第386話 これだけじゃないんだ!?

 とりあえず、競馬の事は国に丸投げ出来た。後は、新しい領地の事か……


 領地って、王家から「あげるー」って言われただけじゃ、私のものにはならないらしい。色々と書類上の手続きが必要でした。


「そりゃ領主が代わるんだから、手続きはあって当たり前でしょうに」


 リラの言う通りだね。という訳で、日を置いて再び王宮へ。


 手続きとかは、表で出来ると思ったのに、何故か案内された場所は王太子殿下の執務室。


「今度は何です?」

「そう警戒するな、侯爵」


 苦笑いの殿下。いや、警戒するに決まってるでしょう。王宮に手続きに来たら、いきなり王太子殿下の執務室に連れてこられたんですよ? 誰だって何があるんだって思いますって。


「いや、侯爵から聞いたけいば……だったか? あれを両親に話したんだが」


 国王陛下と王妃様にですか。二人とも食いついたのかな?


「いっそ、そのレースをデュバルで――」

「お断りします!」

「……話は最後まで聞け」

「嫌です無理ですお断りしますううううう!」


 耳を塞いで逃げ回ったけれど、ヴィル様に捕獲された。そういえば、今日はユーインの姿がないね。


「ユーインなら、父上の元へ使いに出した。この場にあれがいるとうるさそうだからな」


 殿下、酷い。


「何も、全てデュバルでやれとは言わない。建設費用は国から出す」

「だったら、王都の周辺でやってもいいじゃないですか」

「王宮主導でやると、出来上がるまでに時間がかかるだろう? それとも、工事関連の手をデュバルが提供してくれるのか?」


 うーむ。何故か王都周りの工事って、人力でやる事が多いんだよね。魔法があるんだから、土木工事こそ魔法を使えよと思うんだけど。


 雇用創出の為なのかもね。


 でも、だったらやっぱりデュバルに作るのはおかしいと思うんだ!


「レースに馬を出せ、というのなら出来ますが、我が領に競馬場を、というのはお断りします。大体、人が来ませんよ」

「鉄道があるだろうが」

「どこの誰が競馬の為ごときに、バカ高い切符買ってわざわざデュバルまで来るんですか」

「レラ! 口が悪い!」


 ヴィル様に怒られた! でも、ここで引く訳にはいかないんだい!


「温泉街へ行くついでかもしれないぞ?」


 殿下、楽しんでませんか? でも、返事は変わりませんよ。


「それでも! 私が嫌です」


 どうもね、前世の記憶のせいか、競馬=むさいおっさんが群がるものってイメージが拭えない。


 いや、地球のイギリスとかなら、アスコット競馬場なんか貴族の社交の場だったって話だけれど。あれだって、女王様が作った競馬場だ。


 だったら、王様が作った競馬場を社交の場にしてもいいんじゃね? 場所は王都からそんなに離れていない場所を提案します!


 鼻息荒く言えば、殿下が呆れた顔で聞いてきた。


「……どうしても、駄目か?」

「駄目です嫌ですお断りします。大体、うちの人員が過労死しますよ」

「かろうし……とは、何だ?」

「働き過ぎて死ぬ事です。人間、適切に休まないと本当に死ぬんですよ!」


 言った途端、背中にじとっとした視線を感じる。これはリラだな? いや、理解はしているのよ。ニエールにもジルベイラにもちゃんと睡眠は取れって言い続けているし。


 いや、寝る暇も惜しむほど仕事を投げてる自覚は……ちょっとある。


 でも! 過労死しないようにこっちが頑張っても、あの二人は率先して睡眠時間削ってあれこれやるのよおおお。


 終いには、覚醒魔法なんてものまで作りやがって! 使用厳禁にしておいたから、二度と使わないはずだけど。


 見張りはカストル達に頼んであるしね。あいつらの監視をかいくぐる能力は、さすがのニエールにもないでしょ。


 もっとも、最近はニエールのお世話係が上手いこと休ませるようにしてるっていうし、ジルベイラは恋に夢中で仕事が少なくなっても文句言わなくなってるけど。


「うちの人員の健康の為に、競馬場は王都近くでお願いします」

「……仕方がない。今回、面倒な領地を押しつけたのはこちらだからな。譲歩しよう」


 殿下、報奨でもらったはずの土地を、面倒な領地って言っちゃ駄目でしょうが。




 何とか競馬場建設の面倒から逃げ切り、当初の予定通り手続きに入る。それもこの執務室でって、いいのか?


「別に構うまい。それに、そろそろユーインが戻ってくる頃だろう。あいつが書類を持ってくる」


 殿下、読んでますねえ。ユーインが戻るまで言い合いが続いたら、どうしてたんだろう? その場合は別に構わない? そうなんだ……


 待つ事しばし。本当にユーインが書類を持って戻ってきた。私がいる事に、少し驚いている。


「レラ、どうしてここに?」

「あなたが持ってきた書類にサインする為よ?」

「え?」


 ユーイン、あなた、自分が持ってきた書類がどういうものか、知らなかったね?


 まあ、お使いとはいえ王宮内で運ぶ書類の中身なんて、そうそう見ていいものじゃないから、仕方ないか。


 呆気にとられるユーインに、王太子殿下はくつくつと笑う。


「ユーイン、いいから書類をこちらに」

「ああ、はい」


 ちょっと殿下。いくらユーインの反応が珍しいからって、そんなに笑ったら本人が気を悪くするでしょ? いい加減笑いを止めてくださいよ。


「さて、こちらが今回の一件に関する報奨の書類だ。しっかり確認してサインを」


 手渡された書類には、確かに四家の領地をデュバルに譲渡すると書いてある。一度国が没収したものだから、国から譲渡……下賜? という形になるらしい。


 一つ一つはそこまででもないけれど、さすがに四つも領地が集まったら広いなあ。……ん?


「あのー、殿下。ここに何やら金額が入っているんですが?」

「ああ、それは四家から没収した家財の合計金額だ」

「何故、それがここに記載されているんですか?」

「それも侯爵への報奨だからだよ」


 土地だけかと思ったら、そこに住んでた四家の男爵子爵の財産も全部ついてきた。現金があるよ、現金!


 ちょっと嬉しくなって、書類に目を通すのも苦じゃなくなってきた。何か周囲の視線が生温く感じるけれど、気にしない!




 手続きも終わり、四つの新領地が増えましたー。お金も増えたので、懐が温かいぜー!


 一旦王都邸に戻り、軽い部屋着に着替えてから居間でくつろぐ。そろそろお昼の時間だねー。


「これで何を作ろうかなー?」

「あんた……フロトマーロに港を建設しているところだって自覚、ある?」

「あるよー」


 リラが頭を抱えているけれど、それとこれは別なのだ。今ならネレイデスがたくさんいるから、仕事を投げ放題だし。


 でも、不思議とそういう時には、何も思い浮かばないもんなんだね……


「主様、一度、新しい領地を視察してみてはいかがですか?」

「視察かあ」


 カストルの言葉に、そういやトレスヴィラジも自分の目で見に行った事を思い出す。


 あの時は、初の海沿いの地だったからね。でも、今回は西隣。良くも悪くもうちと似たような土地だ。


 とはいえ、餓死者が出た土地だっていうしなー。今は王宮の代官が管理しているけれど、その引き継ぎもしないといけないし。


「よし、善は急げ。リラ、直近で空いてる時間、押さえておいて」

「わかりました」

「カストル、同行させるネレイデスを選出しておいて」

「承知いたしました」


 さあて、新領地には何があるかな?




 新しい領地は、元は四つの家だった。なので、それぞれで特色が違うはず。というのがリラの言。


「貴族の領地って、治める家によってかなり変わるから」

「そう……ね」


 考えてみたら、アスプザットとペイロン、それにデュバルだってそれぞれかなり違う。まあ、デュバルはちょっと前まで比べものにもならなかったんだけど。


「だから、四つ全て見て回った方がいいと思うわ」

「そうね、視察だからね」


 今回の結果で、新領地へのてこ入れが変わる。何か残せる特色があればいいんだけれど。

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