第373話 行き先と進捗
デュバルの従業員慰安旅行は九月中旬に決定した。
「後は行き先だねえ」
「その事ですが」
カストルに案があるという。
「その頃にはフロトマーロの港街が出来上がりますので、視察がてら行き先にしてはいかがでしょう?」
「えー? 視察ー?」
それって仕事じゃん。私は心から休暇を楽しみたい。
「ですが、今からですと行き先が間に合いません。ガルノバンに連れて行くにも人数が多いですから、あちらとの交渉が必要です。ギンゼール、トリヨンサークも同様でしょう。それとも、一からブルカーノ島のような人工島をどこかに作りますか?」
それもちょっと。慰安旅行の行き先を、うちで作るのはどうなのよ。その際に人形を使うにしても、現場監督なんかはムーサイがネレイデスを使うよね? 彼女達だけ働かせるのも如何なものか。
「我々は人ではありませんから、お気になさらずとも……」
「いーや、気にするね。何なら人形達も私達が慰安旅行に行ってる間、作業を停止させるから」
「あれらは機械に近いのですが」
日本人はな、物にも魂が宿ると考えるのだよ。
「それはそうと、船の従業員はどうなさいますか? 彼等も慰安旅行に参加させるとなると……」
「あ」
さすがに、船の中を全て自分達で賄う事は無理だし、普段自分達の仕事場で旅行と言ってもな……
これは、少し考えた方がいいかも。
慰安旅行も大事だけど、日々の仕事も大事ですよ。
「お! 遊園地の計画も進んでるんだ?」
「やはり人員補強をした結果でしょうか」
う……でも、確かに凍結していた計画が一挙に進んでる。遊園地もそうだけど、ガルノバン内やギンゼール内、それにトリヨンサーク内に走らせる予定の鉄道の敷設計画も、着々と進んでいる。
国内の敷設は前から計画されていたけれど、そちらも工事のスピードが上がった。ペイロンとアスプザットからデュバルまでの鉄道は、狩猟祭開催までに完成させるらしい。早。
また、ペイロン、アスプザットからはユルヴィルへ向かう線も作る。伯爵は難色を示したけれど、これに口出ししたのは王家だ。
重要な領地であるペイロンとは、簡単に行き来出来る手段が欲しかったらしい。いや、王家の誰かがペイロンに頻繁に行く訳じゃないんだけど。
これにより、ペイロンから王都までにある少領の領主との顔つなぎが減るのでは、と伯爵は心配してるみたい。
でも大丈夫。ペイロンから王都までの路線も街道の上を走ってるから、少領の領主達用に駅を作ればいいだけ。
どのみち鉄道も駅も作るのはうちだし資金もうち持ち。駅が出来れば少領の領主達も王都に出て来やすくなるし、顔つなぎは王都でどうぞ、という訳。
運賃が高いから王都に出られない、という家は……諦めてもらいましょう。そこまで面倒見切れない。
大体、馬車で王都に出るには、鉄道の運賃よりうんと高くつくんだから。
「まー、今までは自宅で待ってれば伯爵が通りかかるから、それでお付き合いは終了だったんだろうけどー」
少領は大体お金がない。王都に出るのも、そこで体面を保つにもお金がいる。だから王都に行けない。でも、辺境の要たるペイロン伯爵家とはそれなりに付き合いがほしい。
だから、今までは王都に行く伯爵が通りかかる際にあれこれもてなしてた訳だ。
伯爵の方も、氾濫がいつ来るかわからない以上、周辺の領の手助けは期待したい。だから、付き合いは断れなかった。
でも、私が対応した氾濫の際、どこの領も手は貸してくれなかったらしいよ。ペイロンだけで対処出来たってのもあるけれど。
その事に、実は伯爵は深く深く怒ってるらしい。鉄道の件も、最終的にはそれが背中を押した形だよ。
それに、氾濫に関しては実は心配していない。だって、うちにはカストルがいるから。
「魔の森の氾濫ですか? ああ、あれは森が溜め込みすぎた魔力を解放する為のものですね。ですから、定期的に起こるんです」
さらっとそんな事を説明された時は、顎が外れるかと思ったさ。
