第362話 揃った
カストルが戻ったのは、衝撃の事実を聞いた翌々日。本当に九人引き連れて戻ってきたよ……
「カストル、ちょっとお話があります」
「承知いたしました」
執務室にカストルだけ残し、リラやポルックス、ヘレネとネスティ、九人の新人は退室してもらった。
「さて。わかっていると思うけれど、今回、どうしてあんなに一挙に人数を増やしたの?」
「主様に必要と判断したからです。それに、増やす人数に関しては何も聞かれませんでしたし」
そうだったー。そこは私の反省点。つか、そういうのって、作る側が言い出すもんじゃね?
いや、罪のなすりつけはよくない。
「それならそれで、人数が私にバレた時点で何か言うべき事があったのでは?」
「申し訳ございません。彼女達を作るのに、全力を注いでおりました」
「一日で出来るんじゃなかったの?」
「研究所にある機材をそのまま使えば、ですね。ですが、その結果がヘレネとネスティです」
んん? どういう事?
「今回研究所へ直接出向いた結果、遠隔操作ですと機器の制御がうまく出来ない事が判明しました。ヘレネ達の失敗は、それが原因です」
「いや、失敗って。能力制限がされていないだけでしょう? 失敗とか言わないの」
「失礼しました。ですが、こちらの思い描いた通りの結果ではありません。ですので、今回は研究所へ赴き、機器を自分で操作しました」
リモートとマニュアルの差って事?
「原因については、まだ判明していません。ですが、手動で操作した結果、先程の九人は能力制限がなされていました」
うーん。とはいえ、この先そんなに人数増やす事もないだろうから、わからないならわからないままでもいいかも。ちょっとモヤモヤするけれど。
「……そうでしょうか?」
「え?」
「いえ、人数が増えないとは言い切れないかと」
「待って。これ以上増やすつもり!?」
扱いきれないって! ただでさえカストルとポルックスだけでも持て余し気味なのにー。
「現実問題として、増やさざるを得ないと言いますか」
「えええええ」
「彼女達を増やした結果、滞っている鉄道事業を進める事が可能になります」
「う」
「ガルノバンとギンゼール、それにトリヨンサークにも通すのですよね? 鉄道」
「それは」
「それに、領地内に作る遊園地」
「あ」
「ブルカーノ島にも、テーマパークとやらを作るのですよね?」
「そーですね」
「後は、国内の鉄道事業ですか。敷設はこれからですし、大規模工事があちこちで行われる事でしょう。それらの管理業務は多忙を極めるでしょうね」
「うう」
「彼女達でしたら、過労の心配はありません。それに、九人はそれぞれ私、ポルックス、ヘレネ、ネスティの下につきますから、主様が直接命令を下す必要もございません」
九人を四人で割るって事? 余りが一人出るんですがそれは?
「誰の下でも行動可能としておきます。遊撃のような立ち位置ですね」
そういう事かー。うーむ。
増えた子達に直接指示を与える必要がないのなら、別に多くても構わない? 彼女達の管理はカストルに一任するとすれば……丸投げですね、はい。
「では、追認という事でよろしいでしょうか?」
追認……追認ねえ。確かに、人数が多かったのは、遡って認める事か。
「わかりました。彼女達の管理はしっかりとね」
「承知いたしました。つきましては、彼女達の名付けをお願いします」
またか!!
カストルとポルックス、ヘレネとネスティ。四人はギリシャ神話からその名を取っている。
なら、九人もギリシャ神話関連じゃね?
「何かいい案、ない?」
「ムーサイはどうでしょう?」
「ムーサイ?」
聞いたら、いわゆるミューズの事だった。ミュージックの語源だね。ちなみに、単体だとムーサで、ムーサイは複数形らしいよ。
彼女達がちょうど九人……いや、諸説で色々とあるそうだけど。
カストル、最初から狙ってないか?
