第310話 終わったから次!

 翌日は、さすがに朝は起きられませんでしたー。まだ王宮でーす。


「うう、眠い……」


 隣を見ると、ユーインの姿がない。既に起きて、殿下の護衛をしているそうな。タフだなあ。


「もうお昼の時間ですよ」


 侍女に起こされて、ただいま支度中。彼女はカティエールといって、ロア様が実家であるローアタワー公爵家から連れてきた侍女の一人。


 何でも、一族で代々ローアタワー家に仕える家系なんだって。


「妃殿下との朝食は、殿下からのご指示で取りやめとなりました。昼食は、庭園の方に用意します」


 本日のお昼は庭園で優雅にいただくそうでーす。おお、何という貴族風。いや、私も貴族なんだけど。




 仕度を終え、庭園に向かう。お昼食べる為だけに、馬車に乗るって……日本でも、車で遠い所の店に食べに行く事もあるから、いいのか。


 広大な庭園の一角、方角的には南にある東屋で、本日の昼食会が開かれるらしい。あれ? いつの間に昼食会になったの?


 到着すると、既に殿下とロア様が席についていた。あ、ユーインもいる。


 ヴィル様やイエル卿はいないんだね。


「昨日はご苦労だった」


 殿下からの労いの言葉出たー。ロア様の周囲を煩わせていた連中は一掃されるから、これでしばらく王宮は安全だね。


 何故「しばらく」なのかと言えば、この手の輩は後から後から湧いて出てくるから。一匹見たら三十匹いると思えって言われる、アレと同じですね。


「それと……妃から、話がある」


 ロア様の方を向くと、何やら大変いい笑顔だ。どうしてかなあ? その笑顔、とっても怖く見えるんだけど。


「……何でしょう?」

「レラ様、当面の危険はなくなりましたけれど、王宮にいる限り、危険と隣り合わせの生活だという事は、理解してくださるわよね?」

「ええ……そうですね」


 何か、嫌な予感。


「どうかしら? このまま王宮に留まって、夫婦で私達の側にいてくださらない?」


 やっぱりそう来るかー!


 いやね、毒を仕込まれても事前にわかるし、矢が飛んでこようが槍がとんでこようが防げる人間ってなったら、そりゃ暗殺の危険が常に付きまとう王族としては、喉から手が出るほどほしい人材なのはわかりますよ?


