第293話 襲撃、そして……
リラを王都邸に残し、馬車で出発。正直言うと、王都でもこの邸以上の防御力がある建物、他にないからね。王宮よりもガチガチだよ。
本日の馬車はデュバルで作った特別製だけど、今回はそれにさらに特別なものを搭載している。
じゃーん! 馬車そのものにドライブレコーダーを付けてみましたー。もちろん、前方後方のみならず、脇からの襲撃もしっかり記録いたします。
これ、真面目に馬車事故の証拠用に売れないかな……まあ、カメラもマイクもまだまだ量産が出来なくて高いから、売り出しても高額すぎて誰も買わないかな?
後は、余所の人に技術を盗まれる危険性とか? その辺りは、ダミーを多く搭載して、実際の術式がわからないようにはしてるけど。ある意味、暗号化だね。
いやー、記述する術式の暗号化には、一時期ニエールがハマっちゃってさー。引き剥がすの大変だったわー。
そんな馬車で行く、王都の大通り。兄達も式を挙げたキーバシアント聖堂は、行く途中に人気のない通りがある。
別に治安は悪くなくて、日中人がいなくなるってだけの話。そこ、黒耀騎士団の宿舎……官舎が建ち並んでいる場所なんだよね。
そして、金獅子達が仕掛ける場所に選んだのは、まさにそこ。バカなのかな? ねえ、バカなのかな!?
もちろん、今日は黒耀騎士団の団員達が、自分が住んでいる戸建てで待ち構えています。
ちゃんと、窓やら何やらから、こちらの事を見ているらしい。
「今日は黒耀の上の方も来ているそうだ」
「そうなの?」
「王都の治安維持は、黒耀騎士団の仕事だからな」
そうか。いくら近衛である金獅子であろうとも、王都の治安を乱す存在ならば決して許さん! という訳だね。
頑張れ! 黒騎士達!
馬車はちょうど官舎の辺りにさしかかった。と、その時、馬車の前に飛び出す人影が!
「全部見えてるっての」
馬車の外に付けたドライブレコーダーの映像、車内で見られるんだよね。
飛び出してきた人影は、御者に扮したカストルが事前に察知していたもの。おかげでうまく馬車を停められました。
ちなみに、馬も本物そっくりな人形馬。単純に、向こうの攻撃の前に生き物を晒したくなかったから。
カストル? あれ、生き物だったっけ? 魔法生物だから、生き物の括りに入る?
『主様、酷くないですか?』
嘘ですごめんなさい。まあ、金獅子程度、カストルなら簡単に倒せるでしょう。
でも、今回は倒しちゃダメなんだよねえ。とりあえず、カストルは馬車を捨てて逃げてくれる?
『……非常に、ひっじょーに不本意です』
仕方がないのよ。今回は、金獅子を現行犯逮捕して、自白魔法を使わなきゃならないんだから。生きていてもらわないと困るの。
馬車を停めた人影の他に、脇道からわらわらと人が出てきた。全員、覆面をしているところが何だか笑える。西部劇の駅馬車強盗かよ。
馬車の扉を開けようと手を掛けているけれど、開くわけない。結界でがっちりガードしているからね。
窓からこちらを睨み付けてくるから、鼻で笑って煽ってやった。やーい、ざまあ。
わかりやすく激高して、剣で馬車を切りつけだした。よっし、証拠は十分、ありがとうございます!
「黒耀の連中はまだか?」
「そろそろじゃない? ユーインも出る?」
「出る」
相当フラストレーションが溜まっていた模様。んじゃ、幻影魔法は解除しておこうか。
まだ扉の前に敵がいたので、ユーインが扉を蹴飛ばして開けた。おー、敵が飛んだよ。
「な! フェゾガン!?」
「バカな! 乗っているのは女二人だけのはず!」
「ええい、怯むな! 我等の力を見せつけるのだ!」
とりあえず、私はやる事がないようなので、扉を閉めて馬車にお籠もり。剣戟の音が聞こえてくるから、お外は見ないようにした。
えー、だってー、怖いじゃなーい。
人の気配が増えて、しばらくしたら外の騒動が落ち着いたらしい。
「レラ、もう大丈夫だ」
「本当?」
外からユーインに言われて結界を解除し、扉を開ける。おおう、通りが血だらけですよ。どんなホラー映画か。
その中で、縄でぐるぐる巻きにされた連中がいる。全部で……十五人? 結構いたね。せいぜい七~八人程度だと思ってたのに。
「デュバル女侯爵でいらっしゃいますか?」
普段着に剣を佩いた人達の中から、三十路後半くらいの男性が歩み寄ってきた。
「ええ、そうですが……」
「失礼。私は黒耀騎士団第一部隊隊長、ゼードニヴァンと申します」
黒耀騎士団第一部隊って……騎士団の部隊は、一番から複数あるものらしく、番号が若い順に腕がいいとされている……そうな。
という事は、第一部隊は黒耀騎士団でも一番の腕利き揃いという事。そんな人達を配していたんだ……
「そうでしたか。お役目、ご苦労様です」
「ありがとうございます。閣下には恐ろしい思いをさせてしまった事、深くお詫び申し上げます」
「いいえ、これも全て王太子殿下のご差配です。私もあなたも、殿下の命令に従ったに過ぎません」
さらっと責任を王太子殿下に押しつけておく。だって、上の人って責任取る為にいるんでしょ? だから、当然の事なのだよ。
「そう言っていただけると、心が軽くなります。では、我々はこれで」
「ありがとうございました」
黒騎士達は、引っ捕らえた金獅子達を王宮まで連行する役目があるからね。自白魔法はその後だ。
とりあえず、今日の私の予定はこれにて終了。邸に帰ろうっと。
聖堂? あれはとっくに予定変更を申請して、行くのは明後日になってるよ。事前に申請すれば、変更には対応してもらえるから助かるー。
聖堂への挨拶も無事終わり、着々と式の日取りが迫っている今日この頃。王宮に呼び出されましたー。
「自白魔法の為かな?」
「その為に、わざわざ侯爵を王宮に呼びつけるの?」
ないわーって言ってるけど、元々自白魔法を作りだしたのは私だから、一番の使い手でもあるのだよ。
まあ、金獅子の連中は単純そうだから、研究所の使い手でも十分な気はするけれど。
となると、黒幕がわかったのかな? でも、それを私に教える義理はないんだけどなあ。
あれか? 囮に使ったから、せめての詫びに教えてくれるとか?