「何の事でしょう?」
笑顔が胡散臭いから有罪です。
それはともかく。
「では、ムーサイから取ってカリオペ、クレイオ、エウテルペ、タレイア、メルポメネ、テルプシコラ、エラト、ポリュヒュムニア、ウラニアで」
「承知いたしました」
「あと、彼女達は彼女達で見た目がそっくりすぎて見分けが付かないよ。なので、名札を胸に付けておくこと」
「名札……ですか?」
実はこれ、うちの人員が増えた事により、名前を覚えるのが追いつかない事から考えたアイデア。
名札があれば、名前を間違える事はないからね。
「これを機に、うちで働いている人達は全員名札を付ける事を義務とします」
「それは……私やポルックスもでしょうか?」
ん? そうか、全員というと、そういう事になっちゃうね。
「……訂正、私が名前を覚えてる人以外は、付けるように」
「承知いたしました」
よし! これで相手の名前を呼び間違えるって事もなくなるでしょう。たまにメイドでも名前がわからない子、いるんだよね……
人員が補強されたからか、鉄道会社と船会社の設立は順調に進んだ。
「社長は人外だけどねー」
「言われなきゃわからないから、もういいわよ」
リラがいつになく投げやりだ。
ムーサイ……カリオペ達をまとめて呼ぶ時はこう呼んでいる……は、その能力を遺憾なく発揮し、各会社を切り盛りしている。
彼女達の下には、教育が完了した領民や犯罪被害者達が何人かついた。実地で仕事を学び、いずれは幹部に育てたいというのがカストルの言。
他にも雑務用に高性能人形が何体か。決して外の人間に接しないという条件の下、運用を許可している。おかげで事務仕事が捗るってさ……
船会社に関しては、前にも言っていたように本社はブルカーノ島に、支社を王都に置いている。
今のところ、商業地区のデュバルの店に間借りしてる状態だけどね。
鉄道会社も似たり寄ったりで、こちらの本社はデュバルのパリアポリス……旧都に置いているヴェッキオ館が本社扱いだ。
あそこ、ホールとして貸し出そうと思ってたんだけど、まだ領民達はあそこを借りるほど裕福ではない。
かといって、領外の人間が古い館を借りる意味って何? となり、貸し出し業務は立ち消えとなってしまった。
その代わりに、鉄道会社の本社になったという訳。いやあ、箱物は残しておくと再利用出来る事もあるんだね。
船会社の本社社屋は、新たに建設した……らしい。まだ私も見てないし。
海運業に関しては、まだ正式に始まってはいないけれど、クルーズへの問い合わせがあちこちから来ていましてね。
まだガルノバンやギンゼール、トリヨンサークには話を通していないから、大陸周遊クルーズは出来ないんだけど……
「では、そろそろ小王国群との交易を兼ねて、フロトマーロやその周辺国家への寄港を考えてはどうでしょう?」
「フロトマーロか……」
最初は水を売りに行く予定だったんだけどなあ。いや、今でも売りに行く気満々ですよ。トレスヴィラジの水、おいしいし。
最近では、ヌオーヴォ館や王都邸で飲む水は、あそこの水にしているくらい。特に王都は水が美味しくなくてね……
飲めないとか臭いとかはないんだけど、トレスヴィラジの水が美味しすぎるんだ、きっと。
最近では、王都邸を訪れるお客様にも好評なんだとか。お茶なんかもあの水で淹れると美味しさが上がるのでね。
でも、さすがにただの水を王都で売ってもなあ。買い手は付かないでしょ。なので、水不足に陥りがちな小王国群で、と思ってるんだけど。
「ムーサイも揃いましたから、そろそろフロトマーロと交渉して港建設に着手してもいい頃ではないでしょうか」
なるほど。でも、港建設の許可が下りても、出来上がるにはまた時間がかかるだろうし。
「そこは、ムーサイと人形達で急いで仕上げます」
マジで? んじゃあ、やってみる?
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