じゃあ、溜まった魔力を何か別の事に使えば氾濫は起こらないのか。答えはYES。
魔力が溜まる場所は魔の森の中央にある研究所だっていうから、そこで集めた魔力を圧縮型魔力結晶に集めてもらった。
で、そこで集めた魔力は機関車の動力源にさせてもらいます。森は氾濫しなくなるし、うちは動力源がほぼタダで手に入って嬉しい。一石二鳥だ。
カストルがやや呆れた顔をしていた気がしたけれど、気にしない。何も言わずに渡した圧縮型結晶を持って、魔の森中央の研究所と往復してくれたし。
ブルカーノ島の建設も、好調だ。
「やっと新素材が完成しましたので、水族館を建設出来ます」
そう口頭で報告してくれたのは、船会社及びブルカーノ島の責任者を務めるムーサイのタレイアだ。現在、王都邸の執務室で話を聞いている。
彼女達はまだ感情獲得に至っていないらしく、無表情のまま。ちなみに、ヘレネとネスティに関しては、最初から表情があった。
どうも、カストル、ポルックスの獲得した感情やその表現に関する情報を共有しているらしい。まだどことなくぎこちなく感じるのは、慣れていないからだって。
水族館用に研究を重ねていた新素材は、ペットボトルもどきに使っているものがベース。それに他の魔物素材を混ぜ込んで、厚みと透明度、それに強靱さを持たせたもの。
これで水槽の水圧にも耐えられるものが出来た。
「やっぱり海の側といえば、水族館は欲しいからね」
出来たらイルカやシャチのショーがあるといいんだけど。その前に、こっちにイルカとかシャチって、いるのかな?
「創りますか?」
「待て。今作るが創るに聞こえたけれど?」
「その通りです。イルカというのはこちらにいませんから、新種の魔物を創る要領で――」
「却下です!」
生態系壊すような事をさらっと言うな!
水族館には、近海の海に棲息する海洋生物を集めてもらい、展示するように指示しておく。出来れば、簡単な説明もつけて。
「説明……ですか?」
「うん、どの辺りの海にいるとか、どんなものを食べるとか、天敵はいるかとか」
「はあ」
タレイアはピンときていない様子。でも、カストルの方は理解したようだ。
「来場したお客様にとって、海洋生物は初めて見るものかもしれません。海を相手に暮らす漁師達なら知っている知識でも、来場者達は知らない事が多いのですよ」
「……よくわかりませんが、わかりました」
いや、わかってないでしょうが。でも、説明書きが必要なのは、理解してくれればもういいか。
ブルカーノ島には、海をテーマにしたテーマパークを作っている最中。水族館は、その一部。
「てーまぱーく……の中心となる遊園地も、整備が進みました」
「お! どんな感じ?」
「こちらをご覧下さい」
タレイアが執務机の上、三十センチくらいの場所に手を向けると、空中に魔力でスクリーンが現れる。
そこに、建設途中のブルカーノ島の姿が映った。これ、ドローン撮影でもしてるのかな?
上空から撮影していた映像は、なめらかに下方へと移動し、建設途中のテーマパーク内を自在に飛び回る。
「こちらが水族館の外観になります」
「ほほう」
見せたい場所では空中で停止し、映像をズームしたりする。
テーマパークは水族館、人工の浜辺での水遊び場、海上をボートで進むエリア、そして海上遊園地で構成されている。
まあ、海に親しむ、建前上の目的だからね。本音は海で遊びたいだけでーす。
海上遊園地には、海に飛び込むタイプのスライダーや、海上ギリギリを疾走するコースターなどがある。
他にも海水の上を歩いて渡るアトラクションや、海の中を歩くチューブ型の道なども作った。
ちなみに、コースターは三種類。海上を走るものの他に、山の上から海に向かって下っていくものと、海の中から飛び出すものもあるのだ。
どれも楽しそう。完成が楽しみだなあ。
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