第361話 想定外なんだけど!?

 一日で出来上がる、とカストルが言っていたように、本当に翌々日には新しい「仲間」を連れてきた。


「私達が男性型ですので、今度は女性型がいいかと」

「よろしくお願いします」


 無表情で言う二人は、綺麗なんだけど何だか冷たい印象だ。


「彼女達も、主様の側で経験を積めば、私達のように個性を獲得出来るでしょう」

「……そうなの?」

「おそらく」


 怪しくない? とはいえ、愛想があろうとなかろうと、仕事が出来ればいっか。


「それで、彼女達の名前は?」

「それは当然、主様に付けていただこうと思っております」


 心なしか、女子二人から期待のまなざしを向けられているように感じる。君達、個性はまだないんだよね?


 既にその下地はあるような気がするんだけど……


 でも、名前ねえ。カストルとポルックスだから、やっぱりそこ関連の名前を付けた方がいいのかな?


 確か、二人はレダの子供だったよね。彼女の子で有名なのは、トロイア戦争の原因となったヘレネかな?


 ヘレネと一緒に語られる名前も、あったよね?


「えーと、じゃあ右の子がヘレネで、左の子がクリュタイムネストラ」

「ありがとうございます」


 しかし、ヘレネとクリュタイムネストラ……自分で付けておいて、長いな。愛称ネスティでいっか。本人に確認すると、了承の返事がきた。


「ヘレネとネスティ、見た目がそっくりすぎてどっちがどっちかわからないんだけど」

「では、私とポルックスのように髪型で変化を付けますか?」


 それが無難かなあ。ヘレネとネスティは、同じ巻き毛のロングヘア。よし。


「ヘレネをハーフアップに、ネスティをポニーテールにして」

「承知いたしました」


 ヘレネ達もカストルに合わせて頭を下げる。当人達も了承したという事だね。




 ヘレネ達がデュバルに来てから二日。現在も私は王都と領地を行ったり来たりしている。


 時間が合えば列車を使おうかなーと思ったけれど、リラに止められた。


「移動に長々と時間を掛けている余裕、ないわよ」


 残念。なので、移動陣を使ってまーす。ちなみに、私の移動に合わせてユーインも王都邸に帰ってきたり、領地に戻ったりしてる。


 王宮で王太子殿下の護衛を務めている彼の事を考えたら、そら長距離通勤は控えた方がいいわな。


 本日は王都邸での執務。一挙に増えた鉄道敷設依頼を処理している最中。ヘレネ達が仕事を始めたんだから、鉄道と船の会社は二人に丸投げしてもいいんじゃないだろうか。


 内心でこっそり考えていたら、カストルから声が掛かった。


「主様、トラブルが起きました」

「え? 何?」


 丸投げするっていうの、読まれてた?


「それは置いておいてください。ヘレネとネスティの事です」


 丸投げはいいんだ。それはともかく、あの二人の事って?


「作成時に能力を制限するよう設定したはずなのですが、うまく働いておらず……」

「もしや、能力の制限がされていない?」

「はい」


 そうかー。カストル達と同じ能力持っちゃったかー。


「今から制限は……」

「出来ません。作り直す以外に手はないのです」


 さすがに、生きてる彼女達を作り直すのは嫌だな。仕方ない。


「ヘレネとネスティに、きちんと言い聞かせておいて。全力を出さないようにって」

「承知いたしました。それに併せて、一つお願いが」


 カストルのお願いって、ちょっと身構えるよね。最初のお願いでヘレネ達が出来たんだから。


「さすが主様。ご慧眼痛み入ります」

「マジでー?」

「今度こそ、能力制限をした個体を作ろうと思います」


 いやいやいや、そんな爽やかな笑みで言われましても。


「常々、私とポルックスだけでは主様の護衛その他の任務をこなすには力不足と思っておりました。ヘレネとネスティにも期待しておりますが、まだまだ彼女達は生まれたてもいいところ。ここは、我々の下で雑事を行う存在が必要かと」

