第327話 大変な事が起きました
小さな王子殿下は侍女達の間で「若君」と呼ばれ、そのかわいらしさで大変な人気だそうです。
臣下へのお披露目は、今年の年末になるそうな。まだ生まれたてもいいところだもんね。
無事出産が終わった事で、私の連日の王宮行きも終了だ。なので、リラと一緒に領地に帰ったら、騒動が起きてましたー。
「セブニア夫人が倒れた!?」
「ええ、申し訳ございません……」
私の前でうなだれているのは、ジルベイラ。セブニア夫人は、昨日の夕食後に倒れたそうだ。
理由は過労。マジかー……
「ヌオーヴォ館は、ヴェッキオ館に比べて広大ですから、管理も今まで以上に大変だったようでして……」
「そこかー……」
入れ物が増えると、当然人も増える。新都が完成して、ヌオーヴォ館が完成した辺りで使用人の数がぐっと増えたんだそうだ。
で、当然彼等彼女等を管理する手間も増え、結果セブニア夫人の負担が増大した……と。
ただなー。こうなる前に、ちゃんと大変だって言ってほしかったわー。とはいえ、それは本来なら女主人である私がしっかり見ておかなきゃいけなかったんだろうけれど。
何せ、領地を空ける事が多いからね……
「レラ様に責任はございませんよ」
そう言い切ったのは、ルミラ夫人だ。暫定的に、王都邸はメイドの一人に任せ、ヌオーヴォ館の管理の為に来てもらっている。
「以前、私が申し上げた事がありました」
「ありましたね……」
これからは新都の新領主館の方が、管理するのに大変になるかもって話。だから、ルミラ夫人とセブニア夫人が交替する時がくるのでは、って事だったっけ。
「実は以前、レラ様には告げずにセブニア夫人に聞いたのです」
「交替が必要かって?」
「ええ。ですが、セブニア夫人は大丈夫だと仰って……」
もしかしたら、無理だと言ったら解雇されるとか思ったのかな。そんな事、しないのに。せいぜい配置換えするくらいだよ。
だってセブニア夫人、有能だから。
それをルミラ夫人に伝えれば、夫人もそう思ったらしい。
「それも併せて、セブニア夫人に伝えたのですけれど……我慢強さも、時と場合によりますね」
本当ですよ。
ともかく、ヌオーヴォ館をこのままには出来ないので、しばらくルミラ夫人に管理してもらう事になった。
王都邸の方は、暫定で家政婦に指名した侍女に、しばらくは頑張ってもらう。もし私が王都邸に行く時は、ルミラ夫人が一緒に来てくれる事になった。
「私が王都邸に出向いている間の管理は、暫定ですがジルベイラさんに管理してもらうしか、手がありませんね……」
ジルベイラの仕事を、これ以上増やすのかー……それはそれで、今度はジルベイラが過労で倒れる可能性が。
「それは、多分大丈夫だと思いますわ、レラ様。こちらはカストルさんやポルックスさんがついていますし」
ああ、あの有能双子。なるほど、人の管理は奴らに任せるのは心配だけれど、他は安心して任せられるか。
『人の管理も、お任せいただいて問題ありませんが?』
『主様って、たまに僕らの扱いが酷いよねー』
ソンナコトナイヨ?
