第354話 バレなきゃ平気だよ
グリソン殿下は、本当に兄であるネヴァン陛下が大事らしい。陛下に幸せになってほしいという思いがにじみ出ている。
「その割には、自分は国外に出ようとしてるんだね」
「いやあ、俺も爺さんの血を引いてるからさ。あんまり視界に入れたくないんじゃないかって思って……」
そういうのはね、ちゃんと本人に聞いた方がいいよ。
「ネヴァン陛下に、確かめた?」
「え? いや。……だって、面と向かって『お前の顔を見たくない』とか兄上に言われたら、やじゃん。かといって『そんな事ない』って言われても、無理に言わせてるだけだし」
ネガティヴだなあ。まあ、あのろくでなし侯爵に兄弟仲までめちゃくちゃにされていた事を考えれば、仕方ないのかも。
「ともかく、一度腹を割って話してみな」
「でも……兄上に拒絶されたら……」
「そん時はそん時。改めて全部捨てて国を出ればいいじゃない」
「いい……のか?」
ぐずるねえ。
「いいのよ。このまま国に残って、お兄ちゃんともろくに話せず王城でいらない子扱いずっとされたい?」
「ええ?」
「今のまんまだと、確実にそうなるよ?」
「それは……ちょっと……」
「なら、今ここで勇気を出してみな。玉砕したら、愚痴は聞いてあげるから」
あれ? 何か前にも似たような事、言った覚えがあるな……
あれは、兄の時だっけ。お義姉様に気持ちを伝えていいものかどうか、ぐずってたんだったわ。
何とかグリソン殿下を丸め込み、ネヴァン陛下の元へ送り出した。
「まったく、男の方が根性ないよね」
「いや、あんたと比べられても」
リラが酷い。ただいま室内には私とリラのみ。ユーインはアンドン陛下に呼び出されてどっか行っちゃった。後でアンドン陛下とはお話し合いが必要だな。人の旦那を勝手に連れ出すなんて。
ヴィル様は帰国に向けて、あれこれ手続きだのなんだので忙しい様子。
それに比べると、私は気が楽ー。まあ、マダムやヤールシオールに言われた事をネヴァン陛下に伝える事は出来なかったけれど。
あれだ、努力はしたよ、うん。でも、結果が出なかっただけ。
布地に関しては、カストルに頑張って新素材を開発してもらおう。陶器の販売先に関しては、ガルノバンとギンゼールがあるさ。
あとは、トリヨンサークでやり残した事……
「そういえば、捕まえたベクルーザ商会の連中って、今どうしてるんだろう?」
「船の最下層に閉じ込めています」
「うお!」
いきなり現れないで。リラも驚いているじゃない。てか、船? 船って、あの沖合に停泊させている、うちの船?
「その船です。閉鎖空間ですから、そこから他のデッキに上がる事はありませんよ」
「ならいいか。……いや、よくない。商会の連中は、トリヨンサークに引き渡すべきなんじゃないの?」
「引き渡したところで、逃げられるのが落ちでしょう。その点、私なら彼等を逃がす事はありません」
反論出来ない。これは、後でヴィル様からネヴァン陛下に伝えてもらおうかな。
「でも、何故商会の連中を船に閉じ込めているの?」
リラがもっともな疑問を口にする。そうだよね。もう取れる情報は取ったんだから、二度と悪さ出来ないようにして放逐するのもありなんじゃない?
「彼等には、しでかした罪にふさわしい罰を与えるべきです。それに、記憶の消去でもしない限り、古代魔法から得た中途半端な技術を垂れ流し続けますよ。それは危険です。私なら、その危険なく彼等を管理出来ます」
カストルの言葉が正しい。いいか悪いかは置いておいて。特に最後の一言。どうやら、彼等は我が領で働く事になるらしい。
「隣国にいた商会の連中も、彼等と行動を共にしていたクイソサ伯爵も、同様に捕縛済みです」
「え? そうなの?」
商会には当然だが、個人的にクイソサ伯爵にも恨みがある。その伯爵が、捕縛済みとな。
この後、ヒュウガイツ王国まで乗り込んでしばき倒そうかと思ってたのに。
「既に捕縛済みですから、いくらでも恨みを晴らしてどうぞ」
「いやいやいや、あんたも何妙な事をこの人に勧めてんの!」
カストルの言葉に、リラが慌てている。大丈夫だよ。船の中なら多分誰にも見られないから。
見られなければ、バレないって。
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