「えええええ。それ、人形じゃ駄目なの?」

「いささか能力不足にございます」


 そう言い切られちゃうとなあ。あれこれ丸投げしている現状があるし。


「主様には、朗報です。新しい個体を作成出来れば、現在凍結中のあれこれを進める事が出来ます」

「よし! 許可します!!」

「ありがとうございます」


 珍しくも満面の笑みで執務室を後にしたカストルと入れ違いに、リラが入ってきた。


「何かあったの? 浮かれるカストルなんて珍しいものを見たんだけど」

「新しい個体の作成許可を出したんだ!」

「はあ?」


 首を傾げるリラに、先程カストルに聞いた話を聞かせる。


「それで、許可を?」

「うん!」


 あれ? リラが固まっちゃったよ。


「リラ?」

「はあああああああああああ。ヘレネとネスティの能力がカストル達と一緒ってのも驚きだけど、さらに制限付きの連中まで増産とか」

「これで少しは人手不足が解消されるといいね!」

「……そーですね」


 何でそんな死んだような目になるのよー。




 ヘレネとネスティは実質一日で出来上がったそうだけど、今度作る新しい個体は、レシピそのものから見直すとカストルが息巻いていた。


 ヘレネ達は魔の森にある研究所を遠隔操作して作ってたけど、今回はカストル本人が研究所まで行って作ってくるんだって。


「で、カストルがいない間は僕が主様についてる事になったんだー」

「私は、ポルックスの手伝いで来ました」


 相変わらず軽い調子のポルックスの後ろには、きっちり髪を結い上げたネスティがいる。


 彼女達の服装は、執事のような男装をとカストル達が言っていたけれど、それは私が止めている。


 メイド服もいいんだけど、ここは秘書っぽいスーツとかどうだろう?


 オーゼリアって、まだ女性用のスーツがないのよ。なので、マダムの店に相談し、大まかな形を伝えると、試作品製作に乗り気になってくれた。


 本来スーツは紳士用の服なので、ドレスを作るのとは必要な技術が違うんだって。


 でも、そこはマダムの店。必要ならっていうんで、紳士服の仕立屋の知り合いに頼んで紳士服の構造とか、仕立て方を学んでいる最中なんだそうな。


 ありがとう、マダム。スーツが出来上がったら、ぜひとも私の分も注文させてもらうよ。


 で、現在のヘレネとネスティは、私の手持ちドレスの中でもシンプル目なのを下げ渡して着用させている。


 使用人が主人から衣服を下げ渡されるのはよくある事なので、リラもこれには文句を言わない。


 早く女性用スーツ、出来上がらないかなー。あ、スーツが出来上がったら、それに合わせる靴も欲しいよね。


「靴職人って、領内にいたっけ?」

「今度は何を思いついたの?」

「え? いや、スーツが出来たら、パンプスくらいは欲しいかなーって」

「なるほど。でも、確かにドレス用の靴だと、仕事には向いてないわね……」


 お、珍しく私の思いつきにリラが食いついた。


「靴職人はいないけどー、その辺りは人形で事足りるかもよー?」

「そう?」


 靴職人、舐めんなよ? 顧客の足にフィットさせる技術は凄いんだぞ? しかも顧客の要望をきちんと聞いてくれる……人もいる。


 職人って頑固な人が多いから、こっちの要望丸無視する人も、中にはいるんだよねー。


「何だっけ、前の主様が言っていた――」

「大量生産品です」

「ああそう、それそれ」


 ポルックスの言葉に、ネスティが後ろから補足する。なるほど。人形は工場代わりって事ね。で、お高くて履き心地のいい靴はちゃんと職人に作ってもらうようにする……と。


 住み分けは大事だわ。


「じゃあ、人形達にこんな形の靴を作るよう、指示しておいてくれる? 初回だから、四足もあればいいかな」


 私とリラとヘレネとネスティの分。頼んだら、ポルックスが首を傾げている。どうしたの?


「いやー、カストルが今作ってる子達って、四人以上いるんだけど、四足で大丈夫?」

「はい? 四人以上!?」

「ちょっと待って、あいつ、どんだけ子分を量産する気よ!」


 いや、リラ。子分って。……あながち、間違ってないのかな?


「僕のところに来た連絡だと、確か九人とか」

「一気に九人!?」


 どんだけ作るつもりだカストル! 今の私のこれも聞こえてるはずだよね!?


 ……返事はない。無視を決め込んでるな?


 いいでしょう。帰ったらお話し合いといきましょうや。

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