第393話 一石二鳥? 誰にとって?

 三つの元男爵領の視察がそれなり疲れたので、元アーカー子爵領への視察は少し先延ばしにした。


 そんな中、式の準備で忙しいだろうコーニーが遊びに来てまーす。なので、ちょっと愚痴ってしまった。


「まさかあんなに問題だらけとは思わなかったよー」

「だから没落したんでしょうね」


 そーですね。という事は、やっぱり元アーカー子爵領でも、何か問題が出るんだな……


「いっそ、そんな領地を押しつけた王家に文句を言ってみては?」

「え? いいの?」

「一応、制度としてはあるわよ? ただ、レラの場合王妃様や王太子殿下、妃殿下に直接伝手があるんだから、制度を使わず泣き言を言ってみるのはどうかしら」


 泣き言かあ。苦手ではあるけれど、そこはあれだ。私は女優! と思い込んで、演技で押し切るか。




 コーニーを見送った後、帰ってきたユーインに詰め寄った。


「殿下にお話があるのだけれど、いつ行ったらいいかなあ?」

「……殿下なら、しばらく視察等はないから、いつでもいいと仰っていた」


 んんん? それって、どういう意味? まさか、私が何か文句を言いに行くって、わかっていたの?


「新しくもらった領地の事ではないのか?」

「そうなんだけど……え? 殿下、わかっていて私に寄越したの!?」

「それについては、ご本人から話すそうだ。明日、一緒に行くか?」

「行く!」


 おお、話がサクサク進むのう。これが伝手がある状態な訳か。


 じゃあ、伝手がなかったら? ……ああいう厄介な土地をもらわずにすんだかもー。




 翌日、王宮へ行くユーインにくっついて王宮へ。普段は騎馬で王宮へ行く彼が、今日は馬車に同乗だ。


 王宮に到着すると、そのまま中へ向かう。私だけならここから侍従に案内してもらうんだけど、今日はユーインが一緒だから案内はなし。


 王太子殿下の執務室は、朝から何やら人が多く行き交っている。廊下まではみ出してるよ。


 そんな中、人をかき分けてユーインが進む。私はその後ろについていくだけだから、楽だわあ。


「おはようございます」

「ああ、おはよう……何だ、今日は同伴出勤か?」


 ちょっと殿下。どこでそんな言葉覚えてきたんですか。てか、こっちにもそんな事する店、あるの?


「レラ? どうして朝からお前がここにいるんだ?」

「あ、ヴィル様おはようございます。ちょっと殿下に文句を言おうと思って」

「は?」

「私に文句とは? ああ、ヴィル、悪いが扉を閉めて他の連中は外に出してくれ」


 殿下の命令に、ヴィル様が溜息を吐きつつ動いている。あ、扉が閉められた。何故だろう? 逃げ道はないぞ? と言われた気がする。


 殿下は執務机の前でニヤニヤと笑っているし。しまった、泣き言を言う予定だったのに。これじゃあいつもと変わらないよ。


 でもいっか。


「報奨でもらった土地ですよ。何ですかあの問題だらけの土地は。おかげで大変だったんですからね!」

「それについては、許せ。だが、あれだけの問題がある土地だからこそ、侯爵以外には任せられなかったんだ」


 んぐ。ちょっといい事を言えば、流されると思って。


「正直、あの辺りになると王宮の目が届かなくてな。家の取り潰しに乗じて領地没収したまではよかったが、その後が大変だったんだよ」

「王家の強権発動すればよかったのでは?」

「そうしたら、あの領地の領民全てを処罰する事になるぞ?」


 えー? 何でー?


 不満そうにしていたら、殿下が大きな溜息を吐いた。


「王家の力を使うという事は、そういう事なんだ。あそこを王領なんぞにしてみろ。逆らう者達は全て反逆罪が適用されるんだぞ」


 そう言われるとなあ。


「大体、今までも大量に犯罪者を引き取っていた侯爵だ。領地でやらかした連中も、同じように扱えば問題なかろう」


 うぬう。ここに来てそれを言われるとは。そういえば、フェガー一家も追放するより強制労働させた方がよかったかなあ?


『まだ追放処分はしていませんから、今からでも変更しますか?』


 効くのか、変更。使える現場があるなら、それでもいいかも。


『承知いたしました』


 ううむ、でも、このモヤモヤがまだ解消されない!