王宮に到着し、普段とは違う手順で王宮の中に入る。いや、普段は馬車で庭園の奥まで行く事が多いからさ……
本日の装いは、昼の装いではあるけれど、聖堂へ行く時とは違うドレスコード。首から胸元はレースで覆う程度でOKで、手袋もレース。
スカート部分は広げないけれど、前開きのデザインで三段になっていて、生地の縁にフリル。
髪は後ろでゆるくまとめる程度で、髪飾りはダイヤモンド。ネックレス、イヤリング、ブレスレット、指輪も同じデザインのもの。
ただし、石は小ぶり。大ぶりのものは、夜の装いだからね。それでも、これ全部で一体いくらするのやら。あ、石は全部ギンゼールからのものでーす。
本来なら王宮内を行く場合、侍従に案内されるものらしいけれど。
何故か、ユーインのエスコートのみで進んでいまーす。よく考えたら、この人王宮勤めで王太子殿下の側付だよ。そりゃ王宮内も闊歩出来るさ。
王宮は入り組んだ作りではないけれど、多分ここから一人で帰れと言われても、もう帰れないと思う。
ホールを歩いて階段を上ってギャラリーを通過して部屋をいくつも通り抜けて。ここはどこ状態だ。
「ここが殿下の執務室だ」
やっと辿り着いたのは、王太子殿下の執務室。これでも、王宮の中程に位置しているんだって。どんだけでかいんだ王宮。
扉の両脇には、赤地に金糸の刺繍が入ったド派手な制服の騎士。金獅子騎士団だ。
ただし、ここにいるのは推定三十路中程の、若い……と言えなくもないけれど、まあそこそこ中堅って感じの騎士。
さすがに、あの通りで捕まった十五人と同年代ではないわな。
ユーインが軽く頷くと、金獅子騎士団の一人が扉を開けてくれた。中には、ヴィル様とイエル卿、それにコアド公爵の姿もある。
奥の大きな机に座るのは、この部屋の主である王太子殿下だ。
「ようこそ、デュバル女侯爵。私の執務室へ」
「……お、お邪魔いたします」
これ、逃げちゃダメかなあ?
執務室にあるソファに促されて腰を下ろし、お茶が用意されて早速話が始まった。
「実は、困った事になってね」
「困った事?」
「金獅子の捕らえられた者達、彼等の実家それぞれに許可を取り、自白魔法を使ったんだ」
ああ、金獅子は近衛だから、それぞれの家もそれなりの力を持つ貴族家なんだっけ。だから、自白魔法も家の許可が必要なんだった。
まあ、現行犯逮捕されてる連中だからねえ。家が許可を渋るとも思えない。そんな事したら、家もグルだったと見なされて、下手すればお家断絶だ。
でも、自白魔法を使ったなら、バックにいる黒幕がわかったと思ったんだけど……違うらしい。
「全員から聞き出したんだが、黒幕の姿がどうも曖昧でね」
「曖昧?」
「姿形、髪や瞳の色や声音など、個人を特定出来そうなものが何一つ出てこないんだ」
自白魔法を使って、それか……となると……
「それで、自白魔法に長けている女侯爵に来てもらったのだが……」
「おそらく、相手に認識阻害魔法を使われていましたね」
「認識阻害?」
「ええ」
黒幕は、彼等が捕まり、自白魔法を使われる事までを最初から想定していたんだ。だから、彼等に会う時には認識阻害魔法を使ったのだろう。
そう考えないと、辻褄が合わないんだよねー。
「自白魔法は、あくまで相手の記憶から情報を引き出す魔法です。相手の顔や姿を覚えていないのであれば、引き出す事は出来ないでしょう」
さすがに、認識阻害魔法越しに覚えた情報から、真実まで辿り着くのは難しいよ。
私の返答に、目に見えて王太子殿下達ががっくりしている。ごめんねー。魔法も万能じゃないのよー。
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