第382話 結局こうなる
私達が休んでいる間に、カストルが攫われた人達を救出していた。人買いに売られてなくてよかったよ……
とはいえ、それは最悪の事態になっていなくてよかったという程度。攫われて暴行を受けていたのは事実。
回復魔法が必要な場合は声を掛けるよう言っておいたんだけど、いつの間にかネレイデスを何人か呼んでいたらしく、彼女達が回復魔法を使ってたらしい。
ただ、体の傷は癒えても、心の傷はなあ。
「魔法治療が出来るよう、ネレイデスを鍛えましょう」
「いや、何でそっちにいくのよ?」
「精神の治療が出来るようになれば、回復特化となりますよ」
う……それはちょっと欲しいかも。今でさえ、魔法治療の順番待ちが凄いっていうしね。そんなに病んでる人が多いのかと心配になるほど。
盗賊だの何だのが多い世界だから、そりゃあ犠牲になる人もそれなりにいる。そして、犠牲者に対する世間の目が厳しいのも、また事実。
今回救出した人達も、元の生活に戻れるかどうか……
「暮らしにくいようでしたら、やはりデュバルで――」
「先走らない」
「はい」
カストル、結果的にそうなるにしても、今この場でその判断を下すのは君じゃない。もちろん、私でもないよ。
やっぱり、一度王宮へ持ち帰らないと駄目だろうなあ。
盗賊達の裏がわかった以上、報告は関係各所にするのは当然だけど、捕まえた奴らの処遇がなあ。
これ、このままここに置いて行っちゃ駄目だよね?
「駄目に決まっているだろう」
「ですよねー」
翌日の朝食の席で言うと、即効ヴィル様からダメ出しを食らった。
「安心しろ、あいつらはゾクバル侯爵が引き取りに来る」
「え? そうなんですか?」
「ああ。そのまま王都へ連れて行くのか、それとも南方司令部でさらなる尋問が待っているのかは知らないがな」
ああ、ここから王都へ向かうのも、南方司令部でさらに拷問を受けるのも、どっちも割と地獄だね。
王都まで馬車での移動だと十日以上、人数が多いからそれ以上かかると思うし、その間衣食住は最低ライン。馬車も乗り心地の悪い檻付きだし、そりゃあ辛い旅路になるでしょうよ。
南方司令部なら掛かる時間は半分以下だけど、待っているのは昔ながらの拷問による尋問。命があればいいねって状況だわな。
「デュバルで労働力にするのが、一番ですのに……」
カストル、そんな残念そうに言わないの。うちで働いたところで、地下のきつい工事現場なんだから、それなりに地獄だよ。
カストルの言葉を聞いたヴィル様が笑った。
「何だ、レラはあいつらが欲しいのか?」
「私が、というより、あちこちの工事現場を監督しているカストルがですね」
「なら、殿下におねだりしてみるといい」
えー? 王太子殿下にですかー? 何か見返り要求されそう。
でも、何故かカストルが期待に満ちた目でこっちを見ているんですが。そんなに欲しいのか、工事現場の人手。
結局、ヴィル様に甘えてゾクバル侯爵と王宮とに連絡を入れてもらったら、あっさりもらえる事が確定。いいの? それで。
「相手がいいと言うのだから、いいんじゃないか? それと、王宮からは拉致被害に遭った者達も、希望するようなら引き取ってもらえないかと打診が来たぞ」
またかい。とはいえ、そこも考えなくちゃいけない事だもんね。
今のオーゼリアって、各地方間の行き来があまりないから、一地方の噂が他地域まで広がる事がない。
ここで言うと、大公領で盗賊に女性が攫われたって話が、王都まで広がらないんだ。せいぜい大公領の中で話が広まる程度。
そんな中、生まれ故郷に帰っても、肩身の狭い思いをする事になる。だったら、遠く離れた場所で生活する方が楽、って事もある訳だ。
人の口伝いに広まる以上、距離に負けるんだよね。拡散する媒体もないし。
で、大公領からデュバルまでは、馬車を使っても一月くらい掛かる。それだけ離れていれば、具体的な噂なんて耳に届かない。
それに、いざとなったら魔法治療が使える魔法士もいるしね。カストルがネレイデス達の一部に、回復特化の子達を作る気満々だし。バックアップ態勢は万全と言えるかも。
労働力をもらえるのだから、打診は受けるとしましょうか。幸い、うちは女性の働き手を歓迎しているしね。
話が決まれば行動は早い。まず私達は王宮で直に報告しないといけないから、このまま王都へ。
カストルが呼び出したネレイデス達が、被害者を保護、使い捨ての移動陣にて一足先にデュバル領へ向かう。
残された盗賊達は、いつの間にか来ていたポルックスが率いてデュバル領へ向かうんだとか。
「馬車とかないの?」
「連中は歩かせますよ。ここからうちの人材としての教育が始まりますから」
答えたのはカストルだ。こっから歩かせるの? どんだけ掛かるんだ……
途中で逃げ出せないよう、ポルックスがあれこれ技を使うらしい。途中でこっそり隷属術式を使うと聞いた時は、肝を冷やしたけれど。
これ、前に聞いた「現在禁止されているのとは違う隷属術式」なんだって。何という、法律の抜け穴を使った術式。非合法ではないけれど、合法でもないんじゃない?
