第381話 三下は所詮三下

 盗賊捕縛は、すぐに先程までいた本部に届いたらしい。慌てた様子の司令官と他何名かの兵士が、馬で駆けつけてきた。


「こ、侯爵! この人数は……」

「これ、全部盗賊ですよ。これから、彼等の背後関係を聞き出します」

「背後? いや、奴らは小王国群の――」

「いいから、邪魔しないで」


 私の言葉に、司令官が何かを感じ取ったらしく、まだ何か言いたそうな兵士を押さえつけた。それでいいです。


「レラ、遮音結界は必要か?」

「お願い」


 ユーインは結界関係、苦手なのに。出来ない訳じゃないけれど、制御が大変なんだって。


 ヴィル様に頼んでもいいんだけど、そうすると範囲が狭くなるからなー。ここはユーインの申し出に甘えておこう。


 さて、では手当たり次第に自白魔法を使っていこうか。


「主様、少し」

「何?」


 カストルが耳打ちしてきた。


「彼等の中で、事情を知っている者が何名かいます。そこを狙った方がよろしいかと」


 それだと、どうしてわかったのか疑われない?


「探索魔法で引っかかったのだと言えば、問題ありません」


 なるほど。んじゃ、カストルが指示する相手をピンポイントに狙っていくか。




 結果、厄介な事情がわかりました。


「どうしてそういらん事するかなあ!? どっかの子爵家ええええ!」

「アーカー子爵ね」


 私の叫びに、リラのツッコミが入る。こんな時までツッコミを忘れないなんて。


「それにしても、子爵がそんな恨みを持っていたとはな……」

「はた迷惑な話だ」


 ヴィル様は呆れて、ユーインは不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。


 本当にね。逆恨みなんて、どっか余所でやってほしいわ。


 アーカー子爵は、うちの西隣にあった三つの男爵家と懇意にしていたらしく、その三家が潰された事を恨んで今回の事を企てたらしい。


 そういえば、アーカー子爵の領地って、あの三つの男爵家と接してるんだね。うちとは男爵家を挟んださらにお隣さんなんだ。


 でも、一子爵家が小さいとはいえ他国の人間を操れるもの? と思っていたら、ここでも嫌な名前が出て来たよ。


「そしてまたベクルーザ商会か!」


 あれ、潰したんじゃなかったっけ?


 今回捕まえた盗賊の中に、ベクルーザ商会の人間が交ざってたんだ。名はブワイエット。


 自白魔法によると、向こうの大陸で遺跡から古代魔法を再現した人物、ネルキューズの直弟子に当たるそうな。


 ネルキューズ自身は学究肌の穏やかな人物だったそうだけど、彼が研究の為に立ち上げた機関、それがベクルーザ機関。ベクルーザとは、遺跡のあった地域の名前なんだって。


 それがネルキューズの死後、変質していきあのベクルーザ商会になったそうな。少しは師匠に悪いと思えよ、まったく。


 ちなみに、このブワイエット、ネルキューズの直弟子ではあったけれど、魔法の方はさっぱりだって。魔力が少ない上に、魔法に適さない体質だったらしい。


 でも、知識に関しては機関の中でも一、二を争う存在だったようで、その為薬の製法にも詳しいらしいよ。カストルに言わせると、あそこの薬は全て不良品で、実用には適さないものばかりらしいけど。


 そのベクルーザ商会がねえ。トリヨンサークで一網打尽にしたんじゃなかったっけ?


『残党が残っていたようです。というより、「本店」から離れた「支店」扱いの者ですね。おそらく、トリヨンサークの本店が潰された事すら、知らないのでしょう』


 って事は、ブワイエットはそれまでの本店の指示通り、オーゼリアを切り崩そうとちょっかいをかけてきただけって事?


 今の彼に、本店はもうないって教えたらどうなるのかね?




 今回の事を、自白させた情報を元に整理する。


 まず、小王国群側の首謀者はラーノワー王国。国のトップが首謀者なので、国丸ごと敵と認定。


 彼等の狙いは、レイゼクス大公領と隣り合っている小王国群の国、ジトネンド王国を陥れる事。あわよくば、オーゼリアにジトネンドを滅ぼさせて、跡地を自分達が横取りしようとしていたそうな。


