第375話 場所はここでしょ

 パリアポリスの整備の話が出たら、当然ネオポリスの整備の話も出る。とはいえ、ネオポリスはまだ出来上がって間もない。整備の手を入れる必要はないかも。


「整備……に入るかもしれませんが、街中の美観活動を」

「美観?」

「具体的には、清掃業務ですね」

「ああ」


 ゴミを集めたり、通りの掃除をしたり、路地の掃除をしたりする仕事だ。これも、犯罪者達にやらせている。


 特に軽い犯罪を犯した連中には、罰によって決められた期間、清掃業に従事させているのだ。


 人形にやらせてもいいんだけど、清掃は人目に付きやすいからね。なるべく人にやらせた方がいいというリラの提案により、こうなりました。


「学校の罰掃除みたいなものね」

「軽」

「実際、安価な店での食い逃げとか、少額のひったくりとかやってた連中だから、罰は軽いかも」


 いやいや、ひったくりって、下手したらひったくられた方が怪我したりするじゃない。


 私の言葉に、リラはにやりと笑う。


「相手が怪我をしたら、ただのひったくりではなく強盗致傷になるのよ。その分、罰も重くなるの」


 なるほど。罪が変わるので、与えられる罰も変わるのか。ちなみに、強盗致傷の場合は清掃業務ではなく、もっときつい労働が課せられるんだって。一挙に地下の工事現場行きになるのかな?




