第316話 街歩きは楽しい
招待客のうち、半数はヌオーヴォ館で、残りの半数はネオポリスに造ったホテルで宿泊。
ネオポリス到着の夜は、無事バースデーパーティーを開催し、招待客の半数は再び列車で王都へ、もう半数は温泉街へと向かう。
来月の狩猟祭まで、温泉三昧になる予定だ。これに関しては、最初に希望を取っている。
で、招待客を全員ヌオーヴォ館から送り出した私は、つかの間の休息を楽しんでいる訳だ。
「あー、休みだー」
今日と明日は、完全な休養日だからね! 羽を伸ばすぞー!
「とはいえ、やる事はネオポリス探索なんだけどー」
ヌオーヴォ館でのんべんだらりと過ごしてもいいんだけど、周囲がキビキビ働いている中だらけるのは精神的にくるんだよね……
なので、領主館を出て新都を見て回る事にした。たまには、一人で行動するのもいいもんだー。
ちなみに、今は完全に一人。ユーインはヴィル様と王都へとんぼ返りだし、リラにも休暇を出している。
温泉街は新都から少し離れているので、客と鉢合わせする危険もない。ああ、なんて開放感。
温泉街には、新しく土産物屋もいくつか開店させたらしい。らしいというのは、まだ自分の目で確認していないから。
シャーティの店とのコラボで、温泉街限定の焼き菓子とか売ってるらしいよ。あと、ソフトクリームとかアイスとか。湯上がりのほてった体で食べると、最高だよね。
土産物屋以外でも、瓶詰めのコーヒー牛乳とフルーツ牛乳は取り扱っている。やっぱり、風呂上がりはコーヒー牛乳だよね!
リラはフルーツ牛乳派だったので、そっちも作ってみた。コーヒーは以前から取引のある領があるんだけど、フルーツは特に取引のある領がない。
トレスヴィラジに果樹園を造ったけれど、あそこはもう二、三年は収穫を見込めないから、新たな取引先を作った。
以前、鉄道を通す話をした際に、余所には出荷出来ない傷物や、形が悪いものの扱いに困っている領主がいたんだよねー。
で、鉄道が出来れば、そういった品も王都で形を変えて販売出来るんじゃなーい? って提案したら食いついてきたんだー。
なので、鉄道敷設はまだ先だけど、先行してデュバルにそうした傷物なんかを売ってもらうようにしてみた。そこから作ったのが、フルーツ牛乳。
他にも、シャーベットにしたりアイスにしたり、加工する事で商品価値を上げてみましたー。試食したうちの女子達には、大人気だったよ。
なので、今回の温泉街に宿泊している王家派閥、特にご夫人方には期待している。
彼女達が買ってくれる事にもだけど、王都に戻ってあちこちの社交場でおいしいという話をしてくれれば、集客に繋がるんじゃないかなーって。
もっとも、一部の方々は長逗留する気満々のようですが。ええ、誰とはいいませんが、とある侯爵家の方がですね……
シャーティの店ネオポリス店は、大通り沿いにある大きな店だ。一階は焼き菓子やテイクアウト専門、二階から上がパーラーになっている。
特に五階建ての最上階は、特別な客のみに提供する特別室になっていて、ここでしか味わえない料理とスイーツを提供しているのだ!
