第400話 駆除しましょう

 フロトマーロで南国フルーツ栽培計画。これには、カストル達の力がどうしても必要だ。


「カストル、お願いがあります」

「何でしょう?」

「ここに書いてあるフルーツ、この大陸にあるかどうか、調べてほしいの」


 一枚の紙を彼に渡す。そこには、マンゴー、バナナ、パパイア、パイナップル、パッションフルーツ、スターフルーツなどが書かれている。


 それを一瞥し、カストルは即答した。


「ありませんね」

「一つも!?」

「ええ」


 そんな気はしてたー。


「他の大陸にも、ないかな?」

「……別の大陸や島になら、あります」

「よし! なら、船を出してこれらの苗木や種を手に入れに行くぞー!」


 船を造っておいて、本当によかった。




 そう思ってたのに……


「却下」

「ええええええ」

「当たり前でしょう。あんた、自分がポンポン発案した仕事が山積みになってるって自覚、ある?」

「……えへ」

「えへじゃない!」


 ただいまヌオーヴォ館の執務室にて、リラに怒られてまーす。


 カストルからの情報を元に、船で現地まで実物を取りにいこうと思ってリラに伝えたら、途端にこれですよ……


「で、でも、フルーツが手に入ってフロトマーロで栽培出来れば、うちの名産に出来るし」

「栽培して収穫出来るようになるまで、どれくらいかかるのかしらねえ?」

「ええと……」


 返す言葉がないいいいいい。


 しょんぼりしていたら、リラの溜息が聞こえた。


「……カストル、手が空いているネレイデスはいる?」

「いますよ」

「一度に大量生産したのが幸いしたわね」


 んんん? この流れはもしや!


「リラ!」

「フルーツを取りに行くだけなら、ネレイデスだけでも問題ないでしょう。ただし! あんたが行くのは駄目よ!?」


 それは残念だけど、フルーツは手に入る! そうとなれば、善は急げ。


「カストル、すぐに船の用意して! 後、現地に移動陣置いてきて! 見つからないようにね」

「あんたはまた!」

「備えあれば憂いなし!」

「何の備えよ!!」


 そんなの、いつか私自身が行く時の為に決まってるじゃない。




 飛び地を全て調査させているネレイデス達からの報告で、スゼーキア川流域の飛び地以外にも、水害が予測される場所が七つも見つかった。


 うち五つは毎年のように水害に悩まされている土地だとか。今までの領主、何やってたんだ? あ、王領だったんだから、領主は実質国王陛下か。


「まあ、領地は代官が治めていたんでしょうけれど……それにしても杜撰よねえ」


 ネレイデス達からの報告書を、ヌオーヴォ館の執務室で一緒に見ていたリラが呟く。本当にね。


「コード卿の件もあるし、王領管理の部署に問題でもあるのかな」

「でも、三男爵家の代官を務めていた人達は、まともだったわよね?」


 そーなんだよねー。あの三人とコード卿はまともだったんだよなー。王領管理の部署って、人数多いんだろうか。


 人が多くなると、手を抜く奴やサボる奴って絶対出てくるもんね。


「とりあえず、水害が起きる土地には、増水した川から水を汲み上げておいてもらおう」

「いっその事川に取水口を作って、一定以上増水したら自動で取水するようにしたら?」

「それだ!」


 リラ、ナイスアイデア! 早速カストルに頼んでおこう。彼からネレイデスに伝わるはずだ。


 今回は緊急だったから力業で対応したけれど、必ず起こる水害だっていうのなら、ちゃんと対策しておくべきだもんね。


 水を汲み上げるラインをどの辺りにするかとか、周辺への影響はどうかとか考える事はまだあるけれど、方向が決まれば後は進むだけ。


 よし、やるぞー。




 飛び地で水害が起こる地域の対応は、大分固まった。飛び地でやる水害対策は、巡り廻って周辺地域の水害対策にもなるらしい。


「まあ、だからといって言いふらすつもりはないけどね」


 これ以上、やっかみを受けるのは勘弁願いたい。私の言葉に、リラも肯定的だ。


「恩の押し売りほど鬱陶しいものはないものね。いい事だと私も思うわ。ただ……」

「ただ?」

「わかる人には、わかると思うわよ? 領主なんて、周辺の情報は積極的に集めるものだから」

「そうなの?」


 あれ? 私、周辺の情報なんて、集めた事あったっけ?


