第311話 悪いのは全部あいつら

 領地とは、一日数回ビデオ会議のようなものをする。要するに、映像で相手を見つつやる多人数会議だね。


 今回の議題は、これからの領地に関する計画について。


『ところで、今私の手元に来たこの計画書は、何かしら?』


 映像のリラは、こめかみに青筋を立ててるように見える。気のせいだよね?


 彼女が手にしてるのは、ウヌス村沖に作る人工島の計画書だ。


「あ、届いた? トレスヴィラジのウヌス村あるでしょ? あそこの沖に作る人工島の計画書だよ」

『それはわかるわよ? でも、何? このリゾート計画って。あそこ、大型船舶が停泊出来るように港を造るだけだったはずよねえ?』

「いやあ、それだけだともったいないかなーって」

『そこでいらないもったいない精神を発揮すんな!!』


 怒られた。酷くね?




 リラによる「計画変更の結果、被る損害」について、小一時間説教されました。被害は、ほとんどが人的なもの。


『これ以上文官に無理させるとか、あんたは鬼か!!』

「いやあ、今すぐって訳じゃなく、一つずつクリアしていこうかなーって」

『だからって、ポンポン次から次へと思いつきで計画立てるんじゃないわよ! 今、動かしてる計画を全部終えてからにしなさい!!』


 えー? それだと何年先になるかわからないじゃない。並行してこなせる計画はこなしていこうよ。


 言ったら、さらに雷落とされました。怖い……


『ともかく! 今動かしている計画を整理してから新しいものに着手なさい! いいわね!』

「はあい」


 おかしいな。私、当主のはずなんだけど。


 でも、ここらで一度、今やっている事を整理するのもいいかも。


 まず、新都建設は完了した。温泉街も、無事完成。山岳鉄道も、デュバル側は完成した。


 ユルヴィルからデュバルまでの鉄道も完成。こちらは試乗会を待つばかり。


 ガルノバン側の山岳鉄道は……どうなってるんだっけ? で、これに遊園地とウヌス村沖の人工島とそこまでの橋、トレスヴィラジの果樹園計画は始動したばかり。


 トレスヴィラジの山中で水を汲む工場を建てるのは、ちょっと保留。あ、あと鉄道に関しては国内もそうだけど、ガルノバン側の延長と、ギンゼールへ抜けるラインを作るのとギンゼール側の鉄道敷設。


 領民への教育と、犯罪被害者救済の為の措置。こちらは半分進んでいる状態だっけ。


 学校という入れ物は、新都建設に併せて作った。あとは制度を整えて、親がきちんと子供を学校に入れるように法整備進めている。他のものと一緒に、だけど。


 これに人工島リゾート化計画と、映画制作の基本を作る。


 あれ? やる事多いな。


「リラ、どうしよう? やる事が山積みなんだけど」

『だから言ったでしょう? 目の前にある楽しそうなものにすぐ食いつくのは、あんたの悪い癖なんだから』


 何も言い返せません……


 とりあえず、私が動かなくても何とかなるものは、どんどん下に割り振っていこう。


『遊園地に関しては、運営も丸ごと商会に投げればいいと思うわ。建設は……双子のどちらかがいないと進まないでしょうけど』

「カストルは人工島の方をやってもらってるからなあ……」

『遊園地か人工島、どちらか選びなさい。どちらも、は現状無理よ』

「無理かあ……じゃあ、人工島で」


 遊園地は、まだ完成予想図すら出来上がってないからね。でも、人工島は既に工事が始まっている。選べと言われたら、人工島でしょう。


『わかったわ。とりあえず、人工島の建設は現状のまま進めて、遊園地は計画を凍結ね』


 致し方ない。それに、人工島リゾート化計画の一端に、海をテーマにしたテーマパークを組み込むのもあり。結果として、場所は違えど娯楽が増える。


 よし、ちょっとやる気出てきた。


『鉄道の方は、既に別部門が立ち上がってそちらで動いているから、国内に関しては問題はないわね』

「いつの間に……」

『あんたがあちこち飛び回ってる間によ』


 いや、他国に行ったりしてたのは、私が望んだ結果ではないのだけれど……特にギンゼール。結果として、鉱山はもらうわ鉄道敷設の許可は下りるわでおいしい事になりましたが。