 でもね。


「大変光栄な提案ではありますが……」

「そう。仕方ないわね」


 皆まで言わずとも、ロア様から提案を取り下げてくれた。こうなるのがわかっていたんだろうね。


 納得いっていないのは、王太子殿下の方だった。


「いいのか? ロア」

「ええ。何となく、そうだろうとは思っていましたから」

「侯爵、何とかならんのか?」

「なりません」


 殿下には、笑顔で言っておく。何となく、今回の騒動で殿下への対応の仕方を学んだよ。


 ぴしゃりと言われた殿下は、驚いて声も出ない様子だ。


「無茶を言ってはいけませんわ、殿下。侯爵は王家に忠実に仕えてくれる家なのですから」


 暗に、あんまり無茶を言うと、そっぽ向かれるぞと含んでますねー。さすがロア様。よくわかってらっしゃる。


「それに、ユーイン卿は殿下の側にいてくださるでしょう? これ以上を望むのは、傲慢というものですよ」

「だが……」


 まだもごもごと言っている殿下に対し、ロア様がぴしゃりと言ってくれた。


「また何か危険が迫ったら、きっと助けてくれます。ねえ?」

「ええ。そのような事が今後起こらない事を、祈っておりますが」

「まあ、そうね」


 うふふおほほと笑い合っている脇で、殿下が渋い顔をしています。


 私だって、領地でやる事が一杯あるんだから。そうそう王宮に留め置かれては困りますよー。


 とはいえ、やはり出産が終わるまではちょっと心配、という事で、王宮に滞在はしないけれど、王都に残る事は決まった。


 まあ、その程度ならいっか。


「あ、でも七月には私の誕生日があるのですが……」

「ああ、毎年ペイロンでパーティーをやっているそうだな」

「今年は、新都で行う予定なんです」


 そう、ある意味、新都のお披露目も兼ねて、新領主館で盛大に開く予定なのだ。


 ついでに、ユルヴィルからの鉄道の試乗会も兼ねて、王家派閥の序列上位の家を温泉街にご招待する計画。


「翌八月には狩猟祭ですし、その間は王都を離れる事をお許しください」


 ロア様の出産予定日は十月の末。狩猟祭を終えてから王都に戻っても、出産には十分間に合う。


 その間は、魔導具でしのいでもらおう。


 毒感知に加えて、あれこれ身を守る術式を入れた特製ブレスレットのオーダーを受け、研究所に橋渡しをしておく。


 お値段が張るけれど、まあそこは王宮、しっかり支払ってくださいな。




 ほんの数日空けただけなのに、王都邸に戻ったら何だか懐かしく感じる。不思議ー。


「お帰りなさいませ、レラ様」

「ただいま、ルミラ夫人。何か、変わった事はありましたか?」

「特には。ただ、お手紙が溜まっておりますよ」


 おうふ。知り合い以外からもやってくる、手紙攻撃。これ、止める術はないものか。


 とりあえず、王都邸の執務室に向かう。机の上には、山盛りになった手紙。これ、全部開けないといけないのかー。


「領地の方からの連絡は?」

「定期連絡ですね。あちらはエヴリラ様とジルベイラさんがきちんと切り回しているようですよ」


 リラはユルヴィル伯爵家の養女になっているので、ルミラ夫人も敬称付きで呼ぶようになっている。リラ自身は居心地悪そうにしてるけどね。


「そういえば、リラの結婚式の準備はどうなってるんだろう……」

「そちらはユルヴィル伯爵夫人とアスプザット侯爵夫人が進めていますよ」


 シーラ様とお義姉様がねえ。私の時もそうだったけど、基本結婚式の準備は新郎新婦の二人ではなく、その母親が取り仕切る。


 貴族の結婚で、家同士の繋がりになるからさー。


 リラの実母は亡くなっているし、そもそも実家とは正式に縁を切っている。なので、養女に入ったユルヴィル家の女主人であるお義姉様が養母として式の準備をする訳だ。


 ただ、お義姉様は結婚してまだ数年。式の準備やら何やらは実家の母君に習っているでしょうけど、こういう場合は新郎の母親と手を組むのが筋。


 なので、シーラ様と一緒に準備をしているって訳。


「来年の六月だっけ?」

「ええ。楽しみですね」


 私の結婚から遅れること一年ちょっと。婚約期間の問題もあるしね。仕方ないか。


 で、ヴィル様とリラの結婚式が終わったら、次はコーニーとイエル卿の結婚式だ。アスプザットは大変だけれど、お祝い続きでいい事だね。




 カストルが進めていた新素材、何とかめどが立ったようだ。


「結果から先に申し上げますが、鉄より固く柔軟な素材の開発に成功しました」

「マジで?」

「マジです」


 ノリ良いな、カストル。彼の前の主は私や私のご先祖様と一緒で日本からの転生者だ。なので、こういう言い回しの情報も、インプットされているらしい。


 それはともかく。


「凄いじゃない! ペットボトルもどきもそうだったけど、鉄より強い素材なんて!」

「成形時に与える魔力の量で、硬さや強靱さを変えられます」

「ほほう」


 これがあれば、ジェットコースターも夢じゃない! 絶叫系、乗りたいよねー!


「では、このまま遊園地の計画を進めて構いませんか?」

「よろしく! 後は……トレスヴィラジ、ウヌス村沖に作ってる人工島かー」

「順調のようです。人工島までの橋の建設も進んでいます」


 完成予想図が差し出される。湾曲しながら沖にある人工島へ続く長い橋かー。


 あれ? これ、線路しかない?


「この橋、歩いて渡れるように出来ない?」

「歩いて……ですか?」

「うん。途中に円形の休憩所を設けて。あ、列車の駅も、一つそこに作ろう」

「……必要ですか?」

「必要です!」


 ウヌス村の辺りって、景色がいいんだよね。橋の途中に休憩所を設けて、そこから村の方を見るのもいいと思うんだ。


「いっそ、橋を使う列車は観光用にして、貨物用は地下を通すか……」

「計画、手を入れますか?」

「んー……うん、今言った通りにして。人工島は、船の発着と観光に使う」

「承知いたしました」


 何なら、人工島には海のリゾートを集めてもいいかも。海の中を覗ける船とか、人工の砂浜を使った海水浴とか。


 人が多く来るようなら、人工島にホテルを作るのも、ありだよねえ。

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