第374話 領内整備も大事
領内整備……特に旧領都であるパリアポリスの方はカストルに任せっきりだった。
「そろそろ上下水道の工事が終わる頃ですね」
「早いなあ」
「パリアポリスは、最低限の手以外入れず、そのままに残す方針にしました」
そう、パリアポリスはなるべく元の姿のまま残す方針にしている。手を入れると、お金がかかるから。
最初は鉄道の駅をパリアポリスまでにしようと思ってたんだけど、山岳鉄道や貨物列車などの事を考えて、ネオポリスまで伸ばす事にしたからねー。
パリアポリスには余所から来た人が多くいる。元からいた住人は、全てネオポリスに移ったから。
余所から移住してくるのは人手という意味で歓迎するけれど、治安が一挙に悪くなったのが問題でねー。
その為に、ゾクバル侯爵からの紹介を受けたセバンルッツ家のギスガン卿を中心に、交番制度を整えて治安維持に努めてもらっている。
ついでに、パリアポリスにはもう一つ、治安維持に関する組織が出来上がった。ゼードニヴァン子爵率いる警備隊だ。
ここでは、女性騎士も育成中。まだ設立したばかりで募集しても人は来ないだろうと思ってたんだけど、甘かったわー。
ゼードニヴァン子爵の伝手は大したもので、結婚したけれど諸々の理由から離縁した女性とか、そもそも結婚が駄目になった女性なんかがかなりの数、来たらしい。
うん、また訳あり女子だね。とはいえ、この国は訳あり女子が量産される下地がありすぎる。
女子は結婚してナンボ。貴族の家ならさらに家の為に結婚して当然って考えが蔓延り過ぎて、お一人様を楽しむ事すら許されない。
いや、結婚していい家庭を築くのもありだよ? 考え方や価値観が同じパートナー、大事だから。
でも、家の為、親の体裁の為に嫁に出された娘が、果たして婚家で本当に幸せになれるかね?
「なれない確率は高うございますわね。私達がいい例でしてよ」
そう言い放ったのは、商会の関係で報告に来て、そのまま雑談に混じっていたヤールシオールだ。
「結婚が駄目になった女性の中には、相手の婚姻前の浮気が発覚した、なんて事も少なくありませんし」
「わーお」
「我が国は殿方の浮気に関して、とかく寛容過ぎる傾向がありますわ。私、常々不満に思っておりますの」
彼女の夫も、娼館通いをしていたという。しかも、実は結婚前にもその癖があったそうで、結婚前に一度親に娼館通いを辞めるよう強制されたそうだ。
「でも、そういった癖は直りませんのよ。癖ですもの。結局娼館通いを再開させて、挙げ句の果てに娼婦を愛人にして家に入れるとまで言い出しましたからね!」
相当鬱憤が溜まっているらしい。
「とりあえず、女性騎士候補が集まったのは、いい事なのでは?」
脇からリラが助け船を出してくれる。助かるー。あのままヤールシオールがヒートアップしたら、手が付けられなくなるところだよ。
商売の腕はいいし、性格も明るくて付き合いやすい彼女だけど、そこだけが玉に瑕だよねえ。
ともかく、ゼードニヴァン子爵の元、うまい事デュバルの騎士団が作られつつあるらしい。
「騎士と言えば騎馬ですが、デュバルらしくここはバイクを揃えてはどうでしょう?」
「ばいく……とは? 何やら、商機の臭いを感じますわ!」
カストル、ヤールシオールの前で不用意にそんな事、口にしちゃ駄目だってば!