 首を傾げる私に、リラが苦笑する。


「まあ、あんたはペイロンとアスプザットにしか興味がなかったからね。言ったでしょ? 他人に興味がないって。こういう事よ」

「あ」

「あんたの代わりに、私達が集めてるから安心なさい。必要な事は、随時報告するし」

「よろしくお願いします」

「任されました」


 本当、頼りになるよ。




 飛び地の水害対策は何とかなった。これからの事もどうにかなる。という訳で、元に戻って湿地対策です。


 湿地帯は王都の西南に位置していて、馬車で三十分も走れば到着する。王都の側を流れるアニア川も流れ込んでいるから、川船で来てもそれくらいだ。


 今日は馬車でカストルだけを同行させている。今日中に水トカゲをどうにかするつもりなので、リラはヌオーヴォ館にお留守番。


 湿地帯のすぐ側にはちょっとした丘があり、そこに馬車を停めて降りる。


「広いねえ」


 目の前に広がる、草原……に見えて、実は湿地帯は、どこまでも続いているように見える。


「王都よりも広いんだっけ?」

「土地の広さは五割増しですね」


 そこそこの広さだ。


 川一本で王都まで行き来出来て、しかもこの広さ。どうして今までここが開発されなかったのか、不思議なほどだよ。


 私の疑問に、カストルが少し声を落として答えた。


「何やら、曰く付きらしいですよ」


 曰くとは。


「何でも、開発をしようとした貴族もいたそうですが、ことごとく失敗に終わり、しかも当主が命を落としたとか」


 呪われてる!?


 改めて湿地帯を見てみる……何もないよ? 呪いも、魔法に近いので見ればわかる。


「ええ、何もありません。おそらくは、開発をしようとした貴族達の実力不足だったのでしょう。当主が命を落としたというのは、その失敗を誤魔化す為の嘘だったのではないでしょうか」


 嘘かよ! まあ、本当に何かに呪われている場合には、浄化魔法を使って消せるからいいけど。


 死者の呪いも生者の呪いも、浄化で一発解消ですよ。いやあ、聖堂が儲かる訳だ。浄化魔法って、通常は聖堂の聖職者じゃないと使えないからね。


「さて、じゃあやりますか……」


 私はここから結界を張るのと雷撃を落とす係。駆除された水トカゲはカストルが責任を持って全て回収すると言ってくれてるから。


「水トカゲは素材にもなりませんし、肉も可食ではありません。思い切りやって問題ありませんよ」

「わかった。なら、手加減せずにやる」


 ただただ邪魔なだけの魔獣とか、シャレにならん。


 水トカゲがいる範囲を囲って結界を張り、そこから雷撃を落とす。落とす、落とす。一発で終わんないいいいいいい! どんだけいるのよ水トカゲ!


 いくつかは水の上に腹を出して浮かんでるから、駆除は出来ているんだけど。そして浮かんだ水トカゲは、即座にカストルにより回収されている。


 まずくて人間向きではないけれど、焼いて灰にすると肥料にはなるんだって。なら、そのままフロトマーロに持っていこうか。


「いえ、土地が痩せている飛び地があるので、まずはそちらに」


 あ、そうか。そういう土地もあるんだっけ。




 何発目かの雷撃で、やっと水トカゲの駆除完了。


「やっと終わったあああああ」

「お疲れ様でした」


 やっとこれで下地が整った。折角利便性のいい土地なんだから、開発しない手はない。


 何せデュバルは王都から遠いからねえ。鉄道を使えば一晩で到着しますけどー。それまでの、馬車で何日もかける旅程を考えれば、近くなったのかな。


 それでも、馬車で三十分、船でもそのくらいで行き来が出来る場所に領地があるっていうのは大きい。


 まずは川の流れを整えて、水を抜くところからかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る