 デュバルでは、急ぐ工事は人形と人形使い達に、急がない工事は犯罪者にやらせている。特にきつくて危険な工事ほど、重犯罪者を使うそうな。


「よくよく考えたら、物騒な制度だよね、これ」

「まあ、犯罪者を引き取ってきて、最低限の衣食住だけで重労働をさせるんだから、物騒ではあるわね。普通なら」


 最後の一言、必要ですかねえ? 必要ですかそうですか……


 犯罪者を使う現場には、厳重に逃亡防止措置を施しているそうな。カストルが、直々に。


「間違いがあっては困るもの。こういう時、本当役に立つわよね、あいつら」


 リラがちょっと悔しそう。いや、あの双子は人の能力超えてるから、比較対象にしちゃいかんよ。


 リラがライバル視するべきは、ツニとかシズナニルとかキーセアとかじゃないかなー。


 ツニはジルベイラの右腕だし、シズナニルとキーセアは学院の同級生で現在領地にてバリバリ働いている。彼女達は家族を養ってるから、責任重大だしね。


 それはともかく、犯罪者を使う現場は、他よりも結界やら何やらで魔力コストが上がってるんだとか。


「それも、カストルが提案した圧縮型魔力結晶への魔力充填方法で、大分コスト軽減される事になるけれど」

「魔の森様々だね」

「……言いたくないけれど、そうね」


 そんなに悔しそうにしなくても……


「え、ええと、現在犯罪者を使ってる現場って……ガルノバンとギンゼールの間に開けるトンネル工事?」


 いつの間に始まってたんだ? これ。


 いや、確かにあの二国間なら山岳鉄道よりトンネルの方がいいだろうって最初から考えていたけどさ。山脈の厚みも、オーゼリアとガルノバンより薄いし。


「トンネル工事は、どうしても事故が付き物だから。当然万全の対策を施してはいるけれど、何事も『絶対』はないからね」


 落盤やガス、水などによる死亡事故がこれまでにも何度かあったって。あるんだ、死亡事故。


「元々、そういう場所の工事に行かせるのは重犯罪者……いわゆる死刑囚なのよ」


 だから、死んでも文句は言わせないって訳だ。そりゃそうだ。死刑を食らう程の罪を犯したのだから。


 きつい現場に行かせた連中の中で、裁判を経ずに放り込まれた一団がいる。デュバル王都邸に勤めていた、元使用人達だ。


 彼等は、私の私怨で今の罰を受けている。もっとも、表沙汰にして裁判をしたとしても、平民が勤め先の貴族の子息を虐待していたのだから、当然死刑を食らうけれどね。


 でも、裁判なんかすれば、兄がどんな目にあったか、全てを公開しなくてはならない。


 それは、兄の名誉を穢す事になるし、デュバル、ユルヴィル両家の名も落とす行為だ。だから、出来ない。


 その代わり、彼等には今後二度と日の当たる場所を歩けないようにした。トンネル工事はさぞ辛かろう。何せ登山鉄道の工事に続いて、二箇所目のきつい現場だからね。


 彼等のうち、生き残っている人数は四分の三。つまり、四分の一はもういないって事。


 事故って、怖いよね。




 ガルノバンとギンゼールの間はトンネルを掘るけれど、ギンゼールとトリヨンサークの間はトンネルがいらない。


 あそこは山間に道があって、そこを通って行き来がしやすいから。その分、攻め入る事も容易なので、戦争が絶えなかったそうだけど。


 今のギンゼール、トリヨンサーク両王は、戦争するより手を組んだ方が利益があるという考えなので、近く正式に停戦条約を結ぶらしい。現在は休戦状態なだけなんだとか。


 まー、長く戦っていたからお互いに遺恨はあるだろうけれど、今後の国の為にも頑張っていただきたい。


 両国がうまくいってくれれば、きっとオーゼリアにもいい影響があると思うんだ。交易品とか魚とかエビとかカニとか貝とか。


 タコやイカなんかも、おいしいよね。たこ焼き……いい。


「ちょっと。目が遠くなってるわよ。手元の書類に集中!」

「は! 脳内がたこ焼きで一杯になってた!」

「……今度はたこ焼き? そのうち焼きそば、お好み焼きを揃えて出店でもやるとか、言い出さないでね?」

「それだ!」

「は?」


 リラ! ナイスアイデア!


「お祭りやろう! 夏祭り!」

「……待って。夏はデュバルもペイロンもアスプザットも大変忙しいって、わかってる? あんたの誕生日に狩猟祭が立て続けに来るんですが!?」

「えええええ……駄目?」

「誰が準備して誰が開催するのかしらねえ?」


 う……それを言われると。


「でもでも、お祭りは地域住民の為にもなるんじゃない? ほら、近隣の人との交流を図るとか」


 地域のお祭りって、そういうもんだよね? あれ? 元は違うっけ?


 私の言葉に、リラが深い溜息を吐いた。


「別にお祭りをするのは駄目って訳じゃないんだけど、今からじゃあ夏祭りには準備が間に合わないってだけよ。いっそ、ブルカーノ島のテーマパークが出来上がったら、縁日を体験出来るようなゾーンでも作れば?」

「縁日……体験……」


 なるほど。本当のお祭りでなくても、体験出来る場所があるのはいい事だ。

となると、それは温泉街に作るべきじゃね?


 何か脇から「あ、ヤバい」って聞こえたように思うけど、気にしない。


「よし! 温泉街の一角に、縁日を体験出来るエリアを新設しよう! そこに屋台とか出そう!」

「ああああああ、やっぱりいいいいいい」


 自分で提案しておいて、何故そこで頭を抱えるかな? リラさんや。




 こういう事は一旦カストルに投げるとうまく行く。


「縁日……ですか? 温泉街には聖堂はありませんけれど」


 そうか。縁日っていったら、普通は神社が絡むもんね。こっちで言うなら、聖堂だ。


「あくまで体験出来る場所ってだけだから。やりたいのは縁日で出る屋台なんかなのよ。……ところで、カストルは縁日ってわかるの?」

「ええ。前の主の記憶にありました」


 何でもありだな、前の主。


「そうですね。屋台で出す品を決めて、場所を作って……主様のお誕生日までには間に合わせましょう」

「出来るの?」


 あ、リラと声が被っちゃった。


「幸い、ネレイデスもいますし、問題ありません」


 そうか。先走りでネレイデスを作られた時はびっくりしたけれど、結果的にはよかったなー。


 屋台はお好み焼き、たこ焼き、焼きそばの他に、甘い物や肉を焼く屋台も用意する。


「後は綿飴でしょー、ベビーカステラでしょー、クレープの屋台もほしいかも」

「次々増えていくわね……」

「あ、くじ引きの屋台なんかも出そうか!」

「ああ、何かぼったくり疑惑のあるくじ引き、あるわね」


 大当たりが入ってないってやつね。でも、うちでやるからには、大当たりはちゃんと出すよ!


「大当たりは、私かニエールが作る魔道具でどうだ!」

「いや、それ大当たりすぎ!」


 えー? でも、目玉商品って必要だよね?

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