第371話 来ちゃったPart2

 王宮から戻って、やっと領地へ帰れるー。やる事山積みだしー。まずはフロトマーロの港建設か。


「あ、トレスヴィラジの水汲み工場も造らなきゃ」

「それはいいけれど、その名称何とかならないの?」


 えー? わかりやすくていいと思うんだけどなー。


 入れ物は既に作ってあるし、あとは水を汲んでボトルに詰めて殺菌して出荷出来るようにすればいい。


 あ、段ボールとかあった方がいいかな?


「待った! それ以上作るものを増やさないの!」

「でもー、段ボールってあった方が便利じゃない? リサイクルも含めてさ」

「う……確かに……」


 ふっふっふ。もうちょっとでリラが落とせる!


「段ボールでしたら、いつでも生産に入れますよ」


 うわ! びっくりした。


「いきなり会話に入ってくるの、やめてよね、カストル」

「申し訳ございません。ですが、生産の話をなさっていたようでしたので」


 それは確かに。


「カストル、先程いつでも生産に入れると言ってましたが?」


 あれ? 何故かリラがお怒りモード? カストルの方は、気付いていない? いや、気付いてるけれど、問題にしていないのか。


「言いました。いつでも主様のご期待に応えるよう努力しておりますので」

「甘やかすの間違いでしょうが!!」


 あー、やっぱりお怒りモードでした。


 その後、リラによるカストルへの説教という、大変珍しいものを見ました。私も、その隣で説教されたけどな!




 とりあえず、段ボールは既に生産ラインも組んでるそうなので、このまま作る事に決定。


「どんだけ時代を進めるのよ……」

「今更だよ」


 リラに睨まれたー。でも、本当に今更だと思うんだ。


 この世界、どうも地球からの転生者が生まれやすいのか、あちこちでその「跡」を見かけるんだよね。


 私がやる前に、既にトイレは水洗だったし米味噌醤油もあった。緑茶も、実はデュバルでこっそり生産されてたし。


 お茶に関しては、緑茶も麦茶も前より増産してます。大麦の畑とか、茶畑とか。そのうち、抹茶も作れるといいなあ。難しいらしいけど。


 それはともかく。代々の転生者が既にあれこれやらかしてくれているので、今更私が少しやらかしたところで、大差ないない。


 今も現在進行形で、お隣の王様がやらかしてるだろうし。そういえば、アンドン陛下のトリヨンサークでのやんちゃ、正妃様にチクるって話だったっけ。お手紙でいいかなあ?




 ヌオーヴォ館へ移動陣を使って戻ったら、何やらルミラ夫人がお困りのご様子。


「どうかしましたか? ルミラ夫人」

「まあ、レラ様。お帰りなさいませ。フロトマーロの方は、いかがでしたか?」

「ただいまです。港の方は、ちゃんと建設許可をもぎ取りましたよー」


 私じゃなくて、タンクス伯爵が……だけど。


「それで? ルミラ夫人の方は、何かありましたか?」

「実は……ご予約のない方が、温泉施設の方にいらしてまして」

「予約のない客? そういった方は、身分に関わらずお断りする事になっていたはずだけど?」

「……隣国の、正妃様がご滞在です」


 何ですとー!?




 温泉街の中心から外れた山裾。そこに広がるのはデュバル温泉街でも最高級のお宿「星深庵」。


 一日六組限定というプレミアム感と、全ての部屋が離れというプライバシーを重視したおもてなしが売りだ。


 そしてこの星深庵、予約開始から空きが出た事がない程の人気ぶり。そんな星深庵に、飛び込みの客が入れるのか?


 入れるんだな、これが。こういった宿にはお決まりの、超お得意様用に、二棟ほど予約を入れずに空けてある棟がある。


 その一つに、ガルノバン王国の正妃、ヘーテケリア陛下が逗留しているんだってさー。


 何であの国の王族は、先触れを出すという基本的な事をしないのかな!?