「訴えられなければ、問題ありませんよ。悪事に使う訳ではないのですし」
何だかまた丸め込まれた気がするう。
とはいえ、さすがにこれだけの人数を逃がさないように、徒歩でデュバルまで連れて行くのは大変な事だ。
下手に逃がしたら、また犠牲者が出るかもしれない。そう考えれば、犯罪者なんだからいっかー。
大体、通常なら極刑食らう連中だしね。大公という、王族の領地を荒らした以上、反逆罪や不敬罪を適用されるから。
そう考えると、ちょっと危ない術式を使われて、これから死ぬまで大変な労働を課されるけれど、生きているだけマシと思ってもらおう。
ご飯も、ちゃんと出るよ? おいしくないかもしれないけれど。栄養バランスは満点だってさ。
手配も全て終わったので、私達はそのまま王都へ帰る事になった。本部に顔を出すか? という話もあったけど、そっちはゾクバル侯爵がやる事になったってさ。
「え? じゃあ、侯爵が本部に顔を出すって事ですか?」
まさかね、と思ったら。
「そうらしい」
「えええええ!?」
あの司令官……はまだしも、上官は心臓止まっちゃうんじゃない? 驚き過ぎて。
「どうも、南方司令部の綱紀が緩んでいるらしい。それを前から気にされていて、粛清の時期を見計らっていたそうなんだ」
で、私から「こんな事があったんですう」って文書が届いたから、これはチャンス! とばかりに動く事にしたそうな。
本部に顔を出すのは、その一環だってさ。司令官と上官、イキロ。
「じゃあ、残ってゾクバル侯爵に挨拶した方がいいですか?」
「いや、それはいらないそうだ。その分、早く王宮へ向かえと言われたよ」
何だか、随分急かされるね。何かあるのかな。
首を傾げる私に、ヴィル様が苦笑する。
「多分、我々に会ったら一緒に王宮へ連れて行かれると思っているんじゃないかな?」
「はい? これからガサ入れやるんですよね? そんな事言わないのに」
「がさいれ?」
「あ……えーと、南方司令部が不正をしていないか、捜索するんですよね? なのに、私達が王宮へ連れて行くはずないじゃないですか」
「いや、捜索にゾクバル侯爵本人が立ち会う必要はないだろう。部下がやるはずだ」
でも、あの人そういうの自分でやりそうだよね。いや、個人的なイメージですが。
私も、王宮へ行くより現場にいる方が好き。ゾクバル侯爵とは、そういう面では気があうと思うんだよねー。
結局、侯爵への挨拶はなしのまま、王都へ帰る事になった。帰りは使い捨ての移動陣を使うのかな? と思いきや、このまま馬車とバギーを使うんだって。
「王都を出る時から乗っていたから、目立っていただろう? これで帰る姿を見られなかったら、不審に思われるぞ」
さすがに王都は人が多いので、噂もあっという間に広まる。とはいえ、貴族に関する事だから、裏でこっそり広まる程度のはずなんだけど。
「貴族の噂だからだ。我々にも、それなりに敵対する貴族がいるという事を、忘れてないだろうな?」
え? 敵対する家なんて、あったの?
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