 他にも、他国での鉄道関連は一端凍結となりました。何年か先になるけれど、事業がデカいので周辺から文句は出ないだろうというのがリラの言。


 被害者救済と領民への教育に関しても、専門部署を立ち上げてそちらが継続して行っていく事に。


『このままで行けば、フロトマーロでの港建設も、一端凍結ね』

「ええええええ?」

『我が儘言わない』


 私の楽しみがあああああ。でも、確かに今のままだとあれもこれもと動かす訳にはいかないんだよなあ。


 やっぱり、人材増やすか。




 王都邸で書類の決裁をしたりなんだりと、忙しい日々を送っていたある日、仕事から戻ったユーインが眉間に皺を寄せていた。


「……どうかしたの?」

「殿下から、呼び出しがある。明日の昼は王宮へ来るように、との事だ。妃殿下を交えて、昼食を一緒にと望まれている」

「へ?」


 殿下からの呼び出し? 何かあったっけ?


 首を傾げる私に、ユーインはしばらく不機嫌なままだった。


 翌日、午前中の仕事を全て終え、仕度をして王宮へ。ロア様も交えた昼食会……というか、ビジネスランチな感じかね。


 一応、私の誕生日と狩猟祭に領地へ戻るけれど、それ以外は王都に留まる事になってるし、何かあればロア様の元へ向かう約束にもなっている。


 なので、王宮へ向かうのはいい。問題は、昨日からずっと続いているユーインの不機嫌なんだよね……何があったんだろう?


 王宮へ向かうと、侍従に案内されるまま、奥へと向かった。あれ? ビジネスランチなら、表か中じゃないの? それを、奥?


 案内されたのは、殿下専用の食堂。あれー? 首を傾げながら中に入ると、王太子殿下ご夫妻に加えて、執務室メンバー全員が揃っている。


 いや、マジで何事?


「急に呼び出した事を許せ、侯爵」

「畏れ多い事にございます……」


 内心首を傾げながらも、席に着く。まずは食事を、という事で、大変重い空気の中、昼食を食べた。


 本来なら凄くおいしい料理なんだろうけど、空気のせいか味がわからなかったよ……


 デザートまで来て、ようやく殿下が口を開いた。


「以前、侯爵から預かっていた品を、ようやく見たのだが」


 預かっていた品? 何かあったっけ……って、あああああ! あれか!


 うちの領地でやった、男性の面接風景。大半がとってもヤバい内容になっている、アレだ。


 とはいえ、オーゼリアには男尊女卑を取り締まる法律はない。あの場面で罪に問えるとしたら、面接をしているのが私なので、上位貴族に対する不敬罪くらいかね? いや、十分重い罪だけど。


「実は……手違いで、ロアも見てしまってな」

「え」

「ロアだけでなく、ここにいる全員も……」

「いや待って。……じゃなくて、待ってください。それ、本当ですか?」

「……許せ」


 いやそこ、視線逸らして言う事ですか! いや、王族は謝っちゃいけないって縛りがあるから、「許せ」というのが限界なのはわかってますけど!


 何でよりによって妃殿下とユーインに見せちゃうのよおおおおお。


「レラ様。私、早急にあの者達に罰を与えたいと思います」

「いえ、妃殿下、落ち着いてください。たかが地方男爵家の次男以下の者達です。つまり、木っ端です。そんな連中に、妃殿下が直々に罰を下す必要はございません」


 私も大概な言い方をしているのは自覚してるけど、でも取るに足らない存在だから気にするな、程度しか、今の妃殿下を止める手段が見つからない!


 それくらい、妃殿下が激怒してます。気のせいか、背景が揺らいで見えるよ……あれ、魔力が漏れ出している状態だよね。


 隣の王太子殿下ですら、怖々とロア様を見てます……


「レラ様」

「は、はいいい?」


 静かに名前を呼ばれただけなのに、何故か背筋が伸びる不思議。


「私、悲しいわ」

「え?」


 あれ? 覚悟していたのとは、違う方向へ行ってる気がしますが……


「王宮では、ロアと呼んでくださるとお約束したでしょう?」

「あれ、王宮滞在中の特別措置じゃなかったんですか?」

「だって、私もレラ様と呼んでいるじゃありませんか」


 そーですね。そして、何故室内にいる人全員が、私を責めるように見るんですかね? 私が悪いの? あ、ユーインだけは同情の目だ。


「……失礼しました、ロア様」

「いいえ、いいのよ。誰にでも、間違いはありますものね」


 間違いだったんだー。ちょっと遠い目になっちゃうよー。


 私が意識を飛ばしている間にも、話は進むらしい。


「それでだな。例の面接に来た男爵家三つ、こちらでもざっと調べたんだが……」

「ものの見事に大公派に与していたよ」

「え!? そうだったんですか!?」


 王太子殿下とヴィル様の言葉にびっくり。まさか、あの男爵家を調べていたなんて。そして、全部が大公派だったなんて。


 でも、あの三つの男爵家、王都に出てくる余裕、あったのかな? 悲しいかな、地方領主でも領地が小さく収入が少ないと、王都に出てくる余裕がなかったりするのだよ。


 あの三つの男爵家に、そんな余裕があったようには思えないんだけど。


 驚く私に、殿下が疲れた様子で続けた。


「そこが大公派のいやらしいところでな。男爵家が多く参加していたのは、聞いているか?」

「ええ、確か、ヒューヤード侯爵と一緒に捕縛されたのも、キュナー男爵でしたね」


 他にも、レヤー男爵もお仲間でしたー。


「私もよく知らなかったのだが、男爵家には男爵家同士の繋がりがあるそうだ」


 ああ、コミュニティみたいなものかね。家が小さい分、数を揃えないと上位貴族に簡単に潰されてしまいかねないから。生存戦略みたいなものかも。


「その繋がりで、地方の少領を治める男爵家とも、繋がりを持っていたらしい。で、例の三家に繋がる訳だ」


 地方からどれだけの支援をしていたかは知らないけれど、三つの男爵家は大公派の一味と目された訳だ。


 あれ? これって……


「大公派であるヒューヤード元侯爵に助力していた事と、息子の侯爵に対する不敬でその三家の取り潰しが決まった」


 マジでええええええ!? いや、確かに狭い領だけどさ。そんな簡単に潰して……やったね、私も。こりゃ何も言えないわ。


 それに、隣に三つひっついている家が取り潰されたところで、うちに影響はないか。取り潰しなら、王領になるだけだし。


「それと、こちらは表には出さないが、ヒューヤード侯爵家も取り潰しだ。それと、キュナー男爵家とレヤー男爵家も。当主交替は認めず、領地と家財は全て没収の上、平民として処刑する」


 ああ、そうなったか。ロア様を暗殺しかけたって事は、王族への攻撃だからね。一発極刑だ。


「男爵家に関しては、妻と娘は離縁を許可している。侯爵家は離縁を認めず、妻と娘は修道院へ、嫡男は連座とした。男爵家も同様で、男子は全て連座だ。理由は……わかるな?」

「……父親の計画に、加担していたんですね」

「そうだ」


 計画を知らなければ、力を貸していなければ、命だけは助かったものを。


 大方、大公を王位に就け、ヒューヤード侯爵の娘が輿入れすれば、自分達も権力のおこぼれに預かれるとでも思ったんだろう。


 とりあえず、まさか面接風景の動画が、こんな結果を招くとはなあ。いや、動画は関係ないか。大公派が全て悪いんだよ。

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