 そして、オーゼリア国内には彼等に手を貸した貴族がいた。それがアーカー子爵。彼がした事は、研究所で購入した魔道具をラーノワー王国へ横流しした事。


 子爵が購入した魔道具は、遠見。単純に遠くを見られるって道具なんだけど、これの数を揃えて同期させた結果、監視カメラ網が出来上がった。


 さすがに、研究所でもこの使い方は想定外だったんじゃないかなあ。


 子爵の狙いは、大公の失墜。最大の目的はそれだけど、そこまで行かなくても嫌がらせが出来ればいいや程度だったみたい。


 理由は、大公派であった三つの男爵家が、大公派故に潰されたから。


 あの三つの家が潰されたのは、大公派故ではなく、大公派に所属していてかつ王太子妃殿下であるロア様を毒殺しようとした計画に加担していたから、なんだけどねー。


 アーカー子爵の今回の計画は、逆恨みってやつだ。とはいえ、王弟である大公殿下に敵対行動を取ったのだから、結末は推して知るべし。


 で、この両者を繋いだのがベクルーザ商会の生き残り、ブワイエット。ついでにラーノワー王国にいらん入れ知恵したのもこいつ。


 んで、今回の実行犯達。彼等はラーノワー王国の民……と思いきや、何とオーゼリアの食い詰め盗賊達。本職かよ。


 アーカー子爵が見つけてブワイエットに引き合わせたんだってさ。で、ブワイエットがラーノワー王国に話をつけて、そこからも人員を引っ張ってきたらしい。で、全員ジトネンド王国人に偽装して襲撃を繰り返していた……と。


 ついでに、盗賊討伐本部の情報を、金で得ていて盗賊達に随時漏らしたのはアーカー子爵とブワイエット。この二人、携帯型通信機を持ってたよ。アーカー子爵って、お金持ち? 携帯型はまだもの凄く高いのに。


 まあ、それで嫌な連携を取って盗賊討伐本部を翻弄していた訳だ。そりゃ情報が筒抜けじゃあ、捕まる訳ないわな。


 それをあっという間に私が捕縛して真相にまで辿り着いてしまった訳だね。はっはっは、三下は集まっても所詮三下止まりなのだよ。まー、それに負け続けた王国軍盗賊討伐部隊もどうかとは思うけどね。


 ゾクバル侯爵辺りに、しごいてもらいたまえ。今回私からの報告を受けて、南方司令部に対する諸々の見直しはやる気のようだから。


 それはともかく。盗賊に関するあれこれは、カストルがタイプで文書にまとめてくれたので、私のサインを入れて関係各所へ。送るのも、カストルが魔法でやってくれる。


 さすがに王宮へ送る分は、一度デュバル王都邸へ送って、そこから使者を立てる形で持っていかせるけれど。


「ゾクバル侯爵と盗賊討伐本部とうちの王都邸と……後必要なの、どこですか?」

「王都邸のが王宮へ渡す分か。一応、アスプザットへも送っておいてくれ」

「了解でーす」


 ヴィル様の言葉に返事をして、複製を作成。魔法でちょちょいとな。あー、やっぱりコピー機も欲しいねえ。


 それはともかく。


「捕まえた連中、やっぱり一度王都へ引き渡しますか?」

「その辺りは、ゾクバル侯爵、レイゼクス大公との話し合いが必要だな」


 面倒くせー。とはいえ、その辺りはヴィル様がやってくれるというから、お任せしていく。


「こういう時の為に、私が同行しているんだ。お前は交渉事は苦手だしな」


 バレてるしー。まあ、細かく詰めていくのは確かに苦手だから、お任せしますー。


 私とヴィル様のやり取りを見ていたユーインが、まだ不機嫌だけど、後で宥めておこうっと。




 携帯通信機を使ってあちこちに連絡を取っているヴィル様の為に、移動宿泊所を出しておいた。もちろん、私達も休みたいから。


 司令官とお付きの兵士達は、いつの間にか消えていた。多分、本部が置かれている村に戻ったんじゃないかな。そのうち南方司令部から呼び出しがかかるでしょう。


 盗賊達は、そのまま屋外に放置。南だし、季節も春だから凍死する事はないでしょ。山裾でちょっと南にしては寒い気がするけれど、大丈夫。


 放置に気付いた盗賊達が喚いてうるさいので、遮音結界に閉じ込めておいた。逃げられないしうるさくないし、いい事ずくめだね。


 カストルが入れてくれたお茶と、持ってきた茶菓子で一服していると、リラが深刻な表情で聞いてきた。


「あの盗賊、デュバルで使うの?」

「どうだろう? 許可がもらえれば、地下の工事現場で使うと思うよ」


 まだあちこちで地下工事を行っているから、人手はいくらあっても困らない。


 人形を使ってもいいんだけど、それだと人形使い達も地下に潜らなきゃいけないからねえ。彼等の精神衛生上、なるべく地下現場は犯罪者を使いたいところ。


 扱いが違いすぎるって? 当たり前でしょうが。真っ当に生きている人と犯罪に走った人間。同列に扱う方がおかしい。


「まあ、八十人近くいるんだから、それを税金使って生かす事を考えたら、デュバルで強制労働させた方がいいのかもね」


 そーだね。うちなら栄養バランスだけは完璧なディストピア飯を食べさせて、健康にも一応気を配って寿命が来るまで働かせるから。


 あれ? 何か私の方が悪役チックじゃね? まーいっかー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る