「お客様は、一番奥の棟にいらっしゃいます」


 従業員に案内されて入り込んだのは、幻影魔法で他とは遮断された特別な空間。


 余所から見られないようにってのもあるけれど、空きがあると思われると後で面倒だからさー。


 空いてたはずなのに予約が取れなかったーとか騒ぐ連中も、いるかもしれないしー。


 で、その特別空間に入ると、二棟あるうちの更に奥、特等も特等の部屋に、正妃様はいた。


 ちなみに、以前アンドン陛下が泊まったのは、六棟あるうちの一棟。あっちだって高級なんだけど、ここはそれより上の別格扱い。


 うちの従業員、いい仕事してるなあ。


「失礼します」

「まあ、デュバル女侯爵。久しぶりですね」

「ご無沙汰しております、正妃陛下」


 何かこのやり取り、ついこの間やったような気がする。




 特別空間には、ロビーや食事処、ティールームなど、ここに泊まったお客様専用の施設がある。


 そのティールームの方へ移動し、正妃様と対面で座った。


「ここはいいところね。静かだし、自然の音に溢れているわ」

「恐れ入ります」

「我が国の国王陛下が、以前長逗留したそうですね。帰国してから、随分自慢なさってたのよ」

「まあ」

「それで、私も来てみたいと思って。……来ちゃった」


 まさしくテヘペロという様子で言う正妃様。似たもの夫婦だったのかー。


 正妃様とは、かしこまった場所でしか顔を合わせてなかったからね。お互いよそ行きの顔では、相手の性格までは見抜けないって。


 温泉街のことを色々と聞かれ、本来なら予約がないと泊まれない事を告げる。


「まあ、ではそのよやく……とやらは、どこで出来るのかしら」

「現在はオーゼリアの王都にある専用のカウンターでのみ、受け付けています」

「……ガルノバンには、ないの?」


 う……。そうなんだよねー。いずれは、と思ってたけど、まさかガルノバンの王族のフットワークがここまで軽いとは思わなかったから。


「ここなら、お父様も気に入ると思うの」


 正妃様の父上っていうと……宰相様か! そうだよねえ。あの人、アンドン陛下の尻拭いで大変な思いをしてばっかりだもん。温泉で癒やされてもいいはずだ。


 これは、早急に予約カウンターを用意しなくては。


『ガルノバン側の駅構内に、カウンターを設置してもよろしいですか?』


 カストルか。出来る? 常駐させないといけないから、人選どうしよう。


『こんな事もあろうかと、ムーサイのさらに下位存在を作っておきました』


 待って。今何か不穏な事を聞いた気がするよ?


『人員が育つまでの暫定措置とお思いください』


 人員が育ったら、今いる下位存在達はどうするの?


『その場合は廃棄――』


 却下だ! 配置換えで活用出来るように考えなさい!


『承知いたしました。予約カウンターの方は、進めてよろしいですか?』


 いいです。てかなるはやでよろしく。


『承知いたしました』


 ふー。カストルとの念話中、正妃様が窓から見える景色に見とれていてくれて助かった。


「あら、いけない。私ったら。あまりに見事な景色に、つい目が奪われてしまったわ。あれは、庭園……なのかしら?」

「ええ。ですが、大変小さい庭なのです」

「まあ」


 和風の星深庵には、所々坪庭を設えている。それぞれ趣を変えているから、全てを見て回るのも楽しいよ。


 ただ、和風なので派手好みなオーゼリア風や、質実剛健で広さが売りのガルノバン風とは大分違うんだよね。


 私やリラは元日本人という事もあり、こういったわびさびの庭は落ち着くんだー。


 だから、正妃様がお気に召したのなら、ちょっと嬉しい。多分、アンドン陛下もこれは好きなんだと思う。星深庵に逗留していた時も、庭の散策を好んでいたって報告が上がってきてるから。


 そして、この坪庭はどうやら宰相閣下も気に入りそうなんだとか。


「やはり、お父様にも見ていただきたいわ。宿の予約、ガルノバンからも出来るようにならないかしら?」

「もちろん、すぐに手配いたします。ガルノバン側の駅構内に設置予定ですので、今しばらくお待ちください」

「まあ、本当に? ありがとう」


 華やかな笑みの正妃様。あ、そうだ。あれを伝えておかないとね。


「それはそうと正妃陛下。少し、お耳に入れておきたい事が」

「まあ、何かしら?」

「トリヨンサークでの、アンドン陛下の行動についてです」

「ぜひ、詳しく」


 お、食いついてきた。一応、口だけではあったけれど、と前置きをして、私が聞いたあれやこれやを話しておいた。


 正妃様、笑顔で聞いてらしたけれど、目が笑っていませんでしたよー。

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