第307話 泥棒さん、いらっしゃーい
妃殿下暗殺の黒幕、ヒューヤード侯爵を捕まえる証拠を探すべく、侯爵の駒であるレヤー男爵の邸を捜索したら、意外なものまで見つけちゃった。
盗品の宝飾品ですってよ奥様。
「これも……ああ、これもそうですね。盗難届けに添付された絵と一緒です」
男爵の寝室で見つけた床下収納からは、ネックレス五つ、指輪が七つ、髪飾りが四つ、ブレスレットが三つ出てきた。
黒耀騎士団第一部隊隊長、ゼードニヴァン子爵によれば、全て盗品との事。黒耀騎士団は王都の治安維持が主な仕事だから、警察のような事もやるんだよね。
で、この盗難届が出ている宝飾品、その半分が貴族の家から、もう半分が裕福な商家から盗まれているそうな。
「ここにあるという事は、男爵が盗んだという事か?」
「他に、実行犯がいたのかもしれませんよ?」
「ううむ」
子爵によると、これらの宝飾品は全てここ二ヶ月以内に盗まれたものだそうな。
短期間でこれだけの数を盗み出すとなると、余程腕がいいのか、それとも……
『魔法を使った痕跡があります』
マジかー……
『捕縛しますか?』
うーん。正直捕まえたい気持ちはあるけれど、証拠もなく捕まえると「どうしてわかったんだ」って疑問に行き着いてしまうからねえ。
いっそ、うちに盗みに入らないかな? 現行犯でとっ捕まえるから。
書類も宝飾品も、全て一度王宮へ持ち帰る事になった。行きは手ぶらだったのに、帰りは荷物が多いよ。
とりあえず、収納魔法を使って全て収納する事にした。目の前で使ったら、またしても子爵が驚いているよ。
さすがに収納魔法は、珍しいだろうからね。
「では、私はこれで」
子爵とは、ここでお別れだ。彼は彼で、本部に戻って今回の報告書を作成しないといけないらしい。
「じゃ、私達も帰りましょうか」
「ああ」
一度王都邸に戻って着替える必要があるからねー。面倒だけど、さすがにこんな軽い格好で行ったら、こっちが浮いてしまう。
王都邸に戻ったら、カストルがいた。
「例の件、誘導しますか?」
にこやかに、そんな事を言ってくる。例の件? ……ああ、泥棒か!
「出来るの?」
「造作もない事です」
いや、本当にうちの執事は何者なんだろうね? 誘導するのはいいけれど、本当に泥棒なんでしょうね? 無関係の人間を、泥棒に仕立てあげる訳じゃ、ないんだよね?
ねえ、何で笑ってるだけで何も言わないのよおおお!
結果、カストルの悪戯でした。いや、何も言わなかった事がね。
「ちゃんと泥棒だと確認はしてあります」
いつ、どこで確認したんだと聞きたくなるけれど、これツッコんだら負けるやつだ。
一応、王宮で許可をもらいたいので、誘導は一旦ストップしておく。まずは、押収した書類や宝飾品を殿下に見せないとね。
殿下の執務室は、いつもの面子が揃っていた。殿下、目が怖いですよ。
「盗品まで出たそうだな?」
「ええ、こちらです」
収納魔法から、まずは押収した宝飾品を出す。
「それぞれ、盗難届けが出ているそうです。黒耀騎士団第一部隊隊長のゼードニヴァン子爵が確認してくれました」
あの人、黒耀騎士団に届けられた盗難案件、全て覚えているんだって。凄い記憶力だね。コアド公爵に匹敵するんじゃない?
殿下は宝飾品を眺めつつ、続けた。
「それで? 有力な証拠は見つかったか?」
「宝飾品と同じ場所から、これが見つかりました」
書類の束を、収納魔法から取り出してヴィル様に渡した。
「中身は未確認です」
パラパラとめくっているヴィル様に、一応付け足しておく。あの場から一切合切取り出す事しか考えてなかったからねー。
ほら、盗難品とか、意外なものが見つかっちゃったし。それどころじゃなかったのよー。
「ざっと見た感じ、ヒューヤード侯爵との繋がりが見つかるようなものはありませんね」
「小物風情が。証拠を残さないとは、随分と用心深いものだな」
「小物だからでしょう」
殿下とヴィル様、容赦なし。
「やはり、小王国群の会場を押さえるしかないか?」
「ですが――」
『じゃじゃーん! そんなお困りの主様に報告でーす!』
いや、困ってるのは私じゃないんだけど……まあいっか。ポルックス、報告って何?
『泥棒を捕まえると、いい事があるよー!』
何の占いだよそれは。でも、そう言うって事は……
『誘導の準備が整いましたー』
よく出来ました。今夜にでも盗みに入らせて、捕まえてしまおう。
殿下とヴィル様の言い合いは、まだ続いている。ユーインもイエル卿も止めようとしないところを見ると、いつもの光景なんだろうなー。
んじゃ、私も放置しておこうっと。
その夜、すっかり寝静まった頃に念話で報告が飛んできた。
『主様。泥棒が邸の周囲をうろつき始めました』
了解。私をそっちに移動出来る?
