの言。


「港と周辺の土地はあんた個人の土地なんだから、やすやすと侵入なんかされないようにしておきなさい」

「いや、まさか建設途中の街に、人が入るとは思ってなかったのよ……」

「価値観の相違でしょうね。フロトマーロの人間にとっては、建設中の港街でもキラキラした場所に思えたんじゃない?」

「だから、そこで働く男達を籠絡して、自分達もそのキラキラの中で生きたいって?」

「地元の女の子達が思っても、おかしくはないんじゃない?」


 ちなみに、今回港建設に携わっている人形使い達は全員デュバルの元からの領民で、全員独身。ただし、上は四十路近くから下は十代と年齢の幅が広い。


 対して、フロトマーロの地元民女子達は、全員未婚で何と十代半ばばかり。ちょっと犯罪臭がするよ。


 とはいえ、元からうちにいる領民って事は元奴隷達な訳で、余所者に対する警戒心が強いらしく、彼女達の事も歓迎はしていないってさ。


 それに、言っちゃなんだけど、彼女達が持ってくる地元の郷土料理って、あまりおいしそうじゃないんだって。


 土地が痩せているから、魚や貝が主な食材なんだけど、それに薬草のようなものが入っていて、匂いがきついらしい。


 それがまた、奴隷時代に食べるしかなかった草の匂いに似ていて、全員がトラウマを刺激されたそうでね……


 今は食生活も随分改善されたけれど、やはり長年苦しんだ記憶は消えない。


 そんな辛い昔を思い出すようなものを、どうして今食べなくてはならないのか。そう考える人ばかりらしく、トラウマな食べ物を持ってくる女子達に対して、邪険にしてしまったそうだ。


 でも、地元民女子はめげない。追い返されても追い返されても料理と酒を片手にやってくるそうな。


 そう、飲み物って、酒だった。しかも真っ昼間から。さすがにこれは、人形使い達を束ねる最年長者が厳重に断ったって。


 それでも、あの手この手で持ち込むそうな。弱り果てた人形遣い達が、現場監督のネレイデスに報告して、発覚したって訳。


 どうせなら、もう少し早めに報告してほしかったなあ。それはネレイデスも現場で言っているそうなので、ホウレンソウを徹底していただきたい。


 急ごしらえだけれど、港街周辺にフェンスを作り、簡単に侵入出来ないように対策。


 ついでに、こちらから一筆書いたものをフロトマーロの王宮に届けさせ、そこから近隣の村だか街へ雷を落としてもらうようにした。


 これで落ち着けば、いいんだけどなあ。

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