第346話 夜会にて

 ユーインをなんとか宥め、カストルに同時録音中の盗ちょ……第二王子の会話内容を聞かせてもらう。


『……って事か。かー! 相変わらずおめえんところはしょっぺーな!』

『うるせえよ! 俺だって、好き好んであんなところに生まれた訳じゃねえや!』


 おおっと、第二王子、口悪いなあ。


『まあなあ。ほったらかしにされた結果、俺等なんかとつるむようになっちまったし』

『それは別にいい』

『でもよお、王族なら、食うに困らないんだから、いいんじゃねえの?』

『毎食毒入りの飯が食いたいか?』


 はーい、さらに毒殺の危機にさらされていた事がわかりましたー。まあ、王侯貴族なんて、常に暗殺の危険にさらされているものだけどね。


 オーゼリアだって、王太子妃であるロア様が狙われた訳だし。ガルノバンでは王子の婚約者だったタシェミナ嬢が、ギンゼールでは国王であるルパル三世が毒殺されかかって……あれ?


「カストル」

「はい」

「グリソン殿下に盛られた毒、特定して」

「承知致しました」


 もし、私の予想が正しければ、やつらがここにいるって事になる。


 ベクルーザ商会。今度はここトリヨンサークに騒動を起こすつもりなの?




 トリヨンサーク第二王子グリソンは、何やら王都の下町で企みを進行中らしい。


 はっきりした事を何も口にしなかったけれど、「手遅れになる前に」とか「犠牲者を少なく」なんてワードが飛び出ていたからね。


 うーん。少なくとも、兄であるネヴァン陛下の願いを叶える為に動いているって事は確かなんだろうけれど、何をしようとしてるんだろう?


 ここはあれかな? 本人引っ張ってきて自白魔法で……


「レラ、何かよくない事を考えていないか?」


 ユーインに突っ込まれた。ただいま、ヴィル様達とお茶を楽しんでおります。


 お茶会に招かれてはいるんだけれど、今回はツビック伯爵達に任せている。クック氏に関しては、裏切りが確定しているので部屋に軟禁中。表向きは体調を崩したって事にしてあるってさ。


 じっとこちらを見てくるユーインから、目をそらす。


「ソンナコトナイヨ?」

「ユーイン様、騙されちゃダメですよ。こういう言い方をした時のこの人、絶対ろくでもない事を企んでますから」


 ちょっとリラ、余計な事を言わないの!


「レラ、正直に考えていた事を話してちょうだい。自分一人で抱え込んで、いざという時に身動き取れなくなったらどうするの?」


 う……コーニーにそう言われると……


 確かに、何事か起こった際、コーニー達が知っているのと知らないのとでは、対処法が違ってくる。


 という訳で、グリソン殿下に関する事を白状した。


「レラ、さすがに王族に自白魔法は使えないぞ?」

「やっぱり、駄目ですかねえ?」

「駄目だ」


 ヴィル様に念押しされちゃったらなー。バレなきゃいいかとも思うけれど、リラやヴィル様相手に隠し通せる自信はない。


「自白魔法じゃなくても、本人から直接聞けばいいんじゃない?」


 そんな提案をしてきたのは、イエル卿だ。


「素直に話すか?」

「そこはほら、君らの圧で」

「何が圧だ」


 いや、ヴィル様のプレッシャー、マジ半端ないから。そこにユーインが加わったら、鬼に金棒だね!




 という訳で、グリソン殿下をお茶にご招待ー。場所はバンブエット侯爵に話をしたら、快く中庭の東屋を用意してくれたわ。


 いやー、権力って素敵ね。


 こちら側の出席者は、六人のみ。ツビック伯爵には、エザック侯爵主催の園遊会に行ってもらっている。


 もちろん、そちらはカストルに頼んで録画してもらっている。後で二人が何を話したか、チェックしなきゃ。


 で、向こうの出席者はグリソン殿下お一人。気のせいか、顔色が悪いように思うんだけど。


 体調が優れないのなら、お断りしてもらってもよかったのにい。


「本日は我々の茶会にお越し下さり、心より感謝申し上げます」

「う……え……その……う、うん……」


 そんなに怯えなくてもいいのよ? 怖い事なんて何もしないから。


 ただ、ちょーっとあなたがやろうとしている事を、聞きたいだけなんだー? 教えてくれるよね?