その後、バイクに関する説明はカストルに丸投げしておいた。責任は奴にある。
「そういえば、ギスガン卿率いる治安維持部隊とゼードニヴァン子爵の騎士団って、対立とかしないの?」
リラの疑問はもっともかも。ただ、そこは一応考えた。
「ゼードニヴァン子爵に、警備総監という立場についてもらったから、実質治安部隊も彼の配下なの」
「そうなの? ギスガン卿は、よく承諾したわね」
「そこらへんは、セバンルッツ家での教育がものを言ったらしいよ」
ギスガン卿はセバンルッツ伯爵家の三男で、家の跡取りにはなれない。つまり、彼は既に家から出て、名前は伯爵家のものを使っていても平民という身分だ。
比べてゼードニヴァン子爵は、彼自身が子爵家の当主になる。王都の邸やご両親は、王宮勤めの彼の弟さんが世話しているんだって。
本当なら、爵位も弟さんに任せたかったそうだけど、それだけは駄目って弟さん本人に言われたそうな。
デュバルの地で、新しいゼードニヴァン子爵家を作ってこい、ってさ。
そのゼードニヴァン子爵には、ジルベイラがご執心な訳なんだけど……
「正直、あの二人は今どうなってるの?」
「何? 覗き趣味?」
「そうじゃなくて」
リラの視線が冷たい。そうじゃない、そうじゃないんだよう。
「ジルベイラは、うちの事務方トップじゃない? 結婚となると、仕事を辞める可能性もある訳だ。いきなり辞められたら、困るでしょ?」
「それは確かに。でも、あのジルベイラ様が簡単に仕事を辞めるかな?」
「リラ、敬称」
「あ」
なかなか抜けないねえ。まあ、仕方ないか。
リラにとっては、ジルベイラは一番辛い時に仕事という形で支えてくれた人だもん。そりゃ敬愛していても不思議はない。
ユルヴィル家に養女に入っても、ヴィル様に嫁いでも、それは変わらないんだろうし。
ただ、やっぱり身分の問題があるから、人前では直してもらわないとね。
ゼードニヴァン子爵配下の者達は、本当にバイクの練習もする事になったって。馬に比べると速度がまるきり違うし、燃料切れさえおこなさなければ、走行距離も長いしなー。
「魔道バイクですから、圧縮型魔力結晶が使えます」
「なるほど。魔の森の魔力が使える訳だ」
「ええ。それに、ヘルメットやプロテクターの代わりに結界発生装置を装着させますので、事故による死傷はなくなります」
そっか。バイクだと生身でスピードを出すから、事故を起こした時の怪我が心配だもんね。死亡事故も怖いし。
「あ、相手がある事故の場合、どうするの?」
「……少し、考えさせてください」
カストルも、たまには抜ける事があるんだね。
そこから一日もしないうちに、対応策を考えてきたらしい。
「車体にも、結界生成術式を搭載します。対物、対人で事故を起こしそうになった際、自動で結界を生成、相手に負担がかからないように停止するようにしました」
「それ、乗ってる人間にも負担はかからないよね?」
「もちろんです」
ならいいか。後は、バイクに乗る人間の技術を上げてもらえば。ただなあ、あれって向き不向きもあるだろうから、誰もが乗れるとは思えないんだけど。
それを言ったら、馬もそうか。なるべく、いい移動手段を手に入れられるといいね。
パリアポリスで導入した交番制度、防犯カメラ、ドローンなどは、効果を実証中である。
防犯カメラ、ドローンは動かぬ証拠に、交番は犯罪抑止の為に。また、困った時は交番に、としておくと、相談先がわかりやすくていいんじゃないかと。交番勤務の負担は増えるかもしれないけどねー。
「その分給料に反映するから、頑張ってもらいたいね」
「努力が給料という形で報われるなら、やる気を出す人も多いんじゃないかな?」
「そうだと思いたい」
何せ、防犯カメラ、ドローンには、サボる連中を監視する役目もあるからね。これはさすがに交番勤務の治安部隊には教えてないけれど。
パリアポリスは区画整理もほぼしていないので、昔のまま少し入り組んだ造りになっている。迷う人間も、そこそこ出てるんだってさ。
道案内も、また交番のお仕事。一応、簡易地図は用意してあるから、迷った人には渡すように言ってある。
これ、割と反対が多かったんだよねー。防犯の為にはよくないって。
でも、パリアポリスには大した施設はないし、泥棒に入られたって返り討ちにするし。個人の家に盗みに入った場合にも、防犯カメラやドローンからは逃げられない。あっという間に捕まるよ。実際、捕まったのいるし。
賠償金を払える資産がない場合、強制労働で支払いをする仕組みも作ってある。デュバルには、きつい工事の現場、いくらでもあるから。
大丈夫だよ、死にはしない。生きたまま仕事をして支払いを終えるようにしないとね。
彼等の血と汗と涙で、各種地下施設は出来上がってるのかも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます