第357話 やっと帰れるー

 留学関連の書類を詰めるのに、予定滞在日数をオーバーしてしまった。


 その事で、訪問団の他の人から文句が出るかなーとか思ったけど、意外にも出なかったわ。


 特にツビック伯爵。彼の目当てだったエザック侯爵との繋がりは作れず、しかも相手が死亡するという結果になったからね。


 こうなったら、はやいとこオーゼリアに帰りたいんじゃないかと思ってたんだ。


 元々、トリヨンサークに近づいたのも、他家に先駆けて交易を、と狙っていただけだっていうし。


「その交易、レラが開いたようなものだから、文句を言わないのよ」


 今日はコーニーが部屋に遊びに来てる。リラはヴィル様と一緒にネヴァン陛下と何やらお話中だそうな。


「交易ねえ……鉄道が開通しないと、そうそう交易も出来ないんじゃないかなあ」

「船は? ここまで乗ってきたあれに、荷物を積んで帰れないの?」

「いや、あれ貨物船じゃないから」


 荷物を積めるかどうか聞かれたら、もちろん積めると答えるんだけど。


「ともかく、荷物を積んで帰れる船があるのなら、ツビック伯爵達もその船を使わせてほしいって思うんじゃない?」


 うーん。いっそ交易用に、貨物船造る?


『既に建造に着手しております』


 うおっと! カストル、いきなりの念話はやめて……


『失礼いたしました』


 貨物船を建造中って話だったけど。


『ええ。元々、ウヌス村沖の人工島は、大型船舶を停泊させられる港を、という事で建造しています』


 ああ、そうか。フロトマーロとの交易用の船か。


『ええ。あちらとは未だに交易が開始されていませんから、建造中の貨物船はトリヨンサーク方面で使うのはどうでしょう?』


 いいんじゃないかな。別にフロトマーロ用に特別仕様にした、なんて事はないんでしょ?


『ないですね』


 ならいいや。




 その日の夕食。久しぶり……というか、トリヨンサークの王都に入ってからは初めてかな? 訪問団だけの夕食会が行われた。


 私の隣の席は、何故かツビック伯爵。そしてこの場にもクック氏の姿はないけれど、誰も何も言わない。こういうところ、貴族は怖いよねえ。


「デュバル侯爵は、こちらの国との交易を始められるとか」

「ええ。我が領の商会会頭に頼まれまして」

「ほう。デュバルの商会と言いますと、ロエナ商会ですかな!?」


 おう。何でこんなに食いつくの!?


「え、ええ。ご存知かしら」

「存じておりますとも! あの陶器は素晴らしい! 熊の置物を手に入れたかったのですが、一歩及ばず……残念です」


 欲しかったんだ!? しかも熊を!? あれ、確か限定生産で販売したんだよね……元は私の陞爵祝いの品の一つだったけど。


 その後も、ツビック伯爵には陶器の置物の素晴らしさを延々と語られてしまった。


「それはそうと、侯爵の交易は船をお使いですかな?」

「ええ。それ以外、手段はありませんから」


 鉄道を敷く話も出てるけど、正直何年後に開通するのよって話だし。


 ちょっと遠い目になってたら、ツビック伯爵から申し出があった。


「その船、我々の荷も運んではもらえませんか?」


 おっとー? コーニーの読みが当たったのかなー?


「ええと、それはどういう……」

「交易船の空いた部分をお貸し願いたい」


 うやむやに出来ないかなーっと思ったけれど、出来なかったー。面倒だなあもう。


 そういう面倒ごとは、丸投げするに限る。


「いずれ、交易用の船会社を設立すると思いますから、そちらにどうぞ」

「おお! 期待しておりますぞ!!」


 うん、貨物だけでなく、クルーズ船も就航させようかな。ガルノバン、ギンゼール、トリヨンサーク三国を廻る船旅とか、どうだろう?




 部屋に戻って、リラを呼び出し船会社設立の話と、クルーズ船就航の話をしたら、頭を抱えられた。


「駄目かな?」

「駄目じゃないけど、どうしてそう次から次へとぽんぽん思いつくのよ!!」


 えー? 駄目じゃないならいいじゃーん。


「とりあえず、船会社設立はデュバルに戻ってからだね。急がないから、ゆっくりやろう。会社を任せる人員を選んだら、後は丸投げするし」

「最初くらいはちゃんと面倒見てあげなさい。可哀想でしょ?」


 大丈夫だよ……と言いたいところだけど、確かに船会社なんて、オーゼリアにはないものだもんね。何せ他国との交易は現状一つの家が独占してる。


 そこは自前の船を持っているから、うちが作る船会社は使わないだろうし。


「船会社を作るのはいいけれど、港はどうするのよ」

「ああ、それはウヌス村沖の人工島がメインの港になるね」

「あそこ? 王都からだと遠くない?」

「その為にも、頑張って鉄道を敷設しないとね」


 全てはそこに繋がるんだなー。


 正直、魔法で全部作業をやっちゃえば、一年かからずに鉄道網を構築出来ると思うのよ。


 でも、それをやるとどんな影響が出るかわからない。だから、やりたくないんだよねー。


 最悪、土木工事ばかり依頼される未来が見えそうでな……いや、断ればいいんだろうけどさ。断れない筋から依頼されるとね……


 なので、ガルノバンやギンゼール、トリヨンサークでの鉄道敷設は魔法と人形をガンガン使って進めようかと。国内よりは、影響小さいと思うから。


 あ、人形も増設しないとねー。もう少し、高性能なのも作った方がいいかな。何せ、うちの領から離れた場所で工事をするんだし。


「また余計な事を考えてるわね?」

「余計じゃないよ、必要な事だよ」

「あんたの場合は大抵余計なのよ! いいからもう寝なさい!」


 えー、まだ夕食終わったばっかりじゃーん。夜はこれからでしょ?




 諸々の手続きが無事終了し、やっと帰国する事が出来る。


「弟の事、よろしく頼む」

「お任せください」


 王城にて、ネヴァン陛下がお見送りに出てくれた。まあ、グリソン殿下の見送りなんだけどねー。


 そういえば、グリソン殿下はこの度臣籍降下して、ウィグエント侯爵と名乗る事になったそうな。


 領地は持たず、王城での役職を得る事になるんだって。頑張れ。


 あ、これからオーゼリアで面倒見るの、私か。


 グリソン殿下改めウィグエント侯爵と一緒にオーゼリアに来るのは、総勢三十七人。


 中には夫婦でこの留学に参加する人達もいて、全部で十組。いずれも王都ではなかなか職が見つからない人達だってさ。


 でも、能力がない訳ではないそう。王都で職を見つけるのって、凄く大変らしいよ。大抵、親の跡を継いで何とかするそうな。


 今回留学する人達の大半は、孤児。親から相続するものがない分、しがらみなくどこにでも行ける。そんな風に言ってるそうだ。逞しい。


 オーゼリアが彼等の新天地になるかどうかは、彼等次第かもね。私は出来る限りの手助けをするだけだわ。

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