『お任せを』
寝台に起き上がっていた私は、あっという間に王都邸の寝室に移動していた。仕事が早い&手際がいい。
さっさとシャツと乗馬用パンツという動きやすい格好に着替え、カストルの先導で邸の奥へ。庭から侵入してくるつもりらしい。
本来なら敷地全体に侵入者を排除する結界を張っているんだけど、今回それは消してある。
泥棒がそれに気付いて警戒しないか心配していたら、どうやら感知系は苦手らしい。無警戒で入ってきた。
この時点で侯爵邸への不法侵入罪だ。十分捕まえられるけれど、どうせなら証拠はがっつりとほしいよね。
侵入した泥棒に気付かない振りをして、相手が宝飾品を収納している部屋へと向かうのを見過ごす。
てか、迷いもせずに進んでるね。どこでうちの見取り図を手に入れたんだろう?
『以前この邸で雇っていた使用人から仕入れた情報のようです』
あいつらか。本当、ろくでもない事しかしないな。連中、今はどこの現場にいるんだっけ?
『トレスヴィラジのトンネル掘りですよ』
休憩時間、減らしておいて。
『承知いたしました』
さて、泥棒の方は嬉々として用意した宝飾品を懐に入れていってる。あれ、全部イミテーションなんだけどねー。
地金は鉄だし、石は全部ガラスだ。薄暗い中で作業しているから、気付かないのかも。
盗むだけ盗んだら気が済んだのか、泥棒が帰ろうとしたので、引き留めた。
「どこに行くのかな?」
お、びっくりしてるね。暗がりだけれど、こちらからはよく見えるよー。
男爵邸でも使った感知系の魔法、少し手を加えて暗がりでも相手がよく見えるようにしてみたんだー。後でニエールに術式送っておこうっと。
泥棒はこちらの隙を突いて逃げだそうとジリジリしているけれど、逃げられないよ? 逃がす気もないし。
「まあ、話は後で聞こうか」
ここまでの事は、カメラでしっかり記録してるしね。しかも暗闇でも精細に見える最新式カメラだ。
なので、泥棒にはさくっと寝てもらいましょう。催眠光線、便利だなあ。
再び着替えて王宮に魔法で送ってもらい、何事もなかったかのように寝た。夜中の捕縛騒動だったので、翌朝は寝不足気味。ああ、眠い。
「レラ様、顔色が悪いわ。体調が悪いのではなくて?」
朝食の席で、ロア様に心配されちゃった。
「いえ、環境が変わって、少し疲れているだけだと思います」
嘘でーす。夕べ泥棒騒ぎに参加したからでーす。でも、まだ言えない。
朝食後、ロア様と少し庭園を散歩してから、殿下の執務室へと向かった。ロア様は、この時間少し横になって休むらしい。
ロア様には、リラと同じ結界発生装置を仕込んだブレスレットを渡している。代金は殿下からもらおうっと。
その殿下、執務室で眉間に皺を寄せている。
「何か進展はあったか?」
「夕べ、我が家に泥棒が入りました」
「何!?」
驚いているのはユーインだ。
「あのデュバル邸に入り込める賊がいたというのか!?」
あ、驚くところはそこか。似たような観点から、ヴィル様も驚いている。
「その泥棒、余程の手練れか?」
「あー、お二人には申し訳ありませんが、ちょっと細工がしてありまして」
言った途端、室内の視線が私に集中した。怖い。
「どういう事だ? レラ。何故そんな危険な事を――」
「いや、ちゃんと安全は確認してからやったから」
「しかし!」
「落ち着けユーイン。侯爵、話を進めてくれ」
殿下の言葉で、渋々ながらユーインが下がった。でも、まだ何か言いたげだね。それはヴィル様もか。
「昨晩捕まえた泥棒は、迷う事なく我が家の宝飾品が置かれている部屋へ向かいました」
「最初から見張っていたのか……それにしても、デュバル家の情報が外に漏れている?」
殿下もそこに気付いたみたい。
「一応、以前我が家で雇っていた性悪使用人達が、小遣い稼ぎに売った情報があるそうです」
「ああ、そんな話があったな。だが、あれは結構前の話ではなかったか?」
そうなんだよねえ。使用人は一回入れ替えたんだけど。
ただ、邸で宝飾品を置く部屋って、あまり変えたりしないからね。リフォームでもすれば別だろうけれど、うちはやってないし。
情報が漏れていても、普段だったら侵入する事すら出来ないってのもある。
「正直、古い情報でしたら問題はありません。その辺り、これから泥棒本人から聞き出そうと思うのですけれど。どなたか、立ち会っていただけませんか?」
二人もいてくれればいいなと思ったんだけど、全員手を挙げるって、何事?
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