第313話 癖強め
まず最初は、意外な人物だった。
「え? あなたが?」
デュバル王都邸を訪れたのは、黒耀騎士団第一部隊隊長、ゼードニヴァン子爵アルナンド・ジェンドン卿。
「いつぞやぶりです、閣下」
「え、ええ……」
何で? どうしてこの人がここにいるの? 黒耀騎士団に所属してるんでしょう?
ちなみに、この面接の為だけに、ジルベイラに領地から来てもらっている。私一人より、領地の事をよくわかっている人に同席してほしかったから。
リラじゃないのは、ジルベイラの方が長く領地にいるから。あと、ペイロンやアスプザットとの繋がりもあるので、そっち方面からの助言も期待して。
そのジルベイラ、何やら頬が赤くなっているような……んんん?
とりあえず、面接開始。
「ええと、推薦状を拝見しましたが、黒耀騎士団を退団なさる予定だとか」
「はい。もちろん、デュバル領で仕事が見つかれば最良ですが、そうでなくとも退団する予定でいます」
「差し支えなければ、退団理由を聞いてもよくて?」
「……お恥ずかしながら、黒耀騎士団ではこれ以上の出世を見込めません。それに、年齢が上がれば体も動かなくなり、現場に出るのも難しくなります」
騎士も、体が資本だもんなあ。でも、部隊長なら現場に出ずとも、仕事があるのでは?
私の問いに、ゼードニヴァン子爵が苦笑する。
「書類仕事や内向きの仕事は、団長や副団長の仕事ですね。我々部隊長程度では、現場に出つつも書類仕事をこなすくらいです」
悲しき中間管理職というところかね。
「我が領に来て、どのような仕事を望みますか?」
「治安維持の為の人材を探していると耳にしました。失礼ですが、デュバルには領軍がありませんよね? その創設と訓練の為の下地を作れれば、と思っています」
領軍か……ゾクバル侯爵から推薦を受けて採用した、セバンルッツ伯爵家のギスガン卿の時も思ったんだけど、うちには必要ないかなって思ってる。
今更他の領と戦はしないし、盗賊捕縛ならカストル達が片手間に終わらせてしまう。
領内で暴れる連中がいた場合は……そういう時の為の交番制度と思ってるしなあ。
悩んでいたら、ゼードニヴァン子爵が続けた。
「それと、デュバルならではの部隊の創設を提案いたしたい」
「デュバルならでは?」
何だろう? 思いつかないな……
「女性のみの騎士団を、創設する気はありませんか?」
意外な申し出だった。
「ご当主である閣下が女性という面もありますが、貴婦人達の護衛に、やはり男の騎士だけでは手が回らない事も多いのです。現在、女性が当主をしておられる家はそう多くありませんし、中でもデュバルは閣下ご自身が腕に覚えのある方。そうしたご当主の下でなら、女性騎士を育成するのに適した環境なのではと提案いたします」
ふむ、一理ある。女性のみの騎士団を設立し、女性を警護するのに特化した人員を育てるのは、確かにうちがうってつけだ。
私自身には必要なくとも、ジルベイラやリラ、他にもうちで働いている女性達を勘違いした男達から護る手があると安心出来る。
それに、余所の家にも派遣という形で、女性に特化した護衛騎士を貸し出すのはいいビジネスになるのでは?
育成から始めるから、軌道に乗せるまで数年かかるだろう。女性ならではの悩みもあるだろうから、相談窓口には女性を置いて、他の育成に関しては子爵に丸投げすればいい。
まあ、根性論を振りかざされても困るから、監視は付けるけどね。
「いい提案だわ、子爵」
「では!」
「ただ、その前に一つ確認を」
「何でしょう?」
これだけは、採用を確定する前に確認しないといけないのよねー。
「我が領で仕事をするに当たって、あなたの上司が女性になる事があります。それを受け入れられて?」
「ああ、そういう事ですか。ご当主である閣下が女性なのですから、もちろん受け入れますとも」
「私以外にも、たくさんいるわよ? 口うるさく文句をつけられるかもしれないわ」
「理不尽な内容でしたら、反論しますが……それも、許されないという事でしょうか?」
「いいえ。理不尽な発言はさせません」
「でしたら、問題ないかと」
さすがは女性騎士育成を提案するだけあるわね。異性に対する偏見のようなものが見られない。これは、いい人材かも。この後の殿下の推薦、期待出来そう。
ゼードニヴァン子爵の面接終了後、ジルベイラが溜息交じりに感想を述べた。
「王都にも、あのような殿方がいるのですねえ」
「ジルベイラ、大丈夫?」
「ええ、もちろんです。ああ、眼福ですわあ」
あれー? もしかして、これはジルベイラ側の一目惚れ? 彼女もペイロン出身なので、筋肉には弱かったっけ……
いや、確かにゼードニヴァン子爵はいい男だと思うよ? 金獅子事件の時も、紳士として申し分ない態度だったし。
それに、転職先に自分なりのアイデアを持ち込むというのは、いい。これからどういう態度で仕事をするか、明確にしているからね。
「にしても、女性騎士は驚きだったなあ」
「そうですね。……子爵にも、思うところがあったのかもしれません」
「どういう事?」
ジルベイラによれば、学院在学中に剣の授業を受ける女子は一定数いるんだそうな。
で、そうした女子が卒業後どうするかと言えば、殆どが親の言うまま結婚するという。どんなに剣の腕があろうとも。
「そうだったんだ……何だか、もったいないね」
「女子では騎士団に入れません。どれだけ在学中に剣の腕を磨いても、男子からは『所詮ままごと遊びの延長』とからかわれる事も多かったとか」
何それ。大方、からかった連中は女子より剣の腕が悪かったんだろう。そこで切磋琢磨して相手より上に行く、ではなく、相手を言葉で貶めるとか。
そんな性格してるから、剣も上達しないんだよ!