 私達は全員笑顔で応対してるのに、何故かグリソン殿下は下を向いて汗をかいている。


「さて、茶会の話題としてはいささか硬質に過ぎるかもしれませんが、何分前置きなどという優雅なものには不慣れなものでして」

「え……」

「単刀直入にお聞きしたい。殿下が計画している全てを」


 ヴィル様の笑顔に、グリソン殿下が今にも昇天してしまいそう。大丈夫だ、頑張れ!


 圧を掛けるのは、何もヴィル様だけではない。ユーインとイエル卿も、しっかり圧を掛けている。


 そして、私は殿下が逃げられないように、こっそり東屋周辺に結界を張っておいた。


「エグい……」


 リラ、そこで他人事のようにぼそっと言わないの。




 お茶会が終わった後、グリソン殿下はぐったりとしていた。一人でお部屋まで帰れますう?


 送っていってあげようかと思ったのに、断られちゃった。レラ、悲しい。


 私達の方は、お茶会の後にあれこれとお話し合い。もちろん、盗聴盗撮をされないよう、厳重に結界を張っておきましたとも。


「それにしても、グリソン殿下が下町ではそれなり知られている存在だとはねー」

「王族って事は、隠してるって言っていたけれど」

「隠しきれるものなんでしょうか?」


 コーニーとリラの意見もわかる。育ちって、端々に出るよね。小さな事から違和感を持たれやすいんだけどなー。


「……明日の夜は、夜会よね?」

「ええ」

「エザック侯爵主催で、王城で開かれるやつだっけ」


 私の確認に、コーニーもリラも頷く。


 オーゼリアの王宮でも、力のある貴族が舞踏会や夜会を開いていたりするから、そうおかしな事ではないのかも。


 でもなー。エザック侯爵だからなー。あの人、今も外戚って立場だし。これからも、その立場を安泰なものにさせようと動いてるんだよね。


 今回の夜会もその一つ。自分の存在をアピールする目的があるらしい。




「んで、私らはその小道具として使われている……と」

「もう少しオブラートに包みなさいっての」


 夜会会場にて、本日はリラと一緒の行動。今夜のドレスはダンスがないので、ちょっとタイトなデザイン。


 オフショルダーでデコルテを開け、ウエストと腰のラインがはっきり出るマーメイドタイプ。裾はちょっと生地に張りを出して、後ろにボリュームを持たせている。色は濃い青。裾だけは白を入れている。


 パリュールは黒真珠。髪は左側だけ結って右側に流すスタイル。リラによれば、私は首が細いからそこを見せつけるようにしたんだって。


 リラはオフショルダーのプリンセスライン。リボンとフリル、レースは少なめ。おかげでラインの割には大人びた印象が残る。


 髪は綺麗にまとめ上げて、パリュールは真珠。私とは大分趣が違う仕上がりだ。


 私達二人が一緒って事は、ヴィル様とユーインが一緒に動いているという事でもあって。


「……凄いね」

「何というか、入れ食い状態って、ああいうのを言うのかな……」


 実は、ヴィル様とユーインに加え、イエル卿も一緒に三人で行動しています。おかげで凄いよ。


 三人の周囲には、女性が輪を作っている。その集団を遠巻きにしているのは、トリヨンサークの紳士達。


 いや、オーゼリアでも人気が高い三人が揃っちゃうと、ちょっとトリヨンサークの男性陣には可哀想かも。


 さて、私とリラが一緒で、男性陣三人が一緒という事は、コーニー一人があぶれているという事。


 彼女が今一緒にいるのは、使節団の夫人方。そちらと一緒になって、夜会に参加しているトリヨンサークの貴族達とにこやかに話している。


 本日のコーニーの装いは、緑で濃淡を出したオフショルダーのプリンセスライン。リラのものとは違い、レースもフリルもリボンもふんだんに使っている。


 髪はハーフアップにして、耳元がよく見えるように。その耳に揺れるイヤリングはエメラルドだ。


 ネックレス、ブレスレットもエメラルドで、髪飾りだけ、エメラルドと真珠を使っている。遠目にもとっても綺麗。


 何故この組み合わせになったかと言えば、私達三人の中でコミュ力が一番高いのはコーニーだから。


 美人で強くて人付き合いも上手いなんて、コーニーってば完璧ー。


 そんな彼女を遠目に見ていた私に、横から声が掛かる。


「おや、こんなところでお二人でいらっしゃるとは。お美しいデュバル侯爵夫人、今宵はよい夜ですなあ」


 私達に近づいてきた獲物。あんたが釣られるのを、今か今かと待ってたよ。


「ごきげんよう、エザック侯爵。本当に、よい夜ですわね」


 扇の陰で、にっこりと微笑む。さて、どうやって料理しようかな?

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