もちろん、王都の店舗で行った試食会には参加した。いやあ、おいしゅうございました。
この建物、賃貸物件でオーナーは私。なので、最上階の特別室の、さらに奥にあるオーナー専用ルームは私しか使えない。
もちろん、私が招待した人を入れる事は出来るけどねー。最大で五人までしか入れないから、知られたら大変かもー。
今日は街歩きなので、一階でジェラートを購入、食べながら大通りを行く。次来た時は、クレープを買おうっと。
ネオポリスの通りは、基本歩行者しかいない。街中の移動には、全て地下鉄を使うようにしたから。
やっぱりね、事故が怖いのよ。電車というものがよくわからないと、その前に飛び出す人って絶対いると思うんだ。
かといって、事故がどれだけ怖いものか、教育しようにもまだ事故は起こっていないからね。再現フィルムとか作っても、どこまで実感してもらえるか。
なので、地下鉄にしてホームドアをしっかり付けた。転落防止と飛び込み防止の為に。完全とはいかないけれど、事故はかなり防げるんじゃなかろうか。
歩行者しかいないのに、大きな通りを作る必要はあるのか。答えはある。
この通りは、将来の為のもの。十年後百年後は、ここを自動車が通っているかもしれない。
道は後で作るより、今作っておいた方がいい。区画整理だって大変なんだから。
今は広い通りを、そこそこの人が歩いている。歩行者天国みたいなもんかな。
その通りの脇には、いくつもの大型店舗が並んでいる。シャーティの店もその一つだし、他にも家具や鍛冶製品を扱う店、本屋なども並んでいる。
そして、もう一店舗、王都から誘致した店があった。マダム・トワモエルの仕立屋である。
正確には彼女の名を冠した、彼女のお弟子さんの店なんだけどね。
普通、独り立ちする弟子がいる場合、当人の名前を冠した店を出す。でも、知名度が低いとどうしても客足がね……
そこで、名が売れているマダムの名前を使い、ネオポリス店として出店してもらった。いわゆる、ブランド化だ。
マダムの名前をブランドとして、そこで買う品は全てマダムの名の下品質を保証する。
店側としては、弟子の店にもマダムがデザインした品を置く事が出来るし、国内に広くマダムの名を広げる事でより多い集客を目指す。
弟子の方はマダムの名を使う事で顧客獲得を容易にし、順調な滑り出しをする事が出来る。
デメリットもそれなりにはあるけれど、王都とデュバルで実験って感じかな。
特にこのネオポリス店では、貴族相手というよりは、ちょっと裕福な人向けの商品を多く展示している。
貴族が着るようなドレスには手が届かないけれど、そこより一段か二段落とした品なら手が届く、そんな層をターゲットにしている訳だ。
通りから覗いた店内には、結構な人がいる。おっと、どっかで見たような顔ぶれだねえ。
現在、ネオポリスでこの仕立屋を使えるのって、シャーティの店の店長とか、うちの文官達とか、ヤールシオールの部下の子達とかくらいだからさ。
そうそう、ヌオーヴォ館寄りには、ヤールシオールの商会本店もあるよー。
ここも、ネオポリス本店でしか扱っていない品を置いてるそうで、ヤールシオールからは「狩猟祭でもしっかり宣伝してきてください!」って言われたっけ。
自領の商会の宣伝は、領主の仕事でもあるからね。バースデーパーティーでも、しっかり宣伝しておいたさー。次は狩猟祭の天幕社交の時だな。
街歩きをして、地下鉄にも乗って、一日出歩いてたら疲れたー。でも、新都を自分の目で確かめられたから、いいか。
自室で伸びをしていたら、リラが訪ねてきた。
「ちょっといい? ……またそんなだらけて」
「いや、今日は街歩きで疲れたからさあ」
「まあいいや。こっち、確認しておいて」
「えー? 仕事ー?」
「領主に休みなんて実質ないわよ」
酷くね?
リラに手渡されたのは、ウヌス村沖に建造中の人工島の計画書。
「おお! って、本当に大幅に変更されてるねえ」
「思いついたのはあんたでしょうが。で、海をテーマにしたテーマパーク、カストルから海上コースターはどうかって」
「いい! それは思いつかなかった!」
海上を走り回って、最後は水面に向かってザバーってやるやつ。いいねえ、これ乗ってみたい!
「こうなると、鉄を使わない新素材を開発していたの、良かったわね」
「ああ、海だと錆びやすいもんね」
さび止めに塗料を塗ったりするようだけど、メンテの手間は地上のそれより多そう。そうなると、植物由来で「錆びる」事がない新素材は、確かにいいかも。
「いっそ、新素材で大型船も作ったら?」
「それ採用!」
元々、木材で船を作っていたのだから、植物素材で船を作るのは有りだ。しかも、鉄より強い素材なんだよね?
あとはどれだけの耐久性があるかが問題だけど、カストルの事だからきっと考えているはず!
ああ、早く出来上がらないかなー、人工島。
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