『王家に対するわだかまりですよね? それでしたら、王家からそれなりの金額を頂戴できるよう、交渉してはいかがでしょう?』


 お金かあ。でも、万人にわかる価値あるものだからね。それがいいや。


「殿下、あの厄介な土地をどうにかするので、その分お金ください」

「レラ! お前はまた」

「いい、ヴィル。そうだな。何か名目を付けられるなら、支払おう」


 名目……名目ねえ。私に対する慰謝料……じゃ多分通らないんだろうな。何かない?


『開発費……くらいでしょうか』


 土地を開発するのは領主の仕事だからなあ。一応、私の領地としてもらっちゃった以上、開発費をおねだりするのはちょっと難しい……あ。


「あの領地、報奨でしたよね? でも、そこが問題大ありの土地だった。そうですよね?」

「そうなるな」

「では、報奨として下げ渡す土地を十分調査しその情報をこちらに渡さなかった事に対する、賠償金を要求します!」

「賠償金ときたか」


 そうだよ。本来なら、報奨っていいものがもらえるはずじゃん。なのに、問題だらけの土地を押しつけられたんだから、損害が出ている。


 その賠償を、お金でしてもらいましょうか。まあ、損害っていっても、私の精神的な面だけになるけど。


 でも、それだって十分賠償対象になるはず!


 殿下は、何かを考え込んでいる。さて、結果は如何に。


「……いいだろう」

「やったー!」

「ただし、条件付きだ」

「えええええ」


 ちょっとー。賠償金なんだから、条件なんかつけないでよねー。


 苦い顔をしていると、殿下が笑う。


「まあ、侯爵にとっても悪い話じゃない。いい話でもないだろうが」

「それ、悪い話って言ってるようなものですよ」


 何言い出すつもりよもう。あんまりな事を言うと、ロア様にチクっちゃうぞ?


「何、簡単な事だ。他にも王宮が持て余している土地がいくつかあってな。それを全て侯爵に引き取ってもらいたい」

「はあ!?」

「その新しい土地の分も、賠償金に上乗せするぞ?」

「いやいやいや! 問題だらけの土地とかもらっても、嬉しくありませんよ! いくら賠償金が付いてくるとはいえ!」


 絶対面倒な場所じゃん! 王宮が持て余してるんでしょ!? そんなところ、欲しくないですうう。


「それに、もらう土地は飛び地になるじゃないですか!」


 うちの周辺、もう領主なしの土地はないもん。王宮管理って事は、領主のいない土地って事だよね? だったら、隣近所じゃないから飛び地になるはず。


 なのに、殿下ってば!


「今更だろうが」


 うぐ。トレスヴィラジは飛び地だもんなあああああ。


「国への貢献度が上がる上に、飛び地とはいえ侯爵なら領地の有効活用が出来るだろう。それに賠償金も付いてくるぞ?」

「うぐう」


 お金はほしい。これから新しい領地にいくらでも必要になるから。でも、問題だらけの土地をこれ以上押しつけられるのは……


『主様、受けて問題ないかと』


 えええええ?


『領民に問題がある土地はほぼありません。周囲の環境に問題があったようです。それも、デュバルなら即解決出来ます』


 カストルがそう言うなら、いいのか……なあ?


『何より、土地が広がればやれる事も増えます』


 その分、面倒も増えるんですけど?


『面倒ごとは、極力私共で解決します』


 ……何だか、カストルがいやにプッシュするね。何かあるの?


『それは後ほど』


 まあ、カストルが言うのなら丸投げ出来るし、いっか。視察くらいはするけれど、その後は代官のネレイデスに頼んじゃおう。


「わかりました。その代わり、賠償金、弾んでくださいね」

「よし、任せろ!」


 ……えらく嬉しそうですねえ? 勘ぐっちゃうぞ?


「そう渋い顔をするな。厄介な土地を押しつけられた可哀想な女侯爵という顔をしておけ」

「何です? それ」

「そうしておけば、侯爵への風当たりも弱くなる」


 まさか、そんな事まで考えてあの土地を報奨にしたんですか?


「王宮としては厄介な土地を何とか出来る。侯爵は周囲からのやっかみを軽減出来る。いい事ずくめだろう?」


 やっぱり、いいように使われる気がするー。


 まあいいや。そのうち殿下をいいようにこき使ってやるから。権力持ってる人って、使いでがあるよねー。

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