ともかく、どれだけ剣の腕を磨いても、先がないのではどうしようもない。ジルベイラが言うように、騎士団に入れるのは男子のみだ。
「レラ様の元で、女性だけの騎士団が創設されたら、そうした女子達の行き場になりますわね」
「うん……そうだね」
ぜひ、そうなってほしい。そして、女性でも騎士になれるのだと、誰かを護る立場になれるのだと、国中の人に知ってほしい。
ゼードニヴァン子爵以降も、日に二人ないし三人面接し、なんと見事に全員採用となった。
さすが殿下が推薦しただけはある。ただ、どの人も一癖ありそうな人材ばかりなのはどうしてなんだろうね?
どうも、話を聞くと身分や家柄でこれ以上今の職場で出世出来ないと見切りをつけた人が多くてだな。
しかも、上司から放り出されるようにして来たって人もいてだね……いや、話を聞いただけで優秀なのがわかるからいいんだけど。
面接の後は、毎日のように領地のリラと連絡を取っている。いや、面接なくても連絡するけどさ。
そこで癖強めの人ばっかりだっていったら、画面の中で笑われた。
『元々デュバルは癖強めの人が多いから、大丈夫じゃない?』
「え? そう?」
『何せ当主からして癖強めだし。似たもの同士で衝突されるのは困るけれど、そこはこっちがうまくコントロールすれば問題ないでしょ』
「待って。私も癖強め認定されてるの?」
『自覚しましょう。普通の貴婦人は魔物を狩ったり盗賊狩りで小遣い稼ぎをしたりしません。他国の反乱を鎮圧したりもしないし、王宮での王族毒殺騒動を解決に導いたりもしません』
反論出来ない……
『まあ、だからこそ我が領は好き勝手出来るって面もあるけれど』
「そ、そうね……」
陞爵もして権力が上がったってのもあるけれど、ある程度中央へ貢献してるから、自分の領内くらい好き勝手にしても文句言われないって面も、確かにある。
『にしても、女性騎士団ねえ……そのゼードニヴァン子爵って、結構なやり手かも』
「そう思う?」
『もちろん。今王都で足りない部分を、しっかり把握してるって事でしょう? しかも、常識に囚われず女性の騎士を育てようって考えつくなんて、普通じゃ出来ないわよ』
そうなんだよねー。男性だけでなく、女性自身も「女は騎士になれない」って思い込んでる節があるんだよなあ。
それを取っ払って、地方領とはいえ女性だけの騎士団を創設しよう! って思いつくところが凄い。
『ジルベイラさ……んも言っていたけれど、もしかしたら近場で騎士を断念した女性が、いたのかもね』
今まで「様」付きで呼んでいた相手を、「さん」付けで呼ばなきゃいけなくなったから、おかしな言い方になってるー。頑張って慣れてくれたまえ。
リラの言には納得だけど。身近でいたのなら、本人の無念もよく理解出来たでしょう。
んんー? もしかして、その相手に惚れてるとか、ない?
『惚れてたら、とっととプロポーズして結婚してるんじゃない?』
「身分違いとか?」
『領地なしとはいえ、子爵家の嫡男と身分差があるなんて、そんな高位の家のお嬢様なら、剣は扱わないと思うわよ?』
それもそうか。
私としては、久々ジルベイラが「可愛い」顔を見せているので、このまま二人がうまくいってくれる事を祈る。
子爵家なら、元男爵家のジルベイラでも嫁に入るのに支障はないはず。
トレスヴィラジに送ったレネートには悪いけどね。彼は彼で、新しい恋を見つけてくれい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます