第384話 何がくるかな?

 王族が四人も集まって怒ると、あんなに怖いもんなんだね……


 王太子殿下の執務室にて、仮の処分が決定した。仮と言っても、ほぼ本決まりの決定だけど。


 まず実行犯達。これは事前に決まっていたように、うちが引き取る事になっている。カストルがガルノバンやギンゼールの山に開けるトンネル工事に使うって、今からウキウキしてるよ。


 次に国内のアーカー子爵。当然、自白内容をもって子爵家は取り潰し。幸い妻子はいないので、爵位と領地、家財などを全て没収。本人は極刑となった。


 最後に残ったのが、ラーノワー王国。一応証拠もあるけれど、小王国群の一国とはいえ相手は他国。しかも国交もない国なので、ちょっと扱いに困ってた。


 でも、蛇の道は蛇。学院長が今回ラーノワー王国に狙われたジトネンド王国に伝手があるらしく、そちらをけしかけてはどうかと発案。


「けしかけるって。言葉が悪いわよ、大公殿下に対して」

「いや、実際けしかけるじゃない」

「……否定はしない」


 リラも否定出来ないくらい、けしかけた。元々ジトネンド王国がラーノワー王国に狙われていた訳だから、これを開戦の口実にしてはどうかと唆した訳だ。


 今回のあらましを記載した文書と、ラーノワー王国に攻め入る事に関してのみ、オーゼリアは何も言わない事。


 それと自白魔法を使った映像を、使い捨ての映写機に入れて送っている。そのうち、ジトネンド王国がラーノワー王国に対して開戦したってニュースが入ってくるでしょう。


 実はこっそり、ジトネンド王国に使い捨ての魔道具が支給されているんだけど、これは秘密だ。関係者だけがにやりとしている。


 まあ、魔道具と言っても、直接攻撃に使うようなものではないけどね。どちらかといったら、後方支援タイプかなあ。


 水を出したり煮炊きがしやすくなったりする。あ、寝床を作る道具もラインナップされてたってさ。温かい食事と快適な寝床。それだけでも、兵士の士気は違うでしょ。


 後でそれらを売ってくれって言われるかもね。その辺りは、王宮と研究所に頑張ってもらいましょう。




 八十人近い労働力が手に入った訳ですが、ガルノバンでの鉄道敷設と、ガルノバンとギンゼール間のトンネル工事、さらにギンゼールでの鉄道敷設工事、トリヨンサークでの鉄道敷設工事と、現場はよりどりみどりだ。


「割り振りはこちらでやっておきます」

「よろしくね」


 こういう仕事はカストルが得意だ。彼等にも得手不得手があって、カストルは建設系や生産系の仕事が得意。


 ポルックスは人と接する仕事が得意で、口八丁手八丁で人を騙すのも得意……らしい。いや、騙しちゃいかんでしょ。


 本人曰く「騙す相手はちゃんと選んでるよー」だって。どうやら、悪徳業者とか相手だと、張り切って騙すらしいよ。


 ヘレネはポルックスに似て人と接する仕事が好き。特におしゃべりが好きらしいので、接客仕事は天職だってさ。


 ネスティは計算仕事が得意で、ちょっとジルベイラのやり方に似ている。ネスティが来たおかげで、ジルベイラの仕事量が減ってきているらしい。いい事だ。


 当初は仕事が減った事に、ジルベイラが何やら危機感を持ったようだけど、今までが多すぎたんだって。いや、その原因は私ですが。ごめんなさい。


 ともかく、ジルベイラもこれまでにないくらい余暇を楽しむ時間が取れるようになったそうな。


 そのせいか、最近はゼードニヴァン子爵と一緒に歩いているところを目撃されているらしい。子爵、早速ジルベイラに落とされたのか?


 やはり、あの胸部装甲かね? シーラ様に負けず劣らずの強さだし。


「ふ……所詮男は皆胸部装甲強めが好きなんだ……」

「何黄昏れて変な事を口走ってるの。しっかりなさい。はい、次の書類」

「へーい」


 リラは私が黄昏れる事すら許してくれないらしい。厳しい秘書だ。


 そう、リラは正式に私の秘書となりました。今までと何が違うんだよと言われそうだけど、肩書きがちゃんとついたくらいかな?