セブニア夫人には、しばらく療養に専念してもらって、復帰後は王都邸を任せるか、もしくはルミラ夫人の下でヌオーヴォ館の管理の一部を担ってもらうかに決まった。
本人の意思を確認せずの決定だけれど、そうしたらこのままヌオーヴォ館の管理を頑張るとか言いかねないからさ……
それはそれとして、人材育成も急がなきゃいけない。ルミラ夫人とセブニア夫人二人しか、館の管理が出来る人がいないってのが、そもそもの問題なんだから。
「領民の教育は進んでますよ。特に、ヌオーヴォ館や温泉街で働く者達は」
新都が完成し、新領主館や温泉街が出来た関係で、雇用数が増えている。
とはいえ、そのどちらも厳しい教育課程を突破出来ないと、本採用にはならないそうな。どっちも接客が仕事に含まれるし、接する相手の身分が高いからね。下手な態度を取られると、うちの名誉に関わる。
「現在、ヌオーヴォ館勤務の者は、元からそこそこの教育を受けていた者を採用しています。温泉街の方は、素養がありそうな者を選んで教育した結果ですね」
私が領主に就いてから、ジルベイラは領民の教育に奔走してくれている。何せ、侍女や従僕として使える人材がもの凄く少なかったから。
それは当然なんだよね。何せ領民は今日その日を生き残る事で精一杯だったんだから。
それもこれも、今までの領主が領民を大事にしなかった結果だ。代々の先祖のツケが、私に回って来た感じ。理不尽だわ、本当。
ジルベイラは、まず領民の健康を優先し、食料の配布やら何やらを行ったそうだ。
それから、代々領民の間で細々と繋がれた読み書き計算が出来る者を選抜、さらなる教育を施したという。
今、ヌオーヴォ館で働いている人の殆どは、その第一期生。温泉街で働いている子達は、第二期生だって。
「どこの領地でも、領主の館というのは一番人気の就職先なのですが、我が領ではそれに加えて温泉街の人気も高いんです」
ぶっちゃけ、ヌオーヴォ館と温泉街で就職先の人気は二分しているらしい。
「おかげで、教育を受ける事に皆積極的になってくれるので助かってます」
つまり、教育を受けた一期生、二期生が憧れの職場で働いている。自分達も頑張れば、同じ場所で働けるかもしれない。そういう事?
確認すれば、ジルベイラが満面の笑みで頷いている。
「特に、二大人気就職先は、かなり頑張らなければ就職試験に受かりません。現場の教師達も、その事を生徒に伝えてしっかり学ばせているようですよ」
元々、うちの領民は領主には逆らわない……逆らえない生活が長かった。だからこそ、上が「こうしろ」という事に、疑念を持たないらしいよ。
それはそれで助かるんだけど……これからの領地の事を考えると、それだけでは困る。でも、それはこれからだ。
領地の発展に必要な発想を出す人材が育つのは、私の次の代かその次くらいかも。私がやるべきなのは、二代か三代くらい先まで家が保てるような産業を生み出す事かもね。
「船を造りませんか?」
ヌオーヴォ館に戻って翌日。カストルからいきなりの提案だ。いや、船を造る事自体は前から考えていたから、いきなりではないか。
「いや、造る予定だよ? ちょっと先になるかもだけど」
「今すぐですよ。新しい、植物系魔物由来の素材が出来たと申し上げましたが」
ああ、あったね。本来は遊園地のジェットコースター用の素材だったっけ。トレスヴィラジのウヌス村沖人工島の建設を優先したから、遊園地自体計画が凍結されているけれど。
ただ、人工島に海をテーマにしたテーマパークを造る計画は、進行中ですよ?
「ええ、そちらは諸々順調です。トンネル工事も、計画通りですしね」
「何故そこでどや顔……まあいいや。それで? 人工島がまだ出来上がっていないのに、船を造るの? ああ、港建設に併せて完成を目指すとか?」
「違いますよ。向かわれるのでしょう? トリヨンサークに。あちらに向かうには、船が最適という話でしたが」
「え? トリヨンサークに行くのに、うちで船造るの?」
船は、王国が用意するんじゃないかなー? それを言ったら、カストルが口元を歪ませる。
「主様、耐えられるんですか?」
「え?」
「ガルノバンの船の時も、大変な思いをなさったとか」
「あー」
船って、揺れるからね。それも、王国が用意するだろう小型の帆船となると、さらに。
「ですので、多少の波にも負けない大きな船を造りましょう。前の主が、前世テレビで見たとはしゃいでいた、クルーズ船を!」
「ええええええ!?」
いやいやいや、クルーズ船ってあんた。あんな凄い機能を持った船を、そう簡単に造れるとは……造れるの?
「私は、出来ない事は申しません」
マジかー。
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