 今まで一緒に仕事はしているけれど、果たしてリラのポジションってどこ? と首をひねる者達もいたらしいから、そういう人達には丁度いい目印にはなってるんじゃない?


 ヌオーヴォ館の執務室で捌いているのは、関係各所から上がってくる書類。いやあ、色々な事に手を出してるね、うち。


 半数以上は私が言い出したものだけれど、残りには見覚えがないものもある。それらは商会会頭を務めるヤールシオールだったり、王都の商業地区に出したアンテナショップの店長を務めるレフェルアだったりが提案して始まった事業だ。


「ん?」


 そんな中に、見過ごせない書類が紛れている。これ……


「何かあった?」

「こんなのがありました」

「どれ……馬の増産計画書?」


 そう、私が目を留めた書類は、ミレーラから提出された領内で育てる馬を増産する計画書。


 ミレーラは、レフェルア、ヤールシオールと同時期に雇い入れたお義姉様縁故の人。


 元々頭を使うより体を動かす方が好きという事から、領内の畜産業に関わっているんだよね。


 特に馬が好きらしく、自身で調教までするというこだわりぶり。まだうちでも馬は馬車とかに使うから、手元で育成もいいかもーと思って彼女に丸投げしていたんだよね。


 それが、増産とな。


「どう思う?」

「うーん……」


 正直、この先馬の需要は低くなる一方の予定だ。何せ鉄道が走る時代になるからね。


 領内でも、鉄道もしくは人形馬で事足りる部分には、生きた馬は使ってないし。


「もしや、食用?」

「ああ、さくら肉。でも、オーゼリアで馬肉を食べる習慣、あったっけ?」


 多分、ない。


「じゃあ、何で需要が先細りなのに、増産を計画するんだろう?」

「気になるなら、本人呼び出して聞けばいいじゃない」


 やっぱり、それかあ。




 通信で呼び出したミレーラは、オーバーオール姿で執務室にやってきた。これは彼女の仕事着。余程の公式の場でない限り、仕事着でヌオーヴォ館を歩く事は許されている。


「ご当主様! お呼びと伺い参りました」

「ええ、実は、この計画書についてなのだけれど」

「ああ! 馬の増産計画ですね! これが、どうかしましたか?」


 満面の笑顔から、一転不思議そうに首を傾げられてしまった。うーん、馬はこれからいらなくなるから、増産する必要、ないんじゃね? ってずばり言っちゃっていいもの?


 ちらりとリラを見ると、仕方ないという顔をした。


「増産する根拠は何かしら? 正直、我が領での馬の需要は先細りですよ?」

「え? でも、馬を走らせて競争するんですよね? だったら、いい馬を今から育てないと!」


 競馬の事か! そういや、あれこれあってまだ王宮にも提案していないや。


 でもなー。賭け事となると、国に届け出が必要だし。何より、競馬って赤字になるイメージしか浮かばないんだよー。


 それに、馬主になるつもりはなかったし。とはいえ、目の前のミレーラはやる気満々だ。どうしたもんか。




 一旦馬増産計画は棚上げにして、しょんぼり帰るミレーラを見送った十日後。王宮から何やら呼び出しが来たとか。


「理由は聞いた?」

『ええ。王宮にて、今回の大公領で起きた一連の事件の報奨の為と伺っています』


 通信画面の中のルチルスさんは、髪を結い上げるようになったからか、学生時代の面影はそのままに、何だかきりっとした印象を受ける。


 それにしても、報奨か……何だか、嫌な予感。


「報奨って、何をくれるんだろうね? 現金だといいなあ」

「いい人材をくれると、助かるわよねえ」


 でも、人材に関しては大分解消されている。何せネレイデスは人の三倍から四倍は働くから。


 タイピングも早いし、計算も速い。あれは人間には無理な速度だよ。


 それはともかく、ネレイデスの活躍によってデュバルの人材不足は解消されつつある。領民からも、続々と教育が完了した人員が各所で働